なにもみえない   作:百花 蓮

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実践

「それにしても、ここ、気味が悪いし。早く出たいかな」

 

 私の案内で入り組んだ道を進んでいく。

 現在、隠密行動中。

 その最中にはあるまじき私の行動。漏らした声に、小日向ムカイ隊長が反応する。

 

「ああ、薄暗いしな……。やっぱり、うちはの嬢ちゃんは、こういうとこ、怖いのか?」

 

 だが、注意ではなく便乗してきた。

 案の定というか、対応が軽い。浅はかなのか、私の力をそれほど信用しているのか。なんにせよ、これで人柄というものがわかる。

 

 付き合うのもやぶさかではない。けれども、からかうように、そう切り返された話に私は答えあぐねた。

 

「薄暗い……? ああ、そういえば、そうか……」

 

 弱い光が、点々と坑道の壁に掛けられていることがわかる。

 確かに薄暗い。私の力では、こういうことが考えなくちゃわからない。少し悲しくなるかな。

 

「……なんか、悪いな」

 

「別に……。いつものこと」

 

 私の努力が足りないのだ。

 私は普通でないのだから、周りに溶け込む努力をしなければならない。それができないのであるから、悪いのは私だ。

 

 反省をしながらも、この軽薄な隊長へと言葉を返す。

 

「……ほら、ここ、鉱山だったから……風影の……。だから、生きた心地がしないってわけかな。見張られてるみたいにも思えるし」

 

「感知タイプってヤツは、そういうのに敏感ってわけか……」

 

「うーん……。まあ、単に思い過ごしって、可能性もあるけど……、怖いものは怖いし……」

 

 なによりも、面倒。

 私はこういうのは嫌いだ。

 

 情報の重要性はいちおう認識している。認識しているからこそ、どうしても必要最低限の力だけしか発揮したくなくなるのだ。

 特にそう、敵になりうる相手の前では。

 

「ま、頼りにしてるぜ? うちはの嬢ちゃん」

 

 軽い口調でそうのたまう彼には少し呆れを感じる。

 喋っているのは私たち二人だけ。隊長は、他のメンバーの無言の圧力をものともしていない。

 

「あっ……」

 

 足を止める。

 索敵役である私の異常に、今までの和やかな雰囲気を吹き飛ばし、殺気立って各々が身構える。

 

「どうした?」

 

「んっと、小隊が一つ、右手の通路から接近。その先に一番の人口密集地帯。その奥、左手に小隊三つが固まって停留」

 

「なるべく敵は避ける。それと、その人口密集地帯はとりあえずパスな。あとは小隊が固まってるっていうところを確認したい。他に似たような場所は?」

 

「今のところは……」

 

「じゃあ、そこの確認が第一優先。遠回りでも見つからないように頼むぜ?」

 

「了解」

 

 通路を左に曲がる。

 幸いなことに幾つかの道が枝分かれして、その上で繋がってくれているのだ。

 通路が複雑で、もし、なにもわからないままなら、迷うこと間違いなしだろう。事前に影分身を放っておいてよかった。

 

「一つ」

 

 そう言いだしたのはインテリくんだ。閉ざしていた口を開いた。

 当然のように、皆の注目を彼は集めた。

 

「なんだ?」

 

「ここで二手に分かれるというのは……」

 

 いったい、彼はなにを言っているのだろう。

 私が、私が案内をしているからこそ、進めているわけであり、私抜きだと道に迷う。

 もし、迷わないとしても、同じ探索に大幅に時間を食ってしまうことは明白だろうに。

 

 片目を閉じ、小日向隊長はチラリとこちらに視線を送る。

 

「……ありっちゃ、ありだな。それだったら、二人一組(ツーマンセル)三人一組(スリーマンセル)ができるが?」

 

二人一組(ツーマンセル)の方を希望します」

 

「普通なら、俺がそっちに行くべきだと思うんだがな……?」

 

 えっと、三人と、二人……。

 ここにいるのは四人だ。

 なにかおかしい。嫌な予感がする。

 

「ムカイ隊長がそちらにいた方が、もしものときにリスクが半々にわかれると思ったまでです」

 

「ま、それでいいか」

 

