パスカルの村。
その村の機械生命体は皆、戦いから逃げてきた平和主義者ばかりだ。
村の長であるパスカルは、村の雑用をしたり村の子供達に勉強を教えたりして過ごしていた。
ある日のこと。
「ねぇねぇ!パスカルーおジチゃん、あそンデー!」
「あそンデー!」
今日の分の勉強が教え終わると3人の子供達が無邪気にパスカルにそう言う。
「はい、勉強したら遊ぶ約束ですもんね。今日は何をして遊びましょうか」
「ウーントネー・・・ア、ソウダ!」
子供達の内1人が元気よく手を上げる。
「パスカルおジチゃん、『ヤキュウケン』シヨー!」
「やきゅうけん?はて、聞いた事のない遊びですね」
「ジャーおしエテあげルー!」
◇◇◇
数日前のこと。
2Bと9Sはパスカルの村で悩んでいる子供達を見つけた。
「どうしたの?困り事?」
9Sがそう尋ねると、子供達は「ウン」と頷き、9Sに1枚の紙を手渡す。
紙はボロボロで汚れていて、何か文字が書いてあるようだが読めない部分がほとんどだった。
「何かの本のページの切れ端かな?えーと・・・野球拳・・・遊ぶ・・・?」
「ソノ『ヤキュウケン』ッテどうイウあそビなのカナーッテ話シ合ってタノ」
子供達は「ナンだろウネー」「ソモソモ『ヤキュウ』ってナンだろウ」「拳ト拳ガ唸ル熱イ戦イノ予感ガスルゼ!」と思い思いに喋っている。皆は野球拳という未知の遊びに興味津々だ。
「ポッド、何か知らない?」
「野球拳とは歌い踊りながらジャンケンを行う人類の宴会芸・郷土芸能。本来は三味線と太鼓という楽器の伴奏に合わせて歌い踊るが、パスカル村にはどちらも期待はできない。推奨、とりあえずジャンケンだけ覚えてもらう」
2Bが聞くと、ポッドは簡単に説明を始める。なんだかノリノリに感じたのは2Bの気のせいだろうか。
「ジャンケンとは片手で3つの形を作り、その形によって勝敗を決める。拳を握る『グー』、指を2本だけ残して握る『チョキ』、指を開いたままにする『パー』の3つの内のどれかを『じゃん、けん、ぽん』の掛け声と共に出す。グーはチョキに強く、チョキはパーに強く、パーはグーに強い。同じ形が出た場合、また、3人以上で遊びグーチョキパーが1つずつ同時に出た場合、引き分けとなり『あいこでしょ』の掛け声と共に再度手を出す。なお、人数が多い場合、決着をつけるのに時間がかかるため『うらおもて』と呼ばれるジャンケン方式をとることもある。やり方は・・・」
「ちょ、ちょっとストップ!ジャンケンのやり方は分かったからまずはジャンケンをやってみよう!?」
「・・・了解」
放っておくといつまでも喋り倒しそうなポッドを9Sは慌てて止める。普段では考えられないくらいにベラベラと喋り続けるポッドに少しだけ恐怖を覚えた。
子供達と遊んでみてとりあえず皆ジャンケンのルールは覚えた。
「それで、野球拳って具体的にはどうするの?楽器はなくてもルール次第なら出来るかもしれない」
2Bはまたしてもポッドに説明を求める。
「本来、野球拳とは3人1組で行う団体戦あり、ジャンケンをして負けたら次の人がジャンケンをするという勝ち抜き戦に似た方式で行い、3人負けた方の負けというルール」
「3人1組・・・」
2Bは周りを見回す。子供達が3人。2B、9S。全部で5人だ。
「やるにしても1人足りませんね」
「エーあそベナイのー?」
9Sの言葉に子供達は残念そうな声をあげる。
「・・・一応、もう1つ別の野球拳が存在する」
「別の?」
ポッドの言葉に2Bは首を傾げる。
「本来の野球拳とは違う形であるが、人類文化に広く知られることとなった野球拳。1対1でジャンケンを行い、負けた方は衣服を脱いでいくというもの」
「ふ、服を!?」
9Sが叫ぶ。
「服をどこまで脱がせば勝ちになるのかは個人個人だが、ジャンケンに負けた罰ゲーム的な意味が強い」
「いやいやいや、やっぱりダメだって!は、裸なんて!」
「・・・」
2Bは若干引いていた。やけに慌てる9Sに対してもそうだが、そんなことを知っているポッドに対しても引いていた。そんな知識何処で身につけたんだ。
「デモ、僕達服ハ着テないヨ?」
子供達の1人がそう言った。
「そっか、うーん・・・」
2Bは考える。そこまで人数を必要とぜず、野球拳としても成立する方法を。
「・・・負けたら服の代わりにパーツをもぎ取ろう」
「なんだか一気に猟奇的になったんですけど!?」
「パーツを外すノ?」
9Sは恐れるが、子供達は無邪気に聞き返す。度胸があるのか、怖いもの知らずなのか。
「そう、負けたら片脚のパーツを外す。その後は負ける度にもう片方の脚、片腕、もう片方の腕と順番に外していく。腕が無いとジャンケンできないから、先に相手の腕を両方奪った方の勝ちってことで」
「キャー!」
2Bの言葉に子供達は黄色い歓声をあげる。
野球拳は一応完成したが、喜ぶべきなのか、9Sには分からなかった。
◇◇◇
「・・・ッテイウあそビ!」
「な、なんという・・・なんという・・・」
子供達の言葉にパスカルは愕然とした。なんて恐ろしい、なんて残酷な・・・。だが、最も恐ろしいのは、この残酷な遊びを子供達が嬉々として語っている事だった。
パスカルは心に決めた。子供達に「恐怖」を教えねば。危険な事をして命を落とさぬように。子供達を守るためにも「恐怖」を知ってもらわねば。
それが、崩壊への始まりになるとは、この時のパスカルは思いもしなかった。