執筆が妄想に追いつかない。それがただただ一番の悩みです。他の作品を投稿していたりするんですけど、それも凍結状態。何か良い方法はないんですかねえ。
モチベーションを上げろって言った人、正解だと思います。
バーサーカーとの戦闘後、作戦会議をしながら休息の時間を三十分ほど取り、目的の場所へ徒歩で向かう俺たち。
その途中で俺は藤丸に貿易商と裏での活動について話していた。もちろん、周りを警戒しながらだ。しかし、
「凄いですね、古崖さん! 敏腕交渉人として世界中を飛び回っているだけではなく、その裏ではヒーローをやっているんですね!」
「お、おおう。その言い方はちょっとオーバー過ぎるけどな。」
子供のように目をキラキラ輝かせながら、藤丸は尊敬の眼差しを俺に向ける。
別に武勇伝を語ったつもりはないから、その反応はこちらとしてはなんだか恥ずかしい。
「だってそうじゃないですか! 世界各国の貿易商と繋がりを持ち、条件の良い契約を次々と結び、挙げ句の果てには世界を救っているだなんて!
よっ! 世界一!」
「尾びれ背びれをつけすぎ。あと最後の掛け声なに?」
おだてるように藤丸は言うが、本当はそんな大手の貿易商ではないし、バリバリのエリートエージェントでもない。中堅会社がある程度上手くいっているぐらいだ。
まあ、世界を救ったという部分に関してはあながち否定できない。
十年前の聖杯戦争。あれが別の形で終わっていれば、目の前の惨状のようになっていたのかもしれないのだから。
「なあ! マシュだってそう思うよな!」
そんな俺の心情も知らずに、ハイテンションな彼は興奮したまま話題を振る。しかし、当の彼女は上の空といったようで、ぼーっとしたまま何も答えない。
「おーい、マシュー?」
「……はっ! す、すみません先輩。少し考え事をしていまして。それで、何の話でしょうか?」
「だから、古崖さんが凄いっていう話!」
藤丸がさっき俺から聞いた話をそのままマシュに話し、興奮気味になっているが、流石にマシュの落ち込んでいる気持ちを理解したのか、声のトーンが低くなっていく。
「あの……どう、しましたか?」
「いや、なんというか……」
「マシュ、彼はね、やっと貴女の心情を理解したのよ。」
呆れるオルガマリーに対し、マシュは『はて?』という疑問しかない顔を返す。
「……貴女、気づいていないとでも思っているの?
さっきの戦いで宝具を出せなかった事を悔やんでいるんでしょ。」
「えっ……!
……はい、確かに所長の言う通りです。」
彼女は驚きながらも、自身の気持ちを言葉に並べる。
「宝具の使用が不可能である、それも私の最も憂いている事です。しかし、それだけではありません。先ほどのバーサーカーとの戦いでは私がいなくとも、キャスターさんと創太さんのお二人で勝利を収めていました。
ならば、私がいる意味とは……戦えるようになった意味とは一体……」
最後は憂鬱から、もう口を動かすことさえ辛そうだった。
先の訓練でバーサーカーに邪魔されて、結局宝具を出せずに終わった。その事を悔やんでいるのか。
確かに、俺とキャスターの二人であれば大抵の敵は倒せるし、宝具を使えなければマシュの中にある英霊の真価を発揮できないと言う事になる。
それを気負ってしまうのも当然だ。
「そんなモン気にすんな!」
「うわっ!?」
しかし、それを笑い飛ばしながら背中を叩くランサー……失礼、今はキャスターだった。
「宝具が使えなくとも、嬢ちゃんには盾がある。それだけで十分だ。」
「ですが……」
キャスターは慰めようとするも、それでも彼女は自信がなさげだった。なら、俺からも声を掛けてやろう。
