「初めまして、おはようかな?こんにちはかな?それとも、こんばんはかな?」
辺り一面が暗闇に覆われている空間の中、わずかに光で照らされた空間がある。その空間に先ほど言葉を発した男が椅子に座りこちらを見ていた。
男の外見は全身白いスーツに、少し長い金色の髪。整った顔立ちに優しい目をしている。
「あぁ……。この空間では時間というものが存在しないから、どの挨拶が良いかわからなかったんだ」
男は申訳なさそうな顔をしながら淡々とこちらに話かけてくる。
「そういえば自己紹介がまだだったね そうだな……。僕のことはXと呼んでくれ」
Xと名乗る男は笑顔で私に自己紹介をした。
━━ここはどこなのだろうか。X以外何も見えないし聞こえない。
私自身何も分からない。いつどこの時代の人間で、男なのか、女なのかもわからない。家族、友人、恋人、社会、その他全てのことが分からない。分かるのは、言葉,それと……。Xという男だ。
戸惑いが隠せない私に対し、Xは微笑んだ。
まるで私のことを愛しているかのように……だ。
「戸惑うのも仕方ない。君がどうして”ここ”にいるのか。自分が何者なのかも理解することができていないのも僕は知っている。もちろん僕は君のことを知っているよ」
Xは先ほどの表情を変えずに話している。
なら、教えてくれ。私は一体何者なのか、ここはどこなのか。
私は反射的に言葉を発しようとした。しかし言葉が声として発せられることはなかった。━━否。発せられないのではないのではない、発することができないのだ。すぐに自分のあるべき場所にある”腕”を確認した。だが、そこには何もなくあるのは暗闇だけだった。
私は驚いた。自分の体が無いということに……。驚きで声を上げたが、その声も発せられることがなかった。
Xはその様子を笑うこともなく悲しむこともなく、ただ微笑んでいた。まるで私が何を考えているのかが分かっているかのように
「今の君は精神と肉体が別々の状態で、僕の前にいる君は”精神の君”ってこと。言葉が発せられないのはそのせいで、記憶の方はすまないが一時的に封印させてもらったけどね」
どうしてそのようなことをしたのか理由を聞きたかったが聞いても答えてくれなさそうな雰囲気を出していたため私は聞かなかった。
「あぁ、”精神の君”がこちらにいる間は、”肉体の君”が存在している世界での時間は動いていないから安心してね。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「さて、少しはおちついたかな?」
私は、Xがどこからか取り出した椅子に座っている。もちろん体が無いため座っていると言ってもよいのか分からないが。
「ここに呼んだのは理由があってね。君には、僕が今から話すある物語を聞いて、そして選んでほしい」
━━選ぶ?
「そう、選ぶんだ。なに、そんなに難しい話でもないから気軽に聞いてくれて構わないよ」
━━それを聞いてどうなるんだ?
「それは答えられない。”まだ”早いからね」
Xは顔を横に振りながら答えた。
気にはなるが”まだ”ということは、話を聞いていればいずれ答えてくれるのだろうからそれ以上聞くのはやめよう。
「うん。それじゃあ、始めようか。」
Xは二回ほど咳払いをし、白いスーツを少し整え、息を少し吸い、吐いた。
そして、歌うように語る。
「━━ある男の話をしよう」