オリ主と藤丸立香の人理定礎復元   作:コガイ

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どうも、作者です。

いやまあ……一ヶ月ぶりです。モチベがなくてダラダラしてたらいつのまにかこんなに間が空いてしまいました。申し訳ありません。
次回はちゃんとレイシフトさせるので、恐らく一週間ぐらいで投稿できると思います(思うだけ)。

アンケートは終了しました(突然)。一章が終わるまでとか言ってましたが、結果を見てるとそこまで待つ必要はないなと感じて勝手ながら終了させていただきました。回答していただいた皆さんはありがとうございます。


呼び寄せられし虚像

 英霊召喚、それは僕にとって不安の一つであった。

 最初に聞いた時は驚きもしたけど、やはり一番の不安は僕程度の人間に英霊は応えてくれるか、だ。

 魔術師ですらない僕が過去の歴史的な偉人を呼ぶ。そんな身の程知らずの行為ができるのだろうか。

 確かに戦うとは言った。けど、やはりこういうのは古崖さんあたりのほうが適任だと思う。しかし、古崖さんはあくまでもサーヴァントを従えるのは僕の役目だと断られた。何故かは分からない。けれども、理由があってのことだろう。あの人は目先の利益だけに囚われず、リーダーのように未来を見据える。だから、僕はその言葉を信じる。

 

「来い、我が英霊よ!」

 

 召喚の詠唱、初めてだから不安であったが、最後まで唱えきり、マシュの盾が中継となった召喚サークルが反応する。

 一本の光の輪、それが召喚陣の周りを回り、そして中心へと縮まると同時に溢れかえる光その場を包む。

 

「いよいよですね……。」

 

 マシュの言葉、それに肯定するように誰かが生唾を飲む音が聞こえる。溢れ出る光に反して、それぐらい静かな場所になる。

 どんな英霊がくるか期待半分、協力してくれるか不安半分。そんな感情が混ざり合いながら、ただ待つ。

 英霊召喚というのは触媒と縁と召喚者の在り方が関係していると言っていた。けど、触媒も縁もないこの召喚で関わってくるのは僕自身の在り方のみ。慌てても来る者が来る。

 自身に言い聞かせ、心を落ち着かせ、最初の召喚に応えてくれる英霊を待つ。

 そして、ついに

 

「そろそろ出てくるぞ。」

 

 目の前の光は弱まり、だんだんとその向こうが見えてくるようになる。古崖さんの言う通りになるのだろう。

 人影はまだ見えない。けれども、実感している。手応えはあったと。

 一体どんな英霊が出てくるのか……! 

 

「……あ、あれ?」

 

 しかし、その次に発した言葉は困惑と呆然が入り混じったものだった。

 

「ドクター、これはどう言う事よ!」

「わ、分かりません! 召喚システムは正常に作動しているはずなんですが……」

 

 周りがザワザワとし始める。

 失敗。最初に出てきたのはそれだった。

 理由は分からない。僕のせいか、それとも召喚システムに不具合があったのか、何にせよ誰も呼ばれなかったと思われた。

 

「みんな! よく見てみろ!」

 

 しかし、古崖さんだけは違った。

 彼は小さな腕を伸ばし、召喚サークルに指差す。そこの上に乗っていたものは

 

「ま、麻婆豆腐?」

 

 皿に盛られた白い豆腐と炒められた挽肉、それらにいかにも辛そうな真っ赤なタレがかけられた中華料理が存在している。

 先ほどまでは影も形もなかったはずだが、一体何故……

 

「お、これ結構イケるな。藤丸も食べてみるか?」

 

 何故この人はこんな状況で美味そうに食べているんだ──! 

 ま、まさか……この召喚システム……

 

 

概念礼装(ハズレ)つきガチャか──!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 =====

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とかって言う夢を見たんですよ。」

「……夢で良かったな。」

 

 英霊召喚を始める直前、藤丸が何か話したいことがあると聞いてみると、それはさっきまでの話だった。

 最初の詠唱は間違えてるわ、召喚システムが狂ってハズレを出してしまうわという無茶苦茶ではあったものの、俺は麻婆豆腐が好物だと言った覚えがないのに美味しそうに食べてた所に、少し恐怖も感じる話の内容であった。

 

「私もその麻婆豆腐という物を食べてみたかったです。」

「マシュ、そこに食いつくな。」

「フォウフォウ。」

 

 今ここでその天然はいらん。

 

「というか藤丸、そんな縁起の悪い事を言うな。もしそうなったらどうすんだ。」

「今の言葉でフラグが立ちましたね。」

「やめろ!! 俺は建築士じゃないぞ!!」

 

 本当になりそうだからやめてくれ! 

