何かゲームに熱中していたとかではなく、単純にネタが思いつかなかったんです。
まあ、最近「喧嘩●長6」買っちゃったけど。
「動画投稿サイト?」
2Bの言葉に6Oは頷く。
「人類はいろんなモノを動画にして記録していたらしいですよ」
久しぶりバンカーに帰ってきたと思ったら、バンカーでは何やら密かなブームが巻き起こっていた。
「●ーチューブとか●コ●コ動画といった動画投稿サイトが昔はあったらしく、そこで皆好きなように動画を見たり投稿していたらしいです」
6Oが手を動かすと、ポッドが画面を開き何かを映し出す。
「という訳でアンドロイドの士気向上には娯楽も必要でしょうし、アンドロイド専用の動画投稿サイト、その名も『アン動画ロイド』をオペレーター達で作ってみたんです!やっぱり時代は笑顔で溢れる職場ですよ!」
ポッドが映し出した動画サイトのトップ画面だった。感情を出すことは禁止されているハズなのだが、もはや建前ですら守る気が全く感じられない。
「これが結構好評でして、例えばホラ」
ポッドが映し出している画面に6Oが触れ、文字を打ち込んでいく。昔の人類文化にスマートフォンだとかいうのが同じような技術を持っていたと記録があったハズだが、液晶に触れるスマートフォンと違い、こっちは空中に映し出している画面に触れている。一体いつそんな技術を完成させたのか。
2Bがそんなことを考えている間に6Oは目当ての動画を見つけたようで、早速再生した。
◇◇◇
「ど、どうも皆さん。な、な、な、9Bです!」
緊張した様子のアンドロイドが画面に映っている。
「きょきょ、今日は!食べると死ぬという噂のアジを食べてみたいと思います!アンドロイドの間で話題になっているアジの噂。ですが、実際にアンドロイドがアジ食って死んだなどという場面は見た事がありません。なので今回、誰もが見られるこの場でアジを食べてみようじゃありませんか!」
そう言うと、アンドロイドはアジの切り身を手に取り、口の中へと入れる。
「・・・こ、これはおい・・・うっ」
そこで映像は途切れた。
◇◇◇
「・・・と、このように普段は緊張して他のアンドロイドと上手く話せないような個体でもこうして動画を投稿する程人気になったのです!」
「・・・」
「他にも・・・あれ?『司令官の部屋に忍び込んでイタズラしてみた』の動画が削除されてる?」
2Bとしてはヨルハ部隊の闇の部分を見せられた気分だった。ある意味ヨルハ計画の真実よりもキツイ。このままでは士気向上どころか戦いそっちのけで動画投稿に勤しむようになってしまうのではないか。
「今はヨルハ部隊だけのサイトになっていますが、いずれはアンドロイド全体のサービスにする予定なんです!」
6Oは意気込んでいる。だが、彼女には悪いがこんなモノを普及させる訳にはいかない。
「なんとかして止めなきゃ・・・」
2Bに使命感が芽生えた。アンドロイドのやりたい放題をなんとしても阻止せねば。
◇◇◇
数日後。
「・・・あれ?この動画・・・」
休憩中の6Oが動画サイトを開くと、1つの新着動画があった。
「投稿者は・・・2Bさん?2Bさんも動画投稿に興味を持ってくれたんですね!」
呑気にそんな事を思いながら動画を再生してみる6O。
その瞬間。
「う・・・アアアアアッ!?」
頭に激痛が走ったかと思ったらそのまま意識を失ってしまった。
被害は6Oだけに留まらない。彼女が動画を再生したのをきっかけとして、ほぼ全てのポッドが同時にに動画を再生したのだ。いや、ポッドだけじゃない。バンカーにある全ての映像を映せる機械も動画再生の対象となっていた。動画を強制的に見せられアンドロイド達は次々と意識を奪われていく。
「全てのヨルハ部隊の洗脳、動画に関する記憶消去を完了」
「よし」
廃墟都市。そこでポッドの淡々とした報告を、2Bは聞いていた。
彼女がやったことは単純だ。動画を1つ作って、誰かが動画を再生したら全員がその動画を見るように細工をしたのだ。
人間は目で見たモノのあらゆる情報を脳に叩きこむ。それはアンドロイドも似たようなモノだ。見たモノを情報、データとして記憶領域に構築する。ならば、もしも動画にウィルスを構築してしまうような情報があったならば、動画を見た瞬間、無意識の内に自信の中にウィルスを発生させてしまうのではないだろうか。
2Bがやったのはそういう事だ。
「しかし2B、動画が流行っていた方が世界が変わり、君の目的も達成できるのではないか?」
「私の目的は物語を破壊すること。そのためには全てのエンディングの取得は絶対必要となる。こんな中途半端な所で世界を変えようとしてもゲームオーバー気味に時間が戻るだけ。物語を壊すにも、物語が終わるまでは物語の通りに動くしかない」
ポッドの質問に2Bは答える。だが、その顔は決して残念そうとか無表情という訳ではなかった。
「ただ、世界がここまで物語とは違った動きを見せてくれたのだから、きっともう物語にヒビくらいは入っているんだと思う。私の周回も終わりが見えてきたよ」
そう言って2Bは微笑むのだった。
◇◇◇
それから時が流れて。
本来、人類の月面基地を狙う砲台としての役割を持っていた塔。
いずれ、宇宙へと飛び出す箱舟を撃ち出すシステムへと変わるその塔で、機械生命体のネットワークそのものであり塔システムを管理する赤い少女はある1つのデータを見つけた。
「これは・・・動画データか?」
塔にはこの世界のありとあらゆるデータが集められる。それはアンドロイドのデータも同じだ。
赤い少女が何気なくそのデータを開くと・・・。
「ぐ・・・うがあああああぁぁぁぁぁッ!!!」
機械生命体のネットワークを通じて多くの機械生命体達の頭にダメージがいったとかいかなかったとか。
実際の所、こんな方法で解決できるかは分かりません。