生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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『ヒヅチー、ヒヅチー』

『そう叫ぶなワンコ、何の用じゃ……ふむ? 何故剣を抜いて……あぁ何時ものか……ほれ、何処からでもかかってこい』

『今日こそぶっ倒してやるさネッ!!』



『ヒヅチには勝てなかったさネ……』

『何故オヌシは学ばぬのじゃ、少しは考えて戦わんか阿呆め』

『おかしいさネ、アチキこれでも一級冒険者さネ、なんで無所属に負けるさネ』

『経験の差じゃな』

『記憶喪失の奴が経験とか言うなさネッ!!』


『道』

 【ロキ・ファミリア】の鍛錬所にて、カエデ・ハバリは両腕を前に突き出して『ウィンドパイプ』を水平に構え、目を瞑り己の身の内に意識を集中させていた。

 

 

 

 ファルナを授かり、師の生存の可能性が示唆されて、カエデが思った事は一つ。

 

 ――ヒヅチを探しに行きたい――

 

 会いたい。それは当たり前の事だろう。

 

 死んだとは思っていなかった、だが生きているのなら何故現れないのか?

 そんな疑問を封じ込めながらオラリオを目指していた。

 何度も何度も、日が落ち、月夜を見上げる度に師の名を呟いていた。

 『名を呼べば何時でも、何処にでも駆けつけよう。約束じゃ』

 ヒヅチはそう言った。名を呼ぶ度に心に空いた穴を風が通り抜けて行くような、空虚な感覚に襲われた。

 

 だが、ヒヅチが何かを成す時、そこには常に何かしらの理由があった。

 

 初めて真剣を持った時。ヒヅチは無造作にカエデを斬りつけた。傷自体は大した事無く、少し切れて血が出ただけで、痕すら残らなかった。

 あの時、ヒヅチはこう言った。

 

『剣を甘く見るな。刃を向けるべき先を見失うな……斬るべきモノだけを斬れ……ワシの様になるぞ』

 

 身を持って剣の恐ろしさを教える。その目的の為にカエデを傷付ける事も辞さない。それはヒヅチなりの愛情の一つだった。

 

 ヒヅチは危険なものを取り扱う時は常に口にする。

 

『己が身を傷つけるモノは全て、他者も傷つける事が出来る。ソレの意味を理解せよ』

 

 火を扱う時。ヒヅチは無造作に焼けた炭をカエデの掌にのせた。火傷した。二週間程痛みで手が上手く動かなかった。ヒヅチは『火を使っとる時は集中せよ』と言った。

 火が危険なものだと理解できた。ワンコさんはもっと上手いやり方があるとヒヅチに詰め寄っていたが、ヒヅチの教え方は非常に理解しやすかった。

 

 ヒヅチが何かを成す時、そこには常に何かしらの理由があったのだ。

 

 ならば、今回もきっと理由があるのだろう。

 

 少なくとも『ヒヅチはワタシを想っている』と言う事は確定している。

 

 ヒヅチの生存の可能性に縋り付いて探しに行く事は簡単だ。

 

 だが、思い出すのは師が口にした言葉

 

『初心貫徹、ヌシが最初にやろうと思った事は最後まで成し遂げよ』

 

 模擬戦は負け、剣を折ってしまい。入団できないと思った【ロキ・ファミリア】の入団試験を抜け出さなかったのは、その言葉があったからだ。

 

 そして、カエデ・ハバリが【ロキ・ファミリア】に入団した際に心に誓ったモノ。決めたモノ。

 

『ファルナを得て、ランクアップをし、十分な寿命を得る事』この三つだ。

 

 ロキにもそう吼えたのだ。

 

 ならば、師を探すよりも前にこれらを成さねばならない。

 

 それに、師を見つけても寿命で死んでしまっては意味が無い。

 

 

 

 

 鍛錬所の片隅。

 

 ファルナを授かった事で変化した身体能力の確認の為に軽い素振りを行い、それが終わってから師が『呼氣法』と呼ぶ技法を使った場合の確認作業も行っていた。

 

 『呼氣法とは何か? 己が身に宿る力の循環。それは意識せずともオヌシの身に循環しとる。だがそれは生きるのに必要最低限の循環が為されておるだけに過ぎん。なればこそ、攻撃に適した循環へと至ればより鋭い、より早い、より強い攻撃を繰り出す事が出来る。其の循環を己が望むがままに変化させる技法。それが呼氣法じゃ』

