誰か宛の誰かの手紙   作:てんのうみ

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置き手紙 2

 午後二時。気だるい昼下がりだった。

 あの不思議な手紙につられて、霊夢は無縁塚にやって来ていた。普段なら決して足を運ぶことのない場所だが、来てみると思いの外発見があるもので。

 ヘンテコな機械を見つけたり。

 名も知らぬ花を眺めたり。

 一見無駄のように思える時間を過ごすことがそんなに悪いものではないことを知ったのも、また一つの発見であるといえる。

 日は高く昇っているが、それほど暑さを感じない。暖かさが頬にじわりと溶けて心地良い。手紙に書いてあったとおりに此所で昼寝をするのも悪くないかもしれない。

 霊夢は辺りで一番大きな木に目をつけると、その根元に座り込み、幹に体を預けて寝始めた。静寂、その中に生まれる風の音、鳥の囀り、草の声。木々の緑の匂いを強く感じると、暖かさを纏った風が前髪を揺らす。時間がゆっくり流れているような、そんな感覚を霊夢は覚えた。

「おや、こんなところでお昼寝とは珍しいね」

 聞き覚えのある声が霊夢の耳に届く。重たくなり始めていた目を開けると、目の前には紺色の和服に身を包んだ白髪の男性。霊夢もよく知る森近霖之助の姿があった。

 せっかく気持ちよく寝ていたところを邪魔されて少々不機嫌になった霊夢だったが、眠気も遠ざかったしまい、ため息をつくだけで済ました。

「お邪魔だったかな?」

「もういいわ。少ししたら寝直するから」

「確かに良い天気だ。君が羨ましいよ。此所には昼寝をしに来たのかい?」

「まあ……そんなとこ。霖之助さんは?」

「僕はいつものように商品の仕入れさ。でも今日はあまり良い物がないようだ」

 残念そうに首を振る霖之助を見ることなく、霊夢は手紙の文面を思い出していた。

 ――確か……此所に来てたんだっけ。

「ねえ霖之助さん」

「なんだい?」

「ここ数日、誰か此所に来てなかった?」

 淡い期待だった。此所に出入りしている霖之助なら、あの手紙の書いた誰かを見ているかもしれない。霊夢の中に会いたい、という気持ちは特に無かった。ただ、手紙を書いた誰かが“いい”と思ったものを、霊夢もいいと思えた。だからだろうか、その誰かがどんな人物なのか知りたくなったのは。

「うーん……特に誰も見なかったよ。元々人の出入りが少ない場所だからね」

「そう。でもまあ」

 見上げる空。木の葉の隙間からこぼれる日の光。また風が草木を揺らした。

「人がいないから、こんなに静かなのかもね」

 霖之助は霊夢の言葉に目を白黒させつつも、笑って同意し、この場を去った。

 再び静寂と暖かさが霊夢を包む。心はとても穏やかで、息をはく度に微睡みそうになる。このまま寝てしまおうか。本当はこの後人間の里で夕食の買い出しを刷る予定だったが、それがどうでもよくなるほど霊夢は今が気に入っていた。

 だがそれは長くは続かない。良い形で崩される。

 移ろっていた霊夢の瞳に、枝の先に引っかかっている封筒が映る。風に揺れ、枝がその手を離すと、ゆらりゆらりと宙を舞って、霊夢の顔に落ちてきた。

「なんでこんな所に……」

 ――雨でも降ったらどうするんだろうか。

 手に取った封筒には、この前と同様『顔も知らない誰かへ』と書かれている。そして便箋の端には「2」と書いてあることから、おそらく朝の手紙の前に書かれたものだろう。

 

 顔も知らない誰かへ

 おはよう、こんにちは、こんばんわ。

 風の匂いって不思議ですよね。近くに森があるとか、この後雨が降るかもとか、色々なことを教えてくれます。私はその中でも特に、夜の匂いが好きです。無機質で、透き通っていて、吸うと懐かしい味がして、最後に落ち着きだけ残して消えていく。そんな夜には決まって星が綺麗なんです。幻想郷の夜は星も月もよく見えるそうで、羨ましいです。

 聞くところによると、幻想郷はたくさんの名所があるようで。あまり遠くにはいけませんが、たくさんの場所に足を運びたいです。できれば誰かと話したり、お友達になれたら……なんて。お話ができれば良いのですが、それ自体難しいと言われました。ちょっと残念です。

 この手紙を置いているのは何処なんでしょうか。きっと、いいな、と思った場所に残しているんじゃないかと。なんだか今から楽しみです。この手紙を見つけて、読んでくれたあなたに特別な感謝を。

 そろそろ眠くなってきました。窓から時折流れてくる夜風が、なんだか気持ちよくて。つい、うとうとしてしまいます。どんな夢が見られるか、寝てからのお楽しみですね。

 それじゃ、おやすみなさい。

 

 読み終えた霊夢は、手紙を封筒に戻し、袖の中にしまった。

 それから少し考え事をした後、再び体を木の幹に預ける。――なんだか気持ちよく寝られる気がした。草木が揺れる音に耳を澄まし、先ほどより少し傾いた日差しが顔を照らしていることを肌で感じながら、霊夢は意識の綱をその手から放した。

 時間が少しずつ過ぎていく。その中で霊夢は気持ちよさそうな寝息を刻んでいた。

 

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