誰か宛の誰かの手紙   作:てんのうみ

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置き手紙 3

 昇る朝日に目を細める。

 春先になっても朝方はまだ肌寒い。肩も脇も丸出しの巫女服を着ている霊夢にとってはなおさらだろう。それでも朝日と共に起床し、境内の掃除をし始めているのだから、服の通り巫女としての役目を果たしている。

 掃除といってもそこまで大それたものではなく、簡単な掃き掃除だ。さらに言えばこの季節、落ち葉が溢れかえることもない。掃くものといえば風に揺られて散った桜の花びらくらいなもので。

 掃かない方が華やかでいいかも。

 階段から神社の本堂まで続く石のタイルの上だけ掃くと、霊夢は掃き掃除を終えた。

 綺麗にしたタイルの上を歩いて本堂へ向かう。日課であるお賽銭の確認だ。人間の里からも遠く、妖怪の山の方にも神社があるため、霊夢に舞い込んでくるお賽銭はそう多くない。暮らしていくには困っていないが、もう少し参拝客が来てくれればこの神社も賑やかになるのに。霊夢が賽銭箱をのぞき込むと、いつもと同じ位の小銭が入っていた。

 まあこんなものだろう。霊夢が賽銭箱の蓋を取って中のものを回収しようと手を伸ばすと、賽銭箱の中、ちょうど霊夢側の壁に何か封筒のようなものがあることに気づく。

「なにこれ?」

 霊夢は手に取ると賽銭箱の中から拾い上げた。封筒はしっかりと封がされており、真ん中には『顔も知らない誰かへ』と書かれている。

 これは宛名として成立してるのだろうか。霊夢は首を傾げながらも封を切る。中には一通の手紙が入っていた。丸っこい字で書かれた手紙を、霊夢は賽銭箱の隣に腰を下ろして読み始めた。

 

 顔も知らない誰かさんへ

 おはよう、こんにちは、こんばんわ。

 今どんな天気ですか? この手紙を書いている時はよく晴れています。でも午後からは雨が降るそうで。予定があるので傘を持っていくことにします。

 この手紙は歩き回って気になった所に置いていくので、そんなに気にしないでください。でもほんの少しだけ付き合ってくれると嬉しいかな。まあ大したことを書くわけでもないけども。

 この前、無縁塚という場所に行ってきました。なんでも結界が緩くなっていたり、冥界とつながっていたりと物騒な話をよく聞きますが、訪れてみるとそんなことはなくて。確かに見たことない物がちらほらと転がっていますが、静かで良い場所だと思います。ベンチとかあったら、ゆっくりお昼寝でもしたいですね。

 結界で思い出したのですが、幻想郷は外の世界と結界で別けられているそうです。結界というのは目に見えないそうなので、そんな物で世界が別けられているなんてなんだか不思議ですね。

 そろそろ出発の時間が来てしまうのでこの辺で。この青空を見ていると、雨が降るだなんて信じられません。

 それじゃ、行ってきます。

 

 手紙はそこで終わっていた。

「……変な手紙」

 宛名の通り、誰に宛てたという訳でもなく、当然霊夢に宛てた物でもない手紙。

 なんとも言えない気分で霊夢は空を見つめる。雲は山の向こうで足踏みしているようだが、真上は快晴だった。

 しばらくぼんやりしていた霊夢だったが、朝ご飯がまだだったことを思い出し、手紙を封筒に戻して自室へ向かう。

 この手紙どうしよう。捨てる……のは少し気が引けるというか。でも返事も書けそうになし。どうしたもんか。

 悩んだ末、霊夢は自室の引き出しの中に手紙を置くことした。何処の誰だか分からないが、博麗神社を通りかかった際に賽銭箱に入れたのだろう。イタズラというわけでもないし、読んでいて深いにもならなかったのだから取っておこう。

「本当に誰が書いたんだか」

 引き出しに優しく手紙を置くと、封筒の右端に小さく「3」と書かれているのに気づく。3……ということはこれで三通目ということだろうか。もしかしたら博麗神社以外、幻想郷のどこかにも、これと似た手紙が届いているかもしれない。

「お昼から無縁塚にでもいってみようかしら」

 他の手紙にはどんなことが書かれているのやら。

 台所で味噌を溶かす霊夢は、手紙の文面を思い出しながら鼻歌を歌い始めた。

 それを聴いているのは境内に咲く桜と、静かに吹く春風と、まだ低いところで柔らかく光る太陽だけだった。

 

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