アンドロイドはエンディングの夢を見るか?   作:灰色平行線

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これにて2週目終了です。次回から3週目に入ります。


or not to [B]e

「誰か 私を 認め て」

 それは、ボーヴォワールが誰かに望んだ願いだった。

「守ってやんなきゃな・・・」

 それは、森の国の機械生命体達が内側に秘めた決意だった。

「おかあさん。おかあさん」

 それは、グリューンの誰にも伝わることのない叫びだった。

「『憎悪』こそが生きる意味なんだよ・・・」

 それは、兄が弟には決して見せなかった欲望だった。

 

 形は違えど、それらは最後まで内側だけに抱えたモノだった。

 

 ◇◇◇

 

 複製された街でアダムに捕らえられた9Sはバンカーでデータオーバーホールを行うことになった。

 オーバーホールとは、機械製品を部品1つ1つまで分解して清掃した後、もう1度組み立て直し、新品同様の状態に戻すことである。今回の場合、9Sのデータに対してオーバーホール作業をすることになる。

 自己に対するハッキングの要領で、9Sは1つ1つのデータをチェックする。

「ふうっ・・・ようやく全部のチェックが終わった・・・。データオーバーホールとか、やり過ぎだよ」

「機体9Sは敵に鹵獲され長時間の操作不能状態にあった。その間に敵の論理ウィルスの潜伏を許してしまった可能性が・・・」

「わかったわかった」

 ポッドの言葉を適当にあしらい、9Sはバンカーのサーバーへと向かう。最後にサーバーにデータを同期させればデータオーバーホールは終了だ。

 しかし、データの同期を始めたところで空間が一瞬ブレた。

「何・・・今の?」

「不明」

 データ内に生じたノイズに9Sは思わずデータ同期を中断する。

「警告、データ同期は全ヨルハ機体の義務工程」

「不明瞭なノイズがあったからね。2Bのデータ同期プロセスも一旦保留しておいて」

「了解」

 ポッドに指示を出した後、9Sはノイズの原因を探すためにサーバーへと侵入した。

 

 サーバーのデータを調べると、奇妙なことに気がつく。月面基地に送られる大量の空のコンテナ、塗り潰されたアンドロイドのブラックボックスに関するデータ。そして、ヨルハ計画の内にあった月面の人類会議設立の項目。これではまるで・・・。

 考えるような暇もなく、突然、空間がブレる。誰かに見つかったかと身構える9Sだったが、そうではなく2Bからバンカーへの緊急援護申請だった。

 サーバーから自分の体へと戻る9S。通信でオペレーターから話を聞くと、廃工場に多数の機械生命体の反応が確認されたらしい。

 9Sは急いで2Bの援護に向かった。

 

 ◇◇◇

 

 バンカーの大型ターミナルを使い廃工場にハッキングを仕掛け、2Bを廃工場から脱出させることに成功した9Sはその後、司令官の呼び出された。

「・・・君がメインサーバーにアクセスしていた痕跡が残っていた」

 司令官の言葉に問い詰めるなら今しかないと9Sは考えた。

「・・・その事で聞きたいことがあります。司令官」

 

 司令官の口から出たのは虚しくなるような真実だった。

 人類など存在しない。月にあるのは僅かに残った人類の遺伝子情報だけだ。

 興味があるなら見てみるといいと、司令官は9Sにヨルハ計画に関するデータを渡す。

「自分で決めるんだな・・・これから、どうするか」

 そう言って司令官は去っていった。

 

「人類が・・・もういない・・・」

 自室で考える9S。

「2Bに、何て言えば・・・」

 次の瞬間、警報と共にバンカーが赤い光に包まれる。

「緊急指令。コードF2。全ヨルハ部隊は速やかに戦闘配置に就いてください。繰り返します・・・」

 バンカー中に放送が鳴り響く。

「戦闘配置・・・行かなきゃ!」

 

 レジスタンスキャンプ付近にいる2Bの援護。それが9Sに与えられた指令だった。

 アダムの死によって弱体化したはずの機械生命体の暴走。原因は不明だがとにかく2Bの元に急がねばと9Sは飛行ユニットに乗り込んだ。

 

 ◇◇◇

 

 イヴとの最終決戦。イヴにハッキングを仕掛けた9Sは彼の心を見た。

「ねぇ・・・にいちゃん・・・ぼく、たたかう事は嫌いじゃないよ・・・だけど、にいちゃんが傷つくのはイヤだよ・・・にいちゃんが居なくなるのは・・・もっとイヤだ・・・だから、ふたりで、どこか、静かな場所に・・・」

 

 それは、彼の内に秘めた思いだったのだろう。決して兄には告げることのなかった。

 

 静かに倒れるイヴを見て、9Sは何を思ったのだろう。

 

 ◇◇◇

 

 こうやって、アダムとイヴを巡る最後の戦いは終わった。この戦いは戦局に大きな影響をもたらすだろう。僕と2Bの戦いもこのあとまだしばらく続くんだけど・・・それはまた、別の話。

 

 NieR:Automata

 or not to [B]e

 

 ◇◇◇

 

 バンカーの自室にいる9Sのところへ2Bがやって来る。

「ああ、2B・・・待ってたよ。これを渡しておく」

 9Sは2Bにいくつかのアイテムを渡す。

「2B・・・いや、何でもない・・・気をつけて」

 その言葉を最後に、2Bは部屋から出ていった。

 

 機械生命体のネットワークを管理していたアダムとイヴの死によって、機械生命体達は弱体化した。これから、ヨルハ部隊は機械生命体の殲滅に移る。この作戦をもってアンドロイドは戦争に勝利し、人類は地球を取り戻すのだ。

 だが、その人類は既に滅亡している。

 結局、9Sはその事実を2Bに伝えることができなかった。

 伝えてしまえば、2Bはどうなるのか分からない。絶望して自殺するのか、それとも平然としているのか。人類がいないという事実を知って、戦うことを諦めてしまうのではないか。だが、人類がいないのだとすれば、一体どうして存在しない人類なんかのために自分達は戦わなければならないのか。

 伝えてしまうべきなのか、黙って自分の中にしまっておくべきなのか。9Sは悩んだ。

 

 そして、その事実を2Bに伝えることは、最後まで無かった。


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