幼女戦記が酷いことになる   作:へっぽこ鉛筆

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 静寂の支配する教会、慎み深い乙女の園である、陸軍リリアン女子士官学校、純潔を誇示するような深い色の制服が床に落ち、ターニャ・デグレチャフは、その床に押し倒された。

「ああ、ヴィーシャお姉さま・・・存在Xが見てる。」

「大丈夫ですよ。ネーニャ・・・さぁ、航空魔導士のお勉強をしましょう。」

 他人に触れられたことのない場所を、嫋やかな指が撫で、禁断の果実の味に、ターニャが小さく声をあげる。

 そんな、乙女たちの睦事を、優しげな表情を浮かべた存在Xだけが、ただ見下ろしていた。





ターニャちゃん雑誌デビューする 【背徳の児童ポルノ編】

 

「漫画の単行本が発売されるッ!?」

 

 コンビニのバックヤードでコーヒーとチョコレートを摘まんでいるターニャデグレチャフ少佐が、すっきょんとんな声を上げる。他のアマミヤとセレブリャコーフ中尉が変な顔で振り返る。どこか、照れたように笑うオオイシ

 

「う、うん・・・少佐、書き溜めていた作品が、編集の目に留まってね。」

 

「いや、すごいじゃないか・・・オオイシ・・・先生と呼んだほうがいいか?」

 

 素直に称賛の言葉を贈るターニャ、全員が意外そうな顔をする。

 

そこで自分の言葉の異常さに気づいた。ターニャ自身・・・前世の記憶では、児童漫画文学というものは嫌いではない。いや、むしろ学生時代は好きだった方だ。有名な作品は読んだし、成人してからは購入はしなかったが、こうして作家本人を蔑視したりはしない。むしろ、クリエイターとして尊敬もした。

 

 しかし、この時代では違うらしい。子供の読む程度のものを描いている人間、そういう認識なのだろうか、全員が無視するような態度と視線を向けている。

 

 肩を落とし、いつもの気弱な笑い方をしたオオイシに、少佐は何と言っていいのか、同情するような顔をした。

 

「オオイシ、いや・・・先生か、単行本は買わせてもらうさ、今日は私のおごりだ。」

 

「あ、ありがとう、デグレチャフ少佐、その、恥ずかしいから、本の方は見ないで、欲しいな・・・」

 

 マグカップに、なみなみとコーヒを注げば、不似合いに自分よりも年上の冴えない青年の前に置く、彼は嬉しそうに砂糖とミルクを入れて、苦い飲み物をかき混ぜた。

 

 「そんなことはないと思うが、そう、自分を卑下しないほうがいいとおもうぞ。クリエイターとして、もっと胸を張れ。鳳石さとる先生。」

 

 一度だけ、気の弱そうな東洋人の青年の黒い瞳と、碧眼の少女とが目があった。実に好意的な。まるで、少女が見せるような。いや、純粋にオタク少年があこがれの職業の先人に見せるような笑顔を見せる。ターニャにとってはめったにないことだ。

 

 鳳石さとるは、マグカップに入った茶色い液体を一気に流し込んだ。丁度、アマミヤさんとのレジを交代する時間だ。何か心の中に形容しがたい暖かなものを感じ、オオイシは仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 その数日後のことだった。

 

「休戦協定・・・ですか?」

 

 この日は珍しく、軍から招集を受けたターニャ・デグレチャフ少佐が思わず高い声で聴き返してしまった。怜悧たるレンゲル中佐は、眼鏡を多少指で上げる仕草をするが、気にする様子もなく書類を読み上げる。

 

「そうだ、軍司中央令部から通達だ。我が帝国、連邦、民兵、三者合意の上で・・・その・・・」

 

 そこで、一度だけターニャを見たレンゲル・・・いや、何かターニャの身体を見たという方が正しいかもしれないな。

 

「コンビニDMZのマサル・オオイシの作品発売日、2400から一週間の間を休戦期間とし、一切の戦闘行為を中止するらしい。なんでも、我が上層部や民兵の中にも、彼の“作品”のファンがいるらしいからな。」

 

「そう・・・ですか、それは目出たいですな。」

 

 意外といえば意外だった。彼の作品がここまで人気があるとは、まぁ、ターニャのいた世界でも、中東の子供がサッカーのアニメの主人公の書かれたUNの車に攻撃しないという話もあるくらいだ。娯楽の少ない戦場ではあり得る話かもしれない。

