生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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 師の百の言葉よりも、一度の戦闘で得た物の方が多かった。

『百閒は一見に如かず、しかし一見のみは百聞にも劣る』

 でも、その百の言葉が無ければその戦闘で死んでいた。


『百聞は一見に如かず』

 【ロキ・ファミリア】の副団長、【九魔姫(ナインヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴの私室にて、本を必死に読み耽っている幼いウェアウルフの少女。

 その背を見ながら部屋の主は手元の紙に視線を落とした。

 

「優秀だな……もう十階層までの知識を覚えきったのか……」

 

 幼いウェアウルフ、カエデ・ハバリが提出した答案用紙を見て、その解答の正答率が十割である事に驚愕しながらリヴェリアは吐息を零した。

 

 

 

 今朝、カエデ・ハバリが朝食をとった後にリヴェリアの部屋を訪ねてきた。

 

 事前にロキからカエデにダンジョンの知識の教育等を任されていたので、既に準備してあったダンジョンの基礎知識を詰め込んだ本をカエデに手渡し、一通り読んでみろと指示してから一時間程。

 

 その本には階層毎の構造、危険地帯、注意箇所、出現モンスター、モンスター毎の注意点等々ダンジョンに関する知識が詰め込まれている。

 『オラリオ』の運営と『ダンジョン』の管理を請け負う『ウラノス・ファミリア』通称『冒険者ギルド』と呼ばれる組織が作り上げ、新米冒険者に配布する『ダンジョンのすゝめ』と言う指南書があるが、ソレ等とは比べ物にならない程の情報量がびっしりと書き込まれている。

 

 『ダンジョンのすゝめ』と言う『ギルド』が発行している新米冒険者用の指南書に記載されているのは、出現モンスターの分布と、ダンジョンの構造、ダンジョンに対する推奨ステイタス、モンスターのレベル識別ぐらいでそれ以外の情報は記載されていない。

 

 元はもっと多数の情報が記載されていたが、本を破り捨てたり、火口として使う等、まともに読む新米冒険者が居なかった為、記載情報は必要最低限で「とりあえずこれだけは読め」とされたのだが……

 

 冒険者は腕っぷしに自信を持つ者が多い。無論、ファルナがあれば元の腕っ節等あろうが無かろうが関係ないが、それでも腕自慢が冒険者になる事が多い。

 それ以外に冒険者になるのは夢見る少年少女ばかりであり、特に夢見がちな少年らは情報を軽視する事が多い。

 ギルドの受付嬢達も口煩く注意するのだが、それでも情報を軽視する冒険者は数えきれない。

 

 新米から死者が絶えない理由でもあるのだが、現状では打つ手無しである。

 

 そんな冒険者志望者にありがちな夢追い穴に落ちると言う事が一切無いのがカエデ・ハバリである。

 

 冒険者を夢見て来たわけでは無く、延命の為にオラリオに訪れた少女は、焦りはあるだろうがそれでも情報を軽視する様な事は無かった。

 元の教育の結果なのだろう、知識の重要性を理解し、なおかつ知識の習熟に関して苦を覚えない性質も相まってリヴェリアの用意した『ダンジョンの基礎』と言う基礎を詰めに詰め込んだ本を隅から隅まで読み込もうとしている。

 

 ちなみに、アマゾネスの姉妹の姉は一瞬で投げ出し、妹の方は元から物語好きで本を読む事が多い故にいけるかと思えば、つまらないと投げた。

 剣姫と呼ばれる少女は、本を二、三頁捲ってからそっと机に本を置いて涙目でリヴェリアに「無理」と懇願し、凶狼と呼ばれる少年は斜め読みで最後まで読んだと豪語した後に、リヴェリアの試験で叩き落され計数十度の読み返しを余儀なくされた。

 

 そんな著者リヴェリアの『ダンジョンの基礎』を、必死に読んでいるカエデは、途中で投げ出す事も、そっと本を机に乗せる事も、斜め読みで読んだ振りをすることも無く、一頁、一頁を丁重に読み込んで覚えようとしている。

 

 試しにリヴェリアが三階層毎の情報を質問すると言う簡易試験を行った結果は全問正解。

 

