少し先の話になるのですが、藤丸くんの召喚する英霊を誰にしようかと悩んでいます。
一応ハズレ(概念礼装)はなしで、サーヴァント一騎だけを召還するという事にしますが、ランダム(ガチャ)にするか、勝手に決めるかを悩んでる次第です。
まあ、第一章に出てくるサーヴァントは召喚しないんですが。
とある場所、そこで俺たち二人は戦う。周りは草が生えており、邪魔になるものは何もない真っ平らな平原。
言っておくが、命を取り合うなんていう物騒な戦闘ではなく、あくまでも互いの力を高め合うための戦闘だ。
俺の相手であるマシュは盾を使い、俺自身は素手で攻防を行う。そのはずなのに、響くは金属がぶつかり合うような音だった。
「どうしたマシュ! お前が守ることに特化してるからって、防戦一方じゃあ不利になるだけだぞ!」
「っ……!」
素手の唯一の利点、手数の多さだけで攻め、そして圧倒的なまでにマシュを追い込む。さらには体格の小ささを生かして、彼女が持つ身丈以上の盾の影に隠れ、動きを見せないようにして横から上からと連打を浴びせる。
一方で、マシュは防御以外の行動は全くしない。ただ受け身になり、主導権を握られているだけ。攻撃を直接受けているわけではないが、それでも言葉を発する余裕すらもない。
それが戦闘開始から十分後の状況だ。
「そこ!」
隙をついた。
そう言わんばかりの右の拳が、マシュから見て左上から下される。
しかし、彼女の目は動揺のそれではなく、逆に絶好の機会が来たような目だった。
「はあっ!」
盾を前面に押し出すバッシング、それが彼女の反撃だった。本来であれば、零距離で行うそれはほぼ回避不可能で防御するかしない。
そう、そのはずなのに、
「ふっ!」
「っ……!」
一瞬の内に、俺はマシュの懐に入っていた。
今度はマシュから見て右下、先ほどとは反対から左の拳が構えられる。
「甘いな。」
その一言だけを残して拳を一直線に突き出し、回転を加え貫通力を高める。
これを食らえば、いくら頑丈なデミ・サーヴァントであるマシュでも確実に死ぬ。決着はついたようなものだ。彼女は負け、俺が勝った。誰から見ても、結果は明らか。だから、
「……参り……ました。」
拳を寸止めされた直後に、マシュは敗北を認める。
ーーーーー
「どうだった、マシュ?」
「はぁ……はぁ……とても……有意義で……自分の……未熟さが……」
「ああ、悪い悪い。呼吸を整えてから喋ってくれ。」
「は……はひぃ……。」
地面に倒れ込み、肩で何度も息を激しくするマシュ。厳しい訓練の結果、精神も体力も限界であることを露わにしている。
「ほら、タオルと水だ。その体に英霊を宿しているとはいえ、体自体は人間なんだから、汗拭いて水分補給しとけ。」
彼女の横に事前に用意してあった水筒と白のタオルを置いておく。
「わ……わかり…………」
「無理して答えるな。しばらくはそのままでいいから。」
喋ったら余計に息が乱れるので、今は回復に専念してほしい。
「い、いえ。だいぶ落ち着いてきました……から。」
「ほんとか?」
「は、はい。」
そんなことはないだろうと疑いながらも、彼女の体を視てみると、あれだけ激しい息をしていたはずが、だいぶ整っている。
「ですが、本当に強いんですね。特異点においても、魔術、身体能力共に洗練されていて、サーヴァントに匹敵する程です。」
「……まだまだだよ、俺は。」
確かに俺はサーヴァントを倒したことはある。けど、どれもこれも状況が良かったからだ。今もう一度倒せ、なんて言われて勝てるかどうかは分からない。
「と、そうだ。戦い終わったら訊きたいことがあるんだった。」
マシュがあまりにも疲れていたから訊きそびれていたが、唐突にあることを思い出す。
「マシュ、今の戦闘で気づいたことは?」
「え、ええっと、そうですね。創太さんは小さい体格であろうと関わらず、逆にそれを生かし……」
「違う、そうじゃない。」
