この小説の原案が約二年前に出されてから、原作の方では色々進んだり、設定が出されたせいで本作と矛盾、とまでは行きませんが、納得いかないことになっていることに。
そもそも、前作の世界線からfgoのストーリーに移るのは無理があるんですよね。まあ、そこはもう描写しないつもりなんですが。
第二部とかなかったんや!
「色々と迷惑をかけてしまい、すいませんでした。」
藤丸立香と呼ばれる少年が泣きに泣いて数十分後、完全にとは言い切れないが、ある程度復帰したようで、目が赤く腫れながらも自身によって皆の足を止めてしまった事を悪く思っているのか謝罪をする。
「本当にそうですね。あんな状態では、置いても行けないし、無理やりひっぱることもできないから、いい迷惑でした。」
「所長、それは流石に辛辣と言いますか……。」
「そうだな。一般人が急にこんな状況で冷静にいられるのは異常だ。藤丸、あんまり気を負うなよ。」
「うん、彼の言う通りだね。」
「フォウ!」
「はい……ありがとうございます。」
オルガマリー以外は藤丸を励まそうと、優しい言葉をかける。オルガマリーも励まそうとはしているのだが、素直になれないのかキツい言い方をする。
「さて、藤丸。お前が泣いている間にお前以外の自己紹介、そして状況把握は終わった。もちろん、お前の事も少しだけ説明してもらった。」
藤丸以外の自己紹介を簡潔にまとめるとこうだ。
元々このカルデアに所属し、今回の騒動の中でサーヴァントをその身に宿し、人間として生きている天然真面目少女、マシュ・キリエライト。
医療班に所属しているが、カルデアのお偉いさんが一気に意識不明となり、今は一時的に全体の指揮官として動いているゆるふわ系男性、ロマニ・アーキマン。
謎生物、フォウ。
オルガマリーに関しては前に自己紹介をしてもらったので、省略されて流れたが、もう一度説明しておくと、前所長でもあり彼女の父親が亡くなってから現在までカルデアの所長を務めている経歴があり、魔術の腕は一流なのだとか。
後の説明は、カルデアは人類の未来を観測しており、二〇一六年までしか人類が生存できないとされ、その原因がこの冬木市が特異点であるとは言われていた。しかし、その観測よりも早く人類の焼却が行われてしまった。
ここからは推測ではあるが、予測よりも早く人理焼却が行われたのは、特異点が新たにでき、それが外の悲惨な光景を生んでしまったのではないか。だが、何故カルデアはその影響を受けないのかと、それをオルガマリーに話したら、カルデアスの磁場がカルデアを守っているのだろうという事だ。
以上がオルガマリー達との会話における説明だ。
「けど、俺としてはお前の口からも話してほしいと思ってる。本人の口からっていうのが一番だからな。」
「分かりました。」
俺のわがままを聞いてくれた藤丸は一呼吸を入れて、自己紹介をする。ただ、圧倒的に俺の方が身長が低いので、必然的に見下ろされてしまう。
いつも思うが、何度体験してもこれには敗北感がある。特に女性を、さらに言えば実家へ帰った時にバゼットを見上げるのは屈辱的でしかない。
「僕の名前は藤丸立香、日本生まれの日本人です。十七歳の学生で、魔術師じゃないんですけど、二週間前の高校の定期検診でマスター適性? とレイシフト適性? が高いらしいから、それが必要だとされて昨日家でくつろいでいたところ、強制的にカルデアに連れてこられました。」
……なんか、疑問がありすぎる自己紹介だな。
「オルガマリー。」
「私は知らないわ。確かに世界中から才能ある者を集めろとは言ったけど、こんなド素人をカルデアに招き入れろという指示はしていないわ。」
「そういう事じゃねえ。」
何故能力を持たない人がここにいるからじゃなくて、強制的に連れてこられたっていう所に疑問を持ってんだよこちとら。
