鉄血のオルフェンズ ~無欲な悪魔~   作:小狗丸

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#32

「オラァッ!」

 

「……………!?」

 

 ジャンマルコの雄叫びと同時にリーガルリリーが両手に持つアックスを振るい対峙していたグレイズの胴体を両断する。

 

 胴体を両断されてそのまま動かなくなったグレイズを見てジャンマルコはつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「ふん。あっけねぇな。いくら機体がよくても肝心の腕がなってねぇ。さて、この辺りの敵は全て倒したし他の所に……ん?」

 

 ジャンマルコが次の敵を探そうとした時、一体のモビルスーツがリーガルリリーの元へとやって来た。やって来たのは黒のカラーリングをしたガンダムフレーム機、ガンダム・ウヴァルであった。

 

『ジャンマルコ。貴様、よくもやってくれたな』

 

 ガンダム・ウヴァルから通信が入り、リーガルリリーのコックピットのモニターにロザーリオの顔が映し出される。その表情は微妙に歪んでおり、ジャンマルコはそれを見て相手がかなりの怒りと焦りを懐いていることを感じ取ったが、そんなことはあくびにも出さず笑みを浮かべて軽口を叩いた。

 

「よぉ、ロザーリオ。そのガンダムフレーム機に乗っていたのはお前だったのか。……参ったねぇ、知っている顔は全員ガンダムフレーム機に乗っているのに俺だけ場違いみたいじゃねぇか? なぁ?」

 

『……そんなことはどうでもいい。貴様が、貴様さえいなければ……』

 

「別に俺がいなくてもダディ・テッドはお前を追い詰めていたと思うぜ、ロザーリオ?」

 

 内心の怒りを押し殺しながら言うロザーリオの言葉をジャンマルコの言葉が遮る。

 

「そもそもお前が今窮地に立っているのもお前がダディ・テッドを裏切った自業自得だろ? それなのに恨み言を言うのは筋違いだぜ。腐ってもタントテンポの幹部ならあんまりみっともない姿を見せるんじゃねぇよ、ロザーリオ」

 

『……黙れ!』

 

 ロザーリオがジャンマルコの言葉に堪えきれなくなって叫び、ガンダム・ウヴァルが自分の武装であるマイニングハンマーを構える。それをジャンマルコはつまらなそうに見て口を開いた。

 

「俺をここで倒して一発逆転を狙おうってところか? 別に俺はそれでも構わないが……お前の相手は別にいるみたいだぜ?」

 

『何だと?』

 

 ロザーリオが怪訝な表情となって呟いた次の瞬間、リーガルリリーとガンダム・ウヴァルの間を銀色の閃光が走る。

 

 銀色の閃光の正体はアルジの乗るガンダム・アスタロトSFであった。

 

『あれは……ダディ・テッドが所有していたガンダムフレーム機か?』

 

「やっぱり来たか、アルジ」

 

 突然現れたガンダム・アスタロトSFの姿を見てロザーリオが驚いた顔となり、ジャンマルコが予想通りといった表情を浮かべる。

 

『……ジャンマルコ。すまないがそのガンダムフレーム機の相手は俺がする』

 

 リーガルリリーのコックピットにアルジからの音声だけの通信が入る。通信機越しの声は固く、アルジの事情をダディ・テッドから聞いていたジャンマルコは、その声音だけで彼の心境を理解して頷く。

 

「分かってるよ。一対一の喧嘩に手を出す野暮な真似なんかしねぇから安心してやりな」

 

『……すまねぇ』

 

 アルジはそれだけを言うとガンダム・アスタロトSFをガンダム・ウヴァルにと向ける。

 

『お前は……確か報告にあったダディ・テッドが拾ったという子供か?』

 

『アルジ・ミラージだ。お前には聞きたいことがあるしその機体にも用がある。悪いが相手をしてもらうぜ』

 

