生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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 世界には穴があった

 その穴は何時からあったのか誰にもわからない

 その穴からは怪物が溢れ出てきていた

 人々はその穴をどうにかしようと頭を悩ませた

 そして一つの結論を出した

 穴を塞ぐ建造物を作り出そうと

 父上はそんな偉業を成す為に家を出た。


『才能』

 【ロキ・ファミリア】本拠『黄昏の館』正面門の前、そろそろ帰還してきそうだなと出迎えの為にニヤニヤしながら立っていたロキが見たのは、装備品の殆どを失って焼け焦げたインナーにベートの上着。靴は代用品なのか安っぽいブーツを履いているカエデ・ハバリの姿だった。

 

 昼に本拠を出た時に装備していた装備品の殆どを消失したその姿に目を見開いてフィンを見れば、すまないと呟いて頭を軽く下げるフィン。ジョゼットは深々と頭を下げて出迎えたリヴェリアに謝罪している。

 その後ろ、アイズが困った様な表情を浮かべて立っている。

 ジャケットを着ていないベートが一人離れた所で不貞腐れた顔をしていた。

 

 そして肝心のカエデはロキの前に立つと深々と頭を下げた。

 

「ごめんなさい、装備品がダメになってしまいました」

「……いや、問題無いで……」

 

 何故、インナーが焼け焦げてボロボロなのか?

 

 何故、金属靴が無くなっているのか?

 

 何故、ベートの上着を着ているのか?

 

 一瞬の混乱

 

 それからロキはベートを視線の中心にとらえた。

 

「……ベート、ちょっちそこに立ってるんや。避けるなよ?」

「は? 何言ってんだロ……ブッ!? 痛ってェなッ!! 何しやがんだッ!!」

 

 『初めての迷宮探索(ファーストダンジョンアタック)』を終えて帰還したカエデ・ハバリを見て、様々な疑問が脳裏を駆け抜たロキは考えた末にベート・ローガの顔面にドロップキックを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】ロキの私室にて、ロキとフィンが額を突きあわせて話し合いを行っており、その横でリヴェリアが眉根を揉み、ガレスが腕を組んで唸っていた。

 

「んで、何があったか端的に頼むわ」

 

 カエデが帰還後、とりあえずボロボロの姿のカエデをお風呂に行かせ、ロキは三人を連れて私室へと足を運んだ。

 

「順を追ってでいいかい?」

「まぁ、それでええわ」

 

 まず、フィンはカエデとジョゼットと共にダンジョンに潜った。

 

 一応、【フレイヤ・ファミリア】からの手出しを警戒しての事だったが、手出しらしい手出しは確認できなかった。

 其の為、単純にカエデの同行者として動いていただけで、モンスターとの戦いにおいてもフィンは何もしなかった。

 唯一ジョゼットがサポーターとして動いていたぐらい。

 

 問題発生はダンジョン五階層探索中、カエデが敵に気付いて突撃していった際、フィンの勘が危険を知らせてきた。

 だが、一歩遅く、カエデはダンジョン十三階層『中層』以降に出現するはずの『ヘルハウンド』通称放火魔(パスカヴィル)の火炎放射に巻き込まれた。

 『火精霊の護布(サラマンダーウール)』を装備していなかったカエデは瀕死の重傷を負うも、そのままヘルハウンドの討伐に成功。

 

 瀕死の状態で倒れたカエデの燃えた装備品をベートが剥ぎ取った所でフィンが万能薬(エリクサー)を使用して治療を行い、完全に復帰。

 

 万能薬(エリクサー)は死んでさえいなければどんな重傷者も完治させる事ができる高級品で、【ディアンケヒト・ファミリア】が取扱う最上位のモノは1本で50万ヴァリスはくだらない。

 

 あの時、カエデの治療に上位回復薬(ハイポーション)を使用していたらカエデは熱せられた金属靴(アイアンブーツ)によって骨まで焼かれていた両足と、剣の柄を握っていた所為で炭化していた右手を失うと言う重度を通り越して冒険者として()()()()()()()可能性があった。

 ロキが一応と持たせていた万能薬(エリクサー)のおかげで大丈夫だったが、ソレが無ければカエデは其処で()()()()()()可能性が高い。

 

 結果的に大丈夫で、カエデは五体満足。焼かれたカエデ自身は焼けた防具を見てダメにした事を気にしていた。

 

 話を聞いたロキは頭を抱えて唸る。

 その反応にフィンは頭を下げ、リヴェリアが片目を閉じて呟く。

 