「はあー……。藤丸、お前運が良いのか悪いのかよくわかんないな。」
「いや、運は良い方だとは思いますよ。結果論ですが、まだ生きているんですから。」
わお、この子ポジティブ。
俺が同じくらいの歳には、こんな事考えてられなかったのにな。
「なんとも、たくましい。さっきまで泣いていたのが信じられないくらいだ。」
「そうですね。先輩のときたま発揮する図太さには驚きです。」
「マシュ、その言い方は褒められているようには聞こえないよ……。」
初対面であるはずなのに、いつの間にか打ち解けてきた俺たち。藤丸が一般人でマシュが天然という事からかか、あまり疑心暗鬼せずに話をしていく。
「いやあ、仲が良くてよろしい。僕もそこに混ざりたいくらいだ。」
「ぼっちはぼっちでいてください。」
「辛辣! どういう育ち方したらこんな子になるの!?」
俺が来る前に何があったのかは分からないが、ロマニ哀れ。と言いたいところだが、何故か俺はナイス藤丸と内心親指を立てていた。
なんかこう、ロマニに対しては無条件で嫌悪するというか。居てはならない存在というか。
アーチャーもこんな心情だったのだろうか。
「はい、そこ。騒がない。
これでやっと先へ進めるというのに、口を動かすのはやめてください。」
しかし、そんな場合ではないとオルガマリーは邪魔をする。いや、彼女の言い分も正しい。
そもそも、今はそんな事をしている場合ではない。
けども、だ。
「まあ、待てオルガマリー。まだ話していない奴がいるみたいだぜ。」
「訳の分からない事を言わないでください。私達はこの特異点を解決しなければ……」
そんな事は知ったことではないと言わんばかりに、俺はその言葉を無視し、今の今までずっと俺たちの事を監視するように見ていた人物へ振り向く。
「そこに隠れてる奴、こっちに来たらどうだ。」
瓦礫の影に隠れていた人物、そいつに姿を見せるように威嚇する。
「おいおい、そんな殺気立たせなくてもいいだろ?」
悪気はなかったと言いたげに、手をヒラヒラさせながらあっけらかんとした態度で現れたそいつは、かつて冬木の聖杯戦争で戦ったランサーだった。いや、その姿や力からしてランサーとは別のクラスを以って召喚されたようだが。
「サーヴァント!? 反応は無かったはずなのに!」
しかし、そいつの姿を見た瞬間、俺以外の全員が戦闘態勢に入る。
「てててて敵!? アンタたちなんとかしなさい!」
ごめん、オルガマリーと俺以外な。
所長だって言うのに焦りすぎだろ、この人。
「マ、マシュ!」
「はい! 先輩は後方に……!」
「待て。あいつに戦う意思はない。もしあったならいつでも攻撃していたはずだ。」
しかし、俺は肩に手を置いて止める。
ギリギリ、ギリギリ届いてる……。腕を思いっきり上げてギリギリ二人の肩に届いてる!
低身長はやっぱ嫌だな……。
「ほう、いつから気づいていた。」
「最初からだ。」
最初から、つまり俺がここへ来た時、ランサーはすでに藤丸達を隠れながら見ていた。
「流石といったところか、魔術師。このまま気づかれなかったら、どうやって出てこようかと思っていたから、助かったぜ。」
「まあな。とりあえず名乗ってくれ。話はそれからだ。」
真名は知っている。しかし、相手が何処まで話してくれるか。その誠意というものは知りたい。さらに、彼の姿からして今回はランサーではなく、別のクラスで限界している可能性が高い。
「そっちから名乗る気は?」
「どうせ隠れて聞いてたんだろ。」
「そこまで、気づいているとはな。」
「なっ……! アンタ、知っていながら私達に話させていたわけ!?」
知らず知らずの内に敵であるかもしれない奴に情報を明け渡していたことに、怒るオルガマリー。
「知られても不利になるもんは話していないだろ?
