配布礼装のドロップ率で地獄見た。いつもの事。
そろそろこの冬木特異点も終わりが近づいてきました。次の特異点はオリ主にとって特別な人物との出会いが待っています。
しかーし!そうホイホイと次の特異点にはいきません!幕感の物語的な何かを差し込む予定です。
俺は
「ねえ。」
見間違いかもしれないとも思ったが、あれだけ慣れ親しんだ場所を間違えるはずはない。
「……ねえ。」
未だに吐き気だってする。例え、この世界に
「人の話聞いてる?」
そして、アーチャーと再会した時、初めて俺の感情が外に漏れ出した。
トラウマを克服したとは言わない。けれど、自分がこんなにも過去に囚われ、引きずられるほど成長していないとは……
「古崖創太! 人の話を聞きなさい!」
オルガマリーの大声、それにより俺はやっと外へと意識を向ける。
「——悪い。考え事しててな。
で、無視って何のことだ?」
「貴方、本当に聞こえてなかったの?」
睨むような目で見られても、俺は考え事をしており、何を喋っていたのかは知らない。
それが事実だ。
「ああ、本当だ。」
「……そう。なら、カルデアに戻る時に身体検査は受けなさい。様子がおかしいようだし、後で体調を崩してこちらに責任が来るのは面倒ですから。」
「そうさせてもらう。」
最初はトゲトゲしてるとは思ってたが、意外に気遣いができる所長じゃないか。
今の状況を話しておくと、アーチャーと戦った後である現在、俺たちは最後の休憩を取っていた。この特異点における決着の為に。
因みに言い出したのは、マシュでも藤丸でもなく、この俺だ。
前持った準備ができていないまま、人理焼却という事件が突発的に起こり、さらにはそのまま大魔術を連発する羽目に。正直、魔力の底がつきそうだ。
今は、ローブに仕込んだ魔術礼装によって回復しているが、全快とはいかないだろう。
この状態で、あいつにどう打ち勝つか……
「で、何か用か、オルガマリー?」
の前に、先程呼びかけていた彼女の用を聞くことにする。
「貴方、顔色悪いわよ。立香ほどではないにしても、栄養補給でもしとしきなさい。
ほらこれ。」
そう言って手渡されたのは、蜂蜜が入った紅茶だった。
それは藤丸達にも回されており、疲労回復の効果がある。そもそもは一番疲れている藤丸の為に用意されたものだが、それでも俺もそうであるので、気を使ってはくれているのだろう。
「ありがと。」
礼を言いながらも、その紅茶を飲み干す。
「現状で一番頼れるのは貴方です。いざという時に動けなくなってしまえば、困るのは私ですから。」
あくまでも距離を取るような丁寧な言葉で理由を語るオルガマリー。しかし、それは保身の為というよりかは、俺を心配しているかのようだ。
「所長が他人を認めるなんてなあ。これは雪解けの時期が……。」
「う、うっさいわね! ロマニ!」
ほら、その証拠にドクターの言葉に動揺してるし。
「……そうだ。
藤丸、ちょっと来てくれ。」
「あ、はい。」
その様子を見ている内に、突発的にある事を思い出す。すぐさま、それを伝える為に藤丸を呼び出す。
名前を呼ばれた彼は立ち上がり、俺といっしょに他の奴らと少し離れた場所へと移動するが、
「待った。マシュ、お前はここで待機だ。」
共について来ようとする彼女を止める。
「いえ、しかし……」
「個人的な話なんだろうよ。奇襲が来ても、創太なら何とかする。だから、嬢ちゃんはここに座っとけ。」
マシュは少し考え、納得した顔で了承する。
それを見た俺たちは再び歩き始め、誰にも話が聞こえない場所に移動する。
=====
休息を終えた四人と一匹は、洞窟の奥へと進む。
光が入らず、正に一寸先は闇という状況で頼れるのは、カンテラ代わりとなっているキャスターの火球だけだ。
しかし、それも最奥部に近づけば終わり、禍々しい光が彼らを照らす。
「これが……聖杯……?」
ぼつりと、藤丸は口からこぼす。
これがあの聖遺物なのか。聖人が残したものなのか。そうとは信じられないシロモノがそこに存在している。
しかし、一行は到着した。この聖杯という名の