「油断してたのは申し訳ない」

「死ななかったのが幸いだな」

 

 あの時、フィンは完全にカエデの実力から問題皆無と警戒心をモンスターの索敵から【フレイヤ・ファミリア】への警戒の方へ集中していた。加えて言えば、フィンは自分たちの後をこっそり付けている者達の存在に気付いて其方に警戒心をさいていた。

 まぁ、その者達は【フレイヤ・ファミリア】とは一切関係なかった。良い装備品でなおかつ護衛までついているカエデに嫉妬していた他のファミリアの冒険者が付いてきていただけらしい。

 

 対してジョゼットはカエデの実力から、上層で怪我する事は無いでしょうと油断していたらしく、反応が完全に遅れていた。リヴェリアに頭を下げて謝り、あさつまえ自らの死をもって謝罪とするとナイフで自分の首を掻き斬ろうとするなどしたが、リヴェリアはそんな行動をとったジョゼットに軽い説教を行ってから、お風呂に行くカエデの世話をする様にと言いつけてカエデと共にお風呂に向かわせた。

 

 結果として、カエデが死にかけると言う結果に繋がったが、死ななかったのが幸いだ。

 

 それ所か、カエデはこの一件で『偉業の証』を手にした可能性もある。

 

 ヘルハウンドの火炎放射を突破して、討伐。

 

 ヘルハウンドは身体能力自体は上層相応の為、ソレだけでは『偉業の欠片』にもならないだろう。

 

 だが『火精霊の護布(サラマンダーウール)無しで』と言う接頭語が付いた途端、それは『偉業』と呼べるモノに変化する。

 

 ヘルハウンドの火炎放射は、火精霊の護布(サラマンダーウール)無しで食らえば二級冒険者でも致命傷、一級冒険者でもドワーフの様に耐久に優れていなければ十二分にダメージとなる。

 そんな攻撃である火炎放射を、レベル1で、なおかつ火精霊の護布(サラマンダーウール)無しで突破したと言うだけでも十分に偉業で、その上で討伐まで含めれば十二分以上に『偉業の証』を得る程の偉業と言える。

 

 それを考えれば、手放しで喜ぶべき事態である。

 

 

 

 通常、冒険者は『偉業の欠片』を求めてダンジョンに潜る。

 

 自分よりもレベルの高い相手に挑む事が最も簡単に『偉業の証』を得る手段ではあるが、ソレは命がいくつあっても足りない。

 通常であればどれだけ準備万端にした所で、自分よりもギルドが定めるモンスターのレベル区分が上のモンスターを討伐するなど、不可能に近いのだ。

 例外も存在すると言えばする。と言うか今回のヘルハウンドがソレだ

 

 火精霊の護布(サラマンダーウール)が有れば火炎放射と言う危険極まりない攻撃をほぼ無力化できる。

 後は身体能力自体は高くない為、結果として火精霊の護布(サラマンダーウール)有りの場合の区分は雑魚と言う有様。それでも火炎放射の危険性がゼロになる訳ではないので総合評価としてレベル2区分を与えられていると言うのがヘルハウンドだ。

 

 火精霊の護布(サラマンダーウール)が無かった場合、ヘルハウンドの区分はレベル3を超える。

 下手をすればレベル4冒険者も仕留められる攻撃を持っているのだから当然と言えば当然だが……

 

 

 他には神々が絶賛するナニかを成す事でも『偉業の証』を手にできる。

 

 有名所で言えば【疑似・不壊属性(デュランダル・レプリカ)】ツツジ・シャクヤクの成した

 『バカみたいな耐久力の剣を不壊属性(デュランダル)無しで作り上げた』事

 

 【酔乱群狼(スォームアジテイター)】ホオヅキの成した

 『駆け出し(レベル1)冒険者100人に指示を出して一級(レベル5)冒険者30人を皆殺しにした』事

 

 自らが直接戦う事無く、『偉業の証』を手にする事も出来るが、殆どが不可能に近い。

 

 

 それらを成す事が難しい。だからこそ冒険者が手にする事を望むのは『偉業の欠片』なのだ。

 