それに言ったじゃねえか、あいつは敵じゃない。少なくともな。もしそうではなくても俺がなんとかする。信じてくれ。」
俺は真剣に、そして確固たる意思を持ち説得する。信頼を預からせてくれと、頼むように。
「……貴方は頭が回るとも聞いた。それを信じるわ。二人もそれで良いわね。」
「はい。」
「まあ、僕は最初から信じてますけど。」
藤丸とマシュの二人からは快諾をくれるが、一人うるさい奴がいるな。
「おーい! 二人って、僕の意見はー!?」
「さて、そこのサーヴァント。クラスぐらいは教えてくれるわね。」
「所長!?」
あ、無視された。
「このお嬢ちゃんは気が強いのか弱いのか。
俺のクラスはキャスター。魔術師として召喚されたんだが、今はそこのちっちゃい奴の方が強いと思うぜ。」
英霊に認められるのは光栄なこった。前は状況が為にそんなのは拒否したが、今は純粋に嬉しい。二回も殺されそうになった相手というのを除けば。
「そんで、目的はなんだ?」
「本当はちょいとばかり協力を仰ごうかとな。俺としちゃあ、この戦争を終わらせたい。
だが、お前がいるならそっちのメリットがねえな。さっきの戦闘で助ければ信頼はしてくれるだろうとは思ったが、こりゃあ、俺の目的も達成できなさそうだ。」
なるほど。最初から勘付いてはいたが、予想通りといった所だな。
「だってよ。どうする、お前ら?」
「私は賛成よ。信頼とまではいかないけど、戦力が必要ではあるわ。」
「僕も賛成です。」
「私もです。彼がこの世界において、まともな人ですから。」
全員一致というわけか。
「あ、僕も……」
「というわけでキャスター、一時的だが協力よろしく頼むぞ。」
「へっ、ありがとよ。」
「また無視かい!?」
「おう軟弱男、ちょっとは自重ってもんを覚えろよ。」
「そしてまた辛辣!」
ロマニよ。どうやらいじられ役という星の下に生まれてしまったようだな。
「でしたら、仮でも契約は必要ですね。この場合、誰がマスターになるのですか?」
「立香しかねえだろ。そこのお嬢ちゃんはマスター適性がないみてえだしな。」
「うるさいわね。好きでこうなった訳じゃないのよ。」
そういえば、そんな事を自己紹介の時に言ってたな。魔力の量や質はかなり高いはずなんだが。
……あれのことは言うべきだろうか。
「創太でも良いんだが、適性で言えば坊主の方がたけぇしな。」
まあ、俺はマスターではなかった訳だし、妥当な判断だろう。
「さてキャスター、協力しあうならお互いの状況を知る必要があるわ。けど、貴方はもう知っている。」
おい、オルガマリー。誰かさんのせいでとかっていう眼差しで俺を見るな。
「なら、次はそっちの番じゃない?」
「確かにな。説明できることならなんでも良いぜ。」
「では一つ、貴方はこの惨状がどうやって起きたか知っているのかしら?」
「どうやってかは分からん。ここでは聖杯戦争が起きていたんだが、いつの間にか炎が街を襲って、人を全部焼き尽くしやがった。」
聖杯戦争、つまりは冬木の第五次聖杯戦争のことだろうか。しかし、俺が経験した事は今の状況とは全く違う。そもそも、クー・フーリンがキャスターで召喚されていない。
どういう事なのだろうか。
「だが、俺たちサーヴァントだけはマスターが死んでも生き残った。これからどうするかと考えていたら、セイバーの奴が急にほかのサーヴァントを襲っていってな。
聖杯戦争を再開させたつもりなんだろうが、奴にはおかしな点があった。まず姿が変わっていた事、もう一つは倒した相手を従わせた事だ。そのせいで俺以外のサーヴァントは全員セイバーの隷属だ。」
「では、そのセイバーがこの特異点の主犯格だと?」
マシュが話から予測を立てるが、俺としてはそうではないと思う。そもそもセイバーがこんな事はしない。おそらく姿が変わったという事から、彼女の身に何か起こったのではないのだろうか。
「いいや、それはない。あいつとは異変が起こる以前に戦った事があるんだが、そんな事をするようには見えんかった。」
俺の声を代弁するかのように、マシュの推測を否定するランサー。