 

 師はそう語った。

 

 ワタシが使えるのは二つだけ。

 

 常に意識せずとも使っている『丹田の呼氣』と戦闘中に意識して使う『烈火の呼氣』だけだ。

 

 他にも『黒鉄の呼氣』『身命の呼氣』『月下の呼氣』等、師は様々な『呼氣法』を使い分けていたが、自分に出来たのは二つだけ。

 

 『丹田の呼氣』は、師が真っ先に習得しろと言ってきた『呼氣法』だ。

 

 人の心である精神、人の技である技能、人の体である身体、この三つは密接に関わりあっている。

 『心・技・体』三つが整わねばまともな一撃は繰り出せない。

 

 気を付けるべきは、技は心と体が支えていると言う所だ。

 そして、心と体は互いに干渉し合っている。

 

 体に強い刺激があれば心が驚く

 心に強い刺激があれば体が驚く

 

 怪我をしたとき、体調が崩れた時、身体の不調に引っ張られ、精神は弱る。

 失敗をしたとき、悲しみに暮れた時、精神の不調に引っ張られ、肉体は弱る。

 

 逆に言えば

 

 身体を強く保てば精神は強く保てる

 精神を強く保てば身体は強く保てる

 

 故に師は『丹田の呼氣』を無意識に使う事を指示してきた。

 

 『丹田の呼氣』とは、精神を静め、身体を整える呼気である。

 

 この『呼氣』があったからこそ、冷静さを保つ事が出来てきていたのだ。

 

 『丹田の呼氣』が使えなければ単独で『オラリオ』までたどり着けたかどうかわからない。

 

 ヒヅチの死に動揺()()()()()()()のも、これのおかげ。

 

 この『丹田の呼氣』は常に使っているので今更ではあるが、最近は蓄積した身体の疲労が精神の振れを促し、精神の振れを『丹田の呼氣』で抑えきれなくなっていた。

 

 【ロキ・ファミリア】の入団試験でロキに対して吼えてしまったのも、ソレが原因。

 

 『ヒヅチの生存』を聞いた瞬間に【ロキ・ファミリア】を飛び出さずに冷静に『師の言葉』を思い出して行動できたのも常に使い続けていた『丹田の呼氣』のおかげだ。

 

 「寿命が短いのに、冷静過ぎて不気味だ」そんな風に言われる原因だが、これが無ければワタシは精神の動揺から体調を崩す可能性が高い。

 

 不気味な程の冷静さの秘密

 

 常々無意識に使えるレベルにまで達していたのはヒヅチのおかげだ。

 

 

 そして『烈火の呼氣』

 

 此方は単純に力を引き上げてくれる『呼氣法』だ。

 

 ただし『呼氣法』は一度に一つのモノしか使えない。

 

 『烈火の呼氣』のさ中は『丹田の呼氣』が使えない為、今までは『烈火の呼氣』の使用は抑えてきた。

 

 『烈火の呼氣』を使い、精神の動揺があれば身体の疲労が重なってそのまま錯乱して暴れ回る可能性もあった。

 

 だが、今回、十二分な休息を得て、ファルナを得た事で身体能力が向上し、精神は身体に引かれ、精神面もある程度の向上が見込めた。

 

 其の為、ダンジョンに潜る前の確認として『烈火の呼氣』の使用を考えたのだ。

 

 

 『烈火の呼氣』とは、己が身を生命力と言う薪を燃やす炉に見立て、『呼氣』にて空気を送り、より大きな焔を生み出す事で身体の力を増す『呼氣法』である。

 

 

 意識を集中させ、自分の体と言う炉に()べられた生命力と言う薪を燃やす火を、徐々に、少しずつ大きくしていく。

 

 火が徐々に大きくなり、ある時を境に爆発的に大きな焔へと変化する。

 

 その瞬間を狙い、剣を振るう。

 

 

 振り抜き・真一文字

 

 

 ただの横一閃の一撃は、目に留まらぬほどの速度をもってして振り抜かれた。

 

 振り抜いた直後、肩がぎちりと鈍い痛みを発し始めた。

 

