昔、とあるアンドロイドが機械生命体のウィルスによって死んだ。
そのアンドロイドに特別な想いを抱いていた機械生命体は、アンドロイドの体を修理した後でウィルスを自分の体に移し、自我データをアンドロイドの体に移すことでアンドロイドの体を手に入れた。
アンドロイドとの別れに対して、せめて体だけは一緒にいられるようにと思ったが故に。
だが、アンドロイドとして生き始めた機械生命体の中には虚しさがあった。決して埋めることのできない虚しさが常に機械生命体の中に存在し続けた。
生きていく内に虚しさはやがて機械生命体の心を壊した。別れ方を知らなかったから、「さよなら」の言い方をしらなかったから、何も知らないまま別れを引きずり続けたから。
心が壊れた
そして、物語が終わり、世界が終わり、最初に戻ろうとする頃には、少女は自分が誰か思い出せなくなっていた。
◇◇◇
そして4Eは気付けば学生寮にいた。
学生寮でダーウィンと出会った。
その後も何度も4Eはダーウィンと出会った。
そしてある日ダーウィンは4Eを殺した。
ダーウィンは4Eのために墓を作った。
ダーウィンはダーウィンのまま、虚しさを抱えて生きた。
◇◇◇
そして4Eは気付けば学生寮にいた。
学生寮でダーウィンと出会った。
その後も何度も4Eはダーウィンと出会った。
そしてある日ダーウィンは4Eを殺した。
ダーウィンは4Eの体をバラバラにして、海の中へと捨てた。
ダーウィンはダーウィンのまま、後悔と虚しさを抱えて生きた。
◇◇◇
そして4Eは気付けば学生寮にいた。
学施療でダーウィンと出会った。
その後も何度も4Eはダーウィンと出会った。
そしてある日ダーウィンは4Eを殺した。
ダーウィンは4Eのために何をするべきか分からなかった。
ダーウィンは最後まで何も出来ないまま生きた。
◇◇◇
そして4Eは気付けば学生寮にいた。
学生寮でダーウィンと出会わなかった。
4Eがダーウィンと出会うことは1度もなかった。
4Eはウィルスで死んだ。
ダーウィンは理由の分からない後悔と虚しさを抱えて生きた。
◇◇◇
そして、ダーウィンは気付く。まるでみらいを見ている様な感覚に。まるで同じ時を何度も繰り返している様な感覚に。無意識の内に同じ行動はとるまいとする自分がいることに気付く。
記憶にないことのはずなのに、体が覚えている様な、心が覚えている様な。そうやって何かから抗ってきたような、物悲しい気持ちがあった。
何度やっても4Eは死ぬ。何度やっても後悔と虚しさはダーウィンを生かしながら殺す。そんな繰り返しを記憶はなくともなんとなく覚えている。
4Eを殺したくなかった理由はきっとこの繰り返しだろう。自分が思っている以上にダーウィンは4Eに出会っていたのだ。出会った数の多さが、一緒にいた時間の長さが、ダーウィンにそんな感情を与えていた。4Eに惹かれていたのだろう。
何度やってもダメならば、何度やっても別れがくるのならば、せめて一緒に居よう。
もう何度目かも分からないの繰り返しで、ダーウィンは抗うことを諦めた。代わりに彼は別れが来る日までなるべく4Eと一緒にいようとした。
出会って、一緒にいて、分かれて、また出会って、一緒にいて、そして分かれて。
ストーカーだと思われたこともあった。命を狙われていると思われたこともあった。敵にしかなれなかったこともあった。仲良くなれたこともあった。例えどのような関係になろうとも、ダーウィンは4Eと一緒にいようと。いつか来る別れの日まで。何度でも。
いつの日か、奇跡でも起こってくれないかと考えながら。
◇◇◇
そして、どこかの誰かの手によって、物語は破壊される。
◇◇◇
廃墟都市の北の北。ずうっと北に行った所。そこにある学生寮でアンドロイドは探し物をしていた。別に誰かを処刑しようという訳じゃない。個人的な目的のためだ。
何を探しているのかはアンドロイド本人にも分からない。だが、ここに来れば探し物が見つかるような気がしたのだ。
そんな漠然とした思いでアンドロイドは学生寮の中を歩く。あやふやで、曖昧だが、大事な事だと胸を張って言える。
アンドロイドが学生寮の廊下を歩いていると、突然天井が崩れて上から何かが落ちてくる。その何かは見事な着地を決めると、アンドロイドの方を振り返る。
それは、アンドロイド・・・ではなく機械生命体だった。見た目こそアンドロイドによく似ているが、反応は機械生命体のものだ。
機械生命体は手に持った刀でアンドロイドに斬りかかる。アンドロイドもまた、刀を手に応戦する。そうやって何度か火花を散らせた後に、2人は刀を捨てた。
「・・・懐かしいな」
機械生命体は言う。
「記憶にはないはずなのに、こうして斬り合うととても懐かしい気分になる」
「私も・・・」
アンドロイドは言う。
「私も懐かしいよ」
「そっか」
機械生命体は笑う。
「名前、聞いてもいいか?」
「うん」
アンドロイドは笑う。
「そっちも、名前、聞いていい?」
「もちろん」
2人は笑う。
「4E」
「ダーウィンだ」
「良い名前でしょう?」
「良い名前だろう?」