 そう言うとアルジが乗るガンダム・アスタロトSFは、戦闘を行うべくマイニングハンマーを構えてロザーリオの乗るガンダム・ウヴァルに突撃した。

 

 ☆

 

「……と、言うわけでセブンスターズはギャラルホルンのトップである七つの名家ってことなんだ」

 

 アルジがロザーリオに戦いを挑んでいた頃、シシオは三日月にセブンスターズ等に関する説明をしていた。

 

 厄祭戦が今から三百年以上昔に起こった大戦でその末期にガンダムフレームが開発されたこと。

 

 厄祭戦の英雄「アグニカ・カイエル」と共に厄祭戦の終結に尽力した七人のガンダムフレーム機のパイロット、その末裔がセブンスターズであること。

 

 アグニカ・カイエルと初代のセブンスターズが所属していた組織が現在のギャラルホルンの前身であり、組織がギャラルホルンとなってからはセブンスターズが運営を担当することになったこと。

 

 シシオは自分の知るセブンスターズと厄祭戦に関する知識を出来る限り分かりやすく伝えたつもりなのだが当の本人はというと……。

 

『……ふーん』

 

 と、いった感じで全く関心を示しておらず、今までのシシオの説明もどれだけ理解しているか怪しいかった。

 

「いや、ふーんじゃなくて……。セブンスターズの一角ににらまれるなんて、それこそ命がいくつあって足りないくらい大変なことなんだぞ?」

 

『うん。うん』

 

 いつも通りの三日月の態度に何故か説明していたシシオの方が焦った表情となり、そのシシオの言葉を聞いていたガエリオはガンダム・キマリスのコックピットの中で何度も頷いていた。

 

「というか三日月? お前一体何をしたらセブンスターズに恨まれるようになるんだ?」

 

『そうですね。私も気になります』

 

『何をって……』

 

 シシオとローズに聞かれて三日月はガエリオと初めて出会った時の事を話し出した。

 

 三日月がガエリオと初めて出会ったのは火星で、クーデリアの護衛の仕事を引き受けて宇宙に出る準備中にビスケットの祖母が経営するとうもろこし畑の手伝いをしていた時、ビスケットの妹である双子の姉妹が車に轢かれそうになったのだ。その車に乗っていた二人の男の内一人がガエリオだった。

 

 幸いビスケットの妹達は車に轢かれる事なく無事だったのだが、頭に血が上った三日月はガエリオに暴行を加えてしまう。その時は大きなトラブルにはならなかったのだが、宇宙に出る時に三日月はギャラルホルンの軍人としてシュヴァルベグレイズに乗って現れたガエリオと交戦する事となり、そこから二人の間には因縁のようなものができてしまったのである。

 

「あー……。モビルスーツに乗っての戦闘はともかく、確かにいきなり不意打ちで殺す気のネック・ハンギング・ツリーなんかされたら怒るよな……」

 

『そうですね』

 

『そう?』

 

 三日月の話を聞いたシシオは思わず額に手を当てて言い、ローズもそれに同意する。普通、いくら親しい人が危険な目に遭ったとしても何の躊躇いもなく殺す気の技は仕掛けないだろう。

 

 しかも三日月ならばその時にガエリオがセブンスターズの一員だと知っていても殺す気のネック・ハンギング・ツリーを仕掛けていたという確信がシシオとローズにはあった。

 

 ちなみにそこまで考えたところでシシオは「やっぱ凄えよ。ミカは……」という最近できた知り合いの声が聞こえた気がしたのだが無視する事にした。

 

『そういう事だ。分かったらそこをど「嫌です」な、何だと!?』

 

 自分と三日月の因縁を説明されたガエリオはシシオに退く様に言おうとしたが即座に断られて戸惑ってしまう。しかしシシオはそんなガエリオの戸惑いなど気にする事もなく三日月に話しかける。

 

「すまない、三日月。このセブンスターズはお前のお客さんかもしれないけど、俺に譲ってくれないか?」

 