いや、観点は合っているのかもしれないが、もう少し視点をズラした方が良い。
「俺の事じゃなくて、もう少し自分のことを見てみるんだ。」
「自分……ですか?」
少し助言を出してやると彼女は考え込み、そして何かに気づいたのか、今度は一つ一つを丁寧に答える。
「——まず、一つ。相手に翻弄されて、ペースを取られてしまった事。」
「そうだな。守ってばかりで、攻撃できていなかった。」
正解した事にゆっくりと頷き、相手に自信を持たせる。
彼女の持つ力は、最前線に立ち、味方を敵の攻撃から守る事に適している。だから、防御ばかりなのは仕方ない事ではあるが、それでも
それを考えれば、攻撃する手段も持たなければならない。
「次に武器を十全に扱えず、更にはそれを利用され、相手に視界外へ逃げられてしまった事。」
「良いぞ。しっかりと理解できてる。」
彼女が持つ盾は前に構える事で正面からの攻撃を防ぐと共に、視界をほとんど塞いでしまう。つまりは、相手が何をするかを目視で判断できなくなる。しかも、俺のような小っちゃい奴は盾の影に隠れて全く見えなくなる。
その特性を理解できていなかったマシュは、まんまと翻弄されてしまったわけだ。敵にも、盾にも。
「……」
反省点を二つ言い終えたところで、マシュの口は止まる。考え込んでいるようだが、どうやら打ち止めのようだ。
「どうした、それで全部か?」
一応は聞いてみるものの、彼女はそれに対して、
「……はい。それが考えられる全てです。」
と返す。
しかしながら、残念な事に反省点には三つ目がある。
細かく言えばキリがないのは言わずもがな。だから、大きく分ければその三つなのだ。
「じゃあ、俺から。読みが単純だ。
最後のやり取り、あそこは特に顕著だった。」
「え……! あれが、ですか?」
本人からしてみれば、アレが一番読み合いをしていたのだろうが、俺はそう思わない。
「わざと自分の隙を作って誘い込み、そこから反撃する。考えとしては悪くないけど、あまりにもわざとらしかった。」
「ですが! あの時、貴方はそれに引っかかり、反射神経で対処したのでは……」
なるほど、彼女はそう見えていたのか。しかし、実際は違う。
「アレは乗ってやっただけだ。何かしらやってくるだろうと思って、拳を出した方向とは真反対の盾のフチに足を掛けてたんだ。気づかなかったか?」
「そうだったんですか!?」
本当に気づいていなかったのか。
「マシュが何をしてきても、そうしとけば、その足で体を引いて、回避も反撃もできると思ってな。そして、案の定さっきのようになったってわけだ。」
「なるほど……体格が小さいからと言って、戦闘に不利になる事はない。勉強になりました。」
うむ。熱心でよろしい。
この調子ならば、次の特異点ではシャドウではない、本物のサーヴァント相手でも互角に戦えるだろう。
「だいぶ落ち着いたな? なら、さっきの反省点を生かしてもう一回やるぞ。午後からは用事があるから、今の内にやるだけやるぞ。」
「はい!」
マシュのスタミナが回復した所で、また模擬戦を再開する。先と同じように、手加減はせず、隙があれば突く。
時間が許す限り、反省点を見つけ、改善し、また戦う。
それが特異点から帰ってきた翌日である今日の午前の予定、彼女の稽古に時間をつかう事だ。
この後の予定としては昨日作った工房の調整を行うので、彼女に付き合ってばかりはいられない。まあ、一日中特訓をしてても効率が悪いだろう。
そして、
「はあ……はあ……」
「よし。こんぐらいかな。」
何度目かは忘れたが、そろそろ正午ぐらいになるだろうと時間を見て、今日の稽古を終わらせる。
「今日のところはここまでだ。悪いな、午前だけになっちまって。」
「い、いえ……創太さんのお陰で、自身の欠点も見えてきましたので。午後からはそれを改善すべく努力します。」
「そう言ってくれて、良かったよ。」
