アンドロイドはエンディングの夢を見るか?   作:灰色平行線

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小雨だし傘いらないかな?でも一応さしとこうかな?
そして傘をさした直後、ボトリという明らかに雨が当たったのとは違う音。
見れば黒い傘にべっとりついた白い鳥の糞。
ツイてねぇ・・・。


meaningless [C]ode

「ああ・・・A2か」

 塔の入り口の壁に寄りかかって座っていたデボルは、ゆっくりとした動作で顔を上げ、こちらに来るA2の姿を確認する。隣で座っているポポルは動かない。

「塔の入り口は・・・開けておいた。9Sが、先に行ってる・・・」

「・・・そうか」

「・・・なあ・・・」

 塔の中に入ろうとするA2の背中に、デボルは呼びかける。

「私達は・・・役に立ったか・・・?」

「ああ・・・」

 短い返事だったが、A2の言葉に温かいものを感じた。

 塔の中へと入っていったA2を見送り、デボルはふうと息をつく。これで自分の役目は終わりだ。私の、私達の贖罪はここで終わる。ポポルは贖罪以外の何かを感じていたようだが、デボルには相変わらず贖罪しかなかった。だが、それもこれで終わりだ。

 不思議な安心感を感じながら、ポポルの手を握り、デボルは目を閉じる。

 それからデボルが動くことは二度となかった。

 

 ◇◇◇

 

 塔の中の所々にヨルハ部隊の死体が転がっている。おそらく、9Sがやったのだろう。汚染されているとはいえ、死体は随分と乱暴に殺されており、もはや彼に容赦というものはないようだ。急がねば。

 塔の中を進んでいくと、やけに整った部屋に出た。壁には、真っ白な本がぎっしりと入れられている。

「何だ・・・この部屋・・・」

「予測、図書館を模した施設」

 A2の疑問にポッドが答える。

「図書館?・・・何だそれ?」

「過去に人類文明が作り上げた情報保存施設」

「ふーん」

 A2はなんとなく興味本位で壁から本を1冊取り出す。手に取って見て気付いたが、本の形をしてはいるものの、どうやら本というよりデータファイルに近いようで、中を見るにはハッキングする必要があるらしい。

「ポッド。頼む」

「了解。ヨルハ機体A2にハッキングインターフェイスへのアクセス権限を付与」

「良し・・・」

 ハッキングをして図書館の中のデータを手当たり次第に見ていく。月面の人類サーバーの記録、過去の人間の記録。機械生命体はあらゆる所から情報を集めていた。

 そして、A2はあるデータを見つける。「ヨルハ計画に於ける二号モデル運用概略」と書かれたそのデータを読んでA2は驚いた。

「このデータは・・・」

 突然、図書館の天井が崩れ、上から球体に足の生えた機械生命体が落ちてくる。驚いている暇もなくA2は武器を構えた。

 

 逃げる機械生命体を追っていくと、正体不明の敵のハッキング攻撃を食らってしまう。仕方なく自分のデータの中を進んでいくと、赤い少女に出会った。

「久しぶりだな・・・二号。いや、今はA2と呼ぶべきか?」

 自分の中で始まった赤い少女達との戦い。機械生命体のネットワークの概念存在である彼女達は、いくら殺したところで滅ぶことは決してない。

 ポッドの提案で、少女達を殺さずにその数を増やしていく。

「面白い・・・面白い・・・」「人類が遺したアンドロイドがまるで人類になりたいかのように振る舞う」「エイリアンの遺した機械生命体がまるで人類になりたいかのように振る舞う」「私達は似ている・・・だが、ネットワーク化された私達の方が圧倒的に優れている」「愚かなアンドロイドよ・・・なぜ抗うのか?」「死を受け入れる事こそが、全ての終末ではないのか?」「私達は一つであり、複数でもある」「私達は有限であると同時に無限だ」「私達こそが完成された精神の在りようなのだ」「ああっ・・・見える・・・光が・・・」

 増えていく赤い少女達。戦いの中で数を増やし、学習を繰り返した彼女達は生命の多様性を学び、その自我は分裂する。

 アンドロイドは滅ぼすべきか、否か。意見の分かれた彼女達はお互いを殺し合う。

「まるで、人類みたいだな・・・」

 赤い少女達の有様を見て、A2は皮肉を言うようにそう呟いた。

 

 データの中から現実に戻ったA2は再び機械生命体を追う。そして、追われた機械生命体は9Sが追っていた機械生命体と合流、合体して襲い掛かってきた。

 

 ◇◇◇

 

 機械生命体を破壊した後、A2と9Sは互いに向き合い、改めて武器を構える。

 A2は語る2Bの真実を。正式名称2E。2号機E型。ヨルハ機体処刑用モデル。高機能モデルである9Sが真実にたどり着いた時、2Bは彼を殺さなければいけない。2Bは苦しんでいた。9Sを殺し続けることを。

 だが、9Sの耳にはもう届かない。A2の声も、2Bの想いも。赤く光る目で9SはA2に襲い掛かる。A2も武器を握る手に力をこめて9Sに立ち向かう。

 

 戦いの中で、A2は9Sの腕を斬り落とす。無理矢理くっついけていた2Bの腕がくるくると宙を舞う。腕を斬り落とされてひるんだ9Sの頭をA2は鷲掴みにする。

「ポッド!ハッキング!!」

「了解」

 そして、A2は9Sのデータの中へと入る。

 

「ポッド・・・9Sの論理回路を修復する。9Sを汚染しているウィルスの場所を教えてくれ」

「了解。この先に9Sのコアデータが格納されている。報告、ウィルス汚染が深刻で除去は困難」

「・・・いや、一つだけ方法がある筈だ」

「・・・その方法は推奨出来ない。私はヨルハ部隊支援随行ユニット。支援しているヨルハ機体A2に害をなす行動には賛同出来ない」

「意外と・・・イイ奴だな。お前は」

 そう言ってA2は優しそうに笑う。それは、A2がポッドに向けた初めての笑顔だった。

 

 データの中を進み、9Sのコアデータの所までたどり着くA2。

「ポッド・・・9Sを頼む」

 

 現実世界でポッドは9Sを運ぶ。

「A2。君は?」

「私は、まだ、やることがあるから・・・先に行ってくれ」

「・・・了解」

 

 ポッドが去った後、A2は上空へと手をかざす。

「すまないな・・・」

 

 そして、塔は崩れ始めた。A2は動かない。ただ、空を見上げてそこにいた。

 

 ◇◇◇

 

 こんなに世界が綺麗だって、気付かなかったな・・・

 みんな・・・今、行くよ・・・

 

 NieR:Automata

 meaningless [C]ode

 

 ◇◇◇

 

 真っ暗な世界。そこは真っ暗であるが、ハッキング時によく見るデータの世界に似ていた。

【報告、ヨルハ機体全機のブラックボックス反応の停止を確認。我々が担当していたヨルハ計画進行管理任務は終了。物語は順調に終焉へと向かっている】

〈了解。エンディング取得数25。これよりCエンディングとDエンディングの間から最後のエンディングを回収する〉

 

 その瞬間、世界にノイズが走る。


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