 

 何にしても、兵にとっては喜ばしいことだろう。参謀本部にとっても、再編成、休養の絶好の機会だ。しかし、レンゲル中佐の顔は、何とも言い難い・・・難しい顔で、再びターニャを見る。

 

「ターニャ・デグレチャフ少佐・・・君は、その・・・あの、マサル・オオイシと・・・彼の作品と、何か関係があるのかね?」

 

「・・・と言いますと?」

 

 実に歯切れの悪い質問、いや、雑談の類だろう。再び書類に目を通せば、レンゲルはタバコに火をつける。質問の意味が分からないと、軍隊らしい態度ではないが、要領の得ない返答をしてしまったのもそのためだ。

 

「ああ、彼との関係だ。まさか、その、不適切な関係ではないだろうね。」

 

「中佐殿、まさか不適切な関係を疑うということは、本官にたいして忠誠を疑うということでしょうか?お言葉ですが・・・」

 

「いや、そういう意味ではないが・・・まぁ良い、貴官も休暇を・・・いや、コンビニでの活動があるのだったな。まぁ、良い休暇を・・・と言っておこう。」

 

 何か歯切れの悪い言葉に訝しながら、ターニャは答礼を返す。一応、コンビヌDMZではスパイ行為は禁止されている。DMZなだけに、情報収集と個人情報保護のためメモ用紙の持ち帰りすら禁止しているのだ。当然、そのようなコンプライアンスを神聖視しているターニャ・デグレチャフ個人としても、適切な人間関係を維持している。

 

 そのことは、レンゲル自身熟知しているはずなのだが、では、彼の態度は一体、何なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

そして、オオイシの単行本発売当日

 

「行ってきます」の言葉を残して、発売日イベントがあるという理由で、マサル・オオイシは朝一番の定期便で行ってしまった。

 

 どうやら、1週間ほど休暇を取るらしい。休戦期間中なので、それほど忙しいわけもないので、休暇願は簡単に受理された。

 

 行先は連邦らしいが・・・印刷の都合らしい、まぁ、検閲で引っかかるような書物ではないのだったら、無事に鉄道輸送で運ばれるのだろうか、少し引っかかるものを覚えながらも、特にターニャも追及しなかった。

 

 

 

「オオイシ君、行ってしまいましたね。」

 

「ああ、セレブリャコーフ中尉、忙しくなるな。」

 

 休暇の補充として、ノイマン中尉がシフトに入ってくれることになった。要領がいいのか、そもそも経験があるのかよく働いてくれている。オオイシがいない寂しさと、休戦期間の心地よい退屈に身をゆだねながら、ターニャとヴィーシャはバックヤードの休憩室で談笑をしている。

 

「そういえば、オオイシ君のマンガ、今日が発売でしたね。少佐殿は読みましたか?」

 

「いや・・・それがだな。朝一番に売り切れてしまったらしい。私が昼のシフトに入ったときには、取り置き分もなくなってしまったよ。」

 

コーヒーを飲みながら「それは残念ですね。」と、パイプ椅子の背もたれに体重を預ける。そこで、アマミヤがシフトの休憩で顔を出す。

 

「二人とも、何を話してるの?」

 

 話していることなど決まっているが、オオイシの話をすれば、何故か暗い顔をして目を逸らす。不思議そうにターニャとヴィーシャの視線がアマミヤに集まった。

 

「その、そんなに鳳石君のマンガ、見たい?」

 

 原稿用紙の束が入った封筒・・・そんなものがあったのか、と二人で顔を合わせるが、先ほどの暗い顔を剣呑なものに変えながら、息をのんだ。以外に分厚いマンガ原稿、それを取り出せば、可愛い幼女と少女の表紙が目に入った。

 

 

 

 

 

 マリア様のお庭に集う乙女たちが

 

『ごきげんよう、ヴィリアお姉さま。』

 

 今日も天使のような笑顔で、あいさつを交わし

 

『ほら、ネーニャ・・・タイが曲がっていてよ。』

 

 穢れを知らない心身を包むのは、深い色の軍服

 

『ああ、ヴィリアお姉さま、怖い・・・』

 

 その、穢れのない純粋培養のお嬢様を調教し・・・

 

『震えてしまって、大丈夫・・・可愛い私の義妹(プチスール)・・・チュッ――』

 

 禁断の果実の味を教えこみ、箱入りで祖国への忠誠を誓う姉妹(スール)となる。 

 