 一回目の回答はアイズが七割、ティオネとティオナが四割、ベートが五割と悲惨だったのに対し、カエデは一問も間違えない所か、白紙を手渡しダンジョン階層移動の階段までの最短ルートを書けと指示を出せば、一階層から六階層までの詳細な、分岐路から何まですべてを丁重に書きあげて見せた。

 

 本を盗み見ていたのかとも思ったが、その時『ダンジョンの基礎』はリヴェリアの手の中にあったし、リヴェリアは本を開いてはいなかった。

 

 カエデの記憶力の高さにリヴェリアは意地悪な問題も含めた試験を一時間おきに行った所、四度目の試験で十階層の問題も複数交ぜて出題してみたが、カエデは問題なく全問正解してみせた。

 

 執念の成せる業と言うべきだろうか

 

 

 

 カエデに『ダンジョンの基礎』を手渡した際に、カエデは引き攣った笑みを浮かべてリヴェリアを見上げ、本に目を落としてから、もう一度リヴェリアを見上げた。

 

「これは……」

「ダンジョンの基礎だ、ダンジョンで必要な知識を全て詰め込んである。コレを覚えればダンジョンでの活動も少しは楽になるだろう」

 

 カエデはゆっくりと本を開き、その情報量に目を見開いた後、一度本を閉じてからリヴェリアを見上げて口を開いた。

 

「必要とあらば、全て覚えます」

 

 そう言うと、カエデは本をじっと読み始めた。

 

 

 

 

 

『百聞は一見に如かず、その通りじゃったじゃろう?』

 

 初めての、モンスター退治。

 

 カエデは現れたゴブリンの姿を見て怯んだ。

 

 幾度と無く師の言葉でゴブリンとは如何様なモノなのかを聞いていたのに、初めてその姿を視界に納めた瞬間、ワタシは恐怖で身を縮こまらせてしまった。恐怖等抱きようが無いと豪語する程に聞き及んだその姿に怯んだワタシを見た師はケラケラと笑いながらゴブリンを斬り捨てて、飛んできたねじれた矢を手で叩き落とす。

 

『ボサっとするな。 刃を抜き放て、百度の言葉より、一見し刃を交えよ、さすれば理解もできよう』

 

 ワタシは無我夢中で剣で相手を斬った。いや、殴った。

 

 刃を立てる等と言う考えも浮かばない程に、手元は狂い、相手に叩きつける様に剣を振るった。

 

 事が終わった後、師は言った。

 

『百聞は一見に如かず、けれども聞いておらなんだら、オヌシは此処で屍を晒しておったじゃろうな、知らぬより知っておった方が良いに決まっておる』

 

 師の言う通りだった。ゴブリンは一匹一匹はそんなに強くない。けれども数と言う強みを生かす戦いをする。知らぬ者は目の前の一匹に集中し、囲まれて殴られて死ぬ。

 

 剣の振りは無様の一言だったが、それでもワタシは常に囲まれぬ様に立ち回った。

 

 それのおかげか怪我らしい怪我は無かった。

 

 ゴブリンの特性を聞いていなければ数を減らす為に目の前の一匹を倒すのに必死になり、注意力散漫となり不意打ちで追い詰められていたか、幼く非力な自分はゴブリンにあっけなく殴り殺されていた事だろう。

 

『百聞は一見に如かず、しかし一見のみは百聞にも劣る……一見すればそれで良い等とほざいて、一見はしてもその場で死んでしまえば百聞にも劣る。気をつけよ』

 

 百でも、千でも、万でも知れる事があるなら知ろう。知らぬして死ぬ事程、無様な死に様は無い。

 

 

 

 

 弱音を吐くかとも思ったが、そんな事は無かった。

 

「全てを覚えるのは難しい、重要な点は二重線が引かれている。そこを覚えればいい」

「いえ、知っているのと知らないのでは全く違いますから、全てを覚えます」

 

 本から目を離さずにそう言ってのけ、なおかつ本当に全ての知識を吸収しようとしている姿に、リヴェリアは感心すると共に、心配させられる。

 

「今日はこの辺りにしよう。もうお昼だ」

「いえ、後少しだけ」

「もうやめろ。それに一日で詰め込んでも明日には忘れるだろう」

 