それは洞窟の天井まで伸び、見るもの全てを破壊尽くさんとしようとしている。まるで、この世の全ての悪が詰まったかのようだった。
「あれに願望機としての役割は期待するな。どんな願いでも殺すという解釈しかしないシロモノだ。」
「
誰もが圧巻する。畏れを体現した聖杯の姿に。
しかし、今はまだ、それに見惚れている場合ではない。それの前に立つ人物。
黒のドレスに黒の甲冑。そして、それに相反するかのように血色をなくした白い肌と白い髪。手には反転していながらもあの聖剣があった。
「アーサー王。キャスターと創太さんに聞いてはいたけど、まさか本当に女性だったなんて。」
史実では男性であったはずのアーサーは性別を偽り、王として君臨していた。
この事実を知らなければ、今は落ち着いたように状況説明しているロマニが、耳をつんざくような大声を上げていただろう。
「——面白いサーヴァントがいるようだな。」
「なぬ! テメェ、喋れたのか!
今までだんまりを決め込んでやがったな!」
アーサー王が言葉を発するということに驚くキャスター。おそらくは、今まで何も喋らなかったのだろう。
「ああ。何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。
……だが、その宝具は面白い。」
その宝具、アーサー王の視線の先、それはマシュが持つ盾の事を指し示している。しかし、何を意味するのかは、その場にいるアルトリア以外は誰も理解できなかった。
「セイバ……いや、アーサー王!」
しかし、そうであったとしても、創太は確かめたいことがあった。その為に、彼女に呼びかける。
「お前に二つ問う。
衛宮士郎というマスターはいたか?」
創太の口から出てきた名前。それにアーサー王は密かに反応する。しかし、そこから彼女の真意は読み取れない。
だが、彼はあくまでも答えを聞くだけに徹する。
「……居たな、そのような名のマスターは。」
少し考えた間の後、彼女は答える。
「じゃあ次だ。古崖創太、またはジアナ・ドラナリク。どちらかを聞いた事は?」
「無い。」
今度は即答する。
この答えが何を意味するのか。そもそも、何故彼はこのような質問をしたのか。
「……分かった。それだけ聞ければ充分だ。」
「ならば、試しておこう。貴様らがこの旅を始めるに相応しい資格を持つのかを!」
しかし、戦いは始まる。
真意も、真実も確認する前に。
「頼む、マシュ!」
「了解しました。マシュ・キリエライト、出撃します!」
マシュが盾を構え、一歩前に出る。
その瞬間に
「っ……!」
アーサー王は目前まで迫る。
「はあっ!」
「くっ……!」
聖剣が振り下ろされ、それを盾で止めるマシュ。
だが、あまりにもその一撃は重く、彼女は一歩、後退する。
だけでは終わらず、二歩三歩と押し込まれてしまいそうになる。しかし、
「
キャスターが援護し、セイバーを退かせる。
「しっかりしろ! 気を抜くとあっという間に持って行かれんぞ!」
「は、はい!」
その言葉で、今一度マシュは再確認する。
ここで覚悟が足りない者は即座に脱落してしまうと。
だから、今度こそ彼女はその心に刻み込む。一歩も引いてはならないと。
「創太さん! 次こそ行きます!」
「全力で行け。サポートを信じて、な。」
「はい!」
次の瞬間、マシュはまた一歩踏み出す。
それと同時に、セイバーも翔ぶ体制を始める。
互いがぶつかり合う。その状況が作り出される。誰もが予感した時、二人がいた場所のちょうど真ん中で鍔迫り合いが行われる。
金属が鳴らす独特の甲高い音。
二人の得物が生み出す激しい火花。
先程とは違い、二人は全く退く事なく、マシュは守り、セイバーは攻める。
互いのやる事は違えども、拮抗しているのは確かだ。
「土よ、体の一部となれ。」
そして、それを狙うのが、後衛の役割。
創太の詠唱は、 一対の巨大な土の腕を作り出し、セイバーを挟むように召喚される。
そこから何が起こるかは明白。
「っ……!」
「潰せ!」
土の腕はその手の平でセイバーを挟み、潰そうとする。