 例えば二級(レベル3)冒険者が『迷宮の孤王(モンスターレックス)』のゴライアスの討滅戦に参加し、相応の活躍をする。等である。

 二級(レベル3)冒険者がソロでゴライアスの討伐を行えればソレはもう『偉業の証』を得る偉業となるが、ソレは不可能に近い。

 だが、複数人で協力し討伐する事は不可能ではない。無論、相応に危険も伴う上、成功割合も三割程度でしかない。

 二級(レベル3)冒険者パーティーによるゴライアス討滅戦の戦績は全てのファミリアを平均して『二割で全滅、五割で撤退、三割で成功』と言うのがギルドの記録として残っている。

 その記録の中で【ロキ・ファミリア】は成功率十割を記録しており【巨人殺し】の名でも知られている。

 

 単独ではなく、集団で偉業を成す事で『偉業の欠片』を手にできる。

 

 

 それでも冒険者の半数は器の昇格(ランクアップ)を成す事も出来ずに生涯を閉じる。

 

 器の昇格(ランクアップ)出来ない冒険者の六割が偉業を成そうとして失敗して命を落とし、二割が偉業を成せるだけの『試練』が目の前に現れる事を待ち続けている者で、残り二割が『試練』に臆して足を止めた冒険者だ。

 

 

 『試練』

 

 冒険者や神々が口をそろえて言うソレは何もせずとも冒険者の前に現れる。

 

 【フレイヤ・ファミリア】の女神フレイヤ等は自ら進んで『試練』を眷属に課そうとするが、本当に英雄・英傑として歴史に名を刻んだ者達は当たり前の様に『試練』の方からその者達の前に現れる。

 

 『試練』を望む冒険者は多い。

 

 だが『試練』が現れる事の無い冒険者も多い上、現れない事に焦り自ら危険に飛び込む事でソレを『試練』として打ち払おうとする冒険者が殆どだ……結果としてそう言った()()()冒険者は死ぬ事が多い。

 

 

 今回、カエデ・ハバリは他のファミリアの抗争によって発生した『モンスターの階層移動』の『ヘルハウンド討伐』と言う『試練』が現れたと言える。

 

 しかも突破した。

 

 『試練』を突破して『偉業の証』を手にした可能性が非常に高い。

 もしそうであれば最短器の昇格(ランクアップ)記録を大幅に塗り替える事も可能だ。 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインが一年での最年少・最短器の昇格(ランクアップ)を成した。

 

 有名ではあるが、通常の冒険者は器の昇格(ランクアップ)に二年以上かかる。

 

 

 何故か?

 第一に『試練の有無』

 第二に『試練を突破出来るだけのステイタス・実力を得られていない』

 以上の二つの理由が挙げられる。

 

 『試練の有無』は解りやすく、『試練』を望みながらダンジョンに潜る冒険者たちの前に『試練』が現れない事で器の昇格(ランクアップ)に必要な『偉業の証』『偉業の欠片』を得られない。

 故にレベル1のまま足踏みし続ける冒険者が多い。

 

 次に『試練を突破出来るだけのステイタス・実力』

 『試練』が目の前に現れた所で『試練』を突破出来なければ『偉業の証』も『偉業の欠片』も得る事ができない。それ所か、『試練』によって命を落とす事もある。

 

 

 『試練』に備えて【経験値(エクセリア)】を集めステイタスを強化し、戦いの経験を積み技術を伸ばす。そして現れた『試練』を突破する。

 これが普通の冒険者の器の昇格(ランクアップ)までの過程だ。

 

 

 当然、ステイタスを上げるのには相応の【経験値(エクセリア)】が必要な為、ステイタスあげに時間がかかる者が大半だが、最低限器の昇格(ランクアップ)に必要な『何れかの基礎アビリティがD以上になっている事』だけならばそう難しい訳ではない。

 

 例えば、種族的に得意・優位とされる基礎アビリティだけであれば一年でDに到達できなくはない。

 ドワーフは耐久、エルフは魔力、猫人は器用、狼人は俊敏

 

 だが、一つだけ基礎アビリティがDになっている()()では『試練』は突破できない。

 

 他にも基礎アビリティがどれだけ高くとも知識や技術が無ければ『試練』であっけなく死ぬ。

 

 運が無ければ『試練』も現れず、現れても()()()死ぬ等

 

 運、技術、能力、三つそろう事が難しいからこそ最低二年かかると言われている。

 

 

 

 では【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがどうやって最短器の昇格(ランクアップ)を成したのか?