 アイズはマシだったが、ベートは覚えた事の三割を次の日に忘れ。ティオナとティオネに関しては半分近くを忘れていた。

 今日少し見た限り、知識の吸収と言う意味では凄まじいものの、明日に全てを忘れちゃいましたなんて事になれば洒落にならない。

 

「……わかりました」

 

 渋々と言った様子で本を閉じたカエデの頭を撫でてから、リヴェリアは立ち上がる。

 

「その本はお前にやろう。根を詰め込み過ぎるのは良くないから読み過ぎるなよ?」

 

 アイズやベート等、他にリヴェリアが面倒を見た団員には『捨てずにちゃんと読め』と注意していたのに、逆の注意をしなくてはいけないのは嬉しくあるが複雑な気分だ。

 

「わかりました」

 

 カエデは本を大事そうに抱え持つと、リヴェリアに頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

「いや、構わない。それでは昼食に行くが、一緒に行くか?」

「先に部屋に本を置いてきても良いでしょうか?」

「ん? わかった。私も同行しよう」

 

 

 

 

 リヴェリアとカエデが並んでテーブルに着いたちょうどその時、ロキがフィンと一緒に歩いて食堂にやってきた。

 ロキは直ぐにリヴェリアとカエデに気付いて大きく手を振りながら二人に近づく。

 

「カエデたーん、調子はどうや? 元気か?」

「はい、ロキたん様」

「さまなんてつけへんでええて」

 

 毎度の如く、眷属との距離感を縮めようとするロキは嬉しそうににこにこしていた。

 いつも以上ににこにこ顔のロキを見て、リヴェリアが半眼でロキを睨む。

 

「何かあったのか?」

「なんで睨むねん」

 

 にこにこしていたら眷属に睨まれ、ロキは不満そうに口を尖らせる。

 

「そりゃロキが嬉しそうな時は碌な事が無いからね」

 

 リヴェリアの代わりにフィンが笑いながら答えながら、カエデの向かいの席に腰かけた。

 ロキはカエデの横に座る。

 

「……? お昼ご飯、食べないのですか?」

「お昼はもう済ませたんよー」

 

 カエデの質問にロキは笑いながら答えながらカエデの尻尾をさわさわし始める。

 カエデは少しびくりと反応してからロキを見て、それから首を傾げる。

 

「楽しいですか?」

「めっちゃ楽しいで!」

「……そうですか」

 

 神様が楽しんでいるのなら、眷属となる自分が口を挟む訳にはいかないだろう。とカエデは敏感な部分を触られる度に体を震わせるだけで、必死に耐える。

 それに気付いたリヴェリアが無言でロキの頭に拳骨を落とした。

 

「カエデ、気にせずに昼食を食べていて良いぞ」

「……ありがとうございます」

 

 小声でリヴェリアにお礼を言ってから、カエデは昼食を食べ始める。

 

「酷いやんリヴェリアたん」

 

 拳骨のあたった頭をさすりながらロキが口を開くがリヴェリアは一睨みだけして自分の食事に手を付ける。

 無視されたロキが唸るが、リヴェリアは無視。

 苦笑いを浮かべたフィンが何時の間にやら用意したお茶を飲みながら口を開いた。

 

「それで勉強はどんな感じなんだい?」

「ああ、十階層までの問題は全問正解した」

「それは凄いね」

 

 長年の付き合いでリヴェリアの作った『ダンジョンの基礎』の本について知っていたフィンは、それを読まされているカエデに同情していたが、リヴェリアの言葉でフィンは目を見開いて驚く。

 

 リヴェリアの勉強会の辛さはフィンも知っている。

 

 フィンも団長としてダンジョンの知識を完璧に覚える際にリヴェリアに協力して貰ったが、その時の事はできれば思い出したくも無い。

 

 フィンの前で昼食のスープが熱かったのか涙目で息を吹きかけて冷まそうとしているカエデを見てからロキを見る。

 

「それで? ロキは何で嬉しそうなんだい?」

「聞きたいんか?」

 

 ふふふと意味深な笑みを浮かべたロキを見てリヴェリアが口を開いた。

 