さて、ここからマシュと一緒に食堂でも行くかな。飯食って……いやその前に昼食を作らないといけないかな。朝に行った時は誰もいなかったし。
と、この後の事を考えていると
「二人ともおつかれ〜。」
「フォフォウ。フォフォフォウ。」
部屋のドアらしきところから、昨日工房作りを手伝ってくれたレオナルド・ダ・ヴィンチが現れる。
らしき、というのはここは一見草原なのだが、実はシミュレーション訓練室であり、景色は全てホログラムだったりする。だが、実際に触れられたりするので、ホログラムとは微妙に違う気が……。
それよりもだ。一体
「一体何の用だ? 魔術のことなら昨日話したと思うけど。」
「いやねえ、それもあるんだけど、ロマンから伝言があってね。」
ロマンから、か。そいつからならば、あの事で間違いないだろう。
「四十八人目のマスター、藤丸君だっけ? 彼が目覚めたらしい……」
「本当ですか! ダ・ヴィンチちゃん!」
彼の名前が出た途端、急激に食いつくマシュ。
一緒に過ごした時間は短いはずだが、どうやらよほど先輩を好いているらしい。
「マシュ、一旦落ち着いて。深呼吸をするんだ。」
「……あ、すみません。つい興奮してしまいました。深呼吸ですね。
ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー。」
おい、ベタなボケをかますな。
妊婦の真似はせんでよろしい。
「よし、だいぶ落ち着いたようだね。」
どこがだ。
「本当は創太に用があっただけなんだけど、途中でロマンに会って、ついでに藤丸君が起きた事を伝えて欲しいと言われたんだ。」
途中の漫才の流れは置いとくとして。
藤丸が起きた、というのは朗報だ。運が悪ければ、そのまま昏睡状態になり得た可能性もあったので、一先ずは良しとしよう。
「なら、さっそくお見舞いだな。マシュ、一緒に行くか?」
「はい! すぐにでも!」
おうおう、やる気十分だな。
「レオナルド、お前は?」
「んー、私は遠慮しておこうかな。見知った顔の方が落ち着くだろうし、自己紹介はまた別の機会にしておこう。」
となると、行くのは俺とマシュだけか。そうと決まれば、早速藤丸がいる病室へと向かう。
「フォウ。フォーウ。」
「お、なんだ。お前も行くのか?」
すっかり忘れかけていたが、この場にフォウもいたっけか。
大体こいつはマシュと一緒のようで、訓練時も側から観戦をしていた。
「では、私が。」
そう言ってマシュは武装を解いて、フォウを抱きかかえる。
これでメンバーは決定か。
「なら行くか。マシュ、案内を頼む。」
「はい。」
部屋を出て、未だに慣れないカルデアの構造に迷いかけ、マシュの案内に頼りながらも歩く。
そして、五分後。彼がいる部屋まで辿り着く。
正確にはその一つ前の部屋、なのだが。
「ドクター、入りますよ。」
「どうぞ。」
部屋の主に許可を取ったマシュはドアの横にあるタッチパネルに触れ、ドアを開けて中に入る。
そこは昨日入った診察室と同じような作りになっており、ベッドが一つ、机とそこに散乱した資料、あとは奥にドアが一つあるくらいか。
「君たちか。」
俺たちの顔を確認したロマニは、手に持った紙を机に置き、体をこちらに向ける。
「先輩の意識が戻ったと聞いて……」
「ああ。ダ・ヴィンチちゃんから話は聞いたみたいだね。
確かに藤丸君の意識が戻った。記憶もしっかりあるし、バイタルも安定している。だから、面会の許可も出そう。
けど、あまり刺激を与えないように。混乱してストレスを感じてしまったら、また倒れる可能性もあるからね。」
あくまでもそれは俺に言っているようではなく、マシュをなだめるかのような言い草だ。
彼女がソワソワとして、落ち着きがないからだろう。
「分かりました。」
「分かった。けど、あいつに外の事は……?」
「まだです。先ほども言いましたが、また倒れる可能性もあるので……」
特異点の話はしていないのか。
