生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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 姉が眠る布団の傍で少女はただ涙を零す事しかできなかった

 医者は言った『二度と目を覚ます事はないだろう』と

 妖術によって精神をすり減らし続けた結果

 精神消失してしまったらしい

 姉は約束通り帰ってきた

 しかしこんな帰還は望んでいなかった

 涙が枯れるまで 少女はただ泣き続けた


『黒い巨狼の話』

 そこを歩く若人(わこうど)よ、少し話をしないか?

 

 うん? ナンパかだって? いや、全然違うよ。

 

 キミは確かに顔立ちも整っているが、残念な事に私の好みではない。

 

 私の好みかい? そんな話はどうでも良いだろう。

 

 それで、話を聞いてくれるかい?

 

 ……私は誰かだって? それなりに有名人だと自負していたんだがね。

 

 『タロットの魔術師』と言えば通じるかい? ああ、分ってくれたか。

 

 何? 思ってたより普通? いったい私はどんな人物だと噂されているんだろうね。

 

 少し興味はあるが今はどうでも良い。

 

 話を聞いてくれないか? 何? 急いでいる?

 

 そんな急ぐことは無い。聞いて損の無い話だよ?

 

 ……胡散臭い? こんな見目麗しい女性の話だよ? 聞きたくないかい?

 

 自分で見目麗しい等と言うなんて変わり者だって? ふふっ、よく言われるよ。

 

 さて、昔話をしよう。いや? 今話?

 

 昔話だな。今まで続いている。いや、これから先も続いていく物語だ。

 

 興味はあるかい? ない?

 

 キミは随分と酷いヒトだな。

 

 こんな見目麗しい羊人の昔話を聞ける機会なんて今後無いんじゃないかな?

 

 まあ、キミが興味を示そうと示すまいと話は聞いてもらうけれどね?

 

 

 

 

 

 ある所に黒い巨狼が居ました

 

 巨狼には一つ、自慢がありました

 

 美しく鋭い白牙

 

 巨狼は誇りに思っていました

 

 その鋭さはありとあらゆるモノを貫きました

 

 巨狼は白牙をとても、とても大事にしていました

 

 

 

 

 

 ある日、巨狼の元に金色の獣が訪ねてきました。

 

 金色の獣は言いました

『どうかその力を貸して頂けないか』

 

 巨狼は問いかけました

『何をすればよいか』

 

 金色の獣は言いました

『怪物の湧き出す穴を塞ぐ、偉業を成さんが為に数多の種族の者達が協力している』

『巨狼もその鋭い白牙をもってしてその偉業を助けてくれはしないか』

 

 巨狼は白牙を褒められ、喜び、協力を約束しました。

 

 

 

 

 

 金色の獣、小人の騎士団、人間の英雄、精霊と妖精の魔道士、ドワーフの技師達、獣人の戦士団

 

 そして黒い巨狼

 

 数多の種族が集い、世界の穴に挑みました

 

 

 金色の獣が穴から溢れ出る怪物を切り伏せ、小人の騎士団が押し留め、人間の英雄が鼓舞し、精霊と妖精の魔道士が炎の魔術で焼き払い、ドワーフの技師達が蓋を作り、獣人の戦士団が溢れた怪物を叩き潰す。

 

 巨狼もその爪を、脚を、巨体を使って怪物を切り、潰し、殺しました。

 

 

 

 暫くすると、怪物の溢れ出る穴から強大な怪物が現れました。

 

 翼はためかせる黒き竜

 

 地を踏み鳴らす巨大な獣

 

 全てを焼く炎を撒き散らす巨人

 

 雷の翼をもつ巨鳥

 

 石膏の体を持つ怪物

 

 五つの首を持つ蛇の怪物

 

 鬣と尻尾が蛇になっている黒い双頭犬

 

 獅子の頭、山羊の胴、毒蛇の尾を持つ異形の怪物

 

 羽毛のある巨大な蛇

 

 その他、数多の強大な怪物が次々と溢れ出して、数多の英雄/戦士/魔道士達を蹴散らしました。

 

 

 