 

「立香! 無駄話をしてないで、早く始めなさい!」

 

 あまりにも無駄に時間を割いてしまったのか、とうとうオルガマリーがキレる直前になっている。

 

「ほら怒られてんぞ。あっちが噴火しないようにさっさと召喚しようぜ。」

「はーい。すんませんでしたー。」

 

 反省の色を一切見せないような間の抜けた声で返事をしながらも、召喚サークルの前に立つと一気に真剣な表情になる藤丸。

 いよいよ、英霊召喚が始まるのか。

 実を言えば、俺自身が英霊召喚を見るのが初めてだ。前も言ったが、俺はマスターであったことはないし、誰かの英霊召喚に立ち会ったことすらもない。

 だから、俺にとっても初の体験だ。

 

「すー、ふぅーー……」

 

 まずは一呼吸で緊張をほぐし、彼は腕を前に突き出し手を広げる。そしてしばらくの沈黙。未だ緊張が残っているのか、心の準備ができるまで少々かかるようだ。

 そして、その緊張は俺にも伝わってくる。心臓の鼓動が速まり、手に汗握る。戦いの中での感覚とはまた別。緊迫ではない、嬉々とした感情が俺の中で駆け巡る。

 にしても、一体藤丸はいつ始めるつもりだ? もう五分も黙ったままだと思うんだが。

 

「あのー……」

 

 と思えば、こちらに振り返る藤丸。

 その顔は申し訳なさそうな苦笑いをしている。

 

「召喚の呪文って、なんでしたっけ?」

「なんでやねん!」

 

 俺のツッコミ共に、この場にいる全員がよしもと◯喜劇並みにずっこける。

 何故関西弁になったし。

 

「前から覚えておけって言っただろ! 具体的に言えば三日前から!」

「いや、だってあんな長いの覚えられないですよ……。」

「分かるけどもやな!」

「そうだとしても、始める前に言っておきなさいよ! さも召喚を始めるようにしてから言い出すのよ!」

「いやー、言い出しにくくて、つい。」

 

 あれだけ真剣な雰囲気になりそうだったのに、段々とぐだぐだしてくる。

 あかん。これはあかん。第六天魔王と新撰組切り込み隊長が来そうであかん。

 仕方ない。この手を使うか。

 

「おい、誰か紙とペンを持ってないか?」

「まさか、カンペを作るつもり?」

 

 ドクターは俺の意思を汲み取ったかのように答える。

 

「ああ。なかったら他の方法があるけど……」

 

 口頭でなければ、充分だ。俺の言葉まで詠唱としてカウントされたらたまったもんじゃない。

 

「それならここにiP◯dがあるよ。」

「まじか。」

 

 いや、ありがたいけど。まさかこんなところで林檎社の製品をお目にかかるとは思わなかった。確かにここは最先端の科学と魔術が融合した施設ではあるが、そんな普遍的な物が存在してるなんて予想外だ。

 

「じゃあ、それ借りるぞ。」

 

 ロマニからそのタブレットを手渡され、文字が書けるアプリケーションを開く。

 お、どうやらフリーハンドで書けるみたいだな。文字を打つのはあんまり早くないから助かる。

 

「藤丸、俺がこれに文字を書いていくからの通りに呼んでくれ。」

「分かりました。すいません、ここまでしてもらって。」

「謝罪じゃなくて反省しろよ?」

「は、はい。」

 

 申し訳なさそうに藤丸はまた召喚陣に腕を突き出す。

 手のひらを広げ、今度こそ真剣な表情で英霊召喚を始める。もちろん、その目線の先は俺が持っているタブレットだ。

 

「素に……銀と……鉄。 ……礎に石と……契約の大公。」

 

 彼はカンペを横目に、一つ一つ丁寧に言葉を積み上げていく。

 

「降り立つ……風には壁を。 四方の……門は閉じ、王冠より出で……王国に至る……三叉路? は循環せよ。」

 