どうする? 正直に言ってしまえば、今日中に話がしたかった。が、混乱を招いてしまうおそれもある。なら、また明日にでも……
「どうしましたか?」
「……いや、なんでも。」
難しい顔をしてしまったのだろうか、心配されてしまった。
どちらにしても、まずは藤丸に会う事は大事だ。
「じゃあドクター、中に入らせてもらうぞ。」
「はい。時間は決まっていないので、ご自由に。」
ロマニの横を通り奥のドアを開け、藤丸がいる部屋へと入る。
そこは先の部屋と構造は似ているが、置いてあるものはベッドと棚ぐらいしかなかった。
「あ、マシュ、古崖さん。それにフォウも。」
「フォフォウ。」
そしてベッドの上に座っている少年、藤丸がこちらに気づく。
初めて会った時に来ていた白い服ではなく、患者が着るような服を着ていた。
「先ぱ……!」
「はい、ストップだ。」
「フォウ。」
先走りそうになったマシュの口を押さえ、制止させる。
「会えて嬉しいのは分かるが、刺激を与えるなってロマニも言ってだだろう。」
彼女が落ち着いたと同時に、手を離す。
「す、すみません。つい……」
「……まあ、いいか。
改めて、藤丸。元気か?」
マシュの気持ちも分からなくもないので、あまり叱らないでおこう。
それよりも、目の前に座っている彼だ。
「はい。少し体がダルいくらいで、後はなんとも。」
「ふーん、そうか。」
「とにかく、無事で何よりです。」
藤丸の答えを聴きながらも、俺たち二人はベッドの近くにある椅子に座る。
昨日倒れたという事から少し精神面を心配していたが、変わりは無いようで少しホッとした。
「古崖さん達は?」
「俺は大丈夫だ。もちろんマシュもな。」
「それは良かったです。
……やっぱり、僕はああいうのは向かないんでしょうね。アレの後に、倒れるぐらいですから。」
顔を俯きながら、昨日の醜態を皮肉る藤丸。
——少し不安定だな。
確かにあの状況から劣等感を感じるのは当然ではある。慣れないことを向き不向きと考え、精神の脆さだと勘違いしてしまう。
しかし、それは今後の戦いでは不安要素となり得る。ならば、俺の考えている、藤丸を特異点へと連れて行こう、というのは悪手ではないのだろうか。
「何か考え事ですか、創太さん?」
「いいや、なんでも。」
変な間を置いたせいか、マシュに心配をされてしまう。
ううむ。どうやら、また考え事をしてしまったようだ。頭の中であーだこーだと考えるのは良いとしても、それにのめり込んでしまうのは俺の悪い癖だ。
「そうだ。そういえば、聴きたいことがあるんでした。」
突然、藤丸が何かを思い出す。
聴きたい事、それは一体何なのだろうか。
……アレしかないだろな。
「外の世界、カルデアの外はどうなりました?」
不安になりながらも、それでも期待を多少込めながら訊いてくるそれは、俺たちにとっては答えづらい質問であった。
彼としては、元に戻っているだろうと半ば確信しているのだろうが、現実はそうではない。
「それは……」
マシュも答えづらいようで、目を逸らし、はっきりとは言わずに終わる。
「ど、どうかした? 何か変なことでも……」
まずいな。これでは藤丸がすぐに気づいてしまう。
直接言った方が良いのか。それとも、このまま黙っていた方が……。
「藤丸。」
いや、やはり言おう。
ドクターには止められたが、これは言うべきことなんだ。
「落ち着いて、よく聞いてくれ。」
こんな前置きをするが、ただの気休め程度でしかない。
発狂するか、失神するか。それは彼の精神力次第だ。
「まずお前の質問に答える。
外の様子は変わっていない。」
「それって……」
「ああ、お前の思っている通り。人理は焼却されたままだ。」
それを聞いた瞬間に、藤丸の顔は絶望のソレへと変える。
以前にも似たような話をして似たような事にはなったが、それに比べれば幾ばくかマシだろうか。
「じゃあ、今までやっていた事は……」
「無駄じゃない。」
先程は肯定をしたような言い方であったが、今度ははっきりと否定する。