 金色の獣が全てを焼く炎を撒き散らす巨人と雷の翼をもつ巨鳥を一太刀に斬り伏せ

 

 小人族の騎士団が石膏の体を持つ怪物を仕留め

 

 精霊と妖精の魔道士達が五つの首を持つ蛇の怪物を焼きつくし

 

 獣人の戦士団が鬣と尻尾が蛇になっている双頭犬を殺し

 

 人間の英雄が黒き竜に手傷を負わせましたが。逃げられてしまいました。

 

 地を踏み鳴らす巨大な獣は誰も手が付けられず何処かにいってしまいました。

 

 

 

 黒い巨狼は自慢の白牙を獅子の頭、山羊の胴、毒蛇の尾を持つ異形の怪物に突き立てました。

 

 異形の怪物は瞬く間に死に絶え、白牙は折れてしまいました。

 

 巨狼は自慢の白牙が折れた事を嘆き、悲しみました。

 

 溢れる怪物を白牙無しで殺し続け、気が付けば蓋が完成していて皆が勝鬨をあげていました。

 

 

 

 巨狼だけは悲愴な咆哮をあげ、白牙が折れてしまった事に悲しみました。

 

 

 

 金色の獣が戦いの終わりと同時に故郷へと帰りました

 

 小人族の騎士団が地上に残った怪物を屠る為に旅立ちました

 

 人間の英雄がドワーフの技師達と協力して蓋の補強と、その蓋の周囲に街を作り始めました

 

 精霊と妖精の魔道士達はいつの間にか居なくなっていました

 

 獣人の戦士達は言われるまでも無く各地の故郷へと帰りました

 

 

 巨狼は故郷の森に帰り、悲しみに暮れました。

 

 

 

 

 

 白牙が折れた事に悲しみを抱いていた巨狼は、新しい白牙が生えている事に気が付きました。

 

 巨狼は新しく生えてきた白牙に喜び、今度は折らぬ様にしようと大事にしました。

 

 

 暫くして、白牙は美しく、鋭く育ちました。

 

 巨狼はその白牙を誇りました。

 

 

 そして、その白牙はすぐに折れてしまいました。

 

 

 何があった訳でも無く、鋭く育ったその白牙は儚過ぎたのです。

 

 

 巨狼は嘆きました。 どうして折れてしまうのか。

 

 

 牙はとても、とても鋭く。ありとあらゆるモノを貫く鋭さを持っています。

 だが、同時に使えば折れてしまう程に儚く脆いモノでした。

 だから使わないように大事にしたのに、儚すぎて時間が過ぎ行くだけで折れてしまうのでした。

 

 

 巨狼は嘆き、悲しみに暮れました。

 

 

 また、白牙は生えてきました。

 

 鋭く、美しく育ちました。

 

 白牙は儚過ぎて勝手に折れてしまいました。

 

 

 また、白牙は生えてきました。

 

 鈍くはありましたが、美しく育ちました。

 

 儚くはありませんでしたが、それでも短い間に折れてしまいました。

 

 

 また、白牙は生えてきました。

 

 何度も、何度も、何度も

 

 白牙は生え変わり、鋭く/美しく/儚く育ち、折れていきました。

 

 

 巨狼は考えました。

 

 何度も、何度も、何度も

 

 繰り返し、繰り返す、白牙が折れて暮れる悲しみをどうにかできないかと

 

 

 

 ある日、森の奥で生え変わる白牙の儚さに嘆いていた巨狼の元に旅人が訪れました

 

 旅人は言いました。

 『神々を頼ってはどうか?』

 

 巨狼はその言葉に従い、蓋を築き上げた穴のあった場所を訪ねました。

 

 其処は始まりの悲しみの場所

 

 最初の白牙が折れてしまった場所

 

 だが、巨狼は求めてしまいました

 

 儚過ぎる白牙の儚さをどうにかする方法を

 

 

 

 黒い巨狼はその白い巨塔の立つ世界最大の街で出会った神に求めました。

『白牙に神の奇跡を授けて欲しい』と

 

 話を聞いた豊穣の女神は頷き、答えました。

『良いでしょう。眷属として迎え入れ、奇跡を授けます』と

 

