織斑一夏になったがオリ兄がいたので丸投げしたい 作:XYZ+
「織斑、どういうつもりだ?」
先日に続いて二度目の流れである。
場所は職員室の千冬姉さんの席、時間は放課後。
姉弟の会話ではなく、学生・織斑一夏と担任教師・織斑千冬の会話である。
「質問の意味が分かりません、先生。」
「何故ISを使っていない?」
椅子に座っているため仁王立ちこそしていないものの、下らない事を言うようなら
ただではおかんと言う奴だ。
その千冬姉さんの気迫に恐れを成したか、他の先生方の姿は近辺に見当たらない。
彼女の近くに近寄る事すら許さぬ気迫のオーラであると言えよう。
まぁ、好き好んでいつ大爆発を起こすか分からないタイマーの入った時限爆弾に
近づく奴はいないとも言う。
僕も離れたい。
「今お前に一番必要なのはISに慣れる事だ。その為には1時間でも多くISを動かす
必要がある。その事は分かっているな?」
「はい。」
頷く。
「訓練機ならば貸し出しの都合上、毎日稼働させると言うわけにもいかんがお前が
持っているのは専用機だ。他の生徒ならばまず手に入る事のない特別な物だ。
それも分かるな?」
「はい。」
頷く。
「………本当に分かっているのか、織斑?」
「はい。」
頷く。
「ならば言ってみろ。」
「えっ。」
一瞬閊えた後。
「他の生徒と違って十分な環境を用意しているのだから、それに見合うだけの成果を
周りにも示せという事ですか?」
「そうだ………お前が望む望まないに関わらずだ。人として生きて行く以上は、
決して現実と言う物は放棄できん。」
でもね、千冬姉さん。
周りが僕に求める成果の基準は姉さんか兄さんなんだ。
決して敵う事のない現実の壁から逃げる事は悪い事なのだろうか?
どう足掻いても決して報われない戦いをする意味がどこにあるんだろうか。
負ける戦いはしない/勝てる戦いしかしない、の何がダメなのか。
いやまぁ、僕に勝てる戦いって一体何だ?と言う話でもあるけども。
あぁ、千冬姉さん相手に炊事家事なら勝てる。
自慢にもならないし自慢したくもないけど。
言った所で「そんな雑事は貴方がやって当然」とか「千冬様を顎で使おうとか
笑止千万、不敬極まりないわ」とか逆にぶっ叩かれそう。
「お前が何を思っているのかは分からん。
だがな………逃げるな、織斑。逃げても何も解決しない。
分からない事があるのなら私でも山田先生でもいい、頼れ。
教師とはその為にいるのだからな。」
「はい、わかりました。」
頷く。
でも、立ち向かうつもりはない。
意味のない事に、力を割くつもりもない。
………気持ちだけはありがたく頂くけれども。
織斑一夏が去った後。
その姉である織斑千冬は小さくため息を吐いた。
彼の出来の悪さにではなく、そのやる気のなさにである。
幼い時からずっとあの調子なのは分かっていた。
無気力無関心と言うわけでは無いが「自分はここまでしかできない」と自分の実力に
勝手に見切りをつけてしまい、それ以上の上を目指そうとしないのだ。
悪意の上手なかわし方と当たり障りのない頭の下げ方だけ覚えてしまい、そのまま
この先の人生を渡り切ろうと考えているのが今の織斑一夏と言う男だ。
女尊男卑が蔓延ってしまった世の中とは言え、その生き方は姉として情けない。
やればできるはずなのだ。
自分の弟なのだから。
確かに、一秋と比べれば劣る事を否定はしない。
だが、それは一夏自体を否定しているわけじゃない。
一秋が規格外すぎると言うだけの話なのだ。
二人が幼い頃は生活の為に必死で、最低限の家族の触れ合いしかやってこれなかった。
一秋が何とかするだろう、一夏もいずれ変わるだろうと甘い考えがあったのも認める。
一夏を取り巻く悪意からまともに守ってやれなかったのも間違いだったのだろう。
もっと積極的に自身が動くべきだったのかも知れない。
遅すぎた後悔だろうか?
それともまだ間に合うのだろうか?
