純血のヴィダール   作:RYUZEN

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第7話 ハードワーカー

 ラスタル・エリオンを宇宙の藻屑にしたことで革命戦争を制したマクギリスであったが、彼に休息の時間などありはしなかった。

 むしろ戦争後の方が戦争時よりも精力的に動いていたといっても過言ではないだろう。

 鉄華団の強襲作戦によって一発大逆転を修めた革命軍だが、ダインスレイヴ隊によって大勢の戦死者を出している。

 特にライザ・エンザを始めとした革命の指導者層であった青年将校の半数以上が戦死したことは痛かった。もしもマクギリスが並外れた実務能力の持ち主でなければ、革命軍は組織としての体を維持できず自滅していたかもしれない。

 しかし流れはマクギリス・ファリドに向いている。

 特に中立であったバクラザン家とファルク家が味方になったことは大きい。

 ラスタル・エリオンが戦死したとはいえ、油断ならぬ戦力を保持しているアリアンロッド艦隊は、革命軍にとって脅威だった。下手をすれば月を本拠地にするアリアンロッドと地球を本拠地にする革命軍で、泥沼の星間戦争となる可能性もあっただろう。

 だがバクラザン家とファルク家が味方についたことで、戦力の均衡は完全に逆転した。アリアンロッド艦隊にとっては止めを刺された形となる。

 老獪なバクラザン公とファルク公のことだから、自分を最も高く売りつけられる段階で革命軍に味方することを決めたに違いない。かなり無理して好意的に解釈すれば、内乱を早期終結させて余計な犠牲者を防ぎたかったというところか。

 バクラザン及びファルク家との会合、マスメディアへの手回しに、頑として協力を拒むボードウィン卿の説得、ギャラルホルン全軍の掌握。

 余り楽しいとはいえない仕事を不眠不休で終わらせたマクギリスは、少しだけ楽しみな仕事にとりかかることにした。

 革命戦争の英雄にして貢献者、鉄華団への連絡である。

 

「やぁ、オルガ・イツカ。お互い大変そうだな」

 

『ああ。戦いが終わったら団員全員でパーっと騒ぐなんて皮算用してたんだがな。やることが多すぎて祝勝の宴は一週間後に延期だ』

 

 オルガ・イツカの目の端には目ヤニがかなり溜まっている。きっと彼も不眠不休で働いていたのだろう。

 

『……ところでシノは、見つかったか?』

 

 礼儀としての挨拶を終えた後、団長のオルガ・イツカから発せられたのは身内の安否を尋ねる言葉だった。

 鉄華団は団員を全て家族と思っているという話だが、幾らなんでも入って直ぐの団員に無条件の親愛を注げるほど彼は聖人君子ではないだろう。もしかしたらノルバ・シノというのは、CGS時代からの古株なのかもしれない。

 

「戦闘宙域の調査、及び革命軍の捕虜リストを全員チェックしたが、残念ながらノルバ・シノと思わしき人間は発見できなかった。君達にとってはついでのことだと思うが、MSガンダム・フラウロスについても同様だ」

 

『…………そうか』

 

「すまないな。私も君達の期待には出来る限り応えたかったのだが」

 

 この言葉に嘘はない。

 個人的心情的にも打算的にも鉄華団とはこれからも友好的な関係を続けていきたかった。だからこそ恩を売るチャンスを物に出来なかったのが残念である。

 

「だが落胆するには早い。遺体が発見されていない以上、生存の可能性はゼロではない。捜索は引き続き行わせてもらう」

 

『恩に着る。このことで俺達にできることがあるなら何でも言ってくれ』

 

「さて、オルガ・イツカ。残酷ではあるが我々に立ち止まっている時間はない。私が君達に連絡をとったのはこれからのことを話すためだ」

 

『これから、か』

 

 マクギリスが本題を切り出すと、オルガは神妙な顔になる。

 オルガ・イツカはマクギリス・ファリドのことを決して信頼はしていない。本当に約束が履行されるのかどうか疑ってはいるだろう。

 マクギリスは安心させるように微笑を浮かべてみせる。しかしマクギリスがモンタークとして暗躍していたことを知っているオルガには、より胡散臭さが増したように見えて逆効果だった。

 

「ギャラルホルン火星支部の権限を渡すだけ渡して撤退というのは、幾らなんでも無責任が過ぎるだろう。火星支部の新江・プロト三佐には、仕事の引継ぎを命じていたがそれはしっかりと遂行されているかな」

 

『ああ。うちの団員は荒事には慣れてても事務方となるとさっぱりだから、色々と学ばせてもらってる。まぁそっちの兵隊さんとうちの団員との間で細けぇトラブルは頻繁に起こってるがな』