「ならば一体誰が……。」
「さあな。けど、この特異点は聖杯を手に入れる事で直るんだろ? なら目的の場所は決まってる。」
「まさかとは思うが柳洞寺の奥にある……」
「そういやお前さんはここの参加者らしいな。ああ、その通りだ。創太の言う場所、その寺の奥にある大空洞に聖杯はある。」
やはりか。
俺たちもあそこが決戦の場所になってしまった。大聖杯が眠る大空洞が。
「ならば、ここでの目的地は決まりましたね。藤丸立香、マシュ・キリエライト。貴方達に
「了解です。」
「分かりましたよ、所長。」
自身が上である事を知らしめておきたいのか、二人にあえて命令しているオルガマリー。なんか、小物っぽく見えるからやめた方がいいと思うな。
「創太、貴方も良いですね。」
「本当にそれで世界が救えるならな。」
それしか方法がないっていうなら、やってやろうじゃねえか。ただ、人が死ぬのだけは勘弁な。
「ならば、行きましょう。聖杯の回収へと。」
ーーーーー
相対する敵は五体。どれも骸骨兵、いや竜牙兵といった方が良いか。何しろ、正史のキャスターが使っていた物に似ている。槍や剣、弓矢を巧みに使ってくるが、敵ではない。
「やあっ!」
その内の最も前に出ている敵を、マシュが盾による打撃でよろめかせ、
「
直後にキャスターが火のルーン魔術で燃やし、
「
最後に俺が風を送り込み、更に火を広げ、後方の敵まで燃やし尽くす。
「……敵影、反応共になし。戦闘終了だ。みんなお疲れ様。」
ロマニが状況報告をしたところでようやく全員の緊張が解かれる。しかし、警戒は怠らない。いつ誰が襲ってくるかは分からないのだから。
「はあ……はあ……。」
だが、マシュはそんな余裕もないくらい息を荒げる。
やはり戦闘に慣れないのか、体が疲れてるんじゃないのか?
「無理はするなよ、マシュ。あともうちょいで休めるから。」
「は、はい……。」
「辛いなら、後ろ退がってろ。このぐらいなら、まだ二人でもいける。」
「いえ……まだ……」
粘ろうと頑張っているのだろうが、本命の前にやられてしえば元も子もない。キャスターの言う通り退がった方が……。
「……着いたか。」
いや、その前に中継地点か。
「ここが俺の家だ。」
俺が指を指した場所、そこにはただの瓦礫と、燃やし尽くされた跡が残っているだけだった。
「創太さん……」
「こういうのは慣れてんだ。そんな気にするな。」
涙が出そうなのを我慢して、俺は瓦礫をどかす。確かに我が家が崩壊しているというのは堪える。けども、今はまだそんな時間じゃない。
「ええと、確かにここら辺に……」
家が破壊されているとはいえ、地下室はまだ健在だろう。どうやら災害の中に地震はないみたいだし。
しかし、その結果
「無い……?」
あるべきはずの地下室が存在すらしていなかった。
破壊されているわけでも、埋まっているわけでもない。魔術を駆使して調べても、この下には霊脈はあっても、部屋があった痕跡すらないのだ。
「何を立ち尽くしているの? ここに工房があるって言ったのは貴方じゃない。」
「元の世界ではあった。けど、ここには無いんだ。」
「……そう。これも正史とズレた結果でしょうね。」
つまり、ここは俺の家ですら無いという事だ。
「なら、次だ。今度は確実にあると思う。」
「本当に? 彼女もそろそろ限界が近いようだし、休める場所は早く見つけないといけない。」
「大丈夫だ。ここから歩いて十分ほどで着く。」
前にも言ったかもしれないが、俺は
しかし、あいつは違う。あいつは良い意味でも悪い意味でも強い運命が存在する。そうそうな理由で変わらない筈だ。
「ほら、見えてきた。」
「あの武家屋敷が……?」
俺が言った通り、歩いて十分。ようやく休憩できそうな場所に到着する。
「何故ここを? さっきのは貴方の家かもしれなかったというので分かるけど。」
「なぁに、友人の家だからだよ。」
幸いにも結界の跡はあるからそこから再現はできるし、建物自体も雨風をしのげる程度には残っている。
誰もいないようだし、これならば簡易的な拠点にはなるだろう。
