当然のことですが、ゲーム中にこんな武器は存在しません。
ウェポンストーリー「灰色の王刀」
Lv:1
とある王家に伝わるその刀は、刀が王と認めない者が握ると刀身が燃え、
握った者を焼き尽くし灰にするのだという言い伝えがあった。
刀の持ち主であった王様はある日病に倒れ、そのままこの世を去った。
Lv:2
刀は王様の息子である王子へと譲られたが、王子が刀を握ったその瞬間、
刀は燃え、王子を焼き殺して灰にした。家来達は慌てて次の王様を決めるために、
全ての国民を城へと集め、1人1人順番に刀を握らせた。
Lv:3
男も女も子供も老人も貴族も平民も関係なく、刀は握った者を焼き殺した。
刀が人を焼き殺す度、国には灰が舞った。そして、最後に刀を握ったのは、
城に努める兵士の1人だった。刀は燃えなかった。
Lv:4
新しい王の誕生を祝う者はいなかった。
灰色が覆うその国で、新しい王様は静かに刀を自分に刺した。
こうして、国は滅んだ。
◇◇◇
「それがその刀に記録されていたウェポンストーリーですか・・・」
2Bの握る刀を見ながら9Sは呟く。
「僕達もいろいろな武器を集めていろいろなストーリーを見てきましたけど、武器の魅力・・・というか魔力にとりつかれて人を斬らずにはいられないって感じのは結構ありましたけど、武器が直接持ち主を殺すというのは初めて聞きますね」
そう言って刀を見ていた9Sだったが、ふとあることに気付く。
「あれ?そういえば、その話が本当なら、2Bは刀に王と認められたってことですか?実際燃えていない訳ですし」
不思議に思った9Sがそう言うと、2Bは表情を変えずに9Sに刀を向ける。
「・・・試しに持ってみる?」
「いや燃えたらどうするんですか。ってか刃の方を向けないでください」
持たせる気があるのだろうか。殺す気ならありそうな気がするが。
「大丈夫。アンドロイドは死んでも復活できる」
「いいんですか!?『今』の僕は戻って来ませんよ!本当にいいんですか!?」
あれ?2Bってこんなにドライというか冷たい性格だったっけ?9Sはなんだか泣きたくなってきた。
「冗談。それに多分握っても燃えはしないと思う」
「2Bでも冗談って言うんですね・・・それで、燃えないというのは?」
「少し考えれば分かることだけど、9S、貴方はこのウェポンストーリーを全部読んでいる。それが答え」
「確かにウェポンストーリーは最後まで読みましたけど・・・あ」
武器に遺された記憶。ウェポンストーリー。武器に刻まれた物語を最後まで読むためにはその武器を最後まで強化する必要がある。つまり、武器を鍛えた者もこの刀を握っているのだ。
考えてみれば単純な事だった。そういうことならばと9Sは2Bから刀を受け取り、握ってみる。
その瞬間、9Sの体が炎に包まれ燃え上がった。
「あっつい!?」
慌てて近くを流れていた川に入って火を消す9S。灰にならずに済んだのは人間ではなくアンドロイドだったが故か。
「も、燃えた・・・大丈夫だと思ったら・・・コレ武器強化した人は燃えなかったんですよね?」
「うん、正宗は燃えなかった」
愕然としながら聞く9Sに2Bは無表情で頷く。
「よく考えてみたら、この刀は王と認めない者は焼き殺すとは書いてあるけど1人しか認めないとはどこにも書いてない・・・つまり・・・」
2Bと正宗は王と認める。9Sは認めない。そういうことなのだろう。
「まあ、仕方ないと言えば仕方ないか。この刀が9Sを王と認めたくない気持ちも分かる」
「え?仕方ないんですか?」
なぜだか2Bの中で9Sの評価がどんどん下がってる気がする。2Bが奇行を起こすことはあっても自分は真面目に生きているつもりなのだが。
「だって9S、自分の手で武器を振らないもの。武器を浮かせて操ってる感じのアレだから、武器側としては不満があるんだと思う」
「えー・・・確かに武器を直接握って使うということはあまりしないですけど一応ちゃんと戦えていますし、それが僕の個性という見方も・・・」
「甘い。甘いよ9S。栗きんとんより甘いよ。食べたことないけど」
「栗きんとんは甘さ控えめな方だと思う・・・食べたことないけど」
話しているとどんどん2Bのキャラが分からなくなっていく。2Bは真面目な顔をしているが、はたして彼女の本心は真面目なままか・・・。
「とりあえず9Sが剣道とは何かを見極めるために、まずは素振り1000回から始めさせようと思う」
「いや剣道って・・・僕も2Bも刀以外に槍とかも使うのに剣道もなにもあったもんじゃないと思うんですけど」
「口答えするなッ!刀を振れッ!!私のことは軍曹と呼べえッ!!!」
もはや本来の面影など消え失せてしまう程にキャラのブレた2Bが叫ぶ。こうして9Sの剣術修行が始まった。
◇◇◇
2Bの死後、塔にてハッキングも使わずに刀一本でA2と互角以上に戦う武人と化した9Sの姿があったらしいが、それはまた別の話だ。
◇◇◇
気がつくと、2Bは廃工場にいた。またEエンドから戻って来てしまったようだ。
手には灰色の王刀が握られている。結局、他の武器は9SやA2に預けても、この刀を誰かに渡すことはなかった。焼いてしまったら意味がない。
廃工場の壁に開いた穴から海が見える。とりあえず先に進まねば。だがその前に。
「さすがにこんな危ないものをずっと持ってる訳にはいかないか」
2Bは刀を海に投げ捨てた。
少し身が軽くなったような気がした。そんな彼女の周回はまだまだ続く。