 

 簡単に言えば正道を通らなかった。

 

 『試練』が現れない事に焦れて『危険に飛び込む事で試練と成す』と言う()()を行った。その()()を突破したからこその一年と言う最短記録をたたき出したのだ。

 

 同じ事をしようとした他の冒険者も多い。成功したのがアイズ・ヴァレンシュタインだけだったと言う話だっただけの話である。

 

 だが、数万人いる冒険者の中でたった一人の成功者としてアイズ・ヴァレンシュタインは名を刻んだ。それだけだ。

 

 

 

 そして、カエデ・ハバリの場合

 

 『一回目の迷宮探索(ファーストダンジョンアタック)』において『試練』が現れた。

 

 これは珍しい事ではない。実際に『一回目の迷宮探索(ファーストダンジョンアタック)』において悲惨な目にあった冒険者は多い。

 

 ペコラ・カルネイロやラウル・ノールド、アナキティ・オータムの三人も『一回目の迷宮探索(ファーストダンジョンアタック)』の際に怪物進呈(パス・パレード)に巻き込まれると言う『試練』と呼べる出来事に出会っている。

 三人の場合は試練の突破と言うよりは試練からの逃走による生存をしただけで『偉業の欠片』すら手にできなかったが……

 

 そういう報告は珍しくない。

 

 『一回目の迷宮探索(ファーストダンジョンアタック)』にて『試練』が()()()()()()()()()()()()()

 

 ただし、試練を()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 本来なら『一回目の迷宮探索(ファーストダンジョンアタック)』の際には変化した身体能力に戸惑って全力を出せる者は少ない。

 

 【ロキ・ファミリア】においては『一回目の迷宮探索(ファーストダンジョンアタック)』の前に研修として変化した身体能力の確認も兼ねて模擬戦等も行って万全を期す事が多かったが、ソレを行ったペコラやラウル等も上層のモンスターのみで構成されていたとはいえ、ゴブリンとコボルトを中心とした怪物進呈(パス・パレード)から逃げるのが限界だった。

 

 そんな中、特に事前に()()()事をしなかったカエデは変化した身体能力に戸惑うでもなく落ち着いて試練を突破してしまった。

 

「喜ぶべき事……だと思うけど」

「ロキ、何か隠し事をしているな」

 

 フィンとガレスの言葉にロキは頭を抱えたまま唸る。

 リヴェリアが吐息を吐いて口を開いた。

 

「確かに成長系スキルの存在があるのなら、アイズを超える記録をたたき出す可能性は高いだろうが……悩んでいるのはソコじゃないな?」

 

 カエデ・ハバリは半年以内にランクアップしなければ死んでしまう。

 だからこそ半年以内のランクアップを望んでいる。

 普通なら半年では『基礎アビリティD』すら難しい。

 

 カエデの最初の更新の結果、器用Gと言う高数値をたたき出したから可能かと言えば、無理だ。

 

 最初の更新によって高い数値がたたき出された場合は、その分必要な【経験値(エクセリア)】の質や量が増える。

 最初の更新が低ければその分上昇は早い。

 

 結果としてファルナを貰った際の最初の更新によるステイタスは最初の最初、冒険を始めて二、三か月は有利に戦えると言うだけに留まり、一年もすれば才能や努力次第だが、同じぐらいに落ち着く。

 

 故に最初の更新で高い数値をたたき出していても最低限の『基礎アビリティD』に到達するのには一年近くかかる。

 

 だが、カエデ・ハバリには【師想追想(レミニセンス)】と言うスキルが存在する。

 他に類を見ないレアスキル。

 効果は『早熟する』

 

 このスキルの効果でカエデの成長速度は早い可能性が高い。故に『基礎アビリティD』は到達可能な可能性が高いとフィンやガレス、リヴェリアは判断した。

 

 そして今回の『偉業の証』を得たかもしれないと言う情報。

 

 喜ぶべき事のはずだが、ロキは頭を抱えている。

 

 思いつく可能性としてアイズの最短記録の際もそうだが、神々の注目を浴びる事だろう。

 

 最短記録を持ち、白毛の狼人は希少であり、なおかつ成長系のレアスキルを持っている。

 

 神々の興味を引くのは間違いない。

 

 ロキはカエデが神々に目を付けられる事を警戒しているのか? と思うもフィンもリヴェリアも首を横に振った。もしソレなら探索系ファミリア最強の片割れ【ロキ・ファミリア】に所属するカエデに手出しをしようとするファミリアは数が限られてくる。

 

 一つ目は【ロキ・ファミリア】と並ぶ【フレイヤ・ファミリア】

 

 二つ目は規模なんて関係ねえ、と規模を無視して行動を起こす神々(馬鹿共)