『やっ、ぁ、そんなところ・・・存在Xが見てるッッ――』

 

 ネーニャ・デルフリチャフも、そんな平凡なお嬢様の一人だった。

 

 彼女、紅薔薇の乙女、ヴィリア・セルジェコバと会うまでは・・・

 

 

 

 

 

 

 

「「なんじゃ、こりゃぁぁぁッ!!!」」

 

 二人同時に絶叫、ターニャ・デグレチャフ少佐が原稿用紙を引きちぎれば、セレブリャコーフ中尉が「もったいない。」といったような気がした。しかし、その、なんだ・・・オオイシの書いていた漫画というのは、その・・・

 

「ちなみにこれ、単行本では、さらに激しい描写が・・・」

 

「ま、まさか、この、金髪碧眼の幼女と、おっぱい女の、その、なんだ・・・モデルと言うのは・・・」

 

 ワナワナと手が震えた。いや、オオイシは絵が上手い。間違えようもあるはずもない・・・しかも、このなんだ、“ネーニャ”という幼女は、下半身の特徴まで私と一緒ではないか、それに、このおっぱい女――

 

 隣で切れ端のマンガを見て、なにか放心しているヴィーシャを振り返る。ターニャの怒声が飛んだ。

 

「すぐにV-1を用意しろ。こんなふざけた本、魔女の婆さんに誓って焚書にしてやる。」

 

 

 

 

 

 

 連邦の赤の広場は熱気に満ちていた。

 

 いや、最近のモスコー自体がこのような活気にあふれるのは珍しいことだ。戦争の統制経済、容赦ない徴用、さらには、政治警察の監視、いや、政治警察の監視は続いているのだが、それは、このイベントを一般の人民に見せないため、赤の広場周辺の1km範囲は、厳しい外出制限を引いている。

 

 そんな、赤の広場に集まっているのは、内務人民委員の個人的な“同志”達だった。全員、一様に暑苦しい容姿に、異様に太っているか痩せているか・・・異性の興味を引くような容姿のものは一人もいない。何人か、外国人のものもいるが、誰も気にしない。ここに集まっているのは“同志”なのだ。何も気にしないし、なにも見ない。検索もしない。それがここでのルールだった。

 

「よく集まってくれた。同志諸君――」

 

 このイベントを企画し、立案した男、ロリヤの声が壇上から響く

 

「今日この日、我が人民だけでなく、同じ志を持った同志に会えたことを、私は快く思う。そう、今日、この素晴らしい、プロレタリアート作品が発売され、すべての同志と共有できる素晴らしい日」

 

 誰もが沈黙する。中には涙を流している者もいる。それは、迫害されたものが流す。歓喜の涙だった。

 

「その、共産主義的情熱を注ぎ、この芸術作品を書き上げた偉大なる同志、わが敵国ながら、同じ志を持ちマルクス氏の共産党宣言に次ぐであろう作品の産みの親、オオイシ・マサル先生に登場してもらおう。」

 

 そして、割れんばかりの拍手、気の弱そうな笑顔を浮かべたコンビニ店員が、内務人民委員・・・このルーシー連邦の治安部分を支配する怜悧な独裁者と固い握手をした。

 

「よく来てくれた、同志オオイシ・・・あなたの芸術は、いつも拝見させてもらっている。」

 

「いやー僕も、こんなに熱心な読者がいてくれて嬉しいです。」

 

 壇上で硬く抱擁する二人、壇上のマイク、手には分厚い単行本と、薄い本が握られていた。

 

「あー、今日は、僕の発売記念即売会に来てくれてありがとうございます。今日、購入してくれた方には、特別に、18Pの同人誌も同時購入できます。」

 

 薄い本を掲げれば、その拍子は、半裸の金髪碧眼の幼女・・・何かで切り裂かれてはいるが、軍服のようなものを着ていた。羞恥で赤面した顔を見れば、同志たちの歓声があがる。

 

「――内容は、ロリヤさんにネームを書いてもらい。ネーニャちゃんが、共産主義青年将校の捕虜になり処じ――」

 

「敵襲ッ、モスコー上空に、敵魔道反応多数ッ」

 

 警報にかき消された声と同時に、会場内に置かれていた1万冊を超える“プロレタリアート作品”が炎上した。 

 

 

 

 

 

 

 