「…………」

 

 油目一族の子は、無言。

 相変わらず無口だ。

 沈黙を肯定と受け取り、議論が終了をしかける。だが、もちろんのこと私は納得できていない。

 

「わ、私は?」

 

()()()ニ人一組(ツーマンセル)の方な……」

 

「チャクラ……」

 

「有り余ってる。大丈夫だろ……」

 

 断言されてしまった。

 チャクラ切れで寝込んだときだってあるのに。そんなに多い方じゃないのに。

 無理を言ってくれる。

 

「『影分身の術』……っと」

 

 術を発動すれば、音を立てて、問題なくもう一人の私が登場する。

 

「そんなに頑丈にできてないから、ちゃんと守ってあげてね?」

 

「ああ、わかってる」

 

 残り少ないチャクラを絞り出して作った分身だ。弱くたってしかたない。

 まあ、この上忍の隊長さんなら大丈夫だろう。たぶん。

 

「それじゃあ、またな」

 

 軽く手を振り、彼ら分身を含む三人は去っていく。

 

 取り残された私たち二人。まあ、戦闘をすることがメインなわけじゃないし、これでもやっていけるだろう。

 

 危ない危ない、取得するべき情報の位置確認はあちらに任せて、本体たる私は未開拓エリアに行き、マップを拡げることにする。

 こう考えてみると、二手に分かれても別によかったんじゃないかと思えてくる。

 

「それで、私に用でもあったの?」

 

 丸メガネのインテリくんにそう尋ねる。

 正直なところ、彼がなにを考えているのかよくわからない。けれど、何かを考えていることならわかる。

 彼が明確に意思表示をし、二手に分かれたこの状況も、きっと意図があるには違いない。

 

「少し、お話をしてみたいと思ってね……」

 

 なんの話だろう。

 こんな暗がりで女の子と二人きり。二人だけになって、なんて怪しいことこの上ない。

 よく、小日向の隊長さんはこれを許してくれたものだ。

 

 なんにせよ、仲良く雑談をできるとは思えない。

 どうにかしてこの男を見極めなきゃならない。

 

「なに?」

 

「これは、ずいぶんと冷たい」

 

 要件をさっさと言えばいいのに。

 回りくどいのは嫌いではないが、ただ先延ばしにするような、こんな受け答えは嫌いだ。

 

「用件は、なに?」

 

 ただ率直に尋ねる私に、やれやれと彼は肩をすくめる。

 今の私になにを思ったか。そんなことはどうでもいい。早く話を進めてほしい。

 

「少し、君の来歴に興味があっただけだよ」

 

「藪から棒ね。次は蛇が出てきてもおかしくないわ」

 

「蛇、か……」

 

 そうやって、蛇という言葉を反駁した。

 しかし、それだけで、私の意図を全く理解してはくれない。いや、理解していて無視しているだけだろうか。

 

「眼を持たない()()()だ。それに本来、まだ忍者学校(アカデミー)にいてもいいような歳でもある。あの木ノ葉でだ。普通なら、こんなところにいていいとは思えない」

 

 いちいち気にさわる言い方だ。

 当然のように苛立ちはする。このままでは癪だが、ここでこの挑発に乗るのはいかんせん、よろしくない。

 

「そうね。けれど、私はここにいる。……それなりの理由。見つけられたかしら?」

 

 先導して、前を進んでいた私は、振り返って、微笑む。

 藪をつついた命知らずは、気を抜いたように息を吐くと、中指でメガネのブリッジを押し上げる。

 

「ええ、まあ。ただ、それでも、まだ少し足りない……」

 

「ふーん……」

 

 なにが目的で、このインテリくんがここにいるかはわからない。

 案外、こういうふうに私としゃべっていることも、大した意味がないのかもしれないし。

 

 まあ、その足りない意味を尋ねるために、こうした場所を用意したのだ。

 ダメでもともと。多分そんな感じ。

 そういう捨て身は少し面白くない。

 

「ねぇ、写輪眼に興味はある?」

 

 だから少しだけ、少しだけ揺すってみる。

 

「いえ……」

 

 なるほど。無難な受け答えだ。

 動揺せずにスマートに答えてくれる。

 

