なにもみえない   作:百花 蓮

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 すごく悩みましたが、これでいくことに決めました。


変わりゆく日、変わらない想い、告白

 約六年間すごした家と、おさらばする時がやって来た。

 私の人生の半分にも相当する年月をこの家で暮らしてきたのだから、なかなかに感慨深いものがある。

 

 思い出の詰まった家だった。

 ときおり、フガクさんやミコトさんがいるんじゃないかと、幻影を追いかけ、ぼうっとしてケガをしてしまう。そんな家だった。

 

 新居は一族の集落のはずれ、里のはずれに小さな家を建ててもらった。

 お金はミコトさんやフガクさんの遺産があったし、それでなんとかなっている。

 生活費はイタチが稼いで、貯金もできてるし、問題はなかった。

 

「ねぇ、イタチ。本当に良かったの? 私のワガママをきいて」

 

「言ったはずだろ、ミズナ。お前を一人にはしない。それに、今のサスケにもお前は必要さ」

 

 仕事をしながら私一人だけで借家暮らし、と最初に思ったのだが、イタチは許してはくれなかった。

 イタチが言えば、無理やりこの家に住み続けもしたが、それもイタチはしなかった。

 

 結果的に、家を買うという話になってしまったのだ。私のためだけに。

 

 これまでの恩も鑑みて、私は一生をかけてイタチに尽くしても足りない。

 イタチのためだったら、私はなんだってできるだろう。イタチになら、なにをされても私は拒まない。

 

 私は、ミコトさんの代わりを、サスケの母親役をイタチに期待されていた。

 

「それじゃ、写真撮って、行きましょ?」

 

「ああ」

 

 そして、自分の部屋で一人考え事をしていたサスケを呼んで、三人で玄関に集まる。

 

 イタチと私、二人で並んで、その前の真ん中にサスケを立たせる。

 二人でサスケの肩に手を置き、笑顔で写真を撮ってもらった。

 慣れてないのか、サスケだけ少しムスッとしているのが愛おしかった。

 

 新しい家だが、今の家とは大きく違うところがある。

 なんと、音をあまり響かないようにしてもらったのだ。

 

 今の家では、隣の部屋の会話が筒抜けだとか、怒った声が家中に響き渡るとか、よくあることだった。

 気分のいいものでもなかったから、なるべくそういうことが起こらない造りにしてもらったわけだ。

 あと、心ばかりに鍵も部屋にかけられるようにした。私の力でも簡単に壊せるけど。

 

 

 一族に関する密談を、成長したサスケに聞かれるのはまずかったから。

 

 

 新居には歩いて向かう。

 同じ一族の集落にあるわけだから、それほど時間はかからない。

 

 ただ、問題は忍者学校(アカデミー)から遠くなるという点だが、サスケは修行だと思えば大丈夫だと言ってくれた。

 サスケの優しさに甘えてしまい、少しだけ心が傷んだ。

 

「そうだ、サスケ。『豪火球の術』はあれからもちゃんとできる?」

 

 一日経ったらコツを忘れてしまうとか、よくある話だ。

 なんとなく思い出して、そう尋ねた。

 

「うん、姉さん。問題ないよ」

 

「そう!」

 

 そして、私はサスケの前に回り込んだ。

 突然のことに、サスケは戸惑ったように足を止める。イタチは少し先で待っていてくれていた。

 

 サスケの視線と合うように、私は屈みこんで、サスケの頬に手を当てる。

 前はしゃがまないといけないくらいだったのに、もうサスケがずいぶん大きくなっていたことを実感する。

 

「――偉いよ、サスケ。よく頑張ったね」 

 

 褒めて育てる方針だから。

 

 サスケは照れ臭そうに笑い、イタチは微笑ましげにこちらを見つめていた。

 

 サスケはすごい。なんと言ったって、一年間の忍者学校(アカデミー)の成績が、全部一位だったから。

 

「姉さん。兄さん。そういえば、気になってたことがあるんだけど……」

 

「どうした、サスケ?」

 