 

 コーラルが死んでから改善されているとはいえ、地球出身者が殆どを占めるギャラルホルンでは、まだ火星人への差別意識は残っている。

 英雄扱いされる鉄華団を快く思わずに突っかかる兵士はいるだろうし、鉄華団の側もお高く留まったギャラルホルンに突っかかる団員はいるはずだ。

 二つの異なる組織が交われば衝突するのは自然なことで、仕方ないことである。そのせいでオルガ・イツカは眠れていないのだろうが。

 

「ギャラルホルンが火星より手を引いたことで、程なく火星は地球圏より完全に独立することになるだろう。その時のためにも君達には頑張ってもらわねばならない。そこで提案なのだが、我々からも鉄華団に人員を出向させたいと思うのだがどうだろうか?」

 

『出向……?』

 

「これから鉄華団はさらに規模を拡大していくだろう。星一つを統治するのだからな。組織の再編もやらねばならないはずだ。或はもう取り掛かっていると言い換えるべきか」

 

『流石にお見通しか。隠しても仕方ねえから言うが、火星中に団員の募集をかけたところだ。実働、事務方、整備班と今のままじゃまるで足りてねえからな』

 

「ではYesということで良いかな?」

 

 悩んでいるようだったが、マクギリスはオルガが頷くことを確信していた。

 マクギリスが鉄華団と良好な関係を維持していきたいと思っているように、鉄華団もマクギリス・ファリドとの関係を保ちたいと考えているだろう。なにしろ今やマクギリスはギャラルホルンの独裁者だ。オルガとてギャラルホルンそのものを敵に回すことが、どれだけ無謀かくらいは理解しているだろう。

 それに今の鉄華団には実務能力の高い人間は喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 

『分かった。こっちは構わねえ。けどこっちからも一つ条件をつけさせてくれ』

 

「なにかね?」

 

『信用できる人間を送って欲しい。もしも金欲しさに家族を裏切るような奴だったら、こっちで始末をつける』

 

「当然のことだな。人選は注意を払おう」

 

 オルガとの通信を終えたマクギリスは、再びデスクに向かう。残っていた仕事はオルガと話していた数分間で倍に増えていた。

 この分だと今日も眠れないだろう。アルミリアに会いに行く時間もとれない。

 マクギリスは栄養ドリンクで一日に必要な栄養分を流し込むと、再び仕事に向かった。

 

 

 

 自分を幼馴染みを殺した犯人呼ばわりするニュースを、じっくり見ていられるほど図太くなかったガエリオは一般回線を閉ざした。

 想像以上に地球の動きが早い。用意周到なマクギリスのことだから、もしかしたら自分が勝った時の為に予め地球のテレビ局に根回しをしていたのかもしれなかった。

 自分が世紀の極悪人扱いされているのに比べて、大ボスであるはずのラスタル・エリオンは寧ろガエリオ・ボードウィンという『詐欺師』に騙された被害者扱いされているのが少し気にかかる。ラスタルが既に戦死しているからだろうか。

 

『分かったろう、ガエリオ・ボードウィン。現在の己の立場というものが』

 

「くそっ!」

 

 カルタを殺しておいて、今度はその罪までマクギリスは擦り付けてきたわけだ。どこまで人の誇りを踏み躙れば気が済むのだと、マクギリスが目の前にいたら殴りつけてやりたい気分になる。

 しかも〝元帥〟などという旧世紀の軍隊の階級まで引っ張り出してきて、自らそれに着くというおまけつきだ。

 

『これ以上立場を悪くしたくないなら投降することだな。俺はこれでも貴官のために言っているんだ。今ならまだセブンスターズの威光故に命はとられんと思うが、元帥の地盤が固まって民意がガエリオ・ボードウィン憎しで固まればそれも難しくなっていくぞ』

 

「…………乃木一佐」

 

「はい」

 

 ガエリオが呼びかけたのは、隣に立っている乃木・マークス一佐だった。

 乃木・マークスは既に還暦を超えた古強者で、アリアンロッド艦隊の幹部の一人である。ラスタルを含めた多くの将兵を失った現アリアンロッド艦隊においては、最高位の階級の持ち主でもある。

 もしもガエリオにアリアンロッド艦隊を鼓舞して立て直したという功がなく、ボードウィンの家名がなければ、アリアンロッドは彼が指揮をとることになっていただろう。謂わば現アリアンロッド艦隊のナンバーツーだ。

 

「俺はあくまで臨時で艦隊を指揮をしているだけだ。アリアンロッド艦隊の将兵を無責任に俺の意思に沿わせるわけにはいかない。アリアンロッド艦隊としての意思を確認したい」

