ある日、お気に入りの店でいつもの日課をし、満足してから店を出たところ見知らぬ男が凄まじい形相でボクの腕をいきなり掴んできた。
強い力で何処かに連れて行こうとする。ボクはそれに恐怖を覚え、掴んでいた手を振り払うとその場から逃げ出した。
(くっ! ボクが一体何をしたっていうんだ!)
怒鳴りながら追いかけてくる男に恐れと理不尽さからくる怒りを覚えるが、また捕まるのは嫌だ。
走って走ってとにかく走る。
すると目の前に横断歩道が見えた。信号機が点滅し青から赤になろうとしている。
(まだ間に合う!)
赤になる直前に足が白線を踏む。
(よし! 行ける!)
その瞬間、ボクは宙を舞っていた。ぐるんぐるんと回転する視界。どうやらトラックにはねられたらしい。
二度目の衝撃が頭を貫いたとき、ボクの意識は真っ黒に塗り潰された。
トラックにはねられてから大体半年が過ぎただろうか。ボクは日本とも外国ともそもそも地球とも違う異世界で生活をしていた。
何故、こうなったのかは分からない。気付いたときにはこの異世界に居て、そこで親切な人達のお世話になっていた。
何故か言葉が通じ、ボクを拾ってくれた人たちも優しいおかげで不自由な思いはしなかった。
ただ時折、自分の世界のことを思い出し少し寂しくなるが。
「どうしたの? 悲しそうな顔をしているよ?」
ボクを拾ってくれた家の娘が心配そうな表情で見てくる。
「ちょっと自分の故郷を思い出してね」
心配させまいと微笑んでみせるが、それが瘦せ我慢をしている様で余計心配させたらしく、ますます娘の顔が曇る。
やれやれ。優しい子だ。
「君こそどうしたのかな? そんな暗い顔をして? あっ分かった。お腹が空いたのかな?」
「もう!」
ボクが揶揄うと少女は顔を真っ赤にしてポカポカと叩いて来る。実に愛らしい反応である。
だが、ボクの指摘も強ち間違いではない。実際にボクが養ってもらっている家は決して裕福では無い。この娘の父は病気がちで満足に働くる状態では無く、母や祖父が働いて何とか食べていけるのが現状である。そんな家に世話になっていると思うと申し訳無く思う。
「……お腹空いた訳じゃないけど」
そこで娘の視線がある一点に向けられた。そこには果物が山になって積んである。
「あれをお腹いっぱい食べてみたいなー」
娘の何気無い願い。どうにかして叶えてあげたいと思う。
そのとき、ボクの中で稲妻の様な閃きが起こる。
あるじゃないか! 恩返しが! それにボクの特技を活かせられる!
少しやりたいことがあると言ってボクは娘を先に家に帰す。
「さあ、ゲームスタートだ!」
ボクが家に帰ると娘の家族たちが一斉に出迎えてくれた。
「ただいま」
「お帰りなさい! やりたいことは終わったの?」
「ああ。これを見てくれ」
ボクは服を捲り上げる。服の下から娘が欲しがっていた果物がドサドサと落ちる。
「こ、これって!」
「ほら。食べたかったんだろ?」
「こんなに沢山……そんなお金なんて……」
「いいえ。これには一切お金を使っていません」
その言葉に家族一同驚く。
「お、お金を払っていないだって!? ど、どうやったんだ!」
「お金を払わずにこんなに食べ物を手に入れるなんて……!」
「ま、魔法じゃ! 魔法が起こったんじゃ!」
「魔法じゃありません。コツさえ掴めばみんな出来ます!」
その言葉に再び一同驚愕する。
「い、一体どうやって?」
「皆さん。聞いて下さい。ボクがただで食べ物を手に入れた方法、これこそ――」
『――万引きですっ!』
これが犯罪も知らないピュアな世界にボクが万引きを広めていく始まりの一歩である。
ネットで見る異世界コピペを見た時に思い付きました。犯罪を知らない異世界だからある意味ファンタジーものです。
因みにタイトルのS LはShopLiftingの略です