アンドロイドはエンディングの夢を見るか?   作:灰色平行線

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ここからずっとオリジナル展開のターン?
今までのエンディングタイトルに倣って「?エンド」にでもしておきます。
作者の足掻きはまだ続くのです。


do androids dream of ending[?](前)

 きっかけはレジスタンスキャンプで謎の女性型アンドロイドに出会ったことだった。

 彼女は自らをアコールと名乗り、レジスタンスキャンプの武器屋に届け物をしに来たのだと言った。その後、武器屋に荷物を手渡した後、そのままどこかに去っていった。2Bとは自己紹介くらいの会話しかしなかったが、彼女の事はよく覚えている。

 ある意味では彼女こそが、2Bがエンディング集めを始めた原因だと言っても良いのだから。

 アコールは去っていく時に、何かを落としていった。それはチップのようで、中には何やらデータが入っている。届けようと思ったが、レジスタンスキャンプのアンドロイド達は彼女が普段何処にいるのか誰も分からない、次に来た時に渡せばいいと言う。ポッドに調べてもらっても、アコールの居場所を見つけることはできなかった。

 2Bはチップをどうしようか悩んだ。そして、チップについて考えている内に、深い意味もなく、ただの興味本位で、なんとなく、チップの中のデータを見てしまった。

 

 ◇◇◇

 

 並行世界No.――――について。

 これまで様々な分岐による並行世界について観測してみたが、この世界はどうも他の並行世界とは違うようだ。今までに見てきた並行世界が1本の木から枝分かれしたものだとすれば、この並行世界は木の隣にもう1本同じ種類の木が生えているようなものだ。ただし、こちらの木は先に生えていた方に比べると随分と細く弱々しい木だと思う。

 その代わりに、こちらの並行世界には今までに見られない奇妙な特徴を有していた。ある特定のポイントで世界がループするのだ。まるで、読み終わった小説をまた最初から読み直すように同じ時間、同じ出来事を延々と繰り返している世界。ある意味、完結してしまっている世界。仮に時間を巻き戻る地点を「エンディング」と名付けよう。この世界の物語には複数のエンディングが存在するらしい。その数は26。どれも特定の物語の進行地点で特定の行動をとることによってエンディングは発動する。物語を成り立たせるにしては少ない気がするが、それでこの世界はループを繰り返すことが出来ている。

 ただ、先程も書いたようにこの世界は他の並行世界と比べると弱々しく感じる。何かちょっとしたきっかけで世界のループ構造が崩れてしまう可能性もある。まあ、既に完成してしまっている世界にそんな変化が簡単に訪れるとも思えないが。

 これ以上何も変わらないようであれば、この世界の観測は終了してしまってもいいだろう。

 

 ◇◇◇

 

 最初は特に何も感じなかった。機械生命体との戦いには必要の無い情報であり、自分には関係のない情報だと。2B記憶の中に残ったとある並行世界に関する情報を邪魔だとは思わなかったが、特に気にすることもなかった。

 その後、しばらくして2Bは崩壊するバンカーから地上へ逃げ、最終的に商業施設でA2に殺された。A2に全てを託し、自分はここで終わるつもりだった。

 

 そして2Bは気がつくと、飛行ユニットに乗って敵大型兵器を破壊するために廃工場の中にに突入していた。記憶を持ったまま過去に戻ったというよりは、過去に戻って少し経ってから記憶が戻るような感覚。そこで2Bはアコールの落としたチップの中に入っていたデータを思い出す。既にチップは手元にないが、記憶だけはしっかりと残っている。ループする世界とはこの世界のことだったのだと。

 

 並行世界というのは、大きく分けて2種類存在する。「原作」と「二次創作」だ。「原作」は「二次創作」よりも立場が上の世界。例え世界を自由に移動する能力を持っていたとしても、二次創作の存在は原作に介入できない。

 チップに書いてあった、「この世界が他の並行世界に比べて弱々しい」という事実。なにより、木に例えられた言葉がこの世界の2Bの存在を否定した。

 2Bは考えた。私は本物の2Bではない。数多の並行世界に存在する、2Bというキャラクターの模造品に過ぎないと。そして2Bはこうも考えた。もしも本当にこの世界が並行世界なのだとしたら、この世界が1冊の小説を繰り返すようにループしているのだとしたら、その枠組みを破壊してしまうのは簡単なのではないか?と。データの中にあった「小説」という例え。これは「原作」の世界での出来事と同じ出来事をこの並行世界繰り返しているのではないか?ならばその物語のような枠組みを取り外してしまえばどうだろうか?定められた物語が消えれば、物語の途中で死んでしまった者達や、絶望してしまった者達も救えるのではないだろうか。

 幸いなことに、ループを破壊するためのきっかけはもう掴んでいる。現在の2B自身だ。時間が巻き戻る前の記憶、前回の周回の記憶を2Bは持っている。それは、2Bが並行世界やこの世界の仕組みについて理解してしまったことによって生まれた世界に対するバグのようなものだ。

 だからこそ、2Bは決めた。この世界で生きる者達の未来を救ってみせると。決められた死も、定められた絶望も、確定された悲劇も、全てを変えてみせると。

 それはきっと2Bである必要はなかったのかもしれない。長い長い繰り返しの中で、たった1人でも気付くことができればそれでよかった。そして、それが偶然2Bだったというだけのことだ。

 だけど、2Bは変えると決めた。世界のループを、物語を破壊すると決めたのだ。例え自分の世界が二次創作だとしても、自分が本物の2Bでないとしても、彼女は自分にとっての現実を救うと。未来の訪れない世界で未来を掴み取ると、そう決意した。


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