 

 一つ目は問題だろうが、【フレイヤ・ファミリア】が手出ししてくる場合はオラリオに存在する全てのファミリアを巻き込んだ抗争に陥る可能性が高い。

 オラリオを狙っている『ラキア王国』と言う国家ファミリアである【アレス・ファミリア】が存在する以上、オラリオ内部で抗争を巻き起こす可能性のある行動をとるとは思えない。

 

 二つ目については手出しできる範囲なんてたかが知れている。邪魔なら潰せばいい。

 

 ロキの頭を悩ませるのは他の要因だ。

 

「……実は、だまっとるスキルがあるっちゅーたら?」

 

 ロキの言葉に三人は目を細める。

 

「……カエデのスキルは【孤高奏響(ディスコード)】と【師想追想(レミニセンス)】の二つじゃないのか?」

 

 リヴェリアの確認する言葉に、ロキはゆっくりと首を横に振った。

 

 カエデ・ハバリのステイタスについてロキは一部のスキルを伏せる形で三人に話していた。

 

 本来ならステイタスを誰かに明かす事はしない。ステイタスを晒す事は弱点を晒す事に等しい。

 ファミリア同士の抗争等で冒険者同士の戦いも珍しくない以上、弱点を晒す行為をしないのは当然だがロキはカエデ自身に許可をとり、三人には特別な『スキル』について話している。

 

 【孤高奏響(ディスコード)】は仲間も巻き込みかねない危険なスキルの為、仲間内で明かす事は珍しくは無い。

 【師想追想(レミニセンス)】はレアスキルもレアスキルと言うモノの為、このスキルについては四人で共有して注意していく形をとろうという話になっていた。

 

 そして、ロキが黙っていた最後のスキル。

 

「『取得【経験値(エクセリア)】の上昇』っちゅー効果のスキルを習得しとる」

「……なんだって?」「それは……」「羨ましい話だな」

 

 フィン動きを止め、リヴェリアは目を見開き、ガレスは顎を撫でる。

 三者三様の反応に当然かとロキは足元に転がっていた酒瓶を拾い上げて栓抜きを手に取った。

 無言のリヴェリアがロキの手から栓抜きを取り上げて睨む。

 

「ちょ、飲ませてーな。マジで飲まんとやっとれんのやて」

「終わったらいくらでも飲んでいい。だが今は先に説明しろ」

「……はぁ」

 

 溜息を吐いてロキは酒瓶をベッドに転がす。

 

 それから紙切れ、カエデのステイタスの書かれた紙を取り出して机に置いた。

 三人は机に置かれた紙を覗き込んで、動きを止めた。

 

「羨ましい? そんな事口が裂けても言えんわこんなスキル」

 

 吐き捨てたロキは動きの止まったリヴェリアの手から栓抜きを掏り取って先程ベッドに転がした酒瓶の栓を抜く。

 ぐびぐびと中身を半分ほど飲んでから、ロキは鼻で笑った。

 

「んで、このスキルは羨ましいって言えるか?」

「……すまんかった。軽率だった」

 

 ガレスは苦虫をかみつぶした表情をしながら、口を開いた。

 

「フィンはどう思う?」

「どうもこうも、超ド級の爆弾……かな、いや、()()って言えば良いのかな?」

「玩具なー……」

 

 玩具と言う表現にリヴェリアが眉を顰める。フィンは溜息を吐いてロキが黙っていた理由を察した。

 

「これ、カエデは?」

「知らん。教えたらどんな行動に出ると思う?」

「……まぁ、そうだね。死にかねないかな」

 

 カエデのステイタスのそのスキルを目にして、三人は眉を顰めた。

 

 

 

 【死相狂想(ルナティック)

 ・取得【経験値(エクセリア)】が上昇する

 ・『死』に近い程効果向上

 ・『瀕死』状態時、効果超々向上

 

 

 

 取得【経験値(エクセリア)】が上昇すると言う効果だけ切り取れば他の冒険者は羨ましがるだろう。

 他のデメリットと呼べる部分も眷属によっては気にもしないだろう。

 

 『死』に近い程効果向上や『瀕死』状態時、効果超々向上など、死ぬ事を恐れない狂人染みた冒険者ならオラリオにも多数存在する。【フレイヤ・ファミリア】に所属する冒険者なんてまんまソレである。

 

 このスキル。『瀕死』状態時、効果超々向上と言う部分。

 面白い事好きな神々ならやりかねない事としてあげられる事。と言うよりロキもカエデのステイタスについてこの方法をとれば余裕でいけるのではないかと思った。

 