 意味は理解していないだろう。しかし、間違えはせず、ただ読み上げる。

 次第に淡く小さな光が召喚陣からポツポツと複数に分かれて出てきだし、周りの重力が少し軽くなったかのように、質量の軽い服や髪などがふわふわと浮き出す。

 魔力が反応し始めたか。

 

「システムフェイト、正常に稼働。魔力、召喚者のバイタル、共に正常値です。」

「そのまま続けて。」

 

 周りのサポート側は問題なく進んでいるようで、忙しそうではあるが、焦る様子もなくそれぞれが役割をこなしている。

 オルガマリーが全体をまとめ、ドクターが逐一報告しながらも値を正常に保たせていく。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。」

 

 タブレットには、ただ『みたせ×5』と書いただけだが、省略しても彼はきちんと詠唱を続けてくれる。

 

「繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。」

 

 そして、ここから本番だ。ここまではただの前準備。

 

「—————Anfang(セット)

 

 藤丸が少し笑みを浮かべながら、その言葉を発した時、光は一気に強くなる。

 眩い光はしかし、目に痛みを与えるものではなく、けれども何も見えなくなるほど、周りを白くさせる。

 屋内であるはずなのに風が吹き乱れ、俺が羽織るローブを暴れさせる。しかし、動いているのは空気ではない。魔力だ。

 

「召喚工程、次のフェイズに移行! 

 魔力値最大……英霊の座への接続完了!」

 

 ここから、英霊に呼びかける詠唱が始まる。

 

「告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 さっきまでつたない詠唱であったにも関わらず、段々とそれがスムーズになっているのは、彼が思い出してきているのか、それとも気分が乗ってきたからなのか。

 おそらくは後者だろう。だって、あんなにも楽しそうに笑顔でいるんだから。

 

「誓いを此処に。」

 

 周りに吹き荒れる魔力は一段と激しくなっていき、それと同時に召喚陣へと収縮されていく。

 

「我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」

「英霊、選定。縁による召喚を実行!」

「みんな、最後だ! 失敗しないよう集中して!」

 

 普段はゆるい雰囲気であるロマニが、士気を上げみなを纏める声を出す。

 それもそのはず。最後に失敗すればこれまでが水の泡だ。もう一度やり直さなければならない。

 

「座からの反応、検知! 

 英霊、来ます!」

 

 ついに、彼の呼びかけに応える英霊が呼び寄せられるそうだ。後は藤丸が最後の詠唱を紡ぐのみ。

 さあ、決めてくれよ……! 

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──―!」

 

 全ての召喚工程が終了した。その直後、

 

「っ……! これは……魔力が!」

 

 光で何も見えないが、その先で行われようとしている事が、俺には分かる。

 高次元の魂、英霊が召喚され、それの体を周りの魔力で作られる。エーテルで編まれ、そして人体とは似て非なるもの。

 人間であったはずなのに、人間を超えた者。それが今、ここに再現される。

 

「だれか……そこに……!」

 

 眩しすぎる光が徐々に落ち着いていった時、藤丸が召喚陣の上に人がだっている事に気がつく。

 はっきりとは見えないが、和服のような衣服で、背中になにやら長物を背負っているようだ。しかし、英霊特有の威厳というか……何かを成し得たという風には見えない。たとえそれがどれだけ立っているだけで、洗練された身のこなしだと感じても、だ。

 

「サーヴァント、アサシン。」

 

 そして、その光が完全に収まった時、人影は言葉を発する。その姿、それは過去の記憶を呼び起こす。

 ああ、そいつは大剣豪の好敵手として名を残した……わけじゃない。名を借りた別人、ただある技を習得しただけの農民。

 

「佐々木小次郎。ここに参上つかまつった。」

 

 俺の記憶、それと寸分変わらぬ姿で彼は呼ばれた。

 佐々木小次郎と名乗った剣士は周りを見渡した後、藤丸の存在に気づいたや否や、彼の前まで歩き、そして

 

「いやはや、ここまで大勢の人に現れるとは思わなんだ。しかし、今問うべきはこれであろう。

 

 其方が拙者のマスターか?」

 

 主人であるか、それを問う。

 

「え、え……ええっと……そう、なる、かな?」

 

 ぎこちなく、まるでロボットダンスのような動きで頭をかいたり、そこら中に視線を移しまくる。

 そして極め付けは、

 

