バンカーから機械生命体をハッキングした9Sの協力もあり、2Bとパスカルは廃工場から無事に脱出することができた。パスカルは村の雑用をするために村に戻り、2Bもレジスタンスキャンプに戻ろうとした直後、レジスタンスキャンプから通信が入る。
「こち・・・レジスタン・・・キャンプ!」
通信から聞こえてくる音声にはノイズが混じっており、所々聞き取れない部分がある。
「通信状況が悪い・・・」
「電波障害を確認」
2Bの呟きにポッドが答える。レジスタンスキャンプで何かあったのだろうか。
「・・・機械生命・・・この通・・・要請、頼む・・・」
何やらただ事ではない様子に、2Bは急いでレジスタンスキャンプへと向かう。
地獄絵図とはこういう光景を指すのだろう。
「いやだ・・・いやだああっ!」
「誰か助けてええっ!」
「早く逃げるんだっ!」
燃えるレジスタンスキャンプ、逃げ惑うアンドロイド達、襲い来る機械生命体。外見も雰囲気も変わった彼らは逃げるアンドロイドを捕まえると、そのまま・・・。
「が・・・!あ・・・!」
「アンドロイドを・・・食ってる・・・」
短い悲鳴をあげるアンドロイドに群がる機械生命体を見て、2Bは思わずそう呟いた。それはまるで、獣が獲物をむさぼっているようだった。唖然とするような光景だが、そのまま黙って見ている訳にもいかない。2Bは武器を握って機械生命体へと駆ける。
「2Bッ!」
レジスタンスキャンプの奥に行くと、アネモネが銃を構えていた。
「大丈夫!?」
「急に奴らがキャンプになだれ込んできて・・・応戦したんだが、銃が効かないんだ!」
「敵個体からエネルギーシールドを確認。推奨、近接物理攻撃」
アネモネの言葉を聞いて、ポッドが分析を開始する。
「わかった!貴方は他のアンドロイドを退避させて!」
そう言うと2Bは不気味に変貌した機械生命体に斬りかかる。
数分後、機械生命体を全滅させた2Bはアネモネの元へと向かう。
「ありがとう2B。助かったよ・・・」
そう言うアネモネは大分疲れた様子だった。
「一体、何が?」
「わからない・・・奴ら、急にこの拠点に攻め込んできて・・・」
次の瞬間、2人の会話を遮るように何かが地面にぶつかるような音と共に大きな揺れが起こる。レジスタンスキャンプの外から聞こえてきた音の正体を確かめるため、2Bはレジスタンスキャンプから出る。
そこにいたのは廃工場から脱出する時に戦った、球体に蜘蛛のように足の生えた機械生命体だった。
「次から・・・次へと!」
悪態をつきながら2Bは機械生命体に斬りかかる。しかし、斬っても斬っても機械生命体が弱まる気配はなく、さらに機械生命体は言葉にならない叫び声をあげて他の機械生命体を呼び寄せる。
「本当に、面倒臭い!」
きりがない。このままだとジリ貧だ。そう思ってイラつき始めた時だった。
「2Bッ!」
自分を呼ぶ声に上を向くと、上空から飛行ユニットに乗った9Sが現れた。
9Sは空中で飛行ユニットから飛び降りる。無人になった飛行ユニットは急降下を続け球体の機械生命体に衝突し、爆発する。爆発に巻き込まれた機械生命体はようやく動かなくなった。
空中で飛行ユニットから飛び降りた9Sは地面にぶつかり、バウンドしながら転がり倒れる。
「大丈夫!?」
2Bは倒れた9Sを起こして支える。
「いやあ・・・命中して良かった・・・」
そう言って9Sは立ち上がる。どこか傷を負った様子もなく、無事なようだ。
しかし、ほっとする暇もなく、次の脅威が襲い掛かる。
「全部・・・全部、破壊してやルッ!!」
球体の機械生命体の中からイヴが姿を現す。
それを見た2Bは、
「じゃあ、あとは任せた」
ポンと9Sの肩を叩いて明後日の方向に走り出した。
「ちょ、ちょっと2B!?スキャナータイプは戦闘は得意じゃないんですけど・・・ってそうじゃなくて!どこ行くんですか!?2B!2B!!ああ、もう!!」
半ばヤケクソ気味に叫んだ9Sの言葉に返事をする者はいなかった。
◇◇◇
全てに嫌気がさした2Bは任務を放棄し、その足で海岸に釣りに行く事にした。そうだ、漁師になろう。2Bの顔は晴れやかな笑顔になっていた。
戦場から逃走して10年。2Bは機械生命体とヨルハ暗殺部隊の両方から狙われる身となった。だが、彼女はその逃避行を楽しんでいるようだ。
NieR:Automata
[L]one wolf
◇◇◇
「報告、アジ」
「またアジか・・・」
水没都市の海に向かってポッドを投げ入れながら2Bは呑気に呟く。
あれから10年。アンドロイドと機械生命体の戦いは未だに続いている。まあ、何百年と続いてきた戦争がたった10年で終わるとも思えないが。
とはいえ、戦場から離れた2Bに戦争の現状などどうでもよかった。今日も彼女はのんびり釣りをして過ごす。釣りはいい。心が落ち着く。
「報告、アジ」
「えー・・・」
どうにも水没都市で釣りをするとアジばかり釣れてしまうのが2Bの最近の悩みだった。アジを釣っても食べることなどできないというのにアジばかりが釣れる。はたしてアジに好かれているのか嫌われているのか。それでも何かに使えないかとアジを切り身にして程よく焼いているが、今のところ役に立つ使い方は思いつかない。
そんな事を考えていると、後ろに気配を感じ振り返ってみると、数人のアンドロイドがこちらに武器を向けていた。服装を見る限り、ヨルハ部隊のアンドロイドだろう。
「脱走兵の2Bだな?」
アンドロイドの1人が口を開く。
「もしかして、暗殺部隊?」
「分かっているなら話が早い。死ねえ!!」
そう言ってアンドロイド達は一斉に襲い掛かってくる。
2Bは彼女達の攻撃を躱しながら、その口に釣ったばかりのアジの切り身を押し込む。
「何を・・・!?」
アジを無理矢理食わされたアンドロイド達は次々に機能を停止し、死んでいく。美味しいのに対アンドロイド抹殺兵器としての使い道しかないのが現状である。
2Bはアンドロイド達が全員死んだのを確認すると、また釣りを続ける。釣りをして過ごし、時々機械生命体やアンドロイドと戦う生活。それはとても自由で充実していた。
「報告、アジ」
「・・・」
いつまでもこんな日々が続けばいいのにと、そう願った。
◇◇◇
気がつけば、2Bの前には壊れて動かなくなった球体の機械生命体がいた。そして、「命中してよかったです」と言いながら9Sが近づいて来る。
さらには、「全部破壊してやる」と言いながら球体の機械生命体の中からイヴが現れる。
全て自分が逃げ出す前と同じ状況だった。
「まあ、結局こうなるか・・・」
「2B?何か言いました?」
「いや、何でもない」
そう言って2Bは武器を構える。
アダムとイヴの兄弟の物語にエンディングを与えねばならない。
そうして最後の戦いが始まった。