「さあ、入ってくれ。俺は外で結界を張るから。」
「あんがとよ。さ、ひとやす……」
「お前もやんだよ、キャスター。」
「冗談だって。そんな怖い顔しなさんなって。」
嘘つけ。完全にサボるつもりだっただろ。
「ったく。……みんな、入ってすぐの角を曲がって右側の襖を開けたら居間だから、そこで休むと良いぞ。」
「そうするわ。」
「すみません、私が不甲斐ないばかりに……。」
「マシュは気にすることないって。僕なんか何にもできてないんだし。……なんか自分で言ってて惨めだなあ。
あ、お二人ともありがとうございます。使えそうな物があるかは先に探しておくのでよろしくお願いしますね。」
三者三様で返答しながら、元衛宮邸に入っていく三人。特にマシュは疲れた様子だった。急に戦闘できる体になってしえば、精神の方が保たないのだろうか。
なら、そんな彼女の為にも一仕事しよう。
「キャスター、この建物の裏に少し開けた庭がある。そこで結界の起点を作るぞ。」
「はいよ。だが、俺が使うのはルーン魔術だぜ。創太の使う魔術と合うのか?」
「大丈夫だ。魔術の豊富さも自信はある。お前に合わせることもな。」
「ほう、さっき使ってた魔術も火だったり地だったりと色々だったな。もしかしてだが、お前の属性は
「残念、全くのハズレだ。」
そう勘違いされても仕方ない。この力を持っていることは機密事項だ。
「それを全て使えるのは事実だけどな。ほら、さっさとここに結界の起点張るぞ。」
「へいへい。」
テキトーな返事をした後、彼の目は真剣そのものとなり、魔力を練る。
俺もそれに続き、キャスターの魔力に合わせるように、魔術を即構成、即行使する。
ルーン魔術であろうと、神代の魔法であろうと、未知なる技術であろうと、俺にかかれば一瞬にして自身の物にし、どう動けばいいかを理解する。それが俺の魔術だ。
結界を張り始めてから、数分も経たない頃、結界は完成される。
これならば一時間程度は保つだろう。骸骨はおろか、サーヴァントでも突破は難しい。もし来たとしても、逃げる時間ぐらいは準備できるだろう。
「本当に合わせちまうとはな。アンタ、本当はどっかの英霊じゃねえのか?」
「正真正銘の人間だよ。」
体はどこぞの聖女さんの物でしたけど。
「キャスターこそ、どこの英雄だ? 魔術師にしては重心移動や足の並びが槍術に近い。そんなに動ける魔術師なんてのは聞いたことはねえぞ、
「ハッ。気づいてんなら最初から言えや。」
「おっと、ついつい口が滑っちまった。二回も槍で殺されかけてんのに、こんな事言っちまえばどうなることやら。」
それはわざとらしく、皮肉をたっぷり込めたお返しだった。
別に根に持っちゃいないが、どうしても頭の片隅にあったもんで話さざるを得なかったと言うか、何というか。まあでも、ランサーがこんな事で逆ギレすることはないだろう。現に、
「そりゃさぞかし、大変だったろうよ。」
笑い飛ばしながら、後で酒のアテにするかのように応える。
「安心しな。今は槍なんざ持ってねえし、あったとしてもお前を殺る気もねえよ。」
「そうしてくれ。三回目は勘弁だ。」
まあ、体を貫かれたのは四回ぐらいあるけどな。
「さあな。次の召喚でどうなるかも知れねえし、運が悪けりゃ今回中に……」
「脅かすように言うのはやめてくれ。」
「創太もそんなお堅いことは言うなって。もしそうなってもアンタは生き残る。心臓を穿たれたのにここにいるってこたあ、そう言うことだ。」
自慢の槍を完全攻略されたと知ってなおも、俺の実力を認めるような口ぶり。やはり、ランサーという男はさっぱりとした奴なんだろう。
「そんなことより、さっさと中へ入ろうぜ。アンタは生身の人間なんだから、少しくれえは休んどけ。」
「分かってるよ。」
俺にとっては昔話、キャスターにとっては何も知らない他愛のない話をしながらも、屋敷の中へと入っていく。ただし、靴は脱がず、土足のままで。どこから変なもんが飛び出してんのかわかんないからな。
「で、藤丸どうした?」
と思って、居間に入ればオルガマリーが魔術で藤丸の足の手当てをしていた。