「小次郎さん……だっけ? ここここ、こりぇからよりょひくおねがひましゅ!」

 

 極限まで噛みまくった挨拶だ。

 背筋をピンと張り声を出したは良いものの、これでは最初から面目丸潰れだ。俺の知ってる小次郎ならば、まあ、少なくとも即斬はしないと思うけど、それでも今後の関係がどうなることやら。ほら、相手も苦笑いしてるし。

 さて、こんな緊張しちまった藤丸は、フォローでも入れておくか。

 

「失礼、ちょっと良いかなアサシン。」

 

 佐々木小次郎と藤丸の間に割って入り、二人に見降ろされる。

 背の高い小次郎がいるせいで、さらに俺の身長が際立ってしまっているのが少し悲しい。

 

「む……其方は?」

「俺の名前は古崖創太だ。今はお前を召喚したこいつの指導者をやってる。そんでもって、こいつは藤丸立香だ。」

 

 名乗り忘れた彼の分まで自己紹介を行うと、申し訳なさそうにペコペコと何度も頭を下げながら、『す、すみません。まだ名乗ってませんでした。』と謝る。

 

「ちょっとこいつは訳あって色々と未熟でな。こういう儀式とか、緊張とかに慣れてないんだ。だから、少しサポートさせてもらう。

 まずは、何故ここに呼ばれたか分かっているか?」

「ふむ、拙者が呼ばれるなど特例の事態。しかも、聖杯戦争のためではなく、()()()()のために呼ばれたとなれば、余程のことであろう。」

 

 なるほど。大まかには理解しているのか。

 

「はい、そうなんです!」

 

 と、ここで藤丸がまた大きな声を出す。

 

「このままだとみんなが、ここの人たちが……! 

 だからお願いです! どうか俺たちと一緒に戦ってください!」

 

 またさっきのように大きく頭を下げる。しかし、そこにはもうぎこちなさはない。

 

「あい、分かった。そもそも拙者はそれに応えたまで。其方は未だ未熟であるが、その純粋な志があるのなら、我が刀、マスターに預けよう。」

「あ、ありがとございます!」

 

 これで、主従契約は結ばれた。

 戦力としてはまあ、不足はしないだろう。彼は白兵戦であれば、あの騎士王と互角に持ちこめる技量がある。対人戦限定ならば、安心だろう。

 ……騎士王? 

 

「あ、そういえば。」

「古崖さん?」

 

 今の今まで忘れていたことがあった。超重要でなおかつ、超強力なアレを。

 

「どうしたんですか? 急にスマホなんか取り出して。」

「まあ、ちょっとな。」

 

 騎士王騎士王と散々記憶を思い起すような単語をだしておきながら、あいつの存在を完全に頭から抜け落ちていた。

 

「まさか、誰かに電話するつもりかい? そんなことしたってここは秘境中の秘境だよ。そうでなくても外は人がいないのに誰かいるわけが……」

 

 ロマニがフラグっぽい何かを言っているが関係ない。

 俺はある場所へと電話をかけ、ツーコールの後、

 

「あ、もしもし?」

「うっそー!?」

 

 相手方が電話に応じる。

 

「ああ、こっちは大丈夫だ。そっちは? ……それは良かった。だったらこっちに来てくれないか? 使い魔がいるはずだから、そいつが道案内してくれる。お前なら一日で来れるだろう……え、五日後? なんでそんな……事情ねえ。妙な間が空いてるから、おそらくそっちに誰かもう一人いるのか? 

 まあ、いい。とにかく五日後だな。こっちに関しては話を通しておくから。じゃあな。」

 

 伝えたい内容を伝えた後、通話を切る。これで援軍が来てくれるだろう。

 

「まさか、本当に繋がるなんて……」

「あんまり彼を常識で考えない方が良いわ。大方あの携帯に何か仕込んでるんじゃないかしら。」

 

 オルガマリーの言う通り、オレの携帯には電波以外でも通話が可能な機能が付いている。とは言え、それで携帯料金を浮かせようなんてのは流石に小賢しいと思い、非常時以外はあまり使ってない。

 

「古崖さん、誰に電話したんですか?」

「さあな。後になってからのお楽しみだ。まあ、頼りになるのは確かだ。」

「えー……教えてくれたって良いじゃないですかー。」

「そんな顔を膨らませても教えないもんは教えない。いいから楽しみに待っとけ。」

 