それを知っていたマシュはすでに後方へ離脱しており、残ったのはセイバーのみ。しかし、彼女も後ろへ跳ぶことで、それは回避される。だが、
「掛かったな。」
左右にさっきまでは無かった土の壁が創られていた。それは創太が作った物。
逃げ場をなくすように壁は高く、そしてそれにより作られた一つの道はキャスターとセイバーを真っ直ぐに結ぶ。
「食らっときな!」
キャスターが杖を振るい、多数の火球を飛ばす。
左右には壁、真正面からの攻撃。これでは彼女は上に跳ぶしか避ける方法はない。しかし、それは相手に隙を見せるという事。
例え、空中で魔力放出で無理矢理に方向転換をできたとしても、さらなる隙見せることになる。ならば、取る行動は一つ。
「ふっ!」
火球を全て斬り裂く。つまりは前面突破だ。
その行動は正しく、キャスターの攻撃を傷一つ負わずに対処した。
ただし、次に連なる攻撃には悪手になる。
「やあっ!」
セイバーが聖剣を振るう。その直後の隙を突き、マシュが火球の後ろから突進攻撃を行う。
そして、二度目の金属音が鳴る。
「っ……!」
完全に隙を突いた。
そう思っていたマシュにとって、セイバーの行動は驚きであった。
隙を無視して、聖剣を無理矢理切り返した。それだけではあるが、英霊という相手に格違いを改めて確認させられる。
それにより、二度目の鍔迫り合いが行われ、またもや、どちらも一歩も引かぬ状態となる。
「打ち上げろ……!」
そして、またもや創太の援護が入る。
今度はセイバーの足元から柱を生やし、彼女を空中へと打ち上げる。これにより、相手は完全な無防備状態となる。
「今度こそ、食らっとけ!」
またキャスターは複数の火球を飛ばす。しかし、今度は確実に当てられるはず。
「はああっ!」
はずだった。
セイバーの活とともに、魔力を周りに放出させ、盾となり、火を防ぐ。
「ちっ……! 無茶苦茶な野郎だ!」
愚痴をこぼすキャスターだったが、セイバーの動きにはまだ続きがある。
「『
空中で、しかも体が逆さにも関わらず、体を捻り、聖剣を斬り上げる体制を作る。
「っ! 全員下がれ! マシュの後ろに隠れろ!」
宝具を放つ構え。そうだとわかった瞬間に、皆創太の指示に従う。
セイバーと対峙する唯一はマシュのみ。彼女は盾を構え、騎士王の一撃を受ける為の準備を行う。
これから始まるのは、単純な力比べ。小細工は無く、どちら一方が攻め切るか、守りきるかの二択。
「マシュ、行けるか!」
「はい!」
聖剣に纏う魔力は巨大化し、その場全てを黒く染め、破壊し尽くすかのような力を持つ。
それに比べて、マシュは力強い声を上げるものの、対抗するかのような力は見当たらない。
どちらが勝つか。その答えはどう見ても明らかだ。しかし、ここではマシュに頼るしかすべはない。
そして、騎士王の持つ黒き魔力が極大となった時、
「
聖剣は振り上げられる。
マシュ達からみれば、振り下ろされたような動きであり、今まさに、力の関係を示すかのようだった。
「対
盾が、聖剣から放たれた黒き光を受け止める。
それ同時にマシュは、一歩引いてしまう。そしてまた一歩。段々と後退していく様は押し負けている証拠。
このままでは、後ろの皆に被害が及んでしまう。
「私は……やっぱり……この程度の……」
敵の宝具を受け止める。そんな大層な役割は自身には不相応だった。やはり、自分はただの弱い人間でしかない。
そう考えていた彼女は諦めかけていた。
「……。」
しかし、その後ろで何かを考える者が一人。
藤丸立香、彼女のマスターは右手の甲に刻印された令呪を見つめる。
これを使えば、マシュは今以上の力を手に入れ、敵の宝具を防ぎきれるのではないか。ならば、迷う余地はない……。
だが、彼はここである人物からの言葉を思い出す。
戦闘前に行われた二人だけの会話の最中に言われたそれは、藤丸にとって驚きであった。
『令呪を使うな。』
その言葉に対して、何故だ、どうしてだと質問攻めをしていった立香に、その者はこう答えた。
『確かにそれを使えば、マシュは確実に騎士王の聖剣を防ぐだろう。けど、その後はどうだ?