マシュはその横で座っており、藤丸を心配するようなしぐさだった。
「彼が靴を脱いで屋敷内を歩き回りだして、案の定床から飛び出てた釘を踏んだのよ。」
俺の質問を、呆れたようにオルガマリーが説明をする。
さっき懸念してた事を他人がやるのは予想外でした。事前に言っとくべきだったなこれは。
「しょ、しょうがないじゃないですかー……。日本人は室内に土足で入ってはいけないって……」
「彼はどうなの?」
俺の方を指差して、藤丸に靴を履いていることを確認させる。
「あ、あははー……」
「倒壊していないとはいえ、所々は壊れてる。そういうことも頭に入れられないと、この先で生きて行けないわよ。」
「……はい。すいませんでした。」
なんか怒られている生徒と叱っている先生を見ているかのような感じだな。
まあ、たしかに藤丸には少し自覚がないというか注意不足というか。けど、おそらくは役に立とうとした結果なのだろう。それに関してはあまり責められない。
「それで、何か目につくような物は?」
手当てをまだ受けている藤丸の正面に俺は座り、収穫内容を聞き出す。
「無かった、少なくとも居間にはね。何か応急処置に使えそうな物とか探していたけど、使えそうにないわ。」
ま、そうだろう。あったとしても土蔵の中ぐらいだ。
「なら、今は休んだ方が良い。マシュも疲れてるし、どっかの誰かさんは怪我をしたし。」
「あっははは……はぁー……。」
おいそこ、愛想笑いしない。
「だが、作戦会議ぐらいはできる。」
「そうね。誰が何をできるかぐらいは確認した方が良いでしょう。」
俺としては、人理が修復された後の事も考えて、あまり能力の全ては明かせない。だから、今回は彼女らに少し誤魔化されてもらおう。
「なら、まずは俺だ。さっきランサーには言ったんだが、一応
「え、今なんて!?」
ゆるふわうるせえ。
確かにアベレージ・ワンという単語だけで驚きかもしれんが、こちとら他にも秘密があるんだよ。
けど、オルガマリーはそうはせず、
「薄々気づいてたわ。」
と、淡白に答える。
「所長!
「うるさいわね、ロマニ。最近スカウトしてきた彼女もそうだったじゃない。」
「なあ、それって……」
「え? ……ああ、そうだったわね。彼女、遠坂凛はおそらく無事よ。爆発の被害に遭って冷凍されてはいるけど。」
オルガマリーは俺の心配を汲み取ったかのように答える。
そうか、失念していた。彼女もここに来ているんだった。今の今まで考えてはいなかったが。
「ありがとう、オルガマリー。」
「な、なによ突然。」
「そうしたのはお前の指示だろ? さっきも似たような事を言っていたし。」
藤丸が泣きまくっていた間に受けた説明の中で、スタッフとマスター候補を冷凍したと聞いた。多分その時に遠坂も一緒にそうしたんだろう。
「言っとくけど、私は責任を逃れるためにそうしたまでです。」
「それでもだ。」
真っ直ぐと、オルガマリーの目を見ながら力強く答える。
仲間が助かったというのは、それだけで心の救いだ。死なせたくないと願う俺の心の。
「あの〜、少し良いですか?」
と、その空気を邪魔することに申し訳ないと思いながらも、割り込む藤丸。その声に二人とも注目をする。
何を質問するのかと、続きを聞いていると、
「その
ああ、そう来たか。
一般人からすれば、そのワードは聞いたことのないものだ。それが分からないというのは当然なんだが……
「先輩、
「待った、マシュ。」
細かく説明しようとしてる彼女を止め、オルガマリーとの相談の時間を作る。
「どうする? この特異点が終わったら、カルデアの外は戻るんだろ? そん時の藤丸の事を考えたら……」
「あまりこっち側に踏み込ませる気は無いわ。戦力は他から調達する。そうでなくても、今は細かく説明する必要はない。」
「じゃあ、端的にするぞ。」
「そうしてちょうだい。」
わずか一分の話し合いの中で、出た答えは端折るという事だ。
「取り敢えず藤丸、俺は魔術であれば何でも使える。そういう事だ。」
「へえ、そうなんですか。」
追求はせず、相槌するのみ。
藤丸があまり深くまで聞いてくるタイプじゃなくて助かった。