 モスコー上空を哨戒する魔導士・・・おもに、赤の広場で行われているイベントの警備だが、3機編隊の飛行小隊が、こちらに接近する魔道大隊を発見したのは、イベントが始まってすぐ、0930時だった。一度、双眼鏡で確認すれば、警告のようにメガホンで接近する魔導士に警告する。

 

「とまれ、ここは、仮装禁止空域だッ、イベント許可書を見せ着替えは――」

 

「許可書ならここにあるぞッ」

 

 反撃する間もなく、貫通術式で狙撃された連邦魔道師は、何が起こったのかわからなかった。偉大なる同志、さらに、同じ志を持つ者たちで行われたイベント、たまに、ルールを守らずに、会場外から“彼女”の仮装をしてくる“同志”に警告しただけなのに・・・

 

 本人たちは、撃墜され、地面に躯を打ち付けるまで気が付かなかった。

 

 これは、仮装ではなく、“本人”が会場に来たことに・・・

 

 

 

 ヴァイス中尉は、出撃前、妙に興奮したデグレチャフ少佐から受けた命令『第一目標、児童ポルノ!第二目標、有害図書!!第三目標、成人向け同人誌!!!』を胸に叩き込む、赤の広場、マンガコミック即売上を目指す。

 

 目標はすぐに発見できた。何故か知らないが、すごい人だかりだ。おそらく、武器を持たない一般市民・・・だが、攻撃術式を使うことに一切ためらいを持たなかった。他の兵士たちもそうだろう。何故かあれには、生理的な嫌悪を抱く・・・そういう人間たちだとわかったからだ。

 

 普段なら、対地攻撃には爆裂術式を使うが、本日は焼夷術式を使う。これは、兵たちにはやたらと人気のある術式だった。燃え上がる炎がすべてを焼き尽くすような錯覚を覚えるからだ。しかし、実際の効果はさほどではない。効果があるとすれば、平地で昼寝をしている1個師団・・・または、抵抗するすべのない一般市民にくらいだろう。

 

 しかし、その術式を今日はあえて使う、モノがモノだけに、燃え上がることは間違いなかった。

 

 

 

 

『航空爆撃評価、全弾命中、出版物に引火、火災を確認』

 

『目標の火災を確認、我、奇襲に成功せり、レイニーブルー、レイニーブルー』

 

『目標の破壊を確認、第二目標の攻撃に移る。パラソル作戦の第二段階に移行』

 

 編隊を崩さず、見事な軌道を描きモスコーの上空をフライパスする。後方で督戦するターニャとヴィーシャが燃え上がる“目標”を確認する。

 

「了解、パラソル作戦を開始、目標の保管している倉庫、さらに出版施設への攻撃を許可する。」

 

 隣で「もったいない」という声が聞こえなくもなかったが、あえて無視することにした。

 

 燃え上がる炎に照らされ、ターニャが飢狼のように舌を舐めずれば、一枚の原稿が、熱風にあおられ、この高度まで舞い上がる。原稿の中、恥じらい赤らむネーニャ・デルフリチャフと見比べ、ヴィーシャは小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

「なんで、どうして・・・僕がこんな目に・・・」

 

 炎と銃弾のなか逃げ惑う鳳石まさるは、爆撃で本の束が四散する。どうにか赤の広場・・・イベント会場を逃げ出せば、陰気な建物の陰に身を隠し頭を抱える。

 

「・・・おやおやオオイシ君、大変でしたね。」

 

 ビクリ、と、身体を震わせて振り向けば、どこか若現れたのか、カワグチ店長がニコニコと立っていた。

 

「しかし、困りましたね。こういう個人活動で勝手に店員をモデルにしてもらっては・・・」

 

「あの、店長・・・これはッ・・・」

 

「オオイシ君、減俸1か月――」

 

 ある意味、資本主義のあ不壁のような決定が、共産主義の聖地で行われ、オオイシは膝をついて放心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ターニャ「やったー、ついにロリヤ登場だぜ、イェーイ」(笑顔でダブルピース)

ヴィーシャ「この、作者も単行本を買って、少し作風を変えてきましたね。頭の中は平常運転ですけど」

ターニャ「もう、何も怖くないぞ。レンゲルが参謀本部で男性将校相手に〇〇されても、私は驚かない。」

ヴィーシャ「でも、今回は微妙に向こう側に落ちてませんよね。そういう意味では・・・」


※ターシャだったら、男性名になるじゃないか・・・と言うわけで書き直しました。



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