 思い出したようにサスケは話題を切り出す。

 そうだった。最近なにか、サスケは悩んでいるようだった。

 

 私が万全でなかったことや、引っ越しのことでいっぱいで、今になってしか思い付けず、全てのことに手が回っていないと気付く。

 自分の至らなさに恥ずかしくなる。

 

「姉さんって、やっぱり、兄さんと結婚するから姉さんなんだよね?」

 

「へ?」

 

 あまりにも予想外のことで、頭が真っ白になった。言葉を返せなかった。

 

「サスケ、それはまだ先の話だ」

 

 イタチは見た限りでは冷静なようだった。

 

 少し落ち着いて整理してみよう。サスケがどうしてそう思ったかだ。

 

 私と、イタチやサスケ、ミコトさんやフガクさんの血が繋がっていないことをサスケは知っている。

 だからこそ、私がサスケの姉であることは不自然なのだが、私がイタチと結婚すれば、確かに姉になれる。なるほど。

 

 いや、普通に私はフガクさんとミコトさんに養子に貰われただけだ。

 今になっても、感謝してもしきれないことだと思う。それなのに……私は。

 

「ねぇ、サスケ。どうしてそう思ったの?」

 

「だって、姉さんが一番信頼してるのが兄さんだし、兄さんが一番大切にしてるのが姉さんでしょ? オレにだって、それくらいわかるよ」

 

 はにかんで、サスケはそう言った。

 それでも、その言葉には物悲しい何かを感じてしまう。

 

「サスケ……もしかして、()いてる?」

 

 最近、私とイタチは近くに居た。近くに居すぎていたのかもしれない。

 その親密さにより、サスケに、爪弾きにされたような気分を味合わせてしまったのかもしれない。

 

 だとすれば、私は……ミコトさんの代わりとしては……。

 

「ううん。兄さんと姉さんは、()()()()()()()、仲良くしてればいいから……。うん、兄さんと姉さんが幸せならさ……」

 

 違和感のようなものをサスケから感じてしまう。私はとっさにイタチの方を向いた。

 それはイタチも同じようで、私の方に目線を向けている。

 

 サスケの成長のために、親代わりとして要相談だとイタチと一定の認識を共有できた。

 

 私が母親役で、イタチが父親役。あながち、サスケが言ったことも……。

 

 だんだんと、私は身勝手になってきているような気がした。そのせいでフガクさんやミコトさんとケンカ別れしたのに、痛い目に遭ったのに、また。

 

 もうイヤだった。自分のことが、もう嫌いになってきてしまった。なんの役にも立たないクセに……。

 

 

 ***

 

 

「イタチ、すまない。呼び出して……」

 

「ああ、構わない……」

 

 自身は暗部の分隊長としての仕事で、シスイは警務部隊の隊長としての仕事で、互いに忙しく、会う時間がめっきりと減ってしまっていた。

 

 昔のように更なる高みを目指して、二人で修行をする時間も、手合わせをする時間もほとんどなかった。

 

「最近、調子はどうだ? イタチ」

 

「暗部での仕事のことか? それなら、やるべきことはやっている」

 

 割り振られた仕事は完璧にこなしていた。

 もとより平和な時代。派手な争いごとはなく、暗闇での戦いが主だったものだ。

 あげられる功績は、闇に隠れ、一般の上忍たちには、風の噂とこなした任務の数でだけ評価される。地道な作業にもなってくる。

 

 火影になるには、上忍の信任投票でも勝たなければならない。

 ()()()というだけで不利になる。反対意見をも飲み込ませる、そんな圧倒的な実力と功績が必要だった。

 

「ふ、イタチらしいな……。それはそうと、あの子とはどうなんだ?」

 

「ミズナのことか?」

 

 会うたびに、シスイは彼女の話題を振ってきていた。なぜ、それほどにまで気になるのかはわからない。

 

「それしかないだろ?」

 

「……ああ、引っ越してから、我を失う時間もだいぶん減った。家のことも、サスケのこともよくやってくれてる。感謝してもしきれないほどだ」

 