「そんじゃあ、次はキャスターだ。」
「俺か? つっても、多分だが俺のできることは創太も大体できんじゃねえのか?」
「良いから。俺はルーン魔術を使えるが、完全にマスターしているわけでもない。なんなら、それ以外の能力を伝える為にも真名もバラして良いんじゃねえのか?」
「真名って……まさか貴方、彼の正体を?」
おっと、そういえば言ってなかったな。
「キャスターはな、俺の聖杯戦争ではランサーで召喚されてたんだ。その経緯で真名も知ってる。
今まで黙ってたのは、他人である俺から言うのも何だと思ってな。あまり他人の情報を話すのは好きじゃないんだ。」
「貴方! また黙ってたわね!」
「すまんな。悪気があった訳じゃない。」
睨みつけるオルガマリーに対して謝罪すると、膨らんだ風船がしぼんでいくように怒りが抜け、あきれ返ってしまう。
「……今ここでそれに関して文句を言うのは時間の無駄ね。」
「本当に悪い。」
そんでもってありがとう。
「それでキャスター、彼からは言う気はないみたいだし、真名を聞いても?」
「別に構わんぜ。」
その後、キャスターの真名がクー・フーリンであった事、そもそも槍が得意である事、藤丸が全く聞き馴染みのない名前であるので、彼の伝承を色々と話していった。
「ほえー、ゲイボルクとか名前だけは聞いたことありましたけど、クー・フーリンさんが使ってたんですね。」
「元々は師匠が使ってたんだけどな。」
——その師匠という単語に一瞬、悪感がする。
忘れていたが、キャスターの師匠ってあいつだったか。嫌な思い出しかないんだよなあ。半分事故とはいえ、俺が悪いのはわかるが、その後になんでああなんだよ……。
「さ、さあ。次はオルガマリーだ。」
「なんで詰まったのよ。」
う、う、うるせえ。変なことを思い出しちまったんだよ。
「そんな事はいいから、さっさとできること言ってくれ。」
「できることって……アンタたちに比べれば何もないわよ。せめて、障壁を張って身を守ることぐらいかしら。」
「他にもあんだろ。サーヴァントはともかく、そこらへんの雑魚には負けることがないだろ、その魔力の量と質があれば。」
彼女は能力が純粋に高い。
規格外ではないにしても、魔術師の中ではかなり強いはずだ。
「それは慰め? それとも、皮肉なの?」
「どっちでもねえよ。少なくとも、俺がお前ぐらいの時はそこまでの力はなかったし、優秀なのは間違いない。」
それは純粋に評価した言葉だった。嘘偽りのない俺から見た彼女の能力を。
「……ふん。ええ、分かった。それぐらいはしてやるわよ。」
「そうしてくれ。なら、最後にマシュだ。」
正直言って彼女が一番の不安要素だ。何というか力を十全に使いこなせていないというか、自身の力を理解していない気がする、
「あのー、僕は?」
「答える必要あると思うの?」
「サーセン。」
「おいそこ、漫才をしない。」
ったく、何だって藤丸はボケたがるんだ。
まあ、気を取り直してだ。
「マシュ、自分に何ができるかを言ってみてくれ。」
それは、この場にいる全員に情報を共有するためではなく、マシュが自身に宿しているサーヴァントを正確に把握しているかを確認するための質問だ。
藤丸と違って、マシュの力はこれからも必要になってくる可能性が高い。ならば、彼女の為にもこの質問は重要だ。
「え、えっと……」
しかし、しどろもどろに話し始め、何から言っていいのかを悩んでいる様子。
どうやらこれは、懸念していた事が現実となっているのか。
「先輩と所長には伝えてたのですが……その……私に力を託したサーヴァントというのが誰か、それが分からないんです。」
悪い意味で俺の予想が大当たりしてしまった。
「宝具は? さっきまでの戦い方は自己流じゃなくて、そのサーヴァントが使っていた物なんだろ。なら、それと同じように宝具も自ずと分かるだろ。」
「それは……」
マシュの困ったような答え方は『NO』としか捉えられない。言ってしまえば、自身のサーヴァントの知識は全くないということになっていた。
「あの、宝具って一体?」
