「また会ったな!4E!約束通り殺し合おう!」
私はそんな約束なんてしていない。
「4Eか!偶然だな!ここで会ったのも何かの縁だ!殺し合おう!」
嘘を言うな。偶然な訳がないだろう。
「4E!武器を拾ったんだ!まだ使えるぞ!殺し合おう!」
理由すらつけなくなった。
「4E!早速だが殺し合おう!」
止めて。そんな笑顔でそんな物騒な事を言わないで。
「4E!」
止めて。その笑顔を私に向けないで。
4Eはアンドロイドの処刑を目的として作られたE型モデルだ。アンドロイドと戦うことを目的としているため、当然ながら彼女の戦闘能力はかなり高い。そして彼女は任務に忠実だった。それが任務ならば彼女は上司だろうが仲間だろうが親しい間柄だろうが怯えて泣きわめきながら命乞いをしようが殺す。任務に感情は持ち込まない。
だが、彼女は決して殺すことを何とも思っていなかった訳ではなく、むしろ、彼女は争いを嫌う性格のアンドロイドだった。争いを好まず、対立を嫌う。それでも、E型故に敵も味方も殺さなければならない。
だから彼女は仕方ないと思うことにした。戦争だから機械生命体を殺すのは仕方ない。任務だからアンドロイドを殺すのは仕方ない。嫌だけど、E型だから仕方ない。
だからこそ、ダーウィンという機械生命体のあり方が理解できなかった。自分のために、機械生命体もアンドロイドも殺す。嫌々ではなく、自分から進んで殺す。
そんなダーウィンは、4Eと会えばいつも「殺し合おう!」と言って襲い掛かってきた。その度に4Eはダーウィンと戦っていた。そしてある程度時間が経つとダーウィンは戦闘を止めてしまう。
「このままでは決着はつかない!今日はもう止めておこう!次会う時までに俺はもっと強くなっておく!次こそ決着をつけよう!」
そう言ってダーウィンは去っていく。学生寮で初めてダーウィンと出会ってから、ずっとこのような感じで4Eとダーウィンの関係は続いている。
「そう言えば、なんで貴方はアンドロイドみたいな姿をしているの?」
「アンドロイドと初めて戦った時にな、こっちの体の方が動きやすそうだと思ったんだ!それで体を改造してみた!カッコイイだろう!?」
戦いの中でダーウィンと4Eは何度も言葉を交わした。何度も出会い、戦いというコミュニケーションによって、少しづつ2人の中の何かが変わっていった。
◇◇◇
機械生命体のネットワークを統括する存在が倒され、機械生命体は大きく弱体化した。アンドロイドは現在最後の総攻撃のための準備をしている。そんな噂をダーウィンは聞いた。
既にネットワークからは外れているダーウィンにとって機械生命体が滅ぼうとどうでもいいことだった。機械生命体が滅んだならばアンドロイドと戦えばいい。そして自分だけはダーウィン個人として成長と進化を続けてやるのだ。
そんな風に考えながら町の中を歩くダーウィンの前に1人のアンドロイドが現れた。
「おお!4Eか!元気だったか?殺し合おう!新しい刀を手に入れ・・・4E?」
言葉が止まる。
ダーウィンの前にいる4Eは普段と様子が違う。目隠しのようなゴーグルをかけていないし、立っているだけなのにフラフラと体が揺れて不安定だ。
いつもならばさっさと襲い掛かるのだが、こうも様子がおかしいのでは戸惑ってしまう。
・・・戸惑う?何故戸惑う必要がある?様子がおかしいとはいえ敵は敵だ。何故躊躇する必要がある?何故立ち止まる必要がある?
しばらく経つと、フラフラ揺れていた4Eの体がピタリと止まる。背筋を伸ばして顔を上げ、こちらを見る。
赤く目を光らせて。
「4・・・E・・・?」
次の瞬間。
「アハハハハハハハハハハッッッ!!!!!」
4Eは大声で笑った。その笑い声に反応するように、同じく目を赤く光らせたアンドロイドが集まる。そして一斉にダーウィンに襲い掛かった。
「4E・・・じゃないな。誰だお前?4Eをどこにやった?なあ、オイ?」
襲い掛かってくるアンドロイド達をダーウィンは次々と斬り殺していく。
「どこにやったって聞いてんだッ!!!」
◇◇◇
気がつけば、ダーウィンの周りにはアンドロイドの死体が散乱していた。目の前には、ぐったりとした4Eが立っている。いや、立っているのではない。ダーウィンの握る刀が腹に刺さっているせいで立っているように見えるだけだ。
腹から刀を抜くと、4Eは力なく地面に倒れた。
「・・・ああ、そうか・・・」
4Eの死体を前にして、ダーウィンは気付く。
「俺は、4Eを殺したくなかったのか・・・」
いつもいつも戦いを途中で止めてしまうのも、4Eを殺したくなかったから。決着をつけたくなかったから。
こんなとき、どうすればいいのだろう?成長と進化の過程で無感情な出会いと別れを繰り返してきたダーウィンには、感情を持って生まれたこの別れに対してとるべき行動が分からなかった。かける言葉も、吐き出す言葉も、分からない。
自覚しているのは、もっと4Eと一緒にいたかったという後悔に似た思いだけだ。
「一緒にいられないのなら、せめて―――」
彼は4Eの体に手を伸ばす。
◇◇◇
「タースケテー!」
とある小さな機械生命体が大きな機械生命体達襲われていた。その機械生命体は、自分が弱かったが故に戦う事が嫌になり、ネットワークから外れて戦いから逃げ出したのだ。
小さな機械生命体は必死に逃げるが、足の速さも大きな機械生命体には及ばない。
もうだめだ。小さな機械生命体がそう思い、頭を抱えてしゃがんだ時だった。
「邪魔だ」
それは一瞬の出来事のように思えた。
突如現れた何者かが大きな機械生命体達を刀で次々と破壊してしまった。
「エ・・?」
それは、アンドロイドの少女だった。少女はこちらをちらりと見ると、背を向けて去っていく。
「ア、アノ!アリガトウ!」
小さな機械生命体はその背中に声をかける。少女の足が止まる。
「別に助けた訳じゃない。邪魔だったから斬っただけだ」
「エ、エエット・・・ソウダ!ナマエハ?」
小さな機械生命体がそう聞くと、少女は少し間を置いて、こう答えた。
「ダーウィンだ。良い名前だろう?」