「なあ、マシュ。そんなに執着してるといざ戦うって言うときに、力を出しきれない。だから、今は余計な事は考えるな。無いもんねだりしたって勝てはしない。
それに、俺が戦って勝てるという確証もない。だから、お前は勝つ事を考えて戦え。いいな?」
「は、はい!」
良い返事だ。まだ迷いはあるかもしれないが、今は前を向いてもらおう。その力が覚醒する時まで。
しかし、俺は見逃さなかった。藤丸がじっと手の甲を、サーヴァントの力を十二分に引き出すことのできる令呪を見続けていた事を。
ーーーーー
歩き続けて二十分程度、目の前には長い階段があり、奥では柳洞寺であった物が鎮座している。
ここが目的の場所の一歩手前。聖杯は更に奥にあるはずだ。
「それでキャスター、残っているのは確かセイバーとアーチャーだったな?」
いよいよ決戦の地というところで、俺は敵の情報を再確認する。
「ああ、他のやつは全員倒してる。あとはその二騎だけだ。
セイバーはさっきも言った通り、ブリテン島の騎士王。で、もう一人なんだが……」
アーチャー、そいつは俺からしても因縁がある相手だ。あっちからしてみれば無いだろうが、それはどうでも良いだろう。
「まあ、なんだ。悪いが真名は知らん。だが、気をつけろよ。あいつは
「分かってる。あいつの強さは俺が一番良く理解してんだ。」
「ほう、あの野郎と訳ありか?」
「まあな。」
訳ありというか、複雑というか。けども、今は私情を持ち込むようなことはしない。あいつとは全力で戦うだけだ。
「貴方達! 喋ってないでちゃんと先導しなさい!」
「分かった、分かった。そんな怒んなよ。」
しびれを切らしたオルガマリーは道案内を急かす。
時間を無駄にできないというのは分かるが、もうちょいリラックスできないもんかね。
「んじゃ、行くか。」
俺が先頭を切り、その後にマシュ、藤丸、オルガマリー、最後尾には全体を見守るかのようにキャスターが付いてくる。
階段を登り、寺のさらに奥の林を抜けて、少し開けた場所に出る。そこから少し進み、大聖杯へと続く洞窟の入り口に到着する。
「こっから先は特に注意しろ。道が真っ直ぐだから、門番が何してくるか……マシュ!」
「は、はい!」
キャスターの話の途中で突如洞窟の奥から放たれた矢に、マシュは即座に反応し盾で受け止める。
どうやら、その門番がとっくに迎撃態勢へ入ったようだ。
「まだ来るぞ! マシュはそのまま先頭を突っ切れ! みんなはその後に続け!」
「了解です!」
俺の指示通り、彼女は盾を構えながら奥へと進み、他もその後を追うように進む。
「いいか、視認できる距離まで近づいたら作戦通りいくぞ。」
「ああ。」
「はい。」
「頼むわよ。こっちの事は気にしなくていいから。」
「分かってる。」
全員の気持ちが準備万端な事を確認できたと同時に、開けた場所にでる。
もちろんそこは終着点ではなく、大聖杯はまだ奥。しかし、その中央には黒いボディアーマーを身に纏った褐色白髪の
「アレがアーチャー……。」
「手数の多さはおそらくトップクラスだ。正面からしか攻撃が来ないと思うなよ。」
特にあいつが愛用する双剣には注意したいところだ。
「こそこそと隠れていた奴が目立ってきたと思えば、仲間を連れて来ていたとはな。そこまで聖杯が欲しいか?」
「はっ。そんなモンは要らねえよ。
こんな下らねえゲームをさっさと終わらせる為に来ただけだ。」
出会って早々二人がかち合う。
俺が経験した聖杯戦争では二人が会うところを見た事はないが、あまり仲が良いとは思えないな。
「おい、アーチャー。」
