純血のヴィダール   作:RYUZEN

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第34話 暗闇の落とし穴

 地球外縁軌道統制統合艦隊の強襲を追い払ったガエリオ達は、予定通りにマグワイア基地への降下を成功させた。

 降下角度がずれて別の場所に降りてしまったり、勢いを殺せぬまま地面に衝突したり、大気圏の摩擦熱で燃え尽きたりと。大気圏降下には危うい事故が付きまとうだけに、輸送機から降りて地球の酸素を吸い込んだ時は安心した。シミュレーターを全員入念にしていた甲斐があったというものだろう。

 

「ふひーっ! こうやって地球に降りんのも久しぶりだなぁ。でもこんな時間じゃまだお姉ちゃんのいる店空いてねえよなぁ」

 

「そればっかりだなシノン。あのボードウィン卿直属ってんだからもちっと周りの手本になるような言動したらどうなんだ?」

 

「いやいや。規律で雁字搦めになってるお堅い軍人さん達に心の洗濯をして心機一転頑張ってもらおうっていう気遣いだよ。周りに街とかねえかな」

 

「ここから車で二十分ほどに小さな街があります。ハスコック二尉が好きなような店はなさそうですが」

 

「店がねえなら交渉からか。ガエリオから俺の預金通帳に振り込まれてた金……ここで使うべきか」

 

「貯金したほうがいいと思います」

 

 鉄華団でぶいぶい言わせてきたシノが、シノン・ハスコックとしてギャラルホルンでやっていけるのか気にかかっていたが、それはどうやら杞憂に終わったらしい。

 シノンがギャラルホルンっぽくないのは変わらずだが、ブラウン二尉とジョンソン三尉とそれなりに上手くやっていけているようだ。

 あの二人をちょっと我がままを言って地球降下組に回した判断は正解だったらしい。

 

「呑気なものですね。まだ地球に着いただけで例の物を回収したわけでもないのに。ノーアトゥーン要塞に着いた時だってこれほど浮かれてはいませんでしたよ」

 

「アリアンロッドの艦もノーアトゥーン要塞基地も生活物資は十分だったんだが、娯楽方面が足りなかったからな。近くに人の住んでいる街があるってだけで嬉しいんだよ」

 

「はぁ。そういうものですか。確かに私にもラスタル様から離れて、思い切り海を泳ぎたくなった経験があります」

 

「海水浴かい? いいね、やることを終わったら仕事をオフにして皆で泳ごうか。少ない女性職員を集めてミス・コンでもやるかな」

 

「してボードウィン卿! 宴の締めは勿論アレですよねアレ! 我がアリアンロッド名物の――――」

 

「ああ、焼き肉だ!!」

 

『うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 女性職員のミスコンより、焼き肉に雄叫びをあげる野郎共。一部の女性陣が敗北したように地に蹲っていた。要領のいい奴はここで落ち込む女性に声をかけて見事にハンティング成功だろう。

 一部の狩人が静かに目的を果たしている中で、なにも考えていない馬鹿達はひたすら焼肉コールだった。

 ラスタル・エリオンは豪快な人間で、よく自分の給料や褒賞を投げうって焼肉パーティーなどを開いていた。お陰でアリアンロッド艦隊はラスタル派もクジャン派もなく平等に肉好きだ。

 

「あ、あの。ボードウィン卿。よくぞいらっしゃりました!」

 

 焼肉の喧騒から視線を逸らしながら、マグワイア基地の武官が慌てたように駆け寄ってくる。

 

「途中で地球外縁軌道統制統合艦隊に見つかって予定時刻に遅れた。すまなかったな」

 

「いえいえ。ちゃんとこうして我が基地に来て頂いて本当に安心しましたよ。一時は地球外縁軌道統制統合艦隊が持って行ってしまうのではないかと思っていたくらいですから。小心者で申し訳ありません」

 

「ところでジョン・ギボン二佐はどうしている? 彼とも話をしておきたいのだが」

 

