客観的に自分を見つめると、自分の悪い部分ばかりが見えてくることはないだろうか。自分自身の記憶を見ている14Sが今まさにその状態だった。
どうやらこの14Sの義体に残っていた記憶データは随分と劣化しており、所々の記憶データが破損していて見れなくなっている。さっきまで初めましての挨拶をしていたが、突然ノイズが走ったかと思うと、景色はバンカーの廊下から水没都市の方に移動していた。
「周囲の機械生命体を破壊して補給艦の定期補給の安全を確保してください」
という8Oの通信。
「私とお前の初の共同任務だ。気を引き締めていくぞ」
という37Bの言葉。
「は、はいっ!」
というまたしても緊張した様子の14Sの返事。
この14Sというアンドロイド、どうやら随分と弱気な性格らしい、戦闘はほとんどポッドに任せ、自身はポッドが捌ききれず近づいて来た機械生命体に向かって槍を振るうも当たらない。
14Sが槍を好んで使うのは「リーチがながそうだから」という理由だが、遠距離攻撃をポッドに任せている以上、ポッドの攻撃をかわしてまで近づいて来る相手に槍のような武器では逆に不利だということに14Sも記憶を覗いている14Sも気付いていなかった。
14Sは恐がりながらも一生懸命槍を振るうが、相手に当たらないどころか勢い余って尻もちをついてしまう。そこに中型の機械生命体がジャンプして14Sを踏み潰そうとしてくる。
「させるかッ!!」
そんな機械生命体の体は、横に振るわれた37Bの大剣によって吹っ飛ばされ、海へと落ちる。
「大丈夫か?14S」
「大丈夫ですか?14Sさん」
37Bに心配され、さらには通信で8Oにまで心配される始末。
「はい、大丈夫です・・・」
そう返事はするものの、14Sは力無く項垂れていた。
◇◇◇
またノイズと共に場面が切り替わる。
ここは砂漠だろうか。
「うおおおおッ!!」
叫び声と共に突き出された槍が機械生命体を貫く。強引に槍を引き抜くと、機械生命体は爆発して消えた。
「大分槍の使い方も様になってきたな」
ふうと息をつく14Sに大剣を肩に抱えた37Bが近づく。彼女の後ろには焼け焦げた機械生命体の残骸がたくさん転がっていた。
「はい!これも37Bさんが戦い方を教えてくれたおかげです」
「フッなあに、大したことはしていないさ。私は基本を教えただけだ。そこから先はお前自身の成長だよ」
嬉しそうに微笑む14Sに37Bは笑いかける。
「2人共、仲が良いのは結構なことですが、任務はまだ終わってませんよ?次のポイントに移動してください」
そんな2人に呆れたように笑いながら8Oの通信が入る。
自分があんな風に笑えるようになるまでにどれだけの時間を共に過ごしたのだろう?途切れ途切れの記憶では時間の流れまでは分からない。
だが、皆笑っていた。自然に笑みを浮かべていた。14Sにも初めて37Bと出会った時の緊張は無くなっていた。この時の彼はちゃんとした仲間になれたのだろう。3人は嘘偽りのない仲間として活動していたのだろう。
ノイズが走る。景色が変わる。世界が終わる。
◇◇◇
そこは廃墟都市のビルの中だった。14Sはボロボロの体で仰向に倒れている。戦闘用のゴーグルはどこかにいってしまった。体のパーツが欠けたりはしていないが、内側はもうほとんど壊れて機能していない。首を動かして周りを見れば死んで機能を停止したアンドロイド達がそこら中に転がっている。それと同じくらい機械生命体の死体も転がっていた。
「14S・・・」
自分を呼ぶ声が聞こえてきた方を見ると、フラフラした足取りで近づいて来る37Bの姿があった。
「37Bさん・・・良かった、無事、なんで、すね?」
「・・・ああ」
音声の機能が上手く動かないのか、14Sの声はかすれている。そんな14Sを見下ろす37Bは苦しそうな顔をしていた。
「すまない。助けることが出来なかった。守ることが出来なかった」
「いえ、いいん、です・・・大規模な、殲滅、作戦でした、し、誰が、死んでも、おかしく、ない状況、でした」
かすれた声で14Sは言葉を紡ぐ。声を発すると自分がだんだんと壊れていくのが分かる。体もだんだん動かせなくなってくる。それでも、音声の機能まで壊れて声すら出せなくなる前に、伝えておかなければならない事があった。
「ありが、とう、ござ、います。貴方と戦え、て、幸せ、でし、た・・・」
言葉を言い終わった瞬間、自分の中の何かが切れたのを感じた。もう声を発することも出来ず、目も見えない。あとは意識が消えるのを待つだけだ。
「・・・14S」
いや、まだ音は聞こえる。その機能だけはまだ残っている。
「死んでしまったのか?・・・すまないな。こんなことになってしまって」
本当にこれが最後だ。37Bの言葉をじっと聞き続ける。
「お前の前では何でもないフリをしていたが、本当はもう体も限界でな。大分ウィルスに侵食されてしまったよ。いずれ私も死ぬだろう。きっとこの作戦を覚えている者はほとんどいなくなるだろうな。すまないな、最後の最後にお前の期待に応えてやれなくて・・・うん?何だ?・・・機械生命体!?新手か、それとも生き残りがいたのか!?死にかけの私なら殺せるとでも思ったか?悪いが14Sは今眠ったところなんだ。誰にも邪魔はさせない。彼の死は私が守ってみせるッ!!」
そして14Sは静かに意識を失い、全ての機能が停止した。
◇◇◇
その後、14Sは記憶を失った状態で復活をした。そして、司令部で37B討伐の任務を受けて今に至る。
「そうか・・・37Bはずっと僕の義体を守っていたのか・・・」
気がつけば、9Sは37Bにハッキングを続けており、2Bは再び動き出した37Bの攻撃を避け続けていた。
14Sのデータの中から戻った14Sは槍を握る手に力を込める。
「僕が、決着をつけないと・・・」
その瞬間、37Bの動きが鈍くなる。
「制御システムへのハッキング成功しました!一時的にですが37Bの身体能力を元に戻します!」
9Sが叫んだ。
「ガアアアアアァァァァァッ!!」
37Bは叫びながら大剣を振り上げようとするが、片手では上手く持ち上がらない。その隙をついて2Bの刀が大剣を持つ37Bの片腕を斬り落とす。
「ガアッ!?」
反射的に37Bは2Bに向かって残ったもう片方を拳を振るうが、2Bはそれを後ろに跳んでかわす。
「14S!!」
2Bの叫びと共に14Sは床を蹴って走り出す。槍を構え、叫び声で自分を奮い立たせる。
「うおおおおおオオオオオォォォォォッ!!」
そして、突き出された槍が37Bの胸を貫いた。