 と言うよりかは、俺の口からは言えないといった方が正しいか。何しろ本来なら隠すべき正体なのだから、本人から伝えた方が俺としては良いと思っている。

 さて、それよりも今後についてだ。小次郎が新たに仲間に加わったことから、それを考慮して訓練を行う事になる。レイシフトの予定は明後日。それまでにチームとして仕上げなければならない。

 

 

 ────ー

 

 

 召喚から二十四時間後。

 

「マシュ! 相手がどこを狙っているのかを読め! 一昨日までとは、勝手が違う!」

「はい……! 

 よく見て……考えて……!」

 

 俺たちはまた模擬戦を行っていた。と言っても、マシュの相手は俺ではない。敵役は先日召喚されてきたアサシンこと、佐々木小次郎だ。

 ……いや、彼自身は佐々木小次郎ではない別の誰かなのだから、その名前で呼ぶのは違う気がする。が、まあいいだろう。

 小次郎には敢えて本気で戦ってもらっている。マシュはまだまだ力不足ではあるが、少なくとも今までの訓練で後衛への攻撃を防ぎきれるぐらいには力をつけていると、見立てている。俺はマシュの後衛兼指導役ということで、マシュとそのマスターである藤丸にあれこれ厳しい指摘を出している。

 

「マシュ! 首に気をつけるんだ! 小次郎さんはそこを重点的に狙ってる!」

「了解です、マスター!」

 

 しかし、藤丸の方はだいぶ成長したようで、まだ頼りない部分もあるけど、一通りのサポートは出来ている。例えば……今の状況とかな。

 

「甘い!」

「っ……!」

 

 小次郎のほぼ同時だと思わせる神速の剣技に、マシュは反応が遅れる。左からの攻撃を防いだはずなのに、すぐさま右からの斬撃が来る。彼女にとっては目にも留まらぬ、という事だろうが実践だと死は免れない。

 

「古崖さん、攻撃準備を。」

「ああ。」

 

 彼がいなければ、の話だが。

 

「魔術礼装、起動。行使魔術、選択……」

 

 この四日間、彼が習得してきた司令塔としての技術(スキル)。その一部が発揮される。

 

「マシュ! そのまま突っ込め!」

 

 彼女にその言葉は通じたのかどうか、その返答も聞かず彼は手のひらから光弾を放ち、マシュに撃つ。

 それは攻撃のものではなく、彼女の動きを補助する魔術だ。その証拠に、光弾が彼女に当たってもダメージや衝撃などはない。むしろ、彼女の体を包む光となっている。

 

「瞬間強化か……良い判断だ。」

 

 それは礼装に編み込まれた魔術の三つのうちの一つ。名の通り一瞬ではあるが、身体能力を限界以上に引き上げる魔術で、そのお陰で対処できないはずの剣撃が彼女の盾に防がれる。どころか

 

「はあぁっ!」

 

 一瞬にして、彼の攻撃直後にできた隙を突くまでにスピードが上がっている。

 

「ひよっこだと思案していたが、三日合わさればなんと……」

「本気で戦え言っただろ! 何余裕かましてんだ!」

 

 追い込まれたというのに、なぜか軽口を叩く小次郎さん。その様子についつい我を忘れて怒りのツッコミを入れてしまった。

 

「だが……まだまだよのう。」

 

 しかし、彼は本当に軽口を叩けるまで余裕があった。

 その身は一瞬にして翻し、彼女の攻撃を避ける。しかも、ただ避けたわけではなく、互いの位置を入れ替えるかのように。それはまるで蝶のごとき流水の動き。

 

「ふっ……!」

 

 それにとどまらず、物干し竿と呼ばれる刀で彼女を背中から斬りつける……! 