 家で彼女が待ってくれているというだけで心が安らぐ。いつまでも自らの味方で、彼女は掛け替えのない存在だった。

 

「でもまさか、あの子のために家まで買うとはな……。そのために三代目様に許可を取るなんて」

 

 ――よくやるよ。

 

 軽るくぎこちない笑みでシスイはそう言う。

 その声色から、呆れられていることはわかった。

 

「必要なことだったんだ……」

 

「必要なことか……。あの子のためなら、なんだってやるんだな」

 

「そういうわけではないさ」

 

 彼女のためだけというわけではなかった。

 一人で家を出て行きたいという彼女を引き止めるためだった。

 彼女を苦しめることも、手放すことも、自分にはできなかった。

 

「素直じゃないな……。それで、あの子を引き止めて、イタチ、お前はどうするつもりなんだ?」

 

 そう問われても、返しようがなかった。

 これ以上、彼女のために自らがなにをすればいいかはわからない。できることも、そばにいることくらいしかない。

 

「シスイ。なんのつもりだ。なにが言いたい?」

 

「いや、俺が言いたいのは、素直になれってことだ。ただそれだけだ」

 

「また、それか……」

 

 そうやって、はぐらかされることが幾たびかあった。

 彼女の前では()()()()()に、自分の気持ちには素直なつもりではあった。

 

「ああ、そうだ。お前があの子のことをどう思っているかだ。それは、あの子には伝えたのか?」

 

 クーデターを抑えたあの日から、彼女の気持ちに向き合うことを決め、時間がそれなりには経ちもしたが、それでも全ては返せていない。

 思いの全てを伝えるには、まだ足りなかった。

 

「それは……」

 

「たぶん、あの子はそれを待ってると思うんだけどな……。自分のために家まで用意されて、お前のために家事や育児もさせられて――( )

 

 ――それでそのままって、生殺しもいいところだろ?

 

 いまひとつ、シスイが語る話は要領を得なかった。

 

「シスイ、オレにどうしろと言うんだ?」

 

 考えるように顎に手を添え、一拍だけ置き、シスイは言った。

 

「そうだな、付き合えばいいんじゃないか?」

 

「オレが、ミズナとか……?」

 

「他に誰がいる?」

 

 付き合う、というのは、恋仲になるということだろう。

 名案とばかりにシスイは言ったが、おそらくそれは不可能だろうとわかる。

 

「あいつはオレの家族だ。それはできない……」

 

「妙に律儀だな。だがイタチ……お前は、あいつのことを妹と思ったことはあるか?」

 

 確かに便宜上、彼女は妹ということになる。けれど、今までそのように接したことは記憶の限りではない。

 そして、これからも。

 

 だが、なにより、彼女が家族に強いこだわりを持っていることは明白だった。

 

「ない……が、あいつがオレの家族だということは、永遠に、変わりはしない」

 

 彼女にはそう言ってしまったから、彼女とは家族であり続ける必要がある。

 彼女を傷つけたくはなかった。

 

「これは筋金入りだな……」

 

 困ったようにシスイはこぼす。

 彼女との付き合いが浅い分、シスイが彼女のこだわりを理解できていないのは当然のことだったろう。

 

 けれど、シスイの言いたいことはわかった。おかげで、自らの気持ちを整理する助けになった。

 

「だが、そういえば、添い寝のとき、あいつに子どもをせがまれたことがあったな……」

 

「……なっ!? それで、イタチ……応えたのか……?」

 

「いや……今は無理だと言った……。当たり前だ」

 

「なんだ……」

 

 ――応えてやれば良かったのに……。

 

 なにを期待していたのかはわからないが、残念そうにシスイはそううなだれた。

 

 彼女に、そう求められたときは戸惑いはした。しかし、いずれはと思う自分がいたのも事実だ。

 

「それに、少し前。サスケが、ミズナはオレと結婚するから姉さんなんだと言っていたさ……」

 

「子どもは、向けられる愛情には聡いからな……」

 