「大切な人を失ったことは……?」

 

「……いえ……」

 

 手慰みにメガネのツルを弄りながらも彼はそう言う。

 別にこの質問には意味はない。ただ、私が語りたいだけ。

 

「すごく、悲しくなるでしょう? そうすると、ずっと熱くなって、わからなくなるの」

 

 取り留めのないことはわかっている。

 言葉では語り尽くせないことだ。こうなるのも仕方がない。

 

「……それでも君は……失った……」

 

「そうね……」

 

 なにかが欠けている。

 あの日から、ずっと、そんな気がしている。そんな気がしているように思える。

 限りなく不確かで、私には掴めないもので、それでいいのだと、そうあるべきなのだとさえ思っている。

 

「調べさせてもらったよ? やっぱり、あの事件には不可解なことが多い……」

 

 決着の付いたそれだ。

 あの人が死んだ。もう時間が経ち、霧がかかったように曖昧な記憶の中にしかない。

 

 ただ、うちはイタチが、偉大な〝夢〟を持つ彼が、まるでヒーローのように私を助けてくれたことだけが鮮烈に思い出せる。

 あの出来事は私の原点、と言ってもいいかもしれない。人生の始まりとも、だから私はここにいる。

 

「気にしても、なんの得もないんじゃない?」

 

 ポーチから、チャクラで指に吸い付けて、手裏剣を取り出す。こっそりと、音を立てないようにだ。

 

「こういうのは、はっきりさせておきたいタチなもので」

 

「A型なのね……」

 

「AB型です……」

 

「…………」

 

 三枚、取り出せた。

 クルクルとその手裏剣を指先で回し、飛ばす。

 私の後ろから、突然飛んで来たように、思えるように。

 

「……なっ!?」

 

 三枚の手裏剣はそれぞれ、別の方向に飛び、壁を削る。

存分に暴れ回り、周囲の明かりを砕いて回る。

 なかなかのコントロール。あたり一面は真っ暗になる。

 

 クナイが飛んできたのがわかる。

 反応できる。柄の部分に指を添え、チャクラで軌道を乱し、そのまま敵へと投げ返す。

 ある程度、攻撃が予測できれば、このくらいはなんとかできる。

 

 ただ、どういうわけか弾かれる音がしない。

 状況を確認するに、手で受け止めたようだった。

 物音がすれば、位置がバレてしまう。そう踏んでの行動だろう。さすがは忍か。私の思考をよく読んでる。

 

 さて、どうしたものか。

 膠着する。

 誰も一歩も動いてくれない。

 当たり前だ。この状況に陥入れば、先に物音を立てたものが不利。飛び道具で先手を取られてしまうのだ。

 

 しかし、このままでは、時間切れで私が負ける。

 よし、じゃあ、決めた。

 

「私は一歩も動いてないよ!!」

 

 そう叫んだ。

 同時に、両手を使い二枚ずつ、計四枚の手裏剣を飛ばす。

 

 残念ながら、私にはこの暗闇でも丸わかりだ。

 

「チッ、やはり感知タイプか……」

 

 ワンテンポ遅れて、私にいくつかのクナイが飛んでくるが造作もない。

 音を頼りにしたそれは、よく定まった狙いとも言えない。一つ借りて、また投げ返す。

 

 私たちの声と動作の音で位置関係を理解したインテリくんも参加する。飛び道具の物量で、なんとかいけるんじゃないかと期待したが、そううまくはいかない。

 私とインテリくんとで、頑張って投げているが、位置を固定させるほどしか効果はなく、すべて弾き落とされてしまっている。これでは、相手の疲労が溜まるより、こちらの武器が尽きる方が先だ。

 

「相手は一人。だから退く。わかった?」

 

「――一人なら!!」

 

 インテリくんが突貫した。

 驚く。ちょっと意味がわからない。確かに、素早く倒せるのなら、それに越したことはないが、無謀だ。

 

 相手はおそらく上忍。基本の四人一組(フォーマンセル)を崩しているところを見るに、他の下忍たちはおそらくこの事態の報告をしに本部にでも行っているのだろう。

 

 影分身の術を解く。

 逃げたい。見捨てて逃げたい。

 