「フィン? お前は何か知っているんじゃないか?」

「ああ、僕はちょうど食堂の入口でロキと会っただけだから、何でこんな気持ち悪い笑みを浮かべてるのかしらないんだ」

 

 フィンはお茶を飲み、肩を竦めながらリヴェリアに答える。

 

「気持ち悪いってなんやねん。神様の笑顔やぞ。後フィン、ウチの分のお茶はないんか」

 

 フィンを軽く睨みながらフィンのお茶に視線をやったロキはフィンに質問を飛ばす。

 

「無いよ」

「酷い団長やな」

「冗談だよ」

 

 笑みを浮かべながらフィンは隠していたコップをロキに手渡す。

 ロキはコップを覗き込んでフィンを睨む。

 

「コップだけやん、中身どこやねん」

「あそこにあるけど?」

 

 フィンの指差した先には、保温用の容器に入れられたお茶が置いてあった。入口直ぐ横である。

 

「なぁフィン、ウチに喧嘩売っとらへん?」

「朝、僕が寝てる所に君、何をしたか言ってごらん」

 

 フィンは凄みのある笑みを浮かべてロキを見る。

 ロキはうっと呻いてから視線を逸らしながら小声で呟く。

 

「落書きしただけやん」

「キミは僕の顔に『ティオネ専用』とか書かれてたらどうなると思うんだい?」

「面白くなるやろ?」

 

 ティオネ・ヒリュテがフィンに恋心を抱いているのはファミリア内で有名な話である。

 アマゾネスでもあるティオネの求愛行動はいささか過激であり、フィンは今のところはまだティオネが幼いから駄目だと拒絶しているが、いずれこの文句も使えなくなるだろう。

 まあ、その文句が使えなくなる頃には恋も冷め、ティオネも大人しくなるだろうとフィンは予想しているが。

 

「はあ、それで? ロキは何か楽しい事があったのかい?」

「実はなあ、朝ベートと会ったんよ」

「ベートとか? それがどうした?」

「ベートさん……?」

 

 食事を終えたカエデが首を傾げた後にぽんと手を打つ。

 

「銀色の人」

「銀色の……まあ、ベートは銀毛だから間違ってないな」

 

 リヴェリアがカエデの呟きに答えてから、空になった食器の乗ったプレートを持つ。

 

「食器を片づけてくる」

「ワタシも行きます」

「カエデたんとリヴェリアたんは興味無いんか?」

 

 ベートの話をしようとしたのに二人とも食事を終え、席を立つのを見たロキは二人を見るが、リヴェリアは

 

「興味など無い」

 

 と一言。カエデも同様に頷く。

 

「はい」

「あちゃー」

 

 ベートの方はカエデに興味有りな様子だったが、カエデ本人はベートに興味が無い様子。

 

「それでは、午後もよろしくお願いします」

「根を詰め過ぎるのは良くない。午後は別の勉強をするか……ダンジョン以外と言えばギルドや他ファミリアの事等だな」

「あー、リヴェリアたん、明日はカエデたんの武具の新調するためにファイたんの所に行くから午後空けといてなー」

「わかった、カエデもそれでいいか?」

「はい、わかりました」

 

 そう言いながらリヴェリアとカエデが食器を片付けるのを見送ったロキはフィンの前に座りなおす。

 

「真面目な二人が合わさると大変そうだね」

「カエデたん、真面目やからなぁ……リヴェリアと相性ええんやろな」

「それで? ベートがどうしたんだい?」

 

 改めてフィンに問われ、ロキはにこにこした顔で口を開いた。

 

「聞いてえな、朝ベートに会ったんよ」

「へえ」

 

 相槌を打ちながらお茶を飲もうとしたフィンは手を止める。

 

「お茶、淹れ直してくるよ」

「あー、ウチもお茶欲しいなー」

「しょうがないなあ」

 

 

 

 

 朝、ロキは基本的に十時ごろまで眠っている事が多い。

 時折、朝早く目覚めては鍛錬所に居るアイズにセクハラしに行く事もあるが、それも滅多にない。

 

 そんなロキは今日の朝は珍しく日の出の時間に目を覚ました。

 

「んー……カエデたんの事もあるしなあ」

 