 

「緊急回避!」

 

 だが、それを藤丸は見逃さなかった。

 マシュが完全な後手に回ってしまい、仕切り直しをせざるを得ない今、彼はそのための行動をとる。

 体勢がとうあれ、状況がどうあれ、それは瞬間移動に近い速さで強制的に相手の攻撃を避ける……はずだった。

 

「きゃっ……!」

 

 何がどうなったか、彼女は理解できていないだろう。

 藤丸は確かに『緊急回避』をマシュに発動させ、そして彼女は強制的にその場から動かされた。

 だが一瞬、一瞬ではあるが小次郎の刃先が三つにブレた。宝具の片鱗、彼が小次郎である所以の技、燕を斬ろうとして編み出した必殺の技。それが彼女の腕を、肉を斬った。骨には届かないだろうが、それでも戦闘に支障をきたしてしまう。

 

「詠唱破棄、魔弾、連続射出……!」

 

 しかし、俺はあくまでも敵の隙を突くのみ。

 藤丸とマシュ、二人が作り出した隙、敵にとって多少予想外であった状況から生まれる僅かな硬直に攻撃を入れる。

 純粋かつ高密度の魔力の弾、それを瞬時に六発作り出し、撃ち出す。どれも貫通力は凄まじく、生半可な鎧ならば容易く撃ち抜く。例え高ランクの対魔力でも防ぎきることは難しいだろう。それこそ概念が作用するものでなければ。

 

「くっ……!」

 

 けれども、紛いなりにも小次郎という男は英霊、人の身を超えた存在。しかも技量という点でおけばトップクラス。防ぐ以外に方法は様々にある。

 一つ目。まずは重心を最小限にスライドし避ける。

 二つ目。軸を上手く使い、体を回してまたもや避ける。

 三つ目。回転の勢いを利用して刀を落とし、軌道をそらす。

 そこまでは順調であった。いや、そこまでしか対処できなかった。残りの三つ、それはもう小次郎の懐へ入る直前まで迫っている。どうあっても攻撃が入る。普通ならばそうだ。

 しかし、相手は普通ではない。人の身を超えし超人。例え三流であろうともその力を侮ってはならない。

 

「秘剣……」

 

 だからこそ、その切り返しが多重次元屈折現象(第二魔法)に似た何かであっても

 

「燕返し。」

 

 驚きはしない。

 その刀は一つしかないはずなのに、三つの斬撃を放つ。俺自身は直接見たことはないが、構えも何もなしにいきなり出せるとは初耳だ。

 何にせよ、小次郎はその技を使い、残りの魔弾を全て斬り伏せた。元は空を踊る燕を落とす技のはずだが、それを防御に応用されたか。こうなってしまえば、俺が追撃をしても彼はことごとく対処してしまう。ほかの何か、不意をつける者でなければその身には届かない。

 

 

 そう、他の者でなければ。

 

 

「やあっ!」

 

『燕返し』の直後、小次郎も予想外で対処不可能な七撃目が背後から迫る。彼自身もそれは察知している。しかし、目の前の魔弾に気をとられすぎて、気付いた時にはもう遅い。

 その七撃目はマシュによるものだ。右腕にあった傷はすでに治っており、盾を振るうまでに回復している。

『応急処置』。藤丸の礼装に編み込まれている三つ目の魔術。彼はそれを使いマシュを回復させた。敵が俺の攻撃に気を取られていた隙に彼女の元へと駆けつけて。

 

「っ……!」

 

 完璧なまでの攻撃。これが剣道であれば、審判が声高々に一本と判定しただろう。まあ、そもそもこれは試合ではないし、審判もいない。それにそんな攻撃を当ててしまえばいくら英霊だろうと座に還ってしまう。

 だから、

 

「そこまで。」

 

 俺はマシュの攻撃を受け止める。

 

「勝負あった。だから、模擬戦は俺らの勝ちだ。

 小次郎もいいな?」

「あいや、まいったまいった。駆け出しと油断していれば、中々に戦えるではないか。」

 

 そう答える彼の表情にはまだまだ余裕がありそうで、しかし先の闘いが全力ではなかったようにも見えない。これは楽しんでいるのか。

 

「……はあーっ。考えても仕方ないか。

 それよりも藤丸、マシュ。これまでよく頑張ったな。最初と比べるまでもなく、素晴らしい成長っぷりを見せてくれたな。」

「えっへへ! ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます。」

 

 俺が褒めると前者は素直に、後者は少し照れながらも喜ぶ。

 これで、特異点でも彼らは充分な戦力になる。

 

「よし、そんじゃあ今日はここまでだ。明日はいよいよレイシフトの日だからな。午後からはゆっくりと休むように! 解散!」

 