 白牙は奇跡を授かりました。

 だが、それだけでは足りませんでした。

 

 エクセリアを使い、奇跡を強くしなければならない。

 

 巨狼は必死に白牙が折れない様に、傷つかない様白牙にエクセリアを集めさせました。

 

 

 

 暫くして、白牙は美しく、鋭く、強靭に育ちきりました。

 

 今までは直ぐに折れてしまっていた儚さは消え失せ、美しくある姿に神々すらも羨みました。

 

 巨狼は白牙を誇りました。

 

 

 

 

 

 めでたし、めでたし。

 

 で終わればまだ良かっただろう。

 

 なに? もう終わりではないのかだって?

 

 そんな訳無いだろう? こんな平凡で幸せな物語は食傷気味だろう?

 

 こらこら話の途中で席を立とうなんて失礼じゃないか。

 

 最後までちゃんと聞いておくれよ。

 

 それじゃあ、続きを話そうか。

 

 

 

 

 

 ある日、巨狼の赤子が攫われました。

 

 犯人は誰だ

 

 巨狼は犯人を捜しました。

 

 そして、見つけました。

 

 神でした

 

 

 巨狼は害成す者達には容赦なく襲い掛かります

 

 そう、神が相手であっても

 

 

 巨狼は今までどおり、今まで生きてきた中で育て上げた白牙を神に突き立てました

 

 

 神は死にました

 光の柱となって消え失せました 

 赤子は帰ってきました

 

 しかし

 

 美しく、鋭く、強靭だった白牙は折れてしまいました

 

 巨狼は悲しみました

 

 巨狼は嘆きました

 

 巨狼は怒りました

 

 

 

 

 別の神が巨狼の子供を攫いました

 

 白牙を失った巨狼は子供を攫った神を殺しました

 

 巨狼は別の神に殺されました

 

 

 

 

 巨狼は目覚めました

 

 巨狼は少し痩せてしまいました

 

 巨狼は自分を殺した神を殺しました

 

 巨狼は神々に殺されました

 

 

 

 

 

 巨狼は目覚めました

 

 巨狼は更に痩せていました

 

 神々は巨狼を攻撃し始めました

 

 痩せ細った体では神々に抵抗できませんでした

 

 次々に仲間が殺され、痩せ細り、このままでは滅びてしまう

 

 巨狼は神を恨みました

 

 巨狼は神を呪いました

 

 

 

 

 

 痩せ細り、骨と皮、後は頭しか残っていない巨狼は滅びを覚悟しました

 

 そんな時、神々の居る白い巨塔の街に他の黒い巨狼たちが集まってきました

 

 巨狼と同じく、子を、家族を攫われた巨狼たちは次々に神々に襲い掛かりました

 

 

 痩せ細った巨狼はただ見ていました、見ている事しかできませんでした。

 

 

 巨狼達と神々の戦いは激しさを増していきました

 

 

 その戦いも、徐々に治まっていき

 

 

 気が付けば、自分以外の巨狼は皆死に絶えてしまいました。

 

 

 このまま自分も滅びるのか

 

 

 そんな風に諦めていた巨狼に、噓くさい男神と豊穣の女神は言いました

『ここから逃げて森の奥に潜み隠れなさい』と

 

 巨狼はほんの少し迷ってから、その言葉に従いました。

 

 

 

 

 

 森の奥、巨狼は寝床を作り二人の神に言いました

『もう二度と神々と関わり合いになりたくない』と

 

 噓くさい男神と豊穣の女神は言いました。

『もう二度と貴方と会わない様にここに誰も立ち入れない様にします。安らかに暮らしてください』と

 

 

 

 

 巨狼は居なくなった二人の神に感謝し、寝床で痩せ細った体を慰めました。

 

 沢山、仲間が死にました

 

 沢山、悲しい思いをしました

 

 沢山、神を殺しました

 

 悲しくて、悔しくて、恨めしくて

 

 巨狼は森の奥、立ち入りを禁止された区画の寝床で泣きました。

 

 

 

 

 

 痩せ細った体は徐々に元に戻り始めた頃

 

 白牙が生えてきました

 

 巨狼は考えました

 

 自慢で、鋭くて、美しい白牙

 

 それがあった所為で、神々に目をつけられ酷い目にあいました

 

 巨狼は考えて、考えて、考え抜いて

 

 自ら白牙を抜き落とし、自らの手で折りました。

 

 泣きました、鳴きました、啼きました、哭きました

 

 ただ、悲しくて、哀しくて

 

 どうして抜かねばならぬのか?