また藤丸くんですか。貴方は知らない事だらけですね……。
いや冗談だけど、ここで説明するのは……まあいいか。
「英霊が英霊たらしめる要素だな。技、伝承、持っている武器など、英霊によって違うんだが、それがあるから英霊と呼ばれ、後世に伝説として語り継がれる。
分かりやすく言えば、英霊の最大の特徴が宝具っていう事だ。例としてはアーサー王が持っていたエクスカリバーとか。」
知り合いの名前を出して悪いとは思うが、藤丸も分かりやすいといえばこれしかなかったんだ。
許せ、セイバー。
「要は……必殺技って事ですね!」
「うん、大体合ってる!」
合ってはいるんだけどなあ、俺の説明からそれが導き出されるのは、すこし飛びすぎだと思う。
「マシュの場合は、おそらくその盾だ。特徴的であるし、何しろそれしか持ってない。概念的な物が宝具とかかもしれないけど、今は盾が宝具だと仮定した方が良い。」
マシュのその身丈以上の大きさ、十字架ともとれる特徴的な形の盾。それがただの道具であるはずがない。何しろ、エクスカリバーやゲイボルクのように、その盾にはかなりの『力』が秘められている。
しかし、どうにも似たような力を見た気がする。時代特有というか、誰かと関係があったような……。
「しかし、そうだとしても私には宝具の発動方法を理解していません……。」
「まあ、宝具が一朝一夕で使えたら英霊の面目丸つぶれだよね。」
マシュの申し訳なさそうな言葉に、ロマニが慰めようとするが
「なんだそれは。おかしいじゃねえか。」
キャスターが指摘を入れる。
「サーヴァントなら宝具を使えて当然だ。そうじゃねえなら、魔力が詰まってるだけだな。」
詰まってるって……表現の仕方が
「気合いを入れりゃ、宝具を使えるんじゃねえのか? こう……大声出してみりゃ良いんじゃね?」
「そうなんですか?
そーうーなー……!!」
「キャスター待て。」
「それ犬みてえ……」
「ステイ。」
ふざけた事言ってんじゃねえぞ。
「まあ、なんだ。とにかくキャスターは宝具を使おうっていう気合いが大事って言いたいんじゃねえか?」
「……はい。それを肝に命じて頑張ってみます。」
正直言って、俺はマシュのような経験をした事はないから的確なアドバイスはできない。
次に戦ってできるっていう保証もないな。それはどうやって……
「マシュ、悪いがそれを今使えないと聖杯は取れねえぜ。」
「え?」
「聖杯を守っているのはセイバー、真名はアーサー王だ。」
「おい、それって……」
ここの世界まで、あいつなのか。
というより、やはり今使えないとダメなのか。
「あのブリテンの王と呼ばれてる……?」
「ああ、さっきも創太が言ってたな。あいつは聖剣を持っている。
そこら辺の奴はいいが、あいつと戦うには対抗できるもんは必要だ。つまり、お前さんの宝具だ。」
あれを防げるかと言われれば、俺は難しい。一人ならまだしも、全員となるとな。しかし、マシュの宝具があればあるいは……
「そんな力が私に……」
「……しょうがねえ。すこし表に出ろ。」
全員がキャスターの指示通りに外へ出て、裏庭に移動する。
「マシュはそこに立て、立香もだ。」
「え? マシュは分かるとしてなんで僕もなんですか?」
「足が痛いかもしれねぇが、我慢しろ。」
何が何だか分からないと言った感じで、立香は怪我した足をかばいながら、マシュの後ろに立つ。
「キャスター、どうする気よ。」
今の状態は藤丸と立香がキャスターと対峙しており、まるで戦闘を行うかのようだ。
……いや、本当にそうなんだろう。
「なあに、ただお嬢ちゃんの力を引き出そうってんだ。」
キャスターがゆっくりと杖を構え、魔力を高める。
「ちょ、キャスターさん? 嘘ですよね?」
「っ、マスター下がってください!」
何が行われるのかを理解した二人は戦闘態勢に入る。
こんなのただの荒治療じゃねえか。
「さあて、俺の攻撃から立香を守ってみな! 幸い、足を怪我してんだから動くこともできねえ。
宝具が出るまでやんぞ!」
「ただの荒治療じゃないですか!」
あ、一瞬、藤丸と心が通じ合った。