「いいか。昨日の他にも、特異点があったんだ。おそらくは人理焼却に関わっている。つまり、それを直せば」
「直せば、元に戻ると。」
「ああ、今度こそな。」
安堵の溜息をつく、と思いきや藤丸は顔を俯く。何か諦めたかのような表情で。
「……どうせ、僕なんかが行っても意味ないですよね。」
——こうなってしまったか。
彼は、俺の予期する反応をせずに、最初から放棄するという選択をしてしまった。
「いえ、そんな事はありません!」
しかし、マシュはそんな先輩を元気づけようと、必死に説得する。
「先輩がいなければ、私は……ここにいませんでした。
あの爆発の後、貴方が来たから、手を握ってくれたから、私を信じて、あのセイバーの攻撃を防ぎきれると信頼してくれたから、私は生き残ることができました。」
深く、深く、感謝の意を込めながら、彼の存在を見いだす。
彼だから、彼だったからこそ、今ここにいる。ただそれを伝える。
「それは……その時の話だよ。
これからもそれが続くとは限らない。」
それでも、藤丸に自信を持たせられない。
ならばどうするか。彼自身から言わせるしかあるまい。
「なあ、藤丸。確かにお前が役に立つとは限らない。」
「やっぱり。古崖さんもそう思……」
「けどな、お前がこの先どうするかは別だ。
次の特異点に行くまでは六日ある。それまでの間、特異点で役に立てるまでに成長するか。それとも、やはり無駄だと言ってこの場に留まるか。
どちらを選んでも構わない。けど、やるなら俺は付き合う。」
突き刺すかのように真っ直ぐな視線を向けながら、本気という姿勢をもって語る。
できるか、じゃない。やるかどうか、だ。能力不足というのであれば、これからでも補っていける。ただ、やる気だけは本人次第なのだ。
「それにな、」
けど、それとは別に俺はこう付け足す。
「世界を救うチャンスなんて滅多に無いぜ。」
笑う。無垢で、そして純粋に。子供のような笑顔を見せる。
正義の味方になるというのは、俺の願いだ。
そのチャンスがここにある。ならば、自然と喜びと嬉しさが出てしまうのは仕方ないんだ。例え、極限に絶望的な状況であっても。
「……さて、俺の話は終わりだ。」
そう言って椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする。
「あの、どこへ……!」
「飯食いに行く。言いたい事は言ったしな。この後どうするかは藤丸次第だ。
マシュはどうするんだ?」
「私は……その、しばらくは先輩のそばにいます。」
そうか。なら、一緒に飯ってのはなくなるか。少し残念だが、藤丸の事が心配みたいだし、仕方ないな。
「そんじゃあ、一人で行ってくるよ。
藤丸、別に今答えを出さなくてもいい。じっくり考える……」
「いえ、その必要はないです。」
俺の言葉を遮る藤丸。その瞳には先程とは違う何かが灯されている。
覚悟を決めた者。それに近い雰囲気があった。
「行きます。次の特異点、僕も一緒に行かせてください!
だから、僕に戦う方法を教えてくれませんか!」
大きな声で、それでいて真っ直ぐに、堂々と、彼は強くなって見せると言った。
これだけ言えれば、所長も文句はないだろう。
「よし、分かった。」
「なら、今から……」
「けど明日からだ。」
その言葉に、彼は肩透かしを食らったかのような顔をする。
「まだ昨日の疲れが取れてないはずだ。慣れない事だったしな。
だから、今日はゆっくりと休め。色々と教えてやるのは明日からだ。な?」
彼からすれば、昂ぶった衝動をどこにもぶつけられずに不満だろうが、我慢してほしい。
「……分かりました。けど、明日は本気でお願いします。」
「ああ、元からそのつもりだ。
——覚悟しとけよ?」
「はい!」
いい返事だ。これは明日が楽しみだ。
「じゃあな。また明日。」
「また明日、ですね。」
なら、その為にも色々と準備は進めときますかね。