なにもみえない   作:百花 蓮

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一章 〝夢〟の始まり
ぷろろーぐ


 私の語るべくもない、取るに足らない人生は、失血死という非常にありふれた経験により幕を下ろした。

 別に連続殺人鬼の通り魔に刺されたとか、テロリストの爆破事件に巻き込まれたとか、そんな全国ニュースで世間を騒がせるようなことが起こったわけでもない。ただの自殺だ。

 

 いじめがあったとか、借金の苦労の末とか、特別に辛かったわけでもない。ただなんとなく、自分の未来に希望を描けず、絶望に苛まれ、突然に死にたくなった。もっと早くこうしていればと今も思う。

 

 孤児で、周りに上手く馴染めずに、誰とも絆を紡げなかった。そんな私の唯一の友、軽い気持ちでピーちゃんと名付けた小鳥は昨日死んでしまった。友、と呼びながらも、可愛がっていながらも、世話もろくにできていなかった。だからこそ死んだんだ。

 

 私なんかが動物を飼う。どだい無理な話だった。悔やんでも悔やみきれない。

 

 そうして私はこの世とも、後腐れなく死んだ。しっかりと、自殺に見せかけた他殺に見せかけた自殺をしておいたから、警察は大変だろう。私の哀れで、ささやかで、迷惑で、儚く、なんの意味もない世界への抵抗だ。

 

 今はまあ、それはいいとしよう。いいとしよう。

 どうしてか私の身に、不思議なことが起こったようだ。身、という表現では語弊があるか。では、言い直そう。私の魂に、不思議なことが起こったようだ。

 いわゆる、輪廻転生というやつだろう。

 

 それにしても、神様というやつがいるのならば、頭がおかしい。現在、二歳児である私には、前世の記憶が明確に残っていた。この鬱屈とした記憶を抱えながら、私はこの二年を過ごしてきた。

 

 幸いに、この世界では私の両親は健在。母親は、家で家事を、父親は、戦争に。

 

 どうやらこの世界、忍者がいるらしい。私の両親は、その中でも優秀な、うちは一族というエリート一族らしい。自動的に、私もその一族の一員ということになる。とてもまずい。

 

 私の世界には漫画があった。人気漫画だ。この世界のお話だ。

 私も一通り暇つぶしに読んだことはある。だいたいのネタも知っている。だからこそまずい。うちは一族はまずい。

 

 この一族は、その存在を危険視され、一族郎党皆殺しにされる。だいたいこんな感じだ。

 でも、よく考えたらそんなにまずくはなかった。別に、死んだら死んだで私は構わない。

 

 まあ、少なくとも、両親が生きている限りは、私は今回死ぬつもりはない。どうしようもない孤独を感じることは、前世よりもおそらくは少ないのだろう。

 

 

 

 父の死の知らせが届いたのは、私の三歳の誕生日のことだった。




 この主人公に恋愛要素は皆無です。ご了承ください。

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