自身の力で勝てもしなかったのに、後の戦いで勝てるのだろうか。令呪が無ければ、戦えもしないのだろうか。彼女は悩むだろうな。
例えそう思わなかったとしても、令呪に頼った自信は脆い。あっけなく崩れてしまう。令呪があれば、なんていうのは自滅するだけだ。
だから、令呪は使うな。
そして、信じろ。
彼女ならば、きっとやってのける。』
その時、立香は渋々了解した。しかし、今の状況はどうだ?
マシュは聖剣の力を抑えきれずに、後ろへ退くばかり。ここからどうやって守りきるというのだろうか。
「……マシュ。」
再び、手の甲に目をやる。
そこには未だ使ったことのない三画の令呪があった。
この令呪は特別らしく、一日であれば一画は回復する。
ならば、今使っても問題ないのでは?
それに今を乗り切らないと、先の事も何もないのでは?
「創太さん……僕は……」
令呪の使用を禁止した人物。その本人の名を口にしながら葛藤する。
マシュを信じるか。
令呪を信じるか。
「マシュ。」
腕を突き出し、敵の攻撃を受け止めているマシュに向ける。
「令呪を……」
これでいい。これでいいんだ。
そう自分に言い聞かせる。この選択が最良なのかは分からない。しかし、胸に答えを聞いてみれば、これが出てきたのだ。
「令呪を……持って……
マシュ。」
突き出した手を彼女の肩に乗せる。その甲には赤く描かれた令呪はない。
「せ、先輩……?」
防御に精一杯のマシュは苦しくとも、肩に乗せられた彼の
「マシュ。令呪を使わなくても信じてる。
君は僕たちを護りきってみせるんだって!」
「っ……! はい!」
マスターからの絶大な信頼。
彼女にとって、それは大きな後押しだった。
これ程までに頼られてしまえば、もうやりきるしかない。
「……私の中に眠る英霊よ。
名も知らなくていい。
宝具を知らなくていい。
けれど、力を。
ここにいる人たちを護りきれる力を、私に!」
強く、彼女は強く願望する。謙虚に、けれども強欲に。
護れる力を、護れる力だけを望む。
そして、
「はああああっ!」
盾に、そしてマシュの中に長年眠っていた力が、表へと剥き出しになる。
ただの武器であったそれは誰であろうと、何が来ようとも、術者の意思によって、無敵の盾となる宝具へと成り代わる。
彼女の前には魔法陣のような物が展開され、聖剣の黒き光を一つもこぼすことなく、完全に受け止めてみせる。
もうそこから、マシュは一歩も引くことはない。
「っあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
叫び。
悲痛でも、嘆きでもない。
全身全霊を振り絞るための奮起。
こんな未熟な自分に信じてると言ってくれた人がいる。その彼のためならば、魔神が相手だろうと、伝説が相手であろうとも護る。
それが彼女のするべきことなのだから。
「っ……はあっ……はあっ……」
そして、ついにあの強大な光を、セイバーの宝具を防ぎきってみせた。
息は絶え絶え、次来ても、受け止められるかどうか。けれども、マシュはやってみせた。そのボロボロの体をなんとか立たせながら。