しかし、このまま戦うにしろ俺としては少し問い掛けたい事がある。だから、二人の間に割り込む。
「貴様は?」
俺を知らない。それだけで心に針が刺さるような痛みを感じる。
たしかに背丈は大分変わっただろうが、顔はほとんど変わっていない。実際に久しぶりに会った奴も、俺の顔を見れば大体の奴が思い出してくれる。
けれど、世界線が違うのであれば仕方のないことか。
「誰でも良いじゃねえか。
それよりもお前、正義の味方を目指しているくせに、人類の滅亡させるつもりか?」
正義の味方という単語を聞いた瞬間、そいつは僅かに眉を上げる。
「お前がここでどうなったか知らない。けれど、お前の根本は変わらないはずだ。」
「貴様は私の事を知っているようだが、私は貴様の事は知らん。だから、何を言われようとも何とも思わん。」
俺の勝手な感情を鼻で笑うアーチャー。
ああ、そうだろうよ。『あの時』もお前はそうだったな。
「だったら、また思い出させてやるさ。」
杖を相手に向け、魔力を練る。
今から、戦闘が始まる。その意思がここにいる全員へと伝わり、戦闘態勢へと入らせる。
「アーチャー、もう一度聞くぞ。これがお前のやるべき事なのか?」
「できるならば、アレを今にも壊したいさ。だが、体を言う事は聞かなくてな。貴様を殺してしまっても、責任は取れんぞ?」
皮肉は健在のくせに、本心ではないってか。
だからと言って倒さない訳にもいかない。あいつ自身の目を覚ますためにも。
「やれるモンならやってみやがれ! 行くぞ、みんな!」
「はい!」
「おう!」
戦闘開始、それと同時にマシュは盾を使い、アーチャーに突進していく。
「ふっ!」
対して、敵は何本か矢を放つが盾はそれを弾く。
「やはり正面からは無理か。ならば……!」
今のままでは無理だと判断したアーチャーは、別の手段を選んだのか一組の双剣を投擲する。白と黒の中華剣、その名を干将・莫耶と呼ばれる担い手なき剣を。
もちろんそれらはマシュの盾に弾かれるのだが、問題はそこではない。それの性質は互いを引き合うと言うもの。しかも、弾かれた双剣はマシュを挟むように飛ばされている。
さらには、あいつの手には新たに
それら全てが引き合い、全方位からの同時を行うそれはこう呼ばれる。
「鶴翼三連!」
マシュの正面だけではなく、横や後ろからも双剣が飛んでくるその技は、まさに回避不可能。
だが、一人の場合だったらの話だ。
「
地面に魔力を流し、アーチャーの双剣を邪魔するように、地面から壁を生やすように作る。そして思惑通りに、飛翔する双剣はそれに阻まれ、マシュには届かなくなる。
これで、彼女には思う存分アーチャーに集中できる!
「やあああっ!」
「っ……はああっ!」
マシュが行う盾の攻撃、それは普通ならば双剣では防ぎきれない。しかし彼女が未熟なのか、相手が上手であるのか、結果として鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。
しかし、それで良い。
「どきな、マシュ!」
「はい!」
それはキャスターの攻撃の合図。マシュはその合図を聞いた瞬間に射線を開けるために、一気に横へとダッシュする。
「
マシュが避けたと確認する前に、キャスターは合図とほぼ同時に火球を放つ。相手に余裕を与えないためだ。
しかし、それでもアーチャーはキャスターの攻撃を躱す。たった一回だけでは、当てさせてもらえないか。
ならば、次だ。
「だああっ!」
俺は、火球が当たらないと判断したと同時に走り出し、アーチャーとの距離を一瞬で詰め、大きく振りかぶった右手を突き出す!
