仮面ライダー555 ~灰の徒花~   作:大滝小山

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なんだか以前に比べてブクマや評価が急に増えた気がしますが、ごらんのとおりマイペース更新なのでゆるりとお待ちください。

ただ一つだけ言い訳していいのなら、別サイトで上げる予定の新作の準備をですね……今後どちらかにかかりきりにならないように調整します……


第10話 B

 傷も癒えた頃、鎌田は町を歩いて憎き女を探していた。

 この男、意外と懲りると言うことを知らなかった。だからこそ、強力なオルフェノクとなり得たのかもしれない。

 

「あいつ……どこだぁ?」

 

 ――その実態は無計画の短慮そのものだった。女の行動は早かったようで、住んでいたアパートはすでに引き払われていた。

 探すあてがなくなり、鎌田の苛立ちは留まることを知らない。人通りのない路地裏のごみ箱を蹴倒す。

 

 そうしていると、偶然にも手品師の手品が目に入った。

 

(くだらねぇ)

 

 おどけた仕草でカードを取り出し、観客が事前に引いていたカードと同じことを示し、歓声が上がる。

 観客も手品師も、どうでもいい茶番をありがたがる道化にしか見えなかった。世の人間たちは()()()()()()()()()というのが、鎌田には理解しがたい感覚なのだ。

 しかしその手品から目を離せなかった。正確には、手品を披露する手品師の青年に見覚えがあったからだ。

 

「あれも、ターゲットだったな?」

 

 木村大牙、正確には『要注意観察対象』である。

 数ヶ月前から排除対象の乾巧らと接触した一般人で、――幼少期の記録が一切無い、不可解な人物だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「おい、『幼少期の経歴一切不明』ってなんだ、ふざけてんのか?」

 

 鎌田から疑問をぶつけられたとき、ロブスターオルフェノクは素直に感心した。形式的に渡した資料だったが、まさかちゃんと読むとは思わなかったのだ。

 

「私も同じように部下に聞いたわ。本当に、何もわからないのよ」

 

 まるで一切の痕跡が消されていた、木村大牙の記録。彼が乾巧らに接触したのを契機にシータは表舞台に姿を現すようになった。

 偶然にしてはできすぎている。しかし今のところ直接的にこちらに被害は受けていない。不可解ではあるが、今はそちらにかまけている時間も労力も惜しい。

 ベルトも使えない人間など、どうせ脅威にはなりえないのだから。

 

「――――念のため、何かあれば私たちに報告して。些細なことでも、ね」

 

 それでも鎌田にそう言ったのは、言い知れない予感を感じたからだった。

 

 いずれぶつからなければならない、そんな不吉な予感を。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ――実物を見た鎌田が思ったこと、それはとんだ間抜けで、ひどい道化だという印象だった。

 子供に交じってはジャグリング、手品、バルーンアートを披露し、特に見返りを求めない。施設の職員と思しき大人を巻き込んではバカ騒ぎ。

 滑稽で仕方がない。目障りだというのに、そいつを見ていなければならない。

 

「――くっだらねぇ」

 

 時間の無駄だ。この程度なら直接乗り込んで殺してしまうほうが早いのではないか。

 

「……そうだな、何を遠慮することがあるってんだ」

 

 誰はばかることなく自分勝手に生きると決めたはずだ。そうでなくては何のための第二の生だというのだ。

 

「そうだ、そうしよう」

 

 鎌田は独り言ちると、その身を灰色の異形に転じて柵を乗り越えた。

 ロブスターオルフェノクが失念していた、鎌田の悪癖の発露だった。

 

 

「――うわ、なんだっ!?」

 

 大牙が闖入者の姿を見てあげた声が、狂乱の始まりだった。

 

「ひっ……!」

 

 子供たちがひきつった声を上げ、その恐怖が伝播する。

 大人たちも、灰色の異形に既視感を覚え――手近な職員にクラブオルフェノクが襲い掛かる。

 

 

(……は)

 

 鎌田は――クラブオルフェノクは左手を突き入れて心臓を焼く。茫然とした表情で灰と消えた職員の遺灰を投げ捨て、シルクハットの男へと向き直る。

 

「――みんな早く逃げて! ここは俺が何とかするから!」

 

 無謀にもその男はこちらに立ち向かうつもりらしい。商売道具(ステッキ)を振りかざし、一閃。

 

「ハハッ」

 

 自然と笑いがこみ上げてくる。なるほど、こいつは相当な馬鹿だ。

 

「オモシロイ……!」

 

 当然、頑丈な甲殻の前にステッキは折れ、クラブオルフェノクは右のハサミで薙ぎ払った。

 