「今だ、キャスター!」
「あいよ!」
聖剣からの光が打ち止めとなった時、創太とキャスターが、すでに地面へと着地していたセイバーへと攻撃を仕掛ける。
「とっておきをくれてやらぁ!」
事前に用意していた木の枝で作られた人形。それを使い、キャスターは宝具を発動する。
「
人形は一瞬にして巨人となり、炎を纏いながらセイバーに襲いかかる。
しかし、その動きは遅く、セイバーにとって回避は可能だ。それだけならば。
「土よ、燃え上がれ。その身を
創太の詠唱が、巨人の周りの地面を溶かし、溶岩へと変える。
それがセイバーの足を絡めとり、さらには焼き尽くし、感覚を奪う。もうこれで、逃げる術はない。
「これで詰みだ!」
勝敗は決した。そう言わんばかりに最後の一押しをする。キャスターの掛け声とともに、炎の巨人は溶岩に捕らわれた騎士王に覆い被さる。
溶岩の上で、炎に焼かれる。轟々と焼きつくされ、ただ燃え盛る。悲鳴はないが、それでも彼女が生き残っていることはない。そう確信できるほど、その光景は壮大であった。
「……終わった。」
今まで張っていた緊張が解け、その反動で立香の体は崩れ、地面に倒れこむ。
「ちょっと、大丈夫⁉︎」
「いや〜……大丈夫ですよ。ははっ。
なんか力が抜けちゃったみたいです。」
「しっかりしなさい! まだやる事は……」
聖杯の回収という一番大事な仕事が残っている。
それをオルガマリーが言い切る前に、異変は起こる。
キャスターの宝具によって焼き尽くされた場所に、一つの影が映し出される。焼けカスの下敷きから出てきたそれは、何かを両手で、大きく構えていた。
圧倒的なまでの存在感に、全員の視線が集まる。
膨大な魔力、先と同じようで違う。
荒れ狂う嵐というよりかは、悪を討ち亡ぼす聖なる雷のような光。
「まさか……! まだ生きて……!」
その主は、斃したと思っていた騎士王であった。
「藤ま……!」
立香が狙われている。
そう判断した創太は彼を守ろうと駆け出すが、一歩踏み出すだけで止まる。
創太の視線の先、セイバーの口が動いており、それの意味する事が彼を止めた。
「マスター!」
しかし、その代わりにマシュが間に割って入る。
彼女には先のような力は残されていない。けれども、これが自身の役割であるから。
護るという事が、唯一の誇れる力であるから。
たとえ相手が強大であろうと、自身が弱くとも、勝算が無くとも、彼女は自分を信じてくれた者を守る。
「行くぞ……護り手となりし者よ。我が正真正銘の全力をここに!」
二人が対峙する。それにより、
「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流——!」
セイバーは魔力を高密度に纏め、マシュは盾を構える。
力には先と同じ歴然の差がある。しかも、片方は本当に力を出し切ってしまった状態。
そのはずだった。
「マシュ、頼む!
君ならさっきみたいにできるはずだ!
勝つためじゃない! 負けないための力があるから!」
「先輩……!
私は貴方の期待に応えます!
貴方は私を信じた人だから!
