黒い短編   作:K/K

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思い出の味

 ある所に一人の子供が居た。

 その子供は生まれたときから貧困の中におり、生まれてから今まで腹が満たされたという記憶が無い。

 常に腹が背につくのではないかと思える程の空腹に苦しめられていた。

 だが、そんな彼にも楽しみなことが一つだけあった。

 数カ月に一度母が作ってくれるある料理である。

 両親は共働きの為、あまり構ってくれることは無かったが、母が作ってくれるその料理を食べる度に量では満たされない親の愛情という幸福感で空腹を忘れることが出来た。

 やがて子供は年をとり、大人の男へと成長する。

 その頃になると男は必死になって勉強し、汗水流して働き少しでも早く貧乏から脱出しようと命を削らんばかりに努力し続ける。

 その甲斐もあって男は多くの金を稼ぎ、その金を元にして事業を始めて大儲け。更にそこで得た資金で新たな事業を始め、またもや大稼ぎをする。

 それを何十回も繰り返し、男の髪に白いものが混じり始めたときには世界で彼のことを知らない者は居ないという大金持ちとなっていた。

 何十、何百人が住める豪邸。端から端まで行くのに半日はかかる大きな敷地。多種多様の高級車。全てが一級品の家具や絵画。指一つ鳴らせば即座に駆け付けてくる使用人たち。

 およそ人が望む物全てを手に入れる程の権力と財力を得た男。しかし、彼の中にはある満たされないものがあった。

 それはどんな高級品でも金でも埋めることの出来ない穴。

 幼い頃に食べた思い出の料理である。

 この料理を一番知っている母は、男が仕事に精を出している時に急死してしまい。料理のレシピを知ることは永遠に出来なくなってしまった。

 男はあるとき決心する。小さな頃に食べたあの味をもう一度味わおうと。

 昔の記憶を頼りに男は思い出の料理の絵を描き、使用人たちにこの料理について調べる様に指示する。

 幸いどんな料理なのかはすぐに判明した。次は思い出の味の再現である。

 男は『私を美味いと言わせる料理が出来たのならば莫大な賞金を与える』という約束の下に多くの者たちを集った。

 一流ホテルのシェフ。三ツ星レストランの料理人。著名な料理研究家など多くの者たちが賞金欲しさに男の為に思い出の料理を再現しようとする。

 しかし、結果はどれもダメであった。

 何一つ思い出の味にかすろうとはしない。あれもダメ。これもダメ。これはしょっぱ過ぎる。これは薄味過ぎる。これはまろやかさが足りない。これは喉越しが悪い。

 どんな腕の良い料理人の料理でも男は満足できなかった。

 材料も良い。設備も良い。作る者の腕も良い。だが違う。やはりどんなに一級品を集めても所詮は他人。親の愛という最上の調味料を施されたあの料理を再現するのは不可能に近いのかもしれない。

 これを何百回も続けると、その内挑戦する料理人の数が減り、男も諦め始める。

 あるとき、数え切れない回目の料理を食べた。その瞬間、男の眼が見開かれる。

 

『これだ! この味だ!』

 

 男は叫び、皿の上のその料理を瞬く間に食す。

 すぐに使用人にこの料理を作った料理人を呼ぶように指示を出す。

 数分後、現れた料理人に男は困惑した。

 どう見ても料理の基本など全く知らないそこら辺で虫でも追い掛けていそうな子供なのである。

 男は尋ねる。

 

『どうやってこの料理を作ったんだい?』

『これを使って』

 

 子供は隠していた袋を男に差し出しだ。

 そこには大きな文字でこう書かれている

 

 

 

 

 

 

 

 冷凍食品。レンジで三分。

 

 

 




なんやかんや言ってもやっぱり美味しいと思います。
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