 姿見の前で身嗜みを整えてから、ロキは自室の扉を開ける。

 それから思い出したかの様に水性ペンをテーブルから回収して団長の部屋に向かい、書類の処理で夜遅くまで起きていた所為でぐっすり眠っているフィンの顔に『ティオネ専用』と書いてから、テーブルの上に「ぐっすり眠っとったで byロキ」と書いた紙を用意してから、こそこそと部屋を抜け出す。

 

 どんな反応するやろかーと楽しげにスキップ混じりに廊下を歩いていると、反対方向から歩いてくるベート・ローガの姿があった。

 ベートは何やら嬉しそうにふっと笑いながら歩いてきており、ロキに気付いていない。

 ロキはすっと廊下の横によってベートが来るのを待つ。

 ベートが近くに来た所でロキはベートの横に並んで歩き始める。

 

「嬉しそうやな、なんかあったん?」

「あぁ、カエデが鍛錬所で……ってロキ!?」

「今気付いたんかい」

 

 まあ、ロキに気付いていたのならベートは無言で回れ右してロキを避けようとしただろう。もちろん、ロキはそんなベートにいちゃもんをつけて絡みに行く。今回はベートが気付かなかった為に接近を許したのだろう。

 

「それで、何があったん? カエデたんが鍛錬所でなんかしとった……まさか……」

「おい、なんだその顔」

 

 大きく仰け反りながら、驚愕の表情を浮かべたロキはベートから二三歩後ずさる。

 そんなロキを見たベートはあからさまに面倒くさそうな顔をしてロキを睨む。

 

「カエデたんを押し倒してあんな事やこんな事を「してねぇ!!」せやろなー、ベートってヘタレやしなぁ」

「誰がヘタレなんだよ!!」

「ベート」

「んな訳ねえだろ!?」

 

 にっこりと即答して見せたロキに、ベートが怒鳴るがロキは上機嫌そうにベートに身を寄せる。

 

「んで、何があったん?」

「何でもねえよ」

「またまたー、神様に嘘は通じへんで?」

 

 面倒な奴に絡まれた、どうやって逃げる……いや、絡まれた時点で逃がす気は無いだろう。楽しい事に飢えてるこの神の面倒臭さはそれなりに付き合いがある故に理解できてしまう。

 

「……カエデの鍛錬、見てたんだよ」

「ほー、それで?」

「…………」

 

 顔を逸らし、頬を赤らめるベートを見て、ロキは内心ツッコミを入れる。

 

 ベートがそんな初心な反応してどうすんのや、そういうんはカエデたんの仕事やろ。

 

「それで? 何があったん?」

「……昨日」

「昨日? あぁ、ベートがめっちゃカエデたんを視姦しとったな」

「してねえからな!? ……昨日見た時、アイツが腑抜けたように見えたんだよ」

 

 昨日? 夕食時のカエデたん?

 腑抜けたように……まぁ、昼間の入団試験の時にあんな啖呵を切っておきながら、夕食時にパンを嬉しそうに頬張っている姿を見て、腑抜けた様に見えなくもない……のか?

 

「でも、ついさっき鍛錬所で見た時、アイツはあの時と同じ目をしてたからよ、腑抜けた訳じゃねえんだなって」

「あー、せやから嬉しそうに尻尾ふりふりしとったんか?」

「してねえッ!! そんな犬っころみてぇな事しねえよ」

 

 そう言いながらベートはロキを置いて早足で歩いて行ってしまった。

 ロキは足を止めてその後ろ姿に一言。

 

「……いや、上機嫌そうに尻尾振っとるやん」

「…………」

 

 上機嫌そうに振られていた尻尾が、ロキの一言でピタリと止まり、ベートはそのまま走り出した。

 

「廊下走るんは危ないでー……聞こえとらんやろなー」

 

 そう言い残し、ロキは鍛錬所の方に足を向ける。

 

 無茶してないと良いんやけどね。まあ、カエデたんは頭悪くは無いっぽいし、大丈夫やろ。

 

 ロキの事を未だ「ロキたん様」等と呼んでいるが、それはそれでアホの子っぽくて可愛いので良いのだろう。

 

「むふふー……ん? この時間ならアイズたんも居るんかな。…………邪魔したら腕持ってかれそうやし、覗くだけにしとこか……」

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