ここで終わらせはしません!」
二人の強い想い。
それが再び盾に呼応する。
「
双方の準備は終わり、激突する寸前まで来る。
振り下ろされようとする聖剣は倒すためではい。この先にある
そして、ついに、
「
まばゆき光の束が、彼らへと襲う。
気を抜かずとも、下手すれば即座に死にかねない威力を持った剣。星が生み出した人類最強の幻想。
「っ!!」
対して、いつどこの聖遺物か分からない盾。
それは聖剣を真正面から受け止める。しかし、十全には力を出しきれておらず、徐々に押される。
「耐えて……」
だからなんだと言うのだ。
「マシュ!」
護るべき者は信じ、この心はまだ諦めてはいない。
負けを認めてすらいないのに、敗北するとは決まっていない。
「みせる!」
この盾が壊れる事はない。
彼女が折れない限り、敵の猛攻は断ち切られる。
「っぁぁぁあああああああ!!!!」
また、叫ぶ。
振り絞れる力などない。
しかし、負ける気もさらさら無い。
宝具が出せなくとも、その身はまだ動く。
だから、だから!
「うああああああ!!!!」
少女は光を防ぎきる——。
「……見事だ。」
騎士王は敗けを認める。
打ち倒されたからでは無い。防ぎ切られたからだ。傷はあれど、そのどれもが決着の要因ではない。
勝敗が確定したという状況は誰もが理解し、戦闘態勢を解いていた。
「私も知らず、手を抜こうかと思案していた。
しかし、それでは意味がない。」
「それ、どういう意味?」
セイバーの言葉に何かが引っかかる。
その疑問を解くためにオルガマリーが訊ねる。
「……その質問には答えられない。しかし、これだけは言っておこう。
グランドオーダー——聖杯を巡る戦いはこれからであろう、と。」
謎ばかりしかない言葉。それを言い残したセイバーは光となり消えていく。
「オイ! それは一体どういう……!」
誰もいなくなった虚空に叫ぶキャスターであったが、その身もセイバーと同じように光となろうとしていく。
「おおう!? ここで強制帰還かよ!」
「キャスターさん!」
「チッ、仕方ねえ。
立香、後は頼んだ! 次がありゃあ、ランサーとして喚んでくれ!」
彼女の後を追うような形でキャスターは魔力に霧散し、消える。
「別れを惜しむ時間も無し、か。
けど、これで終わりだろうな。」
「本当に……本当ですか?」
辛そうな藤丸は早くこの状態が終わって欲しいと、切実な願いを込めながら、訊く。
「ああ、本当に終わりだ。敵性反応無し、皆んな良くやってくれたよ!
所長もさぞ喜んで……ってあれ? 所長は?」
「そこでブツブツ言ってるぞ。」
創太の指差した先、そこではなにやら考え込んでいるオルガマリーの姿がある。
「……
「所長?」
「……え? ああ、ゴホン。
良くやってくれました、マシュ、立香、そして創太さん。後はあのセイバーが消えていった跡にある水晶体を手に入れるだけでしょう。
おそらく、あれが聖杯のようですし。」
最終目的はもう目の前、後は回収するだけ。
しかし、胸騒ぎがする者が一人。これだけでは終わらない。まだ何かあると、頭の中で考えを巡らせる者がいた。
=====
この時代での最強の敵、セイバーとの戦いは終わった。しかし、疑問に思うことが俺にはある。
戦闘中、最後の一撃を放つ前に彼女が俺に伝えようとした言葉。はっきりとは分からなかったが、おそらく、『信じろ』と。マシュに対して信じ、藤丸を守りきると踏んだのだろう。
だが、それ以上に重要なのは、彼女が最後に遺した言葉、グランドオーダー。しかも、それはオルガマリーも知っていたようだ。
それがここから始まるという事は他にも特異点があるのか? という事は、この特異点を解決しても外は……
「いや、想定外だよ。君たちがここまで来るとはね。
計画の許容外にして、私の寛容さの許容外だ。」
……何か、人を見下したかのような、嫌な奴の声が聞こえる。
「四十八人目のマスター適正者。全く見込みのない子供だからといって、善意で見逃してあげた私の失態だよ。」
「レフ教授!?」
ああ、思い出したぞ。あの緑シルクハットか。
「レフ……!? 彼がそこにいるのか!」
「ああ、いるぜ。いかにも私が黒幕です、っつう飛びっきりの雰囲気を醸し出しながらな。
お前ら、下がってろ。あいつは……」
「ああ、レフ——! 生きていたのね、レフ!」
「所長! 待ってください!」
俺とマシュの忠告を聞かずに飛び出すのは、彼に依存しきっていたオルガマリーだった。
「良かった、貴方がいてくれなかったら私……!」
「やあ、オルガ。元気そうで何よりだ。」
対面する二人、この光景だけ見れば、感動の再会と言ったところだろう。しかし、あいつの目はただゴミを見るかのようで、オルガマリーを消す気だ。
「ええ、ええ、そうなのレフ! 管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし!