 そう言われ、心に乱れが生じてしまった。そして、完全に訂正することができなかった。

 それがなぜかは、今になってようやくわかる。

 

 胸に手を当て、自分の気持ちに向き合った。

 

「そうか。そうだな。オレはミズナと、一緒になりたいのか」

 

「イタチ……」

 

 送っている今の生活は、彼女との関係は、夫婦に近いものだった。そんな擬似的な夫婦生活は、自身に限りない安らぎを与えてくれた。

 夫婦というのも、確かに家族の在り方の一つであろう。

 

 彼女を妻に……彼女と家庭を作れるのならば、どんなにいいものだろうか。

 想像もつかなかった。

 

「シスイ、すまないな……」

 

「いいんだ、このくらいは。お前たちを見てるとどうにも、もどかしくてな」

 

 傍目からみれば、分かりきったことだったのだろう。

 それでも、気付かせてくれたシスイに感謝する。この気持ちは、間違いがなく、大切なものであった。

 

「それで、シスイ。お前は大丈夫なのか? 警務部隊の予算が削減されるという話だったが……」

 

 今回の待ち合わせも、これについて話し合うためのものだろう。シスイは一度息を吐き切る。

 

「どうにも、これがのっぴきならない状態みたいだ。もう一度クーデターをと息を荒くする者たちも出てきた」

 

 ――火影様はなにをやっているんだ……。

 

 そう口にするシスイにどこか、里に不満を持つ()()()の者たちと通ずるものが感じられる。

 

 決まってしまった予算の削減は、一族と里との信頼関係にヒビを入れる行為であることに違いない。

 せっかく一度は抑えられたクーデターの気運も、再度、昂らせてしまう。

 なにより、シスイの尽力を水泡に帰す行為であることに違いなかった。

 

 それがわからない火影ではないはずだろうに。

 

「オレからも掛け合おうか?」

 

「いや、いくら火影様でも、一度決まった予算を覆せはしないさ。それにもしそうしたら、今度は九尾事件の被災者から、()()()に恨みが行くことになる。今以上にな……」

 

 九尾事件は()()()が主犯だという噂が流れている以上、里と()()()との軋轢が深まることになってしまう。

 手の施しようがなかった。

 

「だが、少なくとも来年は……」

 

「いや、火影様の事前の相談で、一応は、うちは一族から提案したといった体裁を取らせてもらってるんだ。少なくとも、完全に爪痕が消えるまでは無理だな」

 

 ――だから、ちょっと、オレの立場もまずくてな……。

 

 一族の一部の者から不満を買うのも当然だろう。

 ただ、うちは一族の面目を保つ理由こそあれど、強制的な予算の削減だったことは、容易に想像がつく。

 

 里に、一族に挟まれたシスイの苦悩は推し量れない。

 もう九尾事件から七年は経つ。それでもまだ、一族がこうして里に蔑ろにされている。そしてそれに怒りを持つ者がいる。

 

「オレはなにをすればいい……?」

 

「今まで通り、功績を積めばいい。それと、あとは、あの子と幸せになれば……」

 

 そのシスイの言い方に、少しばかりの平生との違いを感じてしまう。

 

「なぁ、シスイ。ここにオレを呼んだのは、ミズナとのことをオレに言うためだったのか?」

 

「ん? ああ、そうだが」

 

 なんとなしにシスイはそう言う。

 一族の動向について話し合うためのものだと思っていたばかりに、食い違いを感じてしまっていたわけだった。

 

 だが、あの新居への移動の際のサスケと同じようなものをシスイからは感じられた。

 このままでは取り返しがつかなくなってしまう気がしてならなかった。

 

「シスイ……お前……」

 

「ああ、イタチ。もし、クーデターを一族が起こすとして、成功する道はあると思うか?」

 

「どうした……」

 

 様子が変だった。

 クーデターは終わった話だ。議論するまでもないことだった。

 

「いや、すまない……。だが、イタチに一度聞いてみたかったんだ」

 

 ただの興味、なのだろうか。

 奇妙な感覚が全身を駆け巡るのがわかった。

 