 今日一日中特訓をして明日に疲れを残してしまえば、どんなミスが起こるか分かったもんではない。本番の前日は疲れを取る。それに限る。

 しかし、解散とは言ったものの、誰一人として部屋を出る者はおらず、むしろ今から皆と一緒に、という雰囲気だ。

 

「じゃあ創太さん! また昼食作ってくださいよ!」

「えぇー、またか。そろそろ似たようなもんばっかで飽きたんじゃないか?」

 

 以前、彼らに食事を振舞ってから俺はどうやら料理長となってしまったようで、ちょくちょく食堂に来る職員らにも飯を出していたら好評価。

 さりとて、俺は本業ではないので、レパートリー自体は少ない。そろそろ他人に出せる料理はなくなってきたしなぁ。

 

「藤丸、お前は料理作れないのか?」

「……目玉焼きは得意です。」

「つまり、家庭科の授業以外では経験なしか。」

「い、言わないでくださいよ!」

 

 これは任せられないな。

 

「小次郎は……」

「拙者、食事は自分で用意してはいたが、味は期待せぬ方が良いだろう。」

 

 だよな。あまりとやかく言うつもりではないが、彼は元々農民らしいし、料理の腕はそこまでだろう。

 

「じゃあマシュは?」

「私ですか? 

 ……すみません。私は先輩よりも経験がありません。皆無なのです。」

 

 まあそうだろう。マシュは割と過保護に育てられたみたいだし、食事はここの人達が用意してくれてるから、必要とはしなかったのだろう。過保護というのは少し違うが。

 

「そうか。なら、結局俺がやることになる……」

「みんな、お疲れ〜。トレーニングはどうやら終わったみたいだね。」

 

 観念したかのように、料理を作ろうと諦めようとしたところ、ふわふわした声が聞こえてくる。医者のような格好と、脱力した雰囲気を持ち合わせた彼、ロマニが手を振りながら歩いていた。

 

「こんにちはドクター!」

「こんにちは、ドクター。」

「うん、こんにちは。レイシフト前日だっていうのにまだ訓練してるのかい?」

「まあな、でも今日はここまでだ。流石に休ませる時間も作らなきゃいけないしな。」

「ならちょうど良かった。昼食はまだだね? 食堂でご飯ができてるよ。」

 

 以前の敬語とは変わって、フランクな感じで話してくる。少しは打ち解けてくれたのだろうか。

 

「そりゃあ助かる。そろそろ何を料理したらいいかが尽きてきたからな。」

「それに関しては創太さんに頼りきりになってごめん。けど、今日はちゃんとこっちで用意しといたよ。」

「おう、ありがとな。」

「えぇー、今日は古崖さんの料理じゃないのか……」

 

 俺としてはありがたいと思った矢先、藤丸はあからさまに残念そうな顔をする。

 

「そこまで落ち込むという事は、創太殿の作る飯は相当な美味なのか?」

「いやあ、そうじゃないんですけど……なんて言ったら良いか。」

「創太さんの味は、何というか暖かいんです。確かに美味しいのではあるんですが……その、優しくて、何かを思い起こさせるような……」

 

 マシュは藤丸のフォローをしようとしたつもりなのだろうが、途中で言葉が詰まってしまう。その表現できない何かは思い出せない訳ではなく、まるで()()()()()()()()ようだった。

 けれどもその直後、彼が納得したかのように思い出す。

 

「そう! そうだよマシュ! 古崖さんの料理は母さんが作ってくれるような優しくて暖かい味なんだよ!」

「田舎の味、というやつか。某もまっこと、口にしてみたくなった。」

 

 三人にそう言ってくれて嬉しいが、俺が作る味は俺の物ではない。別の……そう、アイツの味だ。俺はそれを真似ただけに過ぎないんだ。こんな危機的な状況で気持ちだけでも落ち着かせようと、その味を再現したまでだ。

 本当ならもう少し大雑把な、味の濃い料理が俺の作る料理だから。

 

「僕も機会があれば創太さんの料理を食べてみたいよ。」

「けど、今日はカルデアの地元料理なんだろ? 俺としてはそっちを食べたい。だから、早く食堂に向かおうぜ。」

 

 誰かの腹が鳴る前にさっさと行こう。

 そうやって俺たちは食堂に移動する。明日はレイシフト、世界を救うための本当の第一歩。そのために今からはゆっくりと休まなければならない。

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