黒い短編   作:K/K

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ええ、我々は悪の組織ですから

『ええ、我々は悪の組織ですから』

 

 その言葉はとある人物の決め台詞であった。

 自らを悪の組織と語る彼らは、その決め台詞とは裏腹に人々にとって希望であった。

 彼らは多くの改造人間と戦闘員を保有する。改造人間は動物と人を組み合わせた姿であり、戦闘員は全身を黒いタイツで覆い、『キキー!』としか喋らない。

 お決まりの決め台詞を言うのはこの組織の総統であり人間と変わらない姿をしている。そして、一部を除いて幹部もまた人と変わらない。

 異形を統率する彼らが何故人々の希望なのか。それは悪の組織と語りながらも彼らが行っているのは善行であったからだ。

 この組織は高い技術力を保持しており、その技術によって難病で苦しむ人たちに特効薬を無償で与えた。

 また、心臓や内臓の疾患を抱える者には高性能の人工臓器の提供。

 数多くの技術を提供することで資金を得て、それ使い学校に行けない子たちには学校や教育の援助を行った。

 また、戦闘員や改造人間たちは見た目とは裏腹に一般市民を傷付けることは無く、コミカルなやりとりをして人々を和ませるなどしている。しかし、戦闘力は本物であり、その力を生かして麻薬のカルテルやマフィアなどを潰すという活躍をしてみせた。

 当然ながら法を超えることもしばしば行い、一部の人からは避難されたが、そこでいつもの総統の決め台詞。

 

『ええ、我々は悪の組織ですから』

 

 そう言われると黙ってしまうしかない。

 この悪の組織が掲げるのは戦争の無い世界を作る世界征服。最初は皆馬鹿げた話と笑っていたが、段々と悪の組織の偉業が広まるとその言葉に真実味が帯びて来る。

 やがて人々は、この悪の組織ならば征服されても良いと考える様になっていた。

 そして、その時は来た。全世界が悪の組織に征服されたと認める日が。実質的な支配ではないが、悪の組織に世界征服完了を宣言していいと世界中が認めたのだ。

 全ての人々はそれに喝采を送った。人々にとってもそれは待ちに待った瞬間なのである。

 悪の組織の世界征服完了宣言は全ての国々に中継されることとなった。

 当日、大きなモニターの前で総統がマイクに向かって喋る。

 

『ついにこの時が来た!』

 

 力強い言葉に観客が湧く。

 総統はこれまでの苦労をジョークを交えながら語って行く。その度に観客から笑い声が起こった。

 やがて、クライマックスになる。総統の締めの言葉は勿論アレしかない。

 

『ええ、我々は──』

 

 そこで突然モニターが切り替わる。予定には無いことなのか総統も驚いた様子。

 そのモニターに映し出されたものは全世界の人々にとって衝撃的なものであった。

 悪の組織が別次元に移動することが出来る超技術を所有していること。

 その技術で別次元に渡り、そこで人に良く似た種族と会っていること。

 その種族を大量に拉致し、人体実験のモルモットにしていること。

 改造人間というはその種族を実験にし、脳の一部を切除して人格を完全破壊して存在であること。戦闘員はその失敗作であり、黒いタイツの下は失敗作を混ぜ合わせて作った肉の塊であり、改造人間と同じく人格など無い。あるのはプログラミングされた動作あり、コミカルな動きも全てプログラムされた動きに過ぎない。

 難病を治療する薬はその種族の胎児を材料にしたものであり、悪の組織地下には生ませる為の施設があり、人工臓器と思われていたものは、その種族から生きたまま抜かれた臓器を加工したものである。

 全ての技術は別次元の種族の犠牲の上に成り立っているものであり、今もそれは続いている。今までに犠牲になった種族の数は915391125人。

 悪の組織は何十億の人々を救った。915391125人を犠牲にして。

 非人道的行為の数々に悲鳴、怒号、絶叫が上がる。

 総統はモニターを見たまま言葉を失っていた。

 そんな光景を遠くから見つめている者が一人。

 

「いつもの決め台詞はどうした? 『ええ、我々は悪の組織ですから』だろ?」

 

 彼は悪の組織の幹部の一人。だが、他の幹部とは違い改造人間から成り上がった者である。

 組織の者たちは油断していた。人格を抹消したと思っていた彼にまだ人格と記憶が残っていることに。

 長い長い時間を掛けてやっと一矢報いることが出来た。同胞たちを見殺しにしてきた日々に終わりがやって来た。

 この世界がこれからどうなるのか彼には知ったことではない。悪の組織を断罪するか、それとも許すかなど興味も湧かない。

 

「ははは。まあ、後は好きにやってくれ」

 

 悪の組織とそれを祭り上げた者たちを笑いながらその男は己のこめかみに銃口を当てる。

 混乱を招いた責任をとる気など無い。

 何故なら──

 

「『ええ、我々は悪の組織ですから』」

 

 嘲る様にその台詞を吐いた後、その男は銃の引き金を引いた。

 

 




マンガやアニメである良い悪の組織がマジで悪の組織だったらという話です。
自分たちの利益が途方も無い犠牲の上で成り立っていると分かった時、それと決別することは可能なのでしょうか?
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