「まず、成功しない。オレやシスイを戦力に数えて、隙を突いて急襲したとしても、上層部を拘束することは難しいだろう」

 

 暗部に、上忍たち。それに老いたとはいえ、三代目火影は歴代最強と呼ばれている。果たして、不意打ちの急襲が効くかどうか。

 

「だが、オレには『万華鏡写輪眼』があるぞ? 九尾を戦力に数えたらどうなる……」

 

「まさか……」

 

「抑止力に使えないわけじゃない。もしもの話だ……」

 

 本当に九尾をコントロールできるのかはわからない。

 だが、過去に九尾を操った、うちはマダラの存在が、それを抑止力として働かせる。

 

「だが、そうしたとしても、誕生した政権は長く保つものではない。それに必ず他里が付け入ってくる」

 

「問題は……成功するかしないかだ……」

 

 疲れ切ったようにシスイはそう言った。

 一族と里の間に立ち、誰よりもシスイは磨耗しているように見えた。

 

「大丈夫か……シスイ……?」

 

「いや……イタチ。ああ、少し休んだ方がいいかもしれないな……。オレから呼んで悪いが、帰って、休ませてもらう」

 

「ああ、それがいい。送っていこうか?」

 

「大丈夫だ」

 

 そうして、シスイは背を向けた。

 どうしても、見送る背中に、嫌なもの感じてしまう自分がいる。

 

「ああ、そうだった……イタチ!」

 

「どうした?」

 

「あの子とは、上手くやれよ? ……ああ、お前たちなら上手くやれるさ」

 

 そう振り返ったシスイの姿は、いつもと違いないように見えた。

 

 

 ***

 

 

 私たちは関係が変わらないまま歳を重ね、互いに十三歳になった。

 

 私はデート中だった。

 なんてことはない。休日のイタチと甘味処を巡ったり、可愛いお洋服を買ってもらったりして。楽しい日常の一ページだった。

 

 サスケの修行を見ようとしたが、サスケが一人で修行をすると言ってはばからなかったから、こうなった。

 サスケはどうやら私たちに気を遣っているようだった。まったく。

 

 それももう終わり、帰り道。

 夕暮れの寂しい日差しの中、私たちは一人の少年を見つけてしまった。

 

 公園の前、私はつい、足を止めてしまう。

 そんな私につられて、イタチは公園に一人残った少年を見る。

 

「うずまきナルトか……」

 

 皆から化け狐と呼ばれ、虐げられる。察するにチャクラの化け物、尾獣――( )九尾を四代目火影によってお腹に封印された、少年だ。もちろん真偽は不明である。

 

 四代目火影とよく似た金髪に、青い眼。もしかしたら、と思いもするが、ただの邪推だろう。

 四代目火影は波風ミナト。少年の名はうずまきナルト。姓は明らかに違う。

 

 私は歩いて近くに寄った。

 

「こんなところで、なにしてるの?」

 

 暗い雰囲気で、ナルトはブランコに座っていた。

 隣にあるブランコに、私は立ち乗りをする。

 

「なんだってばよ? 姉ちゃん……」

 

「もう、随分と暗くなるけど、一人? こんなところでぼうっとしてて……帰らないの?」

 

 イタチは追いかけて、私のそばに寄った。

 私の突然の行動に、どうにも理解しかねるようだが、咎められはしなかった。

 

「ん? 姉ちゃん、どこかで見たことあるような……」

 

 ナルトはサスケと忍者学校(アカデミー)の同期だった。

 何度か、私が保護者として行ってみたこともある。私と同じ歳の子も居て面白かった。

 

 そういえば、イズミちゃんは一年早く卒業したから会う機会はなかったな。

 私が卒業してから全然会ってなかったから、今度会って旧交を温めるのもいいかもしれない。

 

「わかるかな?」

 

 ジッとナルトは私の顔を見つめていた。

 

「……もしかして、サスケの姉ちゃんか?」

 

「そう、あたり!」

 

 なかなかに記憶力は悪くないみたいだった。

 本当に、当てられるとは思っていなかったから、ビックリする。

 