 

 どうして折らねばならぬのか?

 

 巨狼は嘆きながら我が子らに語りました

 

『白牙は禍憑きの証だ』と

『禍憑きは折らねばならぬ』と

『生まれた白牙は折らねばならぬ』と

 

 そう、偽りを口にしながら死にました

 

 

 

 次の目覚めた巨狼は真実を飲み込み、偽りを口にしました。

 

 

 

 何度も、何度も

 

 死んで、目覚め、偽りを口にしました。

 

『白い禍憑きは、殺さねばならぬ』と

 

 

 

 

 永き時の果て、巨狼は目覚めました

 

 今までの所業を知り、巨狼は嘆きました。

 

 白牙を折る理由、神々との関係、愚かしい選択

 

 巨狼は嘆きに嘆いて、それでも白牙を折ると言う選択をとりました

 

 

 

 

 その後、偽り続けた巨狼は愛した女性と番になりました。

 

 

 

 

 暫くして、巨狼は新しく白牙が生えてきた事に気付きました。

 

 弟が言いました

『今すぐ殺せ、災厄を齎す白き禍憑きを殺せ』と

 弟は苛立たしげに白牙を睨みました

 

 番の女性が言いました

『どうかこの子を殺さないで』と

 それだけ言うと番の女性はそのまま死んでしまいました

 

 

 巨狼は悩みました

 

 折るべきか、折らぬべきか

 

 

 悩みに悩んだ巨狼はその白牙を抜きました

 

 

 抜いて、隠しました

 

 

 隠して白牙を育てました

 

 

 

 

 白牙は日に日に鋭く、美しく育っていきました。

 

 ある程度大きくなった白牙を見て、巨狼は悩みました

 

 このままでは折れてしまう

 

 神々の奇跡に頼らねばならない。

 

 しかし頼る事はできません。

 

 巨狼として、神々と顔を合わせる事ができませんでした。

 

 恨み/悲しみは消えていない。

 

 巨狼は悩み、悩んで

 

 決めました。

 

 

 愛した女性の遺言に従おうと

 

 巨狼は密かに神に手紙を綴りました。

『白牙に神の奇跡を授けて欲しい』と

 

 それはきっと、とても愚かしい行為でした。

 ですが、巨狼は白牙を愛してしまっていました。

 

 

 神からの返信が届きました

『良いですよ』と

 

 

 巨狼は喜び、白牙を神の元へ届ける為に準備を始めました。

 

 

 ある日、巨狼は白牙を隠した場所へ向かうと、そこに隠したはずの白牙は無くなっていました。

 

 

 巨狼は慌てました

 

 弟が言いました

『隠していた白い禍憑きは俺が捨てた』と

 

 巨狼は探しました

 

 探して、探して、探して

 

 終ぞ、白牙は見つかる事はありませんでした。

 

 

 嘆き、悲しみ、巨狼は神に手紙を書きました

『白牙を失ってしまった』と

 

 

 それから巨狼は悲しみに暮れながら過ごしました。

 

 

 

 

 

 巨狼は新しい番を作りました。

 巨狼として血を残す必要があると、ただの義務の為に番を作り、子を儲けました。

 

 生まれてきた息子に『慎み』の意味を持つ名を与え、育てました。

 

 ある日、息子は言いました。

『番にしたい女の父親に認められるために神々の剣を折ってくる』と

 

 弟は言いました

『裏切るのか』と

 

 巨狼は言いました

『好きにすれば良い』と

 

 息子は直ぐに群れを離れて神々の居る白い巨塔の街に向かっていきました。

 

 

 

 