「ぐわぁ!」

 

 せっかくのおもちゃが壊れてもつまらない。クラブオルフェノクは大牙の声に余裕があるのを確認して、吹き飛んだ体めがけて蹴りを入れる。

 どうせなら自分の力をもっと誇示しなければ。

 

「ひぃっ」

 

 こんな時、子供というのは最高のオーディエンスだ。避難経路をふさぐように吹き飛んできた大牙に足を止めた子供たち、そして背後に気づかず逃げ続ける子供たち。

 どちらを狙ったところで大差はない。ただどちらが効率よく力を見せつけることができるか――つかの間の逡巡。

 

(めんどくせぇ)

 

 ひと飛びで逃げ遅れた子供たちを飛び越えると、逃げ惑う子供たちの背後に降り立つ。

 不吉な死の気配を感じ取った子供がようやく自分たちの状況をつかんだ時、クラブオルフェノクは右手のハサミを振り上げていた。

 しかし不意にクラブオルフェノクは振り上げた腕を止めた。

 

「やめろ……」

 

 クラブオルフェノクの足にしがみつく大牙。あまりに鬱陶しいので振り払おうとするが、存外にしぶとい。

 

「やめろ……!」

 

 蹴りつけるたびに大牙は強くしがみつく。絶対に離さないという強い意志を見せて。

 そのすきをついて子供たちは施設へと逃げ込んだ。

 

「クソッ……」

 

 悪態をついて彼の頭を蹴りつける。シルクハットがへこみ、ジャケットはすでに土埃でひどいありさまだったがそれでも大牙はあきらめなかった。

 その強い意志がクラブオルフェノクにとって理解できない、根源的な恐怖を掻き立てる。

 

「あの子たちには、もう指一本触れさせない……! 絶対に!」

 

 足元で吠える大牙を持て余し、クラブオルフェノクは苛立ちを募らせる。

 

(――ヒーロー気取りか? くだらない)

 

 内心でそう切り捨てるが、大牙の力は弱まらない。

 

 ――切り捨てる?

 

(その手があるじゃねぇか)

 

 その思い付きは、悪魔の発想か。

 クラブオルフェノクは足にまとわりつく腕に狙いを定め、右手のハサミを開いた。

 

「ぐっ……」

 

 そのまま、ハサミを閉じていく。

 一度に切断せずに、あえて少しずつ。

 

(どこまで、持つだろうなぁ?)

 

 食い込む刃に顔をしかめる青年。

 今の鎌田が異形でなければ、口を大きくつり上げた凶相をさらしていただろう。

 

 実際のところ、右手の大ハサミは切断の用途には向かない。オルフェノクの怪力ならやってやれないこともないが、その力のままで左手を使った方が早い。

 そうしないのは自分が絶対的な強者であることを疑っていないから。悪く言えば油断しているからに他ならない。

 

(たいしたこたぁねぇ、俺は強い!)

 

 さぁそろそろ終わらせようか、と力を籠めようとした、その時だった。

 

「グッ……!?」

 

 唐突な衝撃が連続して襲い掛かる。思わず手を離し、なおも続く攻撃にたたらを踏んだ。

 背後を振り返れば、バイク――のような未確認飛行物体――が機銃を飛ばしていた。

 

「テメェ……!」

 

 否応なく想起される、忌々しい記憶。

 

 クラブオルフェノクとして復活した鎌田が、どうしても苦手としていたものがある。

 一つが一方的にただやられること。

 二つ目が甲高い風切り音、モーターの音。

 そして最後に、銃の発砲音。

 

 それらはすべて自身の死因に起因する嫌悪であり、すなわち彼はその逆を求めた。

 自分がただ一方的になぶり。

 発作的に換気扇や室外機などを破壊し。

 何より、障害をすべて近接戦で打ち破ることを求めた。

 

「ウォォオオオオ――!」

 

 飛び続ける機械をただ追いすがった。その間にも機銃の掃射は続いているが、クラブオルフェノクの強靭な甲殻はその弾丸を受け止めてなお軽傷に収めた。

 

(くそ、何だってんだ……!)