「……痛い……」

 

 『呼氣法』を『丹田の呼氣』に戻せば、身体と言う炉の中で燃え上がっていた焔は一瞬の内に消え去り、残ったのは体に残る気怠さとも取れる疲労感と、振り抜いた際に痛めた肩の鈍い鈍痛のみ。

 

 『呼氣法』には種類がある。

 

 『常用の呼氣法』と『単用の呼氣法』だ。

 

 前者は『丹田の呼氣』『身命の呼氣』『月下の呼氣』等、常に使い続ける事が出来る『呼氣法』

 

 後者は『烈火の呼氣』『黒鉄の呼氣』『集念の呼氣』等、一時的に使い、休憩を挟む必要のある『呼氣法』

 

 正しい『単用の呼氣法』の使い方は『大きくした火を小さくしないように定期的に呼氣法を行う』事である。

 『単用の呼氣』は長時間使用し過ぎれば疲労が蓄積し身体に異常をきたす。

 

 其の為、使用については師に厳しく教えられた。

 

 使い方を誤れば身を滅ぼす。それは師が教えた技法すべてに言える事だ。

 

 剣も、己が身を斬り裂く危険を孕んでいる。

 

 だから教えをしっかりと守った積りだったのだが……

 

 

 思った以上に威力が出た。

 

 

 鈍い鈍痛が両肩に伸し掛かる様で、腕が震えている。

 

 カエデは何とか鞘に剣を納めてから、鍛錬所の隅に用意された長椅子に腰かけた。

 

 上手くいかない。

 

 何故だろうか……

 

 

 

 

 

「見たか今の……」

「……見たよ。恐ろしいぐらい速い一閃だったね」

 

 【ロキ・ファミリア】の主神、ロキと団長フィン・ディムナの二人は窓辺から鍛錬所にてレベル1とは思えないありえない程の速度を誇る一撃を繰り出した幼いウェアウルフの少女、カエデ・ハバリを見てから、フィンは部屋に視線を戻した。

 

「……あー、なんや問題が山積みやで」

「そうだね……それで? 今日はボクが一緒に行くで良いのかい?」

「んー……頼めるか?」

 

 二人の悩みの内容はいたってシンプルだ。

 

 カエデと共にダンジョンに同行するメンバーの選出。

 

 先日、カエデ・ハバリが謎の視線を感じたと言う報告がリヴェリアよりあげられた。

 

 その後もしばしカエデは窓から外を眺めては何かを探す仕草を繰り返しては首を傾げていた。

 

 鍛錬の際には必ずアイズに「誰かに見られてないですか? ……気のせいでしょうか?」と声をかけている。

 

 原因について心当りが有り過ぎてロキは慌てる事となった。

 

 『オラリオ』に存在する『白亜の塔・バベル』は神々の技術を持って地上に、ダンジョンの真上に聳えたつ他に類を見ない程の高さを誇る建造物だ。

 その『バベル』の最上階を貸切、自分のモノとして『オラリオ』を睥睨するとある女神の存在がカエデの指摘する「上から見られている」と「ワタシじゃないワタシを見ている様な」の二つに当てはまる。

 

 神々は地上の人々(こども)の『魂』の揺らぎを感じ取る事が出来る。

 その『魂』の揺らぎをもってして、神々は地上の人々(こども)の嘘を見抜くのだ。

 

 そして、その『魂』を直接見る事が出来る女神が存在する。

 

 天界ではロキと一緒に悪巧みやらなんやら色々やらかしており、ロキ曰く「ウチ以上に性格悪い神やで?」との事。ちなみに神々からすれば「どっちもどっちなんだよなぁ」と言った感じである。

 

 その女神はだいぶ手癖が悪く、気に入った眷属(こども)が居れば何としてでも手に入れようとする悪癖がある。

 しかも手におえない理由は多々あり、現『オラリオ』において探索系ファミリアの中では【ロキ・ファミリア】と最上位を争い合う超強豪ファミリアであると言う点。

 

 中小規模のファミリアでは到底太刀打ちできず眷属を奪われるし、大規模であってもとある理由から眷属を奪われる事も多い。

 

 その神がカエデ・ハバリに目を付けたとなれば、状況としては最悪だと言える。

 

 相手は一度目を付けた子にはちょっかいをかけたがる。

 