「
それを防ごうと、アーチャーが投影するのは長剣。しかもただの長剣ではない。絶対に折れないという逸話を持つあの剣。
アーチャーはその剣の刃を俺の拳に向ける。
それらはぶつかり合い、金属音にも似た甲高い音を鳴らす。
「絶世の名剣デュランダル……だったか? それを扱うくせに干将・莫耶も使うなんて、ただの英霊じゃねえな。霊長の守護者様?」
「貴様、どこで私を知った!」
「
「何を……!」
このまま鍔迫り合いを続けても、無駄だと判断した俺は即座に後退し、続けてキャスターが魔術による攻撃をする。それでも、アーチャーは避け、弓を構えようとするが、
「させません!」
次の瞬間には既にマシュが距離を詰めて攻撃をする。しかし、その攻撃も防がれてしまう。だが、アーチャーの反応は少し遅れていた。
そろそろ、相手も気づいただろう。俺たちの作戦に。
代わる代わる攻撃をしていき、相手に余裕を与えず、隙を大きくしていく。それが第一の作戦だ。
けど、それだけではまだ足りない。
「どした、アーチャー! 自慢の皮肉はどこいった!」
「自慢の槍か無ければ、戦えない貴様が何を言う!」
マシュの攻撃の後に続き、キャスター、俺という順番で攻める。しかし、相手もただで攻撃を受けるわけではない。
俺は攻撃をした後、マシュに交代するために一旦退くのだが、いかんせん彼女は戦闘経験が足りない。だからか、僅かな猶予を与えてしまう。
「貰った!」
「しまっ……!」
弓矢を投影したアーチャーは、緋い矢を弓に携え、洋弓の構えを行う。
狙いは目の前のマシュ。
「
右手から矢を放すと同時に、マシュへと猟犬が襲う。
「っだあ!」
盾を使った突進でなんとかなるものの、問題はその後。矢の
違う! あいつの狙いはマシュじゃない! あいつが獲物として定めたのは……!
「藤丸!」
「う、うわああ!」
マシュへ放たれた猟犬は、彼女には興味はなく、マスターである藤丸に向かっていきやがった……!
「マスター!」
「人の心配をしている場合か!」
「っ……!」
更には、アーチャーの反撃がくる!
どっちかだけに意識を割いてはならないのか!
「させない! 障壁展開!」
けれども、
それにより、猟犬は弾かれ、明後日の方向へと飛んでいく。
「しょ、所長!」
「何ボサッとしてるの! マスターが狙われるって前もって言ったわよね!
っ……! まだ来る!」
弾かれようとも幾度と獲物へと向かう猟犬は衰えを知らず、オルガマリーの障壁を突き破ろうと、何度も向きを変えて藤丸を襲う。その度に障壁を削っていく
このままではジリ貧になる。そう考え、杖を手に持つ。
「
純粋な魔力の弾、それを杖先から放つ。
特殊な意味はない。単純に物体を破壊するだけの弾を猟犬に向けて放ち、破壊する。
「た、助かったわ。」
「礼はいい! それよりも藤丸をちゃんと守ってやれ!」
作戦としてオルガマリーには藤丸を任せていたから良かったものの、やはりあいつに隙を見せてはならない。
代わる代わるで攻撃を行い、それぞれの負担を軽減するという作戦をしたものの、それは崩れてしまった。ならば、どうするか
「マシュ、キャスター! こいつに時間をかけちまえば、またさっきみたいになる!
一気に畳み掛けるぞ!」
「はい!」
「おうよ!」
今まではマシュの経験不足から、盾役を任せっきりにしてしまうとボロが出てしまうと推測していたけど、もうすでにそれは出てしまった。なら、これ以上ボロが出ないように早く片付けるしかない。
しかし、俺自身はあくまでも本気は出してはならない。マシュが成長するように、俺は一歩引いて……
「……マシュ、あいつに出来るだけへばりつけ。何があってもな。さっきみたいな事になっても俺がフォローする。
キャスター、出来るだけ多く火球を撃て。射線にマシュがいても、俺が何とかする。」
「何とかって……どうする気だ?」
「どうにかする。信じてくれ。」
「……あいよ。気にせず撃ちゃあ良いんだな。」
俺を信用したのか、キャスターはアーチャーへと杖を向け、魔術で火球を作り出す。
ならば、とっとと戦闘再開だ。
「行けるな、マシュ?」
「はい。」
「よし、なら行け!」
「了解です!」
合図と同時に、マシュは先と同じように盾を構えながら突進していく。前方からの攻撃であれば、何であろうと防ぐ。
「いくら同じ手を使ったところで……っ!」
同じ手、敵がそう思った瞬間に、戦闘の始めとは違う部分が出てくる。それがマシュの左右から飛び出してくる二つの火球だ。誰のかは言うまでもあるまい。