『別にいいよ。じゃあ俺は昭弘達のほうを手伝ってくるね』

 

「ああ、すまないな」

 

 三日月はシシオの頼みにあっさりと頷くとガンダム・バルバトスを他で戦っている仲間達がいる方へと向かわせた。

 

『なっ!? お、おい! ちょっと待て!』

 

「行かせませんよ。セブンスターズさん」

 

 この場から立ち去ろうとする三日月を追おうとするガエリオだったが、その前にシシオが立ちふさがる。

 

『貴様……! アイン! あのクソガキの足を止めろ!』

 

『りょ、了解で……うわっ!?』

 

『貴方のお相手は私がします』

 

 シシオに行く手を阻まれたガエリオは紫のシュヴァルべグレイズに乗っているパイロット、アインに三日月の足止めを命じるが、アインが三日月に対して威嚇射撃をしようとした時、シュヴァルべグレイズの前にローズのガンダム・ボティスが立ちふさがった。

 

『貴様何のつもりだ!? 貴様に用など無い! 見逃してやるからさっさと失せろ!』

 

「貴方は無くても俺にはあるんです」

 

 ようやく追い詰めたと思った標的に逃げられた怒りから叫ぶガエリオにシシオは口元に笑みを浮かべながら答え、その様子にガエリオは怪訝な表情となる。

 

『……? 俺に用だと?』

 

「ええ。……いきなりですけど俺ってガンダムフレーム機の大ファンなんですよ。それはもう共通するフレームの図面を目隠しで描けたり、名前の元ネタとなったソロモン七十二の悪魔の名前や順列、伝承を暗記するくらい大好きなんです」

 

『は?』

 

 突然戦いとは関係ない話をされてガエリオは訳が分からないといった顔となるがシシオは構う事なく話を続ける。

 

「だから乗り手がいないガンダムフレーム機を見つけたらなんとしても手に入れたいと思うんですけど、貴方のような乗り手がいるガンダムフレーム機を見つけた時は一回手合わせをしてほしいと考えてしまうんです」

 

『ガンダムフレーム機同士で手合わせだと? そんな事をしてどうするんだ?』

 

 ガエリオの質問に口元に笑みを浮かべていたシシオは笑みを深め、まるで獲物を見つけた肉食獣のような笑顔となって答える。

 

 

「勿論勝って俺のガンダム・オリアスこそが七十二のガンダムフレーム機で最強であることを証明するためです」

 

 

 シシオ・セトは先程自分が言った通りガンダムフレーム機の大ファンだが、その中で最も彼が愛着を懐いているのはやはり乗機であるガンダム・オリアスである。

 

 子供の頃に出会い、今日まで苦楽を共にしてきたもはや半身とも言えるガンダム・オリアス。シシオはもしこの青のガンダムに出会わなければ、自分は機械の知識と技術はあるもののそれを活かそうとする意志や目標を持たないただのジャンク屋で終わっていたと思う。

 

 だからこそシシオは自分に「もっとガンダム・オリアスを巧く乗りこなしたい」、「他のガンダムフレーム機を手に入れたい」といった目標をくれたガンダム・オリアスに感謝して恩を返したいと思っていた。

 

 厄祭戦時代では操縦システムの問題により「欠陥機」の烙印を押されたガンダム・オリアスに「最強」の称号を捧げること。

 

 それがシシオなりのガンダム・オリアスへの恩返しであり、その為ならば目の前のセブンスターズに戦いを挑む事にも一切の躊躇いを感じなかった。

 

「厄祭戦を終結させた伝説のガンダムフレーム機の一機、ガンダム・キマリス……相手にとって不足はない! 行くぞ! ガンダム・オリアス!」

 

 シシオは挑戦の意志を声に出して叫ぶとコックピットの機器を操作し、ガンダム・オリアスは右手のライフルをガンダム・キマリスに向けた。


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