何の自慢にもならないけどね。
「・・・以上が、旧時代に管理者と呼ばれた彼女達の個人記録だ」
「そう・・・」
塔の内部はエレベーターのようになっており、上昇する床に乗りながら、9Sはポッドが見つけたデボルとポポルの残存データを見ていた。
「疑問、何故、アンドロイド・デボル及びポポルは常に同時に死を選ぶのか?当該状況からの単独離脱は可能であり・・・」
「僕には・・・」
ポッドの言葉を9Sが遮る。
「・・・君に、理解出来ない事を祈る」
「・・・了解」
それっきり、デボルのこともポポルのことも、9Sもポッドも口にしなかった。
「疑問、何故この『塔』に入り口が用意されていたのか?資源搬入は上空から行われている事を確認。外部からの進入路が用意されている事は不自然。予測、罠」
「・・・罠でも何でもいい。皆殺しにするだけだ」
塔を進んでいく9Sに迷いはもう無かった。途中で汚染されたヨルハ部隊が襲ってきたが、9Sは容赦なくそれらを殺していく。迷ったり立ち止まったりするには失ったモノが多すぎた。もう失うモノなんて何もない。そう思っていた。
「クッ・・・クククッ・・・ここで会えて、良かった・・本当に、良かった。一体残らず、粉々に、壊すッ!」
塔の中での複数の2Bとの出会い。彼女達を破壊していく中で、その内の1体の自爆に巻き込まれた9Sは片腕が吹き飛んでしまった。足りない腕は、そばに倒れていた2Bから奪い取った。ウィルスに侵された腕を無理矢理くっつけたせいで9S自身にもウィルスに侵される。自己ハッキングでウィルスを取り除き、9Sは再び塔の中を進んでいく。
また、失った。今度は体の一部を。
「これが・・・ヨルハ計画・・・じゃあ、僕達は・・・2Bは・・・」
赤い少女との出会い。彼女達によって9Sはヨルハ計画の真相を知る。半ば発狂したようになりながら、それでも9Sは進んでいく。
また、失った。今度は自分が存在する理由を。
失って失って、失い続けながら、9Sは進む。
飛行ユニットに乗って襲ってきた、汚染されたヨルハ部隊を倒し、その内の1人から飛行ユニットを奪い、空へと飛ぶ。
巨大な塔を空中から進んでいくと、球体に足が生えた機械生命体が現れる。イヴが暴走した時に現れた機械生命体によく似ている。
「信じてた信じてたシンジテタ死んじ」
「神にナッタ神になった神になったダレがなった?」
「命をウバウ命を、命ヲウバウんだ」
「神ニナル!神に!神に!・・・神ニ!」
「タイセツなモノ失う失った・・・壊れただから、お前達も・・・コワス」
どこかで聞いた事のある言葉、誰かが言っていた言葉を繰り返しているだけなのか、機械生命体の言葉には特定の誰かの意思というものが感じられなかった。
「ホシに・・・向かおう」「歌を・・・歌おう」「ササゲル・・・今・・・」「僕達は機械生命体」「僕達は機械生命体」「君達はアンドロイド」「君達はアンドロイド」「私達は敵同士」「戦う運命」「君は何故生存するのか」「僕は、何故存在するのか」「ああ、光が見える」「光が」「僕達は空に飛ぶんだ」
その言葉はまるで、あらゆる意思をごちゃまぜにして、1つの意思の溶かしたかのようだ。
移動する機械生命体を追うと、別の場所で誰かが同じような見た目をした球体の機械生命体と戦っていた。A2だ。
9Sが追っていた機械生命体とA2が戦っていた機械生命体が合流し、合体して襲い掛かってくる。2人は機械生命体を破壊した後、改めて向き合い、武器を構える。
ヨルハ計画の真相、人類の真相、2Bの真相、言葉を交わす中で分かったこともあるが、それらが分かったところで、9Sにとっては全てが今更だった。例え世界の全ての謎が解けたとしても、9Sは変わらない。例え全ての真実を暴いたとしても、もう9Sは止まらない。
「推奨、停戦。ここで彼女と争う事は非合理的で・・・」
「ポッド153に命令ッ!貴様の独断の論理思考と発言を禁止する!!この命令は、A2か僕のどちらかの生命活動の停止が確認出来るまで維持しろ!」
ポッドはA2に刃を向ける9Sを止めようとするが、ポッドの言葉を遮るように9Sは荒れた声で命令を下す。A2も9Sに刃を向ける。
戦いが始まった。
◇◇◇
全部壊す。全て無くしてしまえばいい。目を赤く光らせながら9Sはそう言う。恋しい人類も、人類に焦がれるようにプログラムされた自分も、全部、なくなってしまえばいい。そんな彼にA2はかける言葉が見つからなかった。
戦闘用に作られたA2と、現地調査用に作られた9Sでは実力にも性能にも差がある。A2の攻撃で9Sは態勢を崩してしまう。A2は9Sを斬り殺そうとする。
「9Sを・・・頼む」
だが、記憶に残っている2Bの言葉がA2の動きを一瞬止めてしまった。そんな迷いの隙をついて、9SはA2の腹に刃を突き通す。そのまま刃を押し込んでA2を地面に倒すが、その際にA2の握っていた刀の刃が9Sの腹に突き刺さってしまう。
「ギッ・・・ああああああああああああああッッ!!」
なんとか刀を抜こうとするが、体が上手く動かない。だんだん意識も薄れていく。
9Sの中から全てが消えていく。
消えて
消え
◇◇◇
真っ白な空間に、倒れている。
痛みは、もう・・・ない。
なんだか、暖かい光のようなモノで包まれている気がする。
この塔が打ち上げるのは、箱舟。
愚かだった機械生命体の記憶を封じ込め、新世界に送り出す。
箱舟の中にアダムとイヴの姿が見える。
イヴは眠っている。
一緒に来るか?・・・と、アダムが言う。
その言葉に憎悪はなかった。
「僕は―――」
NieR:Automata
chil[D]hood's end
◇◇◇
「警告、大型建造物、通称『塔』ゲートの解放を確認」
「行ってみるか・・・」
A2は塔に向かって走り出す。その身に1つの「終わり」を抱えて。もう1つの「終わり」を得るために。
内部データに刻まれた、「取得エンディング数24」の文字と共に。
今回はトップクラスにグダグダな話になっちゃった気がする。