 巨狼はただあるがままに過ごしました。

 

 ただ一つの事柄だけは忘れる事無く覚えていました。

 

 失ってしまった白牙の事だけは片時も忘れる事はありませんでした。

 

 

 

 

 ある日、金色の獣と出会いました。

 

 森の中、ズタボロの姿で彷徨っている所を群れの一人が見つけてきたのです。

 

 巨狼は信じられないと驚きました

 

 千年以上前に居た金色の獣と瓜二つの姿をしていました。

 

 巨狼は金色の獣を群れに迎え入れました。

 

 金色の獣は礼にと巨狼の群れに害成す怪物を狩る事を約束しました。

 

 

 

 

 暫くして、巨狼の元に息子が帰ってきました。

 

 息子は言いました

『神の剣を折ってきた。後序に女神に告白までされてきた』と

 

 弟は言いました

『ふざけるな裏切り者め』と

 

 巨狼は言いました

『よくやった』と

 

 弟が騒ぎ立てましたが、巨狼が一声かければすぐに静かになりました

 

 息子は意中の女性と番になりました。

 

 

 

 

 ある日、巨狼は気付きました。

 

 また小さい白牙が生えてきた事に気付きました。

 

 息子は言いました

『俺の娘だ、殺せない』と

 

 番の女性は言いました

『どうか殺さないで』と

 

 弟は言いました

『今すぐ殺してやる』と

 

 巨狼は何も言えませんでした

 

 其処に、金色の獣がやってきて、小さい白牙を奪って行ってしまいました。

 

 息子と番の女性は泣きました。

 

 弟は怒鳴り散らし、怒りを露わにしました。

 

 巨狼は安堵し、白牙の事を思い出しました。

 

 

 

 金色の獣に育てられ、小さい白牙は鋭く、美しく育っていきました。

 

 巨狼はそんな育っていく小さい白牙の傍に見知らぬ女性が居る事に気が付きました。

 

 妙な語尾で喋る女性

 

 巨狼は直ぐに悟りました

 

 あれは無くした白牙であると

 

 何故わかったのかはわかりませんでした

 

 でもわかったのです

 

 巨狼は泣きました

 

 嬉しくて、哀しくて、申し訳なくて

 

 金色の獣が言いました。

『気付いておるのはわかる。だがあ奴の口から言わせてやれ』と

 

 巨狼はその言葉に従いました。

 

 無くした白牙が折れていなかった事を喜び、そして待ちました。

 

 待って、待って、待ち続けました。

 

 

 

 

 ある日、金色の獣が死にました

 

 川に落ちて死にました

 

 小さい白牙だけが残されてしまいました。

 

 巨狼は悩みました

 

 このままでは小さい白牙が折れてしまうと

 

 悩んで、悩んで、決断しました

 

 神の奇跡について教えてしまおうと

 

 巨狼は小さい白牙に顔を合わせました

 

 ですが、小さい白牙と目が合うとどうしても無くした白牙の事を思い出してしまい、思わず目を逸らしてしまいます。

 

 それでも、巨狼は教えました。

 

 神の奇跡の事を

 

 後は、ほんの少しだけ、勇気を出して尋ねました。

 

 一緒に居ないかと

 

 その言葉に小さい白牙は答えませんでした。

 

 小さい白牙に少ない食糧と路銀、そして無くした白牙に渡す予定だった護布で作った服を渡して小さい白牙を見送りました。

 

 

 次の日、息子が訪ねてきました。

 

 息子は言いました

『あの子が何処に行ったか知らないか』と

 

 巨狼は全てを話しました

 

 息子は慌てて手紙を綴りました

 

 巨狼はその手紙が届いていない事を知っていました。

 

 巨狼は少し悩んでからその事を息子に教えました。

 

 息子は驚いた表情をした後、弟を殴り飛ばしてから手紙を出しました。

 

 

 

 

 数日後、村に旅人が訪れました。

 

 大きな鋼鉄の馬車を引き連れた集団でした

 

 巨狼は問いかけました。

『如何なる用件でこの村を訪れたのでしょうか?』と

 

