憎い。憎い。憎い。憎い。
男の心は憎悪によって染まっていた。朝も昼も夜も一日中心は憎しみに満ちており、一瞬たりともそれが晴れることが無かった。
そして、何よりも不幸なのは、その憎しみをぶつける相手が居ないことである。
男には妻がいた。
学生の時に知り合い、交際し、数年後に結婚した最愛の人。
妻との結婚が男にとって人生の絶頂期であった。
しかし、妻は死んだ。殺された。
ある日、男が家に帰ると刃物で刺され、死体となった妻が在った。
強盗による殺人。それが妻が死んだ理由である。
家の中は荒らされていたが、結局盗まれたのは妻の財布に入っていた数千円程度。妻はたったそれだけの小銭の為に殺されたのだ。
男の心は強盗犯への殺意と憎しみに溢れかえる。もし、犯人が逮捕されたのならば即座に警察署へと乗り込み、犯人を殺してやるつもりであった。
しかし、男の憎悪とは裏腹に犯人は見つからなかった。
一年が過ぎた。犯人は見つからない。男の中の憎悪は黒く、濃くなっていく。
二年が過ぎた。犯人はまだ見つからない。男は顔を知らない犯人を強く呪った。妻を殺した報いを与える為に。
三年が過ぎた。犯人はやっぱり見つからない。男は呪う。毎日、毎秒、犯人を呪う。呪い続ける。この恨みで犯人が惨たらしく死ぬことを願いながら。
犯人を呪い続けて四年目、奇跡が起きた。
「お前のその憎しみ、呪う気持ち、確かに届いたぞ」
男の前に何と悪魔が現れたのだ。男の尽きぬことの無い負の感情に誘われ、男の前に姿を現した。
「気に入った。お前の願いを言え。どんな願いだろうと、一つだけ必ず叶えてやろう」
それを聞いた瞬間、男は即座に願った。
「妻を殺した男に罰を!」
悪魔は男の願いに満足そうに笑い、その願いを叶えてやると言って消えた。
次の日、あるニュースが流れる。何でもある男性が警察署の前に現れ、自分が犯してきた罪を全て告白した後、筆舌し難い最期を迎えたという。
それを聞くと男は笑った。妻を殺した犯人が報いを受けたのだ。四年間、一度も笑わなかった男は大いに笑った。
そして、男は祝盃を上げる。犯人の死を祝って。
男は酒に酔いながら、妻の遺影に仇を討ったことを告げた。
暫くの間、男はじっと遺影を眺める。
ふと、あることに気付き、男は即座に酔いが醒め、見る見るうちに顔面が蒼白になる。
「あ、ああ……ああああああ……!」
気付いた。気付いてしまった。今になって。
悪魔が何故笑っていたのかに気付いて。
男は絶望した。
後日、男は首を吊って自殺しているのを発見された。遺書が添えられていたが、その内容を見た皆が全員首を傾げた。
『何故、妻を生き返らせることを願わなかった。何故、あの男が死ぬことを願った』
二度と無いチャンスほど冷静になろうというお話のつもりで書きました。