アンドロイドはエンディングの夢を見るか?   作:灰色平行線

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この2Bなら3週目に死んでも9Sはわりと平気そう。


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 司令官に呼び出された2Bと9Sは、司令部に向かう。

 司令部で2人は司令官から地上にいるレジスタンスと協力して情報収集するという任務を与えられた。レジスタンスとの連絡役だった先任のヨルハ隊員とは連絡がとれず、この辺りも含めての情報収集とのこと。

「最後に、2B」

「はい」

「バンカー内で自爆はするなよ?」

「?・・・了解」

「いいか、絶対だぞ?遠まわしに自爆しろと言っている訳じゃないからな?」

 しつこいくらいに司令官は2Bに対してバンカー内での自爆禁止を言ってくる。自爆などする訳がないではないか。そんなことをすればバンカーが落ちてしまう。

 不思議そうに司令官を見つめる2Bの横で、もしかして司令官にもあの記憶があるのだろうかと9Sは苦笑いで考えていた。

「一応9Sにも言っておく。お前はそんなことはしないと思うが、バンカー内で自爆はするなよ?」

「わ、分かりました」

 まさかこっちにも飛び火するとは思わなかった。その後、任務に向かう準備をしながら2Bは「司令官のあの言葉だと、私は自爆すると思われているのか?」と言っていた。

「むしろ思われない方が難しいよ・・・」

 そんな9Sの小さな呟きは、2Bには聞こえていない。

 

 ◇◇◇

 

 2人が無事地上に着いたという報告を受け、司令官はほっと息をつく。飛行ユニットで地上にむかうと、どうしても地上に着くまでの間に事故や敵の攻撃で死んでしまう可能性がある。そのためにも早く転送装置の配備を進ませねばと考えいた。

 安心して心に余裕が生まれたせいか、1つの疑問が浮かぶ。あの記憶は何なのか。鳴り響く警報、揺れるバンカー、2Bが自爆したという報告。その全てがはっきりと思い出せる。そのせいで2Bにもあんなことを言ってしまった。

 司令部にいる他のアンドロイド達にそれとなく聞いてみても、全員何のことか分からないと言った様子だった。本当になんなのだこれは。どうすればいいのだ。

 そんなことを考えていると、オペレーターの6Oが「あっ・・・」と短い声をあげる。

「どうした?」

「2Bさんの・・・ブラックボックス反応が消失しました」

「なんだと?」

 ブラックボックスはアンドロイドの動力源だ。その反応が消えるということは、アンドロイドにとっての「死」を意味する。

「司令官、ヨルハ機体9Sからの通信が届いています」

 別のオペレーターが冷静に告げる。

「繋いでくれ」

 司令官がそう言うと、司令部のモニターに9Sの顔が映し出される。

「9S、状況を報告してくれ」

「は、はい。地上に着くまでの間に機械生命体に襲われて戦ったんですが、2Bへの攻撃が当たり所が悪かったようで、OSチップが外れてしまったんです」

 報告する9Sは少し混乱しているようだった。

 OSとは、コンピューター全体を管理し、制御するシステムのこと。大抵の機械にはOSが入っており、それはアンドロイドも例外ではない。体からOSが外れれば動くことも考えることもできなくなってしまう。

「分かった。2Bはこちらで復活させておく。9S、お前は先にレジスタンスキャンプに行って現地のレジスタンスと合流してくれ」

「了解しました」

 そう言って通信は切れる。2Bの自爆の記憶がまだ頭に焼き付いているというのに、いきなり2Bの死亡報告を受けるとは思わなかった。まさか2Bは自分から死のうとしているのではないか。

「いや、まさか・・・な。さすがに考えすぎか」

 戦争中なのだ。死んでしまうのは仕方のないことだ。やはり、転送装置の配備を急いだ方が良いだろう。司令官はそんな風に考えていた。

 

「はぁ・・・」

 通信が切れて、9Sはため息をつく。横には、倒れている2Bの姿があった。

 敵との戦闘で2BのOSチップが外れてしまった。そんなのは真っ赤な嘘だ。軽くダメージを受けはしたが、2Bも9Sも無事に地上にたどり着いた。

 ならば何故2BのOSチップは外れたのか。いいや、外れたのではない。2Bが自分で外したのだ。

 地上についた直後、9Sが止める暇もなく彼女はOSチップを取り外し、その瞬間動かなくなった。こんなことを司令部に報告する訳にもいかず、9Sは嘘をつくことにした。

 バンカーで復活して、2Bはまた地上へやって来るのだろう。2Bと合流することを考えると気が重くなる。

 9SのようなS型のヨルハ部隊は現地調査が主な任務だ。そのため普段は単独で行動することが多い。だからこそ、2Bとの合同での任務は本来、9Sにとっては嬉しいことのはずだった。だが、今は1人の方が気が楽だったとすら思い始めている。次はどんな奇行を目にしなければならないのか。そう考えるだけで気が滅入る。ちょっと天然で変わった娘なんて可愛いものじゃない、バンカーでの自爆、OSチップ取り外し、2度の自殺によって裏付けされた、本物の奇行だ。

「任務、別の人が来てくれないかなあ・・・?」

 誰もいない廃墟と化した都市で、9Sは1人、そう呟いた。

 

 ◇◇◇

 

【危険】【取扱注意】

 OSチップは決して外してはいけません。外すと死亡します。

 

 NieR:Automata

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 ◇◇◇

 

 気がつけば、2Bは廃墟都市のビルの上に降りていた。上を見れば2人が降りた無人の飛行ユニットがバンカーへと帰っていくのが見える。

 2Bは自分の中のデータを確認する。データの中のエンディングの項目を見つけ、開く。そこには、「エンディング取得数3」という文字が書かれていた。

 状況を見るに、やはり時間が戻っていると考えるべきだろう。あのまま時間が進んでいれば自分はバンカーで目覚めているはずだ。

 まあ、2Bにとってそこは問題ではない。バンカーで目覚めようが過去に戻ろうが彼女のやることに変わりはない。彼女にとって問題なのは・・・。

「・・・即死、だったのか・・・?」

 OSチップを取り外したという自覚もないままに、気がつけばここで目が覚めていた。エンディングの取得数が増えているのを確認したため、無事とは言い難いが、エンディングはちゃんと迎えられたのだろう。これが「即死」の感覚だというのなら、苦しみの無い分、こちらの方が殺す方も殺される方も楽で良いのかもしれない。

「あの、2B?どうかしました?」

 そんな風に1人で考えていたら横で9Sが心配そうにこちらを見ていた。

「ああ、9S。・・・何時からそこに?」

「何時からって・・・一緒に来たのに何言ってるんですか?」

 そういえばそうだった。任務のことすら忘れてしまうとは、エンディングのためとはいえ、あまり軽々と死ぬのも考え物なのかもしれない。

 その後、司令部から貰った情報を頼りに2人はレジスタンスキャンプを目指す。前を走る2Bはこれからどう動くかを考えていた。

 しかし、彼女は知らない。彼女の後ろを走る9Sがエンディングの記憶を持っていることを。

 9Sは知らない。2Bがエンディングの記憶を持っていることを。

 2人は知らない。司令官がエンディングの記憶を持っていることを。

 お互いにお互いを知らないまま、2Bの奇行は続く。


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