 

「エリオン公の命は『反逆者マクギリス・ファリドを討つ』ことです。未だそれは果たされておりません。残念ながらアリアンロッドに今のところ白旗の在庫はありませんな」

 

「そうか」

 

 ブリッジを見渡すが、誰も降参しようなんて面構えをしている者はいない。オペレーターの女性兵士ですら目に戦意を滲ませていた。

 安心する。少なくとも屈さないという点においてガエリオ・ボードウィンとアリアンロッドの心は同じだった。

 

「ヨセフ・プリマ―三佐。心遣いは感謝するが返答は拒否だ。俺は君達の親玉に一度殺された身でね。自分を殺した男に振る尻尾は持ち合わせていない」

 

『もっともな意見だな。自分を殺した奴に媚び諂って命を繋ごうとするなんざ犬畜生の生き方だ。セブンスターズの命を奪うなんて貧乏くじは引きたくなかったが仕方ない。ここで死んでもらうぞガエリオ・ボードウィン』

 

「悪いが俺はまだ死ねない。真意は確かめたが、届けねばならぬ怒りがある」

 

 率いているのが三佐であるヨセフであることからも分かる通り、バクラザン家の艦隊はアリアンロッド艦隊より数は少ない。練度においても精鋭揃いのアリアンロッドが勝るだろう。

 だがアリアンロッドは先の戦いでのダメージが残っている上に補給もできていない。戦力比は低く見積もってアリアンロッドが7に対して敵艦隊が3といったところだろう。

 

「ボードウィン卿。この分だと月本部も革命軍の手によって掌握済みでしょう。補給の当てもない今、ここで戦力を消耗するのは得策とは言えません。一度鼻っ面を圧し折ってから、この宙域を離脱することを第一とすべきと具申しますが」

 

「それに賛成だ。俺もキマリス・ヴィダールで出る。艦隊指揮は任せたぞ」

 

「……了解しました。どうか無理はなさらないで下さい。アリアンロッドには貴方が必要なのです」

 

「全力を尽くす」

 

 頭に仮がつくとはいえ艦隊司令の立場のガエリオがMSで出撃するのは好ましいことではないが、残念ながら今のアリアンロッドにキマリス・ヴィダールを遊ばせておく余裕はない。キマリスは特殊なMSのため他のパイロットに預けるわけにもいかないので、ガエリオが自ら出るしかないのだ。

 格納庫に着いたガエリオは真っ直ぐキマリス・ヴィダールのコックピットへ飛ぶ。

 ヤマジンの仕事だけあってキマリス・ヴィダールは完璧な状態に整備されていた。これなら存分にキマリスと共に駆けることができる。

 

「ガエリオ・ボードウィン、キマリス・ヴィダール。出るぞ!」

 

 西洋の騎士を思わせるキマリス・ヴィダールが、暗黒の大海へと飛び出していく。

 メインカメラに映り込む月には、影が差していた。

 




 単純な仕事量のきつさではマッキー>オルガ>ガエリオ。精神的にきついのはガエリオ>オルガ>マッキーです。
 そういえば以前、鉄華団は新撰組っぽいとか、名声得た後はもう落ちるだけとか言ってたら、どうやら本当に鉄華団のモデルは新撰組だったようです。オルガと三日月は近藤さん、土方さん、沖田の三人を足して二で割ったとかなんとか。副団長なのにスルーされたユージンェ。
 ということはエドモントンはさしずめ池田屋で、マクギリス・ファリド事件は戊辰戦争なのでしょう。

オルガ:近藤さん
ユージン:土方さん
ビスケット:山南
三日月:沖田
昭弘:永倉新八
シノ:斎藤一
デクスターさん:井上源三郎
マルバ・アーケイ:清河八郎
ラディーチェさん:伊東
テイワズ:徳川幕府
革命軍:蝦夷共和国
ラスタル陣営:薩長
MS:刀、及び剣術の腕前
ダインスレイヴ:大砲、銃

 ポジションごとにキャラや組織や兵器を振り分けるならこんな感じでしょうか。
 ダインスレイヴが幕末における大砲の暗喩だとすると、バルバトスを始めとしたMSを一方的に薙ぎ倒したのも納得いくかもしれません。
 芹沢ポジが気になるところですが、女好き繋がりで名瀬の兄貴……いや、でも兄貴は女好きだけど乱暴者でもレイパーでもないし。
 そして鉄華団を仲間にして革命起こしたマッキーは榎本さんポジだったのかもしれません。そうだとしたらマッキーはより気合いを入れて書かなければ。
 


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