予想外の事でどうにかなりそうだった! けど貴方がいてくれれば……!」
「ああ、そうだね。」
その一言で、そいつは隠す気もなかった邪気をさらに吐き散らす。藤丸達はそれに押され、舌すらも動かせなくなる。
「本当に予想外の事ばかりで頭に来る。
その最も予想外なのが、君の存在だ。何しろ、君の足下に爆弾を設置したのに、生きているだなんて。」
「———え?
レ、レフ? ねえ、レフ、一体どういう……。」
今まで、唯一信頼していた人物よ急変貌に、彼女の膝は震え、目の焦点が合わなくなり、脳が凍ったかのような顔をする。
「いや、生きているとは違うかな。君は死んでいる。肉体はとっくにね。
トリスメギストスはどうもご丁寧に、残留思念になった君をここに転移させてしまったようだ。
肉体を無くしたことで、あれほど欲しがっていたレイシフト適正を手に入れた。」
それを嘲笑うかのように話を続けるレフ。
「だから、カルデアにも戻れない。戻った瞬間にその意識が消滅してしまうのだから。」
「え……消滅って、私が? そんな……」
「そうだ。しかし、それではあまりにも哀れだ。生涯をカルデアに捧げた君のために、せめて今のカルデアを見せてあげよう。」
そういうと、そいつはワームホールのようなものを作り出し、そこから何かを映す。
赤い太陽。それが映し出された光景。俺もここに来る直前に見たものだった。
「な……なによ、あれ。カルデアスが真っ赤になってる……?」
「さあ、アニムスフィアの末裔よ! あれがお前たちの愚行の末路だ!
人類の生存を示す青色は一片もない。あるのは燃え盛る赤色のみ。
良かったねぇ、マリー? 今回もまた、君のいたならなさで悲劇が呼び起こされたわけだ!」
「ふ、ふざけないでよ! こんなの私の失敗じゃ……! 私の責任じゃ……!
私は死んでなんか……!」
自身のせいではない。何も悪くないと、レフに言われたこと全てを必死に否定するが、その体は宙に浮き、ワームホールの先、赤く染まったカルデアスに吸い込まれようとしていく。
「っ……体が……!」
「言っただろう。そこは今、カルデアに繋がっていると。
まさか!
「何を言って……!
宝物って……カルデアスの事……?
ねえ、止めてよ。だって、高密度の情報体で、次元が異なる領域で……!」
「ああ、ブラックホールと何も変わらない。
遠慮なく生きたまま地獄を楽しみたまえ。」
オルガマリーの体が徐々に速くなり、ワームホールへと近づく。
「いや…………いや、いやいやいや!
私こんなところで死にたくない!」
悲痛な叫び。
「だって、まだ認められてない!
誰も私を認めてない……!」
悲哀な叫び。
「どうして、こんな事ばかり——!」
絶望の叫び。
「誰も私を評価してくれなかった!
皆んな私を嫌っていた!」
孤独な叫び。
「生まれから、ずっと一度も——!