敵の左右から挟み込む火球を避けるには、当然後ろに逃げるしかなく、アーチャーもそれを行う。上に跳べば的。前方にはマシュ。消去法で行けば手段は一つしかない。
しかし、だ。マシュの攻撃はまだ残っている。
「やああっ!」
「グッ!」
盾での攻撃は非常に重く、アーチャーをほんの少し後退させる。
それでもマシュの攻撃は敵に届かず、拮抗した状態になる。そして、ここに更なる追撃が入る。
「っ……!」
敵が驚く理由、それは再び放たれた二つの火球にある。先ほどと同じようにアーチャーを挟み込むそれは、敵を襲う。
対して、アーチャーはマシュとの鍔迫り合いを止めて、後ろに跳ぶ。と同時に、一対の双剣を左右に投げる。火球にぶつけて相殺するためだろう。しかし、
「ぐあっ!?」
その体は一瞬よろめき、体勢を立て直そうとするが、
「はああっ!」
隙を狙おうとマシュが狙い、
「っ……ごはっ!」
今度こそ攻撃がまともに当たる。
「やるな、創太!」
ニカッと笑うキャスターに対し、
「ああ、だがまだ油断できない。」
俺は真剣な表情を全く崩さない。
アーチャーを背後から襲った火球、それはキャスターが魔術で生み出したものだが、そう仕向けたのは俺だ。
敵の干将・莫耶と同じような軌道を描くように直接操れば、裏をかけると予想すれば、まさにその通りになった。
「追撃、行きます!」
しかし、まだ相手は斃れてはいない。
それを分かっているマシュは、アーチャーを追い詰めるかのように攻撃を繋げていく。
だが、
「
「しまっ……!」
相手は先程攻撃を食らった時、一本の剣を投影し、罠としてその場に置いていたらしい……!
マシュが投影された剣を背後にした瞬間、それに灯る魔力を爆発させ、瞬間的に火力を増大させていく!
ここで何もしなければ彼女がヤバい!
「はあっ!!」
咄嗟の判断をした俺は地面を蹴り、体を最速のスピードまで加速させ、マシュへと駆けつける。
「創太さん!?」
「あんま抵抗するなよ!」
そして、彼女をこの場から離す為に、今日三度目のアレを使う。
「
「えっ……?」
俺がマシュへ触れた瞬間に、彼女は藤丸の元へと戻る。しかし、俺自身は爆発の範囲内。
これでいい。これでいいんだ。
「え? なんでマシュが……いやそれよりも!
古が……!」
藤丸が言い切る、その前にアーチャーが仕掛けた罠が発動する。
耳と目を潰すかのような轟音と光、そして俺を焼こうと、この身を引きちぎらんとする熱気と衝撃が俺を包む。
「ふっ……!」
「なっ!!」
爆発によって起こった砂煙、その中から俺は飛び出す。体には多少のかすり傷がありながらも戦闘を続けるには未だ問題ない状態だ。
「うおおおっ!!」
飛び出した勢いをそのままに、アーチャーへと右の拳を突き出す。
それから身を守ろうと敵は最も多く使う干将・莫耶を投影し、交差させ、俺の拳を止める……
事はなかった。
「がっ……!」
一対の双剣を打ち破った拳は突き進み、アーチャーの胴体を捉え、吹っ飛ばす。
「ぐっ……
「っ! させねえ!!」
吹っ飛ばされた敵は体勢を立て直すと同時に、ある詠唱を始める。
俺には分かる。それはこいつの宝具であり、固有結界と呼ばれる禁術を展開するものなのだと。
「
「キャスター!」
「あいよ!」
アーチャーの詠唱とともに、俺はキャスターを呼びかけ、あるものを作る。それは火球。しかし、今までとは違うところがある。それは大きさだ。
今から作るのは、三メートル大の火球。密度を高め、最大限の魔力を詰め込む。
キャスターの杖から火球が放たれ、俺の手の平に収縮していく。
「
アーチャーの詠唱が進むと同時に地面が大地が焼かれていき、世界が置き換わろうとしていく。
しかし、その前に俺たちの攻撃準備が終わった。
「よし、行け! 創太!」
「ああ!」
巨大な火球、それを俺は腕を大きく振りかぶり、投げる。
「っ……
相手はすんなり当たってくれるはずもなく、目の前に七枚の花弁を展開する。
アイアスの盾と呼ばれるそれは、最後の一枚に関してだけは飛び道具に対して絶対防御の性質を持ち、俺たちの火球にも防ぐ。しかし、完全ではないのか、花弁は徐々に破壊される。
「
それでも、こちらの攻撃は宝具ほどの威力はなく、花弁を三枚破壊しただけで減衰されていく……はずだった。
「そらよ!」
火球が弱まるその前に、キャスターの追撃が行われる。
彼が持つ杖に新たな火を灯し、アーチャーの盾に叩きつけ、再度炎を燃え上がらせる!
