アンドロイドはエンディングの夢を見るか?   作:灰色平行線

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本来物語に存在すらしなかったモブキャラに起きた物語。


Darwin's evolution (上)

 廃墟都市の北の北。ずうっと北に行った所。2Bや9S、A2といったアンドロイド達が活躍する物語の中の舞台とは全く関係ない場所で、そのアンドロイドはあるモノを探していた。肩まで伸びた赤い髪。黒い服装に特殊な戦闘用ゴーグルが、彼女がヨルハ部隊のアンドロイドであることを表していた。

「どこにもいない・・・」

 ボロボロに朽ちた建物の中で彼女は独り言を呟いて、周りを見渡しながら歩く。一応、何時襲われてもいいように手には刀を握っておく。

 昔、ここは「学生寮」と呼ばれ、「アパート」や「マンション」と呼ばれていた建物とは別に、多くの人間が集まって暮らしていたのだとか。

 建物の内部は薄暗い。建物の外側に位置する部屋はともかく、内側に位置する廊下は光があまり届かない。部屋と廊下を分ける扉がほとんど壊れて存在しないも同じになっているのがせめてもの救いか。必要となったら随行するポッドに灯りでも点けてもらおう。

 廊下を慎重に進んでいくと、上から爆発音が響く。上からホコリが舞って落ちて、建物が少し揺れたような気がする。

 次の瞬間。天井に大きな穴を開けながら、何者かが落ちてきた。

「!!」

 刀を構える。落ちた衝撃で煙が舞い上がり、相手の正体が見えない。このまま考え無しに動くのは危険だ。彼女は状況が変わるまで黙って待った。

 煙が薄れ、その中に立つ者の正体が明らかになっていく。

 そこにいたのはアンドロイドによく似た後ろ姿だった。白く長い髪を首の後ろで針金のような物で縛っている。高い身長や服装を見る限り、少なくともヨルハ部隊でないことは確かだろう。

「アンドロイド?・・・いや、この反応は・・・」

 見た目はアンドロイドによく似ている。だが、彼から感じるのは機械生命体と同じ反応だった。

「推測、目の前の機械生命体が手に所持している物は、目標の物である確率が高い」

 ポッドに言われて彼女は男の手に注目する。

「ッ!?」

 男の片手にはアンドロイドの腕が、もう片方の手には機械生命体の腕が握られていた。

「一体どうなってるの・・・!?」

「ん?ああ、まだ誰かいたのか」

 男が振り向く。

「アンドロイドか。お前、随分と強そうだな」

 そう言うと男は持っていた機械生命体の腕を彼女に向かって放り投げる。

 反射的に飛んできた機械生命体の腕を刀で破壊するが、その間に男は彼女に近づき、自由になった手で彼女の顔を掴んで地面に叩きつけようとする。

「ポッド!!」

「了解」

 男に向かってポッドがレーザーを放つ。レーザーは男に当たらなかったが、男は後ろに跳んでレーザーを避け、男から離れることには成功した。

「貴方、一体何者なの?」

「ん?俺か?」

 彼女の言葉に男は首を傾げる。とっさに言ったことだったが、どうやら会話はできるようだ。

「俺の名はダーウィン。進化を求める機械生命体だ」

「ダーウィン・・・」

「そう、ダーウィン。良い名前だろう?昔の人間からとったんだ」

 そう言ってダーウィンは笑う。

「こうして敵と話すのは初めての試みだな。アンドロイドも機械生命体も話なんてせずにすぐ殺すからな」

「機械生命体もって・・・仲間なのに殺すの?」

 彼女がそう言うと、ダーウィンは途端に不機嫌な顔になる。

「機械生命体なんて仲間じゃない。奴らはネットワークで繋がっていないといられない脆弱な存在だ。皆で同化していることが1番優れていると思って俺のようにネットワークから離れて個別の強さを求めようともしない。俺はダーウィンという個体ではない個人として成長して進化するのだ!誰にも真似できないダーウインだけの進化を遂げるのさ!!どうだ、カッコイイだろう!?」

 まるでお偉いさんの演説のように、ダーウィンは腕を広げて叫ぶ。興奮しているのか、腕を広げた瞬間に持っていたアンドロイドの腕を放り投げてしまう。

「そういえば、名前を聞いてなかったな。お前の名前はなんというんだ?」

「・・・4E」

「そうか、4Eか。良い名前だな!よく分からんが、良い名前だ!」

「・・・そう」

 なんなのだろう、この機械生命体は。今までに会ったことのないタイプだ。アンドロイドによく似た見た目をしている機械生命体の存在なんて聞いたことがない。それに機械生命体とここまで会話が成立していること自体が異常なことだった。

「ところで、この近くで15Bって名前のアンドロイドを見なかった?」

 15B。4Eは彼女を探してここに来ていた。ただし、彼女を助けに来た訳ではない。彼女を殺しに来たのだ。あまり知られていないが、ヨルハ部隊E型は裏切り者や脱走者を処刑するためのモデルだ。4Eは脱走者である15Bを殺すためにここに来たのだ。

「いや、分からん。名前なんて聞かずに殺しちゃうからな。さっきも1人アンドロイドを殺したがもしかしたらソイツかもしれんな」

「そう・・・」

 ダーウィンの言葉を聞いて、4Bはダーウィンの開けた穴から上の階に行こうとする。腕しか持っていなかったのなら、上に死体が残っているかもしれない。

「うん?戦っていかないのか?俺は敵だぞ?機械生命体だぞ?」

 ダーウィンは4Bに問いかける。だが、その口調は軽い。そんなことを言うならもう少し緊張感というものを持ってほしい。

「機械生命体を殺すような機械生命体を敵とは思えない」

「アンドロイドも殺すぞ?」

「・・・」

 そういえばそうだった。上にあるかもしれないアンドロイドの死体も作ったのはコイツだった。やっぱり戦うしかないのだろうか。

「まあ、お前はいいや。話してたら気が乗らなくなった。お前は運が良いな!俺に殺されなくてすむなんて!じゃあな!次に会ったら殺し合おう!」

 そう言ってダーウィンは手を振りながら去っていった。不思議な機械生命体だ。他の機械生命体とは明らかに違っている。性格はアレだが悪意を持っているようには思えなかった。

 

 上の階で機械生命体とアンドロイドの死体を見つけた。機械生命体の方はどうでもいいが、アンドロイドの方は思った通り、15Bだった。

「・・・任務、完了」

 自分の手で殺した訳ではないが、15Bが死んでいるという事実は確認できた。ならば、それでいい。

 バンカーに帰ろうとして、ふと4Eは考えた。

 

 自分は何故、ダーウィンと戦うことを躊躇したのだろう?




ゲーム内に同じ名前のアンドロイドが登場してないことを願うばかりです。

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