 

 そう、傷は負っているのだ。

 かつて自分をひき肉に変えた、設置式機関銃の掃射をものともしなかった最強の鎧が、だ。

 ズキン、とハチの巣となった時の古傷が痛む。かつてヒトであったことを叫ぶ幻肢痛。

 

「ガァアアアッ!」

 

 柵を飛び越え、逃げるように飛び去るバイクをわき目もふらず追いかけた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 残念ながら、鎌田には思慮や配慮といった、他者に合わせたり尊重したりといった社会性は持ち合わせていなかった。

 

「ジャマダ……!!」

 

 空を飛ぶ何かに驚き、追いかける怪物に悲鳴を上げる通行人を、片っ端から殺害して進むクラブオルフェノク。

 騒ぎは大きくなる一方で、そのうち物珍しいだけの飛行バイクから、実害の大きい怪物へと騒ぎの中心が移っていった。

 

「――グゥォオオ!?」

 

 そんな中で、クラブオルフェノクは背中からの衝撃を受けてつんのめるようにして動きを止めた。

 

『見つけたぞ……オルフェノク(バケモノ)!』

 

 背後からひどく加工された音声が叫んでいた。ゆっくりと振り返る。

 

「なるほどなぁ?」

 

 同時に、クラブオルフェノクの影がぐにゃりと踊り、裸身の鎌田を映し出した。

 

「お前が、『シータ』か」

 

 左手で右腕をつかみ、支えるようにしてブレイガンを構えたシータが、その銃口をつきつけていた。

 クラブオルフェノクの誰何(すいか)には答えず、再び引き金を引いた。

 

「しゃらくせぇ!」

 

 光弾をハサミで弾き、吶喊(とっかん)

 光弾の精度はさほどではない。撃つたびにシータの腕が大きくぶれ、ノイズじみた声で歯噛みするのが聞こえる。

 

(使いこなせねぇなら!)

 

 今、たたみかけるしかない。大ハサミが異形の銃をとらえる。

 

「ハッ――!」

 

 ブレイガンをたたき落とし、左手を突き込む。

 

『ぐ……』

 

 胸部装甲を削られ、たたらを踏むシータ。

 もし戦っているのがある程度シータの情報を得たロブスターオルフェノクなら、シータの装甲から白い微粒子状の物質が舞い散る様子を興味深く観察しただろう。シータが一人でない以上、情報収集に徹して、それを持ち帰ることが最優先だ。

 

「ハハ、ハハハ!」

 

 闘争心に火がついたクラブオルフェノクは、ひたすらたたみかける。その声帯から哄笑を漏らしながら、一方的に殴りかかる快感に酔いしれた。

 とどめに右手を一振り、シータを弾き飛ばす。

 

『ぐお、ぁ……』

 

 ブロック塀を突き崩しながら、道路を転がされるシータ。

 クラブオルフェノクはこれで死ななかったことに不満だったが、改めて殺し直せばいいかと思い直す。

 

「オワリダ……」

 

 ――Ready

 

 クラブオルフェノクの声に答えるように、しかし答えたのはシータ本人に輪にかけて無機質な機械音声。

 ふらりと立ち上がったシータは、望遠鏡型のデバイスを手に持っていた。望遠鏡レンズとその下にレーザー測距ユニットが搭載された、厚みのある三角形のような形だ。

 その天面には、シータのもののミッションメモリーが装填され、鏡筒とレーザーユニットが伸長しているようだ。レーザーユニットのカバーが開いているのは放熱のためか。

 右足のホルスターにセットするのを見て、クラブオルフェノクは慌てて駆けだした。

 

 何が起きるかわからずとも、良くないことが起こることだけは直感した。

 

 ――Exceed Charge

 

 吹き飛ばした距離を詰めるより早く、シータはベルトのスイッチを押した。自業自得の窮地。

 虚空を蹴りだすシータを前に、クラブオルフェノクはこの場を放棄することにした。全身に力をみなぎらせて、固い甲殻に亀裂を入れる。ずるり、と体が抜け出す感覚。

 

『はぁっ!』

 

 裂ぱくの気合とともにマーカーが蹴りだされるのと、灰色の巨体を残して鎌田の体が投げ出されるのはほぼ同時で、閃光と爆発によってさらに吹き飛ばされる。ちょうどシータを投げ飛ばしたブロック塀のそばへ。

 

「ぐ、ぅ……」

 

 ただでさえ消耗する脱皮と浴びせられたフォトンブラッドの影響もあって、再変身どころか意識を保つことすらままならない。

 

「おい、大丈夫か!」

 

 呼びかける誰かの声がどこかで聞いたような気がして、しかし鎌田は目を開けることもかなわず、意識が遠のくのに任せた。




Open your eyes,for the next Riders!

「病院から、消えた?」
「じいさん、あいつの相談に乗ったんだってな?」
「俺も、相談してもいいかな」
「さらなる戦力の増強が必要ね……」

「私たちは、――人類の進化系(オルフェノク)……!」
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