 ジョン・ギボンの率いる部隊はその鉄のような戦いぶりから『鉄の旅団』と渾名されるほどの精鋭だ。

 そしてそれほどの精鋭を育て上げたジョン・キボンはラスタル・エリオンの士官学校時代の後輩で、熱烈なラスタルの新派であるとも知られている。頼もしい味方になってくれる男だ。

 

「ジョン・ギボン二佐は……死にました」

 

「なに!?」

 

 だが武官から返ってきたのは驚くべき言葉だった。

 

「信じられん。彼ほどの男がそう簡単に死ぬとは。どうして彼は死ななければならなかったんだ?」

 

「愚問でしょう、逆賊ガエリオ・ボードウィン。あの男はアリアンロッドと内通し、元帥を裏切ろうとしていたのですよ。裏切り者は殺さなきゃいけませんでしょう」

 

「貴様……」

 

 気づけばマグワイア基地の兵士たちが銃口を自分たちに向けていた。

 明らかに非友好的な態度。もしもMSに乗り込むような動きをしたら、その瞬間に全ての銃口から鉛玉が飛ぶことになるだろう。

 

「申し遅れました。裏切り者のジョン・ギボンにかわりマグワイア基地新司令となったジュン・チヴィントンだ! 逆賊ガエリオ・ボードウィン、お前を私の手で捕まえられるなどなんたる幸運。これで私は内乱を未然に防いだ英雄だ。栄達は約束されたようなもの」

 

「……下種め」

 

「あーあー! 大功労者の耳には逆賊の汚い言葉など届かんなァ! おいお前たち! そいつらは全員反逆者に組した連中だ。全武装を没収して牢屋にでも入れておけ。

 ボードウィン卿はそうだな……如何に落ちたといえどセブンスターズに名を連ねる者を、平民と同じ待遇では失礼だ。

 特別に懲罰房へお連れしろ。屈強な見張りを六人はつけておけ。殺すことは許さんが、軽くサンドバックにするくらいは許すぞ」

 

「へへへ、そいつはありがたい。俺は一度お高く留まった貴族様ってやつを思う存分殴ってやりたかったんですよ」

 

 野卑た笑みを浮かべながら屈強な男が進み出てくる。自分より立場の上の人間を屈服させる、歪んだ性根が表情から滲み出ていた。

 下種な仕事を任せるには下種な人間がうってつけというわけだろう。

 

「そりゃ奇遇だな」

 

 手をボキボキと鳴らして威圧しながら、シノンがガエリオを守るように一歩進み出る。

 体格は劣っているがシノン(ノルバ・シノ)は鉄華団の隊長の一人として、自分より強い相手と戦い続けた強者だ。弱いもの虐めだけが取り柄の下種とは殺気一つだけでも迫力が違った。

 それはジュン・チヴィントンにも分かったらしく、シノンの殺気に冷や汗を流しながら後ずさった。

 しかし腐ってもギャラルホルン。向けられた銃口は残念ながらシノンの威圧感だけで降りてはくれなかった。

 

「どうしますか、ガエリオ。こんなところで捕まるくらいならいっそ」

 

「やめろジュリエッタ。ナイフを下ろせ」

 

「しかし!」

 

 ここで抵抗したところで次の瞬間には全員蜂の巣になってお陀仏になるだけだ。余計な血を流すことはできない。

 そう、死ぬなら司令官である自分一人だけで十分だ。

 

「一つ忠告しておくぞ。俺以外のアリアンロッド艦隊の乗組員全員には、マクギリス・ファリド元帥からの特赦が出ている。俺はあいつとは友人だったからその性根を少しばかり知っているが、もし彼等を不当に扱えば奴の不興を買うことになるぞ」

 

「ほ~~。その言い方だとお前にはなにをしてもいいという風に聞こえるが?」

 

「好きにすればいい。一度死んだ身だ」

 

「ふんっ! 連れていけ!」

 

 ジュン・チヴィントンの命令で兵士たちがガエリオを拘束する。

 ラスタル・エリオンの遺した突破口を得るために地球へ降り立ったガエリオ達。その道程は落とし穴を踏み抜くところから始まった。 

 

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