 他の神が知ったら間違いなくカエデは酷い目に遭うだろう。

 

 『高いレベルの冒険者がカエデを死なない程度に嬲り続ける』ソレだけでカエデは多量の【経験値(エクセリア)】を得る事になる。

 

 どれほどの効果かはまだ判明していない為、ソレでいけるか分らなかったし。そもそも眷属を嬲ろう等と考えるなんて天界に居た頃ならまだしも、今は出来る訳無い。

 

 カエデのスキルは他のファミリアに知られればカエデの身が危ない。

 

 それだけなら良いが、カエデ自身が可能性があるのならどんな事でも受け入れようとする姿勢がある。故にカエデに下手にこのスキルの存在を教えればカエデ自身がソレを望む可能性がある。

 

 一歩間違えれば死ぬ様な綱渡りを自ら望んでやろう等と言うのは狂人でもないと不可能だ。

 

 カエデの習得したこのスキルはカエデ自身が持つ『狂気』の一部がスキル化したともとれる。

 

 師の教えを従順に守ろうとするカエデは何処か歪みを抱えている。

 

 だからこそ、カエデにこのスキルを伏せた。

 

 ロキはフィンやリヴェリア、ガレスにもこのスキルを伏せた。

 

 知る者が自分独りだけなら、誰にも、何処にも漏らす事はない。

 

 信用出来る人物であろうが、知る者の数が増えれば増えるだけ情報が漏れる可能性は増える。

 

 知る者が一人から二人になるだけでも危険は数十倍に跳ね上がる。

 

 だから、伏せた。

 

 

 カエデが急成長した場合は【師想追想(レミニセンス)】の効果によって急成長したとカエデに伝え、フィン達にも同じ説明で済ます。

 もしカエデが半年以内にランクアップした場合の神々の注目される事になる事についてはギリギリまで隠して、少し情報を漏らして【師想追想(レミニセンス)】のおかげで出来た事であると神々に知らしめる。

 

 そうしておけば【死相狂想(ルナティック)】と言うスキルについて追及されない。そう判断したから。

 

 

 だが、今回カエデが『瀕死の重傷を負いつつもヘルハウンドを討伐した』と言う一件が発生した。

 

 カエデが瀕死の重傷を負い、駆け付けたベートがヘルハウンドを討伐したと言うだけならまだ良かった。

 

 カエデにとっては良い事だ。ロキもカエデがランクアップできた場合には飛んで跳ねて喜ぼうと思う。

 

 しかし、だ

 

 冒険初日でランクアップなんてしたら他の神々の反応はどうなるのか?

 

 元々オラリオの外で戦闘経験があったからと言う説明だけで神々が納得できるか?

 

 不安要素が多すぎて頭を抱える結果になってしまった。

 

「……まだステイタスの更新はしていないだろう? 獲らぬ狸の何とやらだよ、今は悩んでも仕方ないと思うけどね」

「……喜ぶべき事だが、スキルについては喜べないな」

「神の玩具の才能に溢れてるでよろこんでーな、なんてカエデたんに言えるかッ!!」

「落ち着けロキ……」

 

 フィンは真剣な表情でカエデのステイタスの書かれた紙に火をつけて燃やす。

 ガレスは眉を顰め、ロキは持っていた酒瓶を机に叩き付けた。

 酒瓶の強度がかなり高かったのか酒瓶が割れる事は無かったし、テーブルも傷一つない。

 リヴェリアはロキが怪我をしていないか確認してから、立ち上がった。

 

「カエデの様子を見てくる」

「ワシは一度倉庫の防具でも見てくる。防具、全部焼いたんじゃろう?」

「僕は書類の処理かな……ロキ、更新が終わったら来るよ」

「わかったわ……はぁ、心構えしとこ」

 

 カエデが入浴を終えたら、ステイタスの更新を行う。

 

 どんなステイタスになるのか、杞憂ならロキとしてもうれしい限りだが、どうにも神の勘がソレだけでは済まないと告げている。

 

「はぁ……」




 ごめん、ちょっと筆がのらない。

 いや、マジでマジで。プロットをぽちぽち見ながら書いてるんだけど……

 すまん。アレだ、なんか書けなくなってきた。

 なんでだろうね。なんでだろう。

 ……仕事忙しいからネ。みんなごめんね。エタらないように頑張るけど、進行速度遅くなるよ。

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