彼女にはそう思う事しか出来なかった。
そんなことがあった翌日。
クラス代表就任パーティ?自室で大人しくしてたよ。
一秋兄さんは誘ってくれたけど、居留守(と言うか狸寝入りとも言う)で対処した。
わざわざパーティの空気悪くする必要もないだろうと思ったし。
「久しぶりね、一夏。」
「元気そうだね、凰さんも。」
<原作>通り転校してきたのは昔のクラスメイトで今は中国の
国家代表候補となった凰鈴音さん。
一体何を思ったか、僕を屋上に呼び出したのである。
呼び出される覚えは全くないんだけども。
「クラスで聞いたけど………試合放棄したんですって?」
「うん。」
頷く。
嘘をついても仕方がない。
「ねぇ、昔質問したこと覚えてる?」
「悔しくないのか?って?」
頷く凰さん。
「今でもそうなの?何もやっていないのに自分から負けを認めてそれで周りから
バカにされて。悔しくないの?見返してやろうって思わないの!?」
「別に? そんなこと思った事もないよ。」
事実思った事がない。
そもそも、あの試合は僕が勝てる試合でないのは誰もが分かってた事実のはずだ。
国家代表候補とただの素人が戦って、素人が勝つなんて誰も思ってないだろう。
詰まる所、あれはただの公開処刑に等しい。
言ってしまえば「ISを動かせるだけの男が調子に乗るんじゃねーよ、ちょっと痛い目見て
世間と言う物をその身に叩き込まれて来い」って言う奴だ。
原作でも敗北は免れられなかったのだ。
まともにISの訓練すらさせて貰えず、癖の強すぎる初心者お断りの機体を用意された上に
初期設定のまま放り込まれ、自身の機体特性も満足に把握できていなかったという全くと
言っていいほど勝つ要素が見えてこない事情はあれど、負けは負け。
それも最終的に大口叩いてからの自滅のような負け方である。
きっと裏で陰口叩いてる女子生徒だっていたんではなかろうか?
全員が全員、好意的な感情を抱いているわけでもないだろう。
決して原作が表立って見せない負の側面と言おうか。
あるいは、僕や一秋兄さんの様な
知れないけども。
それでも、女性が通りすがりの男性を顎で使おうとする位には女尊男卑が蔓延ってる
「何で!? あたしなら悔しくて悔しくて仕方がないわ!
一夏はずっとそうよね?本当にそれでいいの?ずっとそのままでいいの!?」
僕が頑張ってどうにかなるのなら頑張ってる。
でも、ただの地球人にスーパーサイヤ人になれと言ってるような物だ。
どうひっくり返ってもそれは実現することすら不可能なのだ。
千冬姉さんや一秋兄さんと、僕との実力差はそれほどの物なのだ。
「仕方ないさ、千冬姉さんも一秋兄さんも凄いからさ。」
「あたしが言いたいのは………もういいわ。」
何かを言おうとして止める凰さん。
「ごめんなさい、時間とらせたわね」と言って去って行く。
結局、彼女は何が言いたかったのだろう?
「一秋、アイツ何も変わってなかったわ。」
「何というか、その………悪い。」
昼休みの食堂。
一秋と鈴はテーブルに相対していた。
勿論、一秋の隣には箒とセシリア。
「ずっとああでしたの?」
「少なくとも、私が知ってる限り一夏はずっとああだな。」
そう話してるセシリアと箒。
「別に一秋が謝らないといけない事じゃないわ。」
「その通りですわ一秋さん。むしろ何も進歩していない・しようともしない方が
問題でしょう?」
「全く一夏の奴め………こうも迷惑ばかりかけて!」
散々な言われ様に顔をしかめる一秋。
それを見て口を閉じる3人のヒロインたち。
彼が弟を大事に思っていると言う事はよく分かっている面々である。
面と向かって悪口を吐くのはまずい、と思ったのだろう。
「アイツ、悔しいって感情がないのよ。それが当然だって諦めてるって言うか………。」
「確かに負けん気と言う言葉からは程遠い人間ではあるな、一夏は。」
そんな幼馴染二人の言葉に「どうしてこうなったんだろうな………。」
とため息を吐く一秋。
「一秋さんが悩んでも仕方のない事ですわ」と慰めるセシリア。
「当人にやる気が無いんですもの、外野がどうこう言っても仕方がないでしょうし。」
「そうなんだよなぁ。」
一秋としても、これから先の事を考えれば一夏に多少は奮起してほしい部分がある。
多少の(むしろ相当の)今更感が漂うが、<原作>を知っていれば尚更だ。
二度に渡る無人機の襲来、VTシステム、福音に亡国機業。
一人よりも二人の方が対処しやすい面と言うのは幾らでも存在する。
「一度、あいつとしっかり話をした方がよさそうだよな………。」
そう決意を固めた一秋であった。