「くっ……」

 

 インテリくんは挑みかかり、暗闇をはみ出した明かりに照らされる一帯に敵を押し出す。

 逃げた方がいいのに。

 

 仕方がなく、手裏剣を投げて援護をする。縦横無尽に空間を飛び回る私の手裏剣は、八方向から相手を蜂の巣にする。私ならば諦めて死を待つしかない密度であるが、たやすく弾き、躱す敵だ。

 まあ、なかなかの強さ。

 

 そんな手裏剣の嵐を、インテリくんは網の目を潜るように抜けて、クナイを手にして飛びかかる。

 音だけで場所を理解しているのだろう。

 

 流石の敵も、手裏剣に加わったインテリくんの攻撃にはたじろいで、後退。

 闇から、光の中へと追いやられる。

 

「砂の忍、ですか」

 

「お前たちは、下忍だろ? なかなかやるな」

 

 私を抜きにして、刃物の壮絶な打ち合いとともに、そんな会話が繰り広げられている。

 

 それにしたって、ジリ貧だ。

 躱された忍具は手元に戻ってくるからいいものの、弾かれたものはそうもいかない。

 手元から離れたとしても、ある程度の操作は利くが、落ちたものの回収なんてできやしないのだ。

 

 どうしよう。

 味方が近くにいるせいで、シスイとの会話途中に、暇だったから思いついた新技を試すこともできない。

 

 巻き込んじゃっていいかな?

 だめか。

 歩けなくなったら、彼を担いで逃げ切るのは私の体力じゃ無理だし。

 

 私の援護込みで拮抗している戦局。

 どうにかしなければならない。

 サスケのことを思えば、ここで終わるわけにはいかない。

 

 私ができるのは、手裏剣術、火遁、影分身。

 体術は体が鈍ってて無理。おそらくこの上忍には通用しない。

 幻術は基礎クラス。効いてもすぐに解かれてしまうだろう。

 

 インテリメガネに苛立ちを感じる。

 撤退するべきはずだったのに、なにしてくれてるんだ。

 纏めて焼きたい。

 

「『火遁――」

 

 大声で叫ぶ。

 これから放つ技を丁寧に言ってあげてるんだ。警戒しないわけがない。

 

「――豪火球の術』!」

 

 暗闇を吹き飛ばすほど明る炎が現れる。

 イタチや、シスイのヤツと比べれば、たいしたことない大きさだが、まあ、上出来だろう。

 

 インテリくんは私の意を汲んでもう離れている。

 炎は一直線に敵の上忍に向かう。当たったかは知らない。私にはやることがある。

 

 分身を二体置く。

 煙に紛れてインテリくんの手を掴んで引っ張る。

 

「なにを……」

 

「撤退。今のうちに……」

 

 起爆札付きのクナイを天井に突き刺す。

 分身は変化の術を使い、インテリくんを装って敵へと突撃。何秒もつかが問題だ。

 

 幸運なのは、私の援護に気を取られたのか、動きが若干、鈍っていることだ。

 やはりチャンスは今しかない。

 

「……まだ僕は……っ」

 

「応援が来る。早く……」

 

「く……っ」

 

 ことの重大さをわかってくれたようだ。初めからこう説明しておけばよかった。

 十分に距離をとったあと、起爆札を発動。天井を破壊。追跡ルートを一つ潰す。

 時間稼ぎになってほしい。

 

「さっきの豪火球は……」

 

 なんだろう。逃げる途中に聴いてくることでもない。

 

「初めてだったから……。でも、避けやすかったんじゃない?」

 

「…………」

 

 あんな大規模な火遁なんて、日常生活で使う機会は滅多にないからね。

 まだまだ、足りないことばかりだ。

 

 こうして、なんとか入り口で他のメンバーと合流できた。一日目は終わる。

 情報をまとめる作業をしなければいけない。

 少し、面倒かな。




 投稿、遅れてすみません。主人公の強さに四苦八苦していました。強すぎる気がしますが、気にしないでください。

 そしてそう、アンケート。みんなの望みは同じでした……。だいたい決まりですね。あれは。
 まだ受け付けていますので、じゃんじゃん、票を入れちゃってください。

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