 具体的に言えば『試練』を与える。

 

 『試練』を与えられた眷属に待っているのは二つ。

 

 『試練』に敗れ、女神の興味から外れて打ち捨てられた骸と化すか

 『試練』を超え、女神の興味を引き、女神の手によって奪い去られるか

 

 もし、カエデ・ハバリに手を出すのなら、ロキは容赦する気は無い。

 

 そして、相手も本気で気に入った眷属(こども)に『試練』を与える事を一切躊躇しない。

 

 今の所はカエデの行動範囲は【ロキ・ファミリア】の本拠内部のみに限られて居た為に問題は無かったが、ダンジョンに潜る様になればちょっかいをかけられる可能性が跳ねあがる。

 

 下手にカエデと同レベルの冒険者とパーティーを組ませた日には『試練の邪魔』と言う理由でカエデだけを他の団員から孤立させて『試練』に挑ませるだろう。

 

 他の団員は帰ってくるが、カエデのみ未帰還等と言う事になりかねない……

 

 かと言ってカエデよりも上位にあたる冒険者と組ませるのも難しい。

 技能は高くとも、カエデはレベル1、行けるのはせいぜいが中層。

 

 それに、準一級程度では最強に太刀打ち所か逃亡も叶わない。

 

 そうなればカエデと行動を共にするのは一級冒険者の中でもレベル6の団員でなければ危険が付きまとうが、他の団員から文句が上がるだろう。

 

 本当ならその女神に直接話をつけに行きたいところではあるのだが、あの女神は特殊な能力を有しており、人前に姿を現す事は無い。常に『バベル』の頂で『オラリオ』を見下ろすあの女神はロキと会おうともしないだろう。

 

 確認したいができない。そんな状態だ

 

 

 もう一つの問題。

 

「カエデたんのスキルの事もそうや」

「……【孤高奏響(ディスコード)】だったかい?」

 

 【孤高奏響(ディスコード)】カエデが習得した『旋律スキル』と呼ばれるスキル。

 

 『『旋律』に効果付与』とは、【ミューズ・ファミリア】が主に行っている冒険者向けの演奏会(コンサート)を行っている団員が全員持っているスキルの効力で、珍しい訳ではない。

 

 端的に言えば、歌や詩、奏でる音楽に効力が付与されると言うスキルだ。

 

 『基礎アビリティを一時的に向上させる』と言った『補助魔法』と同じ使い方が出来るのだが、欠点も同時に存在する。

 

 『補助魔法』の場合は『詠唱』を行い、対象者を中心に一定範囲の仲間に対して込められた魔力の効力が尽きるまで、効果が発動する。

 

 『旋律』の場合は、『歌』を歌う等で聞いた対象に無差別に効力が発動すると言う点。モンスター相手に効果が発動する事はまずないが、人間同士の戦闘の場合は自分だけでなく、範囲内の人物全員に効果を齎してしまう。

 

 そして、何よりカエデの習得した【孤高奏響(ディスコード)】は『『邪声』効果向上』の特性を持っている。

 

 『旋律スキル』の中で『聖声』『邪声』『聖律』『邪律』の四種類あるなかの一つ。

 

 『聖声』は声を、『聖律』は音楽等で、仲間に基礎アビリティ上昇や一時的に発展アビリティの『治癒』『精癒』の効力と同程度の治癒効果を付与すると言ったプラス効果を齎す。

 

 『邪声』『邪律』は声、音楽等で、()()()()()()()()()()

 

 『邪声』『邪律』と言えば【ミューズ・ファミリア】の一人、女神ウーラニアーの眷属の【呪言使い(カースメーカー)】が有名だろう。

 

 『心裂絶叫(スクリーム)』と言う技。

 

 ダンジョンのモンスターが使用してくる『咆哮(ハウル)』と同じく『強制停止(リストレイト)』の効果を持った技。

 それだけではなく『恐怖』に『錯乱』、『発狂』まで様々な状態異常(バッドステータス)を誘発させる恐ろしい技なのだが……

 

 致命的な弱点が一つ。

 

 “敵味方問わず発動時に旋律や声を聞いた全員に対して発動する”のだ……

 

 抵抗(レジスト)する方法はそう難しくない。

 