これならば、その炎は遠距離からではなく、近距離からの直接攻撃。アーチャーの盾が持つ絶対防御の効果はなくなる!
「
敵は必死に耐えるが、アイアスの盾は一枚、また一枚と破られていく。しかし、キャスターの攻撃にも勢いが削がれていく。
互いに相殺されていき、ついには炎も盾も全てが消え去ってしまった。
「
「させ切る気はねえ!」
詠唱が終わろうとする。その固有結界の名が呼ばれる。
その前にこの戦いを終わらせようと、キャスターはそのまま杖を両手に振り下ろす。
しかし、今まで何度も投影された干将・莫耶を、アーチャーは今一度手に取り、攻撃を防ぐ。
「
発動される。この世界が変わる。
火の荒野に、歯車の空に、剣の丘に。
そして、一転して状況が変わってしまう。
あの結界の中では、俺も打破する事が困難だ。しかも、守るべき者があるのであれば尚更だ。
それを唱えきられてしまえば、一貫の終わり。
そう。一貫の終わり、だからこそ、
「一歩、間に合わなかったな。」
結界の展開を止める為に、俺はアーチャーの後ろに回り込んでいた。
拳を構え、アーチャーの背中を狙う。これで詠唱が完了するまでには間に合う!
「はあああっ!」
右腕を音も、光すらも、何もかもを置いていってしまうようなスピードで突き出す。
どんなに硬い装甲であろうと、頑丈な盾であろうとも、貫く。宝具を使われようと、この腕は敵に当たるまで止まる事はない。
俺が持つ絶対の自信。奢りでも、もちろん卑屈ですらない。正当な自己評価。
それが、アーチャーの体を
「がはっ……!」
突き破る!
「……見事だ。」
負けを認めた。
その瞬間に、世界の変化がなくなり元に戻る。
アーチャーの体には力が入っておらず、糸が切れた人形のように崩れていく。
ゆっくり、ゆっくりと俺は右腕を引き抜き、彼を寝かせる。
「お前が何処の誰だかは知らんが、その力ならば彼女を……」
今にも消えかかりそうな体でありながらも、最期の最後に遺言を残すように、口を動かす。
しかし、
「アーチャー、歯ぁ食いしばれ。」
俺はそれを無視し、再度拳を構え、
「何をする気……っ!」
頰を殴った。
「……ああ、そう言えばこんな事もあったな。」
「やっと思い出したか。ったく、今回は事情があるとは言え、正直はらわたが煮えくり返りそうだったぜ。」
「すまないな。
……ならば、何も言うこともないか。しかし、一言だけ。
頑張れよ、創太。」
懐かしい顔を最後に残して、アーチャーは光となる。
「ああ、世界を救ってみせるさ。」
やらなければならない事はまだ多くある。
自分のためにも、世界の為にも、過去の為にも、未来の為にも。
ここで、思い出に浸る気はさらさらない。
けど、だけれども。
俺は一粒の涙を流す。