……誰にも認められてないのに。」
彼女が遺す最後の言葉、それはただ切実な、人であれば当たり前の願いだった。
「所長!!」
「ダメです! 先輩が行けば、所長と同じように……!」
助けたい。けれども、その力はない。ただ見ているだけ。
歯を食いしばり、血を流そうとも、出来ることはない。
けど、俺はもう、誰も死なせたくはないって決めた。
「オルガマリー!!」
彼女が誰かに縋るように伸ばしたその手を、俺は掴む。
「創太!?」
「創太さん!!」
「古崖さん!?」
いつの間にかオルガマリーまで走っていた俺に皆んな驚いているようだ。
手を掴んだ俺は、吸い込まれそうなオルガマリーを引き止め続け、足を踏ん張り、この小さな体格にあるまじき力をみせる。
「絶対に離すなよ!」
「ほう。これは最も予想外であった内の一人か。」
緑シルクハットが不快な表情で睨んでくるが、俺は知らん。
「お前とは会った時から怪しいとは思ってた。けど、ここまでクソだとはな。」
「貴様も随分と勝手な事をしたな。カルデアの外にいながら人理焼却を免れ、さらにはここに乗り込んでくるとは。
現代の魔術師にしては、稀ではあるな。」
「そうかよ。
……っだあああああ!!」
話を聞き終わったと同時に、体全身に最大限の力を入れ、オルガマリーを引っ張り、それと同時に藤丸たちの元まで跳ぶ。
「よっ……と!
オルガマリー平気か?」
「痛っ……!
……え、ええ。なんとか。」
尻餅をついたようだが、怪我はなさそうだ。
これでオルガマリーは救い出せた。しかし、問題はまだある。
だが、それを解決する前に地面が揺れ出す。
「おっと、ここの特異点も限界か。
私も次の仕事があるのでね。君たちの末路を眺められないのは惜しい。
では、さらばだ、ロマニ、マシュ、オルガ、四十八人目のマスター、そしてイレギュラーな魔術師よ。」
勝ち誇ったかのようにレフは言い残し、そして消える。おそらくは転移か何かだろう。
「地下空洞が崩れます……!
いえ、それ以前に空間が安定していません!
ドクター! 至急レイシフトを!」
「分かった!
……けど、所長は。」
「もういいわ……。」
もう助からない。その意図を汲み取ったのか、オルガマリーは全てを諦める。
「私はもう助からない。彼に救われたけど、それも一時の物。
帰った瞬間に死ぬなんて、もうどうにもならない。だから……」
だからここで死ぬと?
「……ふっざけんじゃねえ。」
「古崖さん……?」
右手はオルガマリーの肩を掴み、左手は聖杯であろう物を持つ。
「願え!」
突如の叫び。それは誰も理解できず、驚くしかない。
「目の前にあるもんはなんだ!」
「それは……聖杯……!」
「これは願望機! 願えば叶う聖遺物だ! だから、お前が願えば!」
「だから何よ!」
今度はオルガマリーが叫ぶ。
「私が生き返ったところで、何があるって言うのよ! 何も無い! 誰も認めてもらえない! 嫌われるだけの存在! なのに……なのに願ったところで!」
「少なくとも俺は認めてるぞ。」
「え……?」
出会って間もない人からの意外な言葉。それに彼女は再び驚く。
「お前は絶望的な状況でも、死者を出さないように迅速な指示をした。藤丸達をここまで導いた。他人の状態を見極めていた!
俺ができていなかった事を、お前はやってのけた!
だから、俺は認めてる!」
嘘なんかない。
偽りでもない。
俺が、俺自身が本当に感じたありのままを伝える。
オルガマリー・アニムスフィアは、優れた人間だと。
「これを聞いて、まだ死にたいって思うか!
さあ、どうなんだ!」
「わた、わたしは……」
即決を迫られ、しどろもどろに喋る彼女であったが、しかし、最後は
「私は……生きたい!」
「