パスカルからレジスタンスキャンプのアネモネに燃料用濾過フィルターを渡すように頼まれた。パスカルの村はレジスタンスキャンプと交流があるらしく、渡してくれれば自分達が平和的な種族であることを理解してくれるはずだと。
キャンプまで戻ってアネモに濾過フィルターを渡すと、高粘度オイルをパスカルに渡すように頼まれた。パスカルの村の住人はアンドロイドのレジスタンスのアンドロイド達が作れないような細かな作業を得意としている。その代りにレジスタンスはオイルや素材を渡して交換する、一種の交易のようなことをしているらしい。
「いかがでしょうか?私達が平和を愛していることをご理解いただけましたか?」
レジスタンスキャンプを出ようとしたところでパスカルから通信が入ってきた。
「・・・」
パスカルの言葉に9Sはどう言うべきか分からなかった。普段の9Sならば「口だけならいくらでも言える」などと言うのだろう。だが、9Sは知っている。パスカルの村の虐殺の光景を知っている。抵抗もできずに殺された機械生命体達の悲痛な声を知ってしまっている。相手は機械生命体だ。普段から壊して、殺し続けてきた奴らだ。信用なんてできないが、疑うことが正しいとも思えなかった。
「やはり、そう簡単には信じていただけませんか。でも、これからも良ければこの村に来てください」
そう言ってパスカルの通信は切れた。
あの出来事が嘘のように2Bとパスカルの村の機械生命体達の関係は良好だ。真逆とも言える2つの光景に、これからパスカルの村に行くのに少し気が重くなる9Sだった。
◇◇◇
パスカルの村でパスカルにオイルを渡した直後、重苦しい音が遠くで聞こえた。
「バンカーより緊急連絡!廃墟都市地帯に敵大型兵器の出現を確認しました!他にも機械生命体反応が多数あります。全ヨルハ部隊は迎撃に急行してください!」
音が鳴りやんだかと思ったら、オペレーターからの通信が入る。廃工場で戦った大型兵器がまた現れたらしい。
「大型兵器・・・!2B、やっぱりこいつら僕らをワナにかけようとして・・・」
9Sは疑いの眼差しで村を見回す。例えあの記憶があったとしても、まだ彼らのことを信じきることはできない。そんなに簡単に、染みついた考えは変わらない。
「・・・私達もその情報を知りませんでした。信じていただけないかもしれませんが・・・可能であれば、信じてほしいです」
パスカルの声は弱々しい。
「どっちでもいい、やることに変わりはない」
2Bは走り出す。9Sも後を追う。
そして、遊園地に着いた。
「あの、2B?何故遊園地に?大型兵器は廃墟都市に出現したはずですけど・・・?」
「そういえばまだスタンプ集めてないなと思って」
「今ですか!?」
またしても始まった2Bの奇行に頭を抱える9Sだったが、黙って遊園地までついてきた彼も大概である。
◇◇◇
2Bと9Sの任務放棄により、廃墟都市、レジスタンスキャンプは大打撃を受けた。
ヨルハ部隊の壊滅も時間の問題だろう。
NieR:Automata
a mountain too [H]igh
◇◇◇
2Bの遊園地のスタンプラリーにつき合わされ、9Sは彼女の後について遊園地を歩いて回っていた。スタンプをもらう過程として、2人は機械生命体達の演劇を見ることになる。
舞台の上では赤みがかった機械生命体が機械音声ではあるが、高い声を張り上げていた。
「オオ!ロミオ!ロミオ!貴方は何故ロミオなの!」
その言葉に反応するように、青みがかった機械生命体が舞台に現れる。
「アア!ジュリエット!ジュリエット!貴方は何故ジュリエットナノ?」
青みがかった機械生命体の言葉の後、もう1体、赤みがかった機械生命体が舞台に現れる。
「オオ!ロミオ!ロミオ!一体ドレがロミオなの?」
それに合わせてもう1体、青みがかった機械生命体が現れる。
「アア!ジュリエット!ジュリエット!私にも良くわかラナインだ!」
さらに増える機械生命体・・・もといジュリエット。
「オオ!ロミオ!ロミオ!ナラバ貴方の数を減らしましょう!」
そして増える機械生命体・・・もといロミオ。
「アア!ジュリエット!ジュリエット!ナラバ君ノ命も奪ッテミセヨウ!」
そうして彼らはお互いに向き合い、駆け出し、そして・・・。
そして9Sは気がつけばパスカルの村にいた。ロミオ達とジュリエット達のセリフがまだ頭の中に残っている。また戻ってきたとか一体何度繰り返せばいいとか思うところはいろいろあるが。
「なんてタイミングで戻ってくるんだ!!」
嫌がらせとしか思えないタイミングに9Sは叫ばずにはいられなかった。
「あのー・・・9Sさん?どうかしましたか?」
「え?あ、ああ、うん、大丈夫」
心配そうに声をかけるパスカルの声を聞いて9Sは我に返る。何をやっているんだ。これじゃあまるで僕が変人みたいじゃないか。
「9S、本当に大丈夫?」
「えー・・・」
変な行動をとってしまったのは認めるが、さすがに2Bに心配されるのは納得がいかない。誰のせいだと思っているんだ。
9Sがそんな風に考えていると、突如、遠くの方から重苦しい音が響いてきた。
「バンカーより緊急連絡!」
さらにオペレーターからの通信が入る。
「・・・2B、やっぱりこいつら僕らをワナにかけようとして・・・」
9Sはとりあえず前と同じセリフを言っておく。2度目なら2Bもまともだろうという経験によるものだ。
「・・・私達もその情報を知りませんでした。信じていただけないかもしれませんが・・・可能であれば、信じてほしいです」
「どっちでもいい。倒しにいく」
そう言って2Bは走り出す。9Sもその後をついて行く。
廃墟都市に向かって行く2Bに安心しながら、これが終わったら遊園地で機械生命体の演劇を見に行こうと心の中でこっそり思いつつ、9Sは大型兵器を倒しに走った。