 特定のスキルを保有していれば『邪声』『邪律』は無効化可能だ

 

 他には単純にレベルが発動者よりも上なら無力化できる。

 

 だが『『邪声』効果向上』と言う特性があった場合、レベル差が一つでは抵抗(レジスト)出来ない場合がある。

 

 実際、【呪言使い(カースメーカー)】は準一級(レベル4)冒険者だが、度重なる【イシュタル・ファミリア】の一級(レベル5)冒険者【男殺し(アンドロクトノス)】の襲撃を単独で追い返している。正確には単独でないと味方にも被害が出るので単独で行動しているだけだが……

 

 『『邪声』効果向上』の場合は、下手に同レベルの団員所か、一つ上のレベルの団員とすらパーティーを組むのは危険だったりする。

 

 唯一の救いは『任意発動(アクティブトリガー)』だった事ぐらいか……

 本人に発動には注意する様に言い含めてあるので大丈夫だと思うが。

 

 そんな風に考え事をしていると扉をノックする音が聞こえた。

 

「ロキ、居ますか? ジョゼットです」

「おージョゼットたん入ってええでー」

「はい」

 

 扉を開けて入ってきたのは【魔弓の射手】ジョゼット・ミザンナ、二級(レベル3)冒険者で、『オラリオ』でも五人しか確認されていない装備魔法の使い手。

 

 淡い金髪に長い耳、背は高めでエルフらしく露出の少ない肌を隠す淡い萌木色の服を着こなしたエルフの少女は入室早々、頭を下げるとフィンに気付いて再度頭を下げた。

 

「団長もいらっしゃったのですか……こんにちは」

「あぁ、こんにちは」

「それで、リヴェリア様より此方の方へ伺う様に申し付けられましたが」

 

 ジョゼットは『邪声』『邪律』を無効化するスキルの保有者でもある。

 今回、カエデに同行して貰う為に呼んでおいたのだ。

 

「何の用件でしょうか?」

「せやねー、新しく入団した子しっとるやろ?」

「……白い狼人ですか。存じております」

「その子のお守を頼みたいんよー」

「別に構いませんが、毎日は無理です。私もラウルやアキとダンジョンに潜る日もありますので」

「あぁ、毎日やのうて、三日に一回ぐらいや、んで今日さっそくこの後行ってもらいたいんやけど……無理ならええで?」

「構いませんよ……今日はダンジョンに行く予定でしたが、ラウルが使い物にならないので……」

「……ラウル、まだ寝込んどるん?」

 

 本当なら同じく『邪声』『邪律』無効化を持ったラウルも同行させる気だったが、ラウルの方は二日前の『ガレス式強化訓練(実践編)』に参加して盛大にボコボコにされていた。何やらいつも以上にやる気に満ち溢れ、一度所かなんと八度もぶっ飛ばされてなお立ち上がってガレスに剣を向けた。何がラウルを動かすのかは分らなかったが、その後、ラウルはぶっ倒れて万能薬(エリクサー)まで持ち出す事になった。

 怪我自体は完治したものの、その次の日丸一日は動く事が出来ず。今日の朝様子を見に行った限りではまだダメだったらしい。

 

「はい、何故かは知りませんが、ラウルが頑張ってました。理由を聞いても教えて貰えずに……まあ、ラウルの事ですからちょっとかっこいい所を見せたいと言った理由でしょうが」

 

 何気に、ラウルも男で、女の子の前ではかっこいい顔をしたがる。その癖自分は凄くないと自信を持っていないのだからなんとも言いようがない。

 

 ガレスにぶっ飛ばされたのが効いたのだろうか?

 別に、ガレスの鍛錬で寝込む団員が出るのは珍しくは無いのだが……

 

「まあ、ラウルは好きに寝かせとけばええわ……」

「そうですか、弓はどうしますか? 持っていきますか?」

「あぁ、弓なー……フィンと相談して決めてえな」

「了解しました。団長、エントランスで待機しておきます」

 

 それだけ言うと、ジョゼットはすたすたと背筋を伸ばして部屋を出て行った。

 

「相変わらず固ったいなぁジョゼットたん」

「最初の頃よりはマシじゃないかな?」

「まあせなんやけども……」

「僕もカエデに声をかけてから準備してくるよ」

「ウチもエントランス行っとくわ」


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