「それで、隣の兄ちゃんは……彼氏……? デート中?」

 

「ふふ、サスケの兄さんだよ。ね、イタチ」

 

「ああ、そうだ」

 

 〝なんだ〟とナルトはつまらなそうに呟いた。

 色恋に、興味があるのだろうか。まあ、デート中というのは間違いじゃない。

 

「じゃあさ、じゃあさ、サスケは今どこいるんだ?」

 

 兄弟みなで出かけていると推測したのだろう。

 まあ、二人っきりでデート中だからいないんだけど。

 

「サスケなら、たぶん今、うちは一族の演習場の近くで修行してるけど?」

 

「修行……してるのか? アイツ……」

 

 なんだかナルトは寂しそうに俯いていた。

 その気持ちは私にはよくわからない。

 

「そうだけど……。サスケったら、ずっと一番でいなくちゃって、気ぃ張っちゃってね……。兄さんが優秀だったから、その背中を追いかけて、毎日毎日修行ばっかりしてるんだよ?」

 

「お前も優秀だったじゃないか……」

 

 なぜか私はイタチに批難をされてしまった。私はなにも悪くないはずだ。

 

「そうだったんだな……アイツ……」

 

 私の話を聞いて、ナルトはハッとしたようにそう言葉を漏らした。

 ブランコを握る手には力がこもっているようだった。

 

「そうだ! 見に行く? まだやってると思うけど……」

 

 なんとなく、提案してしまった。

 単純に私が、サスケの頑張っている姿を誰かに見せてあげたいお姉ちゃんだっただけだ。

 

「…………」

 

 ナルトはなにか迷っているようだった。

 

 私はため息を吐く。そして、『影分身』の印を結んだ。

 私の『影分身』は、ナルトの前に屈み込む。

 

「ほら、乗って?」

 

「いいのかってばよ?」

 

「早くしないと間に合わないよ?」

 

 おそるおそる、と言った様子で、ナルトは私の『影分身』に負ぶわれていた。

 

「それじゃ、いってらっしゃい!」

 

「うお……」

 

 全力疾走を始めた私に、ナルトは情けない声を上げた。

 そうして、走り去っていく私を、本体のこの私が両手を振って見送っている。

 

「よかったのか?」

 

 そうして、イタチは尋ねるが、私はよくわからずに首を傾げる。

 もうわからないくらい遠くなったから、振っていた手を降ろした。

 

「なにが?」

 

「いや、なんでもない」

 

 イタチはなぜか、フッと笑った。

 いったいなにがどうしたのか、わからないことばかりだった。

 

「ミズナ……お前に大切な話がある」

 

 改まった様子でそう言うイタチだった。

 今さらなんの話かとも思ったが、プロポーズみたいに真剣な表情だった。

 

 だから、私は臆して待った。

 

「前置きはなしだ」

 

 イタチはそう言う。

 真剣に見つめられて、なんだかその目に熱がこもっているようで、私の心はざわめいていた。

 

 果たしてなにを言われるのか、なぜだか緊張して、心拍数が上がっていることがわかった。

 

「オレはお前と、本当の……」

 

 つい、私は振り返った。

 恥ずかしかったからじゃない。後ろから、確かに見られていた。

 

「どうした……ミズナ?」

 

「いま、シスイの奴が……」

 

()けられていたのか?」

 

「違うと思う。たぶん、偶然って感じ……」

 

 もし最初からなら、気配でわかった。

 撒いてやることだってできただろう。でも、今回はそうじゃなかった。

 

「ミズナ。用ができた……。先に帰ってくれ……」

 

 そして、イタチは買った服を私に預けて、足早にどこかに行った。

 急を要する、といった感じだった。

 

「もう、イタチったら……」

 

 デート中だったというのに、一人だけ取り残されるという酷いありさまだった。




 次回、5000字くらい書き溜めがあります。この小説の一話あたりの平均文字数が6000字くらいですから、勢い余って10000字くらいにならない限り、早く投稿できると思います。

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