 集団の頭らしき男は言いました

『女を一人寄こせ、そしたら乱暴はしない』

『大人しく差し出さなければ皆殺しにする』と

 

 巨狼は吼えました

『渡す事はしない』と

 

 男は言いました

『ならば死ね』と

 

 巨狼は斧で頭をかち割られて死んでしまいました。

 

 

 

 巨狼は目覚めました

 

 巨狼は吼えました

『よくも兄を殺したなッ!! 殺してやるッ!!』と

 

 群の皆が集団に襲い掛かります。

 

 次の瞬間には巨狼は槍に貫かれて死んでしまいました。

 

 

 

 巨狼は目覚めました

 

 巨狼は吼えました

『親父と叔父の敵討ちだ』と

 

 群れは動き出しました。

 

 恐ろしい程の連携を持ってして、巨狼の手足として群れは集団を引き裂きました

 

 巨狼がこのまま皆殺しにしてやろうと思っていると

 

 男が言いました

『このガキを殺されたくなきゃ、大人しくしろ』と

 

 巨狼の娘を人質にとり、男は嗤っていました

 

 巨狼は直ぐに攻撃をやめる様に指示をしました

 

 男は嗤いながら言いました

『準一級鍛冶師もこの様か、だらしがないな』

 

 男は巨狼に斬りかかりました

 

 巨狼は手にした剣で反撃も出来ずに頭から真っ二つにされて殺されてしまいました

 

 

 

 幼い巨狼は目覚めました

 

 幼い巨狼は叫びました

『よくも親父を、皆を殺したな、絶対許さない』と

 

 群れは幼い巨狼に従い、仇討をせんと踊りかかりました。

 

 

 

 群れは勇猛果敢に挑みました。

 

 幼い巨狼は、幼いなりに戦いました。

 

 しかし、その者達には敵いませんでした。

 

 

 

 気が付けば、手足として動いていた群れは一人残らず殺しつくされ巨狼は頭だけになっていました。

 

 頭だけになった幼い巨狼は吼えました

『殺してやるッ!! テメェ等全員殺してやるッ!!』と

 

 男は吼える幼い巨狼を鎖で繋ぎ、鋼鉄の馬車に放り込みました。

 

 男は言いました

『運が無かったな』と

 

 

 

 

 鋼鉄の馬車の中

 

 幼い巨狼は泣きました

 

 なんで、こんな事になったのかと

 

 

 

 

 

 ふう、話はこれでお終いだ。

 

 ふふっ、キミはなかなか私好みの若人(わこうど)な様だ

 

 ……うん? なかなかに胸糞悪い話だっただって?

 

 それはそうさ。現実なんてそんなモノだからね。

 

 続きの話はないのかだって?

 

 この物語は紡がれている途中だからね。無いよ

 

 でも巨狼の話はこれで終わりさ

 

 最後まで話を聞いてくれて感謝するよ。

 

 ……キミはなかなか察しが良いね。『黒毛の狼人狩り』の話に関係しているのかだって?

 

 答えは自分で見つけたまえ。私の口から語られても面白くないだろう?

 

 キミは物語をその目で見る立場に居るんだろう? ならばいずれ分ろう……いや、もう分かっているのかな?

 

 お前は何者かって?

 

 ふふっ、何者だと思う? 誰でしょうか?

 

 ……まあ、悩みたまえ若人よ、誰しも悩みの一つや二つ持つモノだからね。

 

 

 それじゃあ、私はこの辺りで失礼させて貰うよ。

 

 主神が【酒乱群狼】を探してオラリオを飛び出しかね無くてね。今は縛って本拠に放置しているがね。

 

 

 ああ、そうだね、もし君が良いのなら。今回の話の感想を聴かせて貰おうかな。

 

 

 何? 面倒だって? それならそれで構わないよ。

 

 

 じゃあ、さよならだ。

 

 また機会があれば是非に出会おうじゃないか。

 

 興味深い話を用意しておくから、次も楽しみにしてくれたまえ。




 あとがきにて各キャラクタープロフィールや簡単な用語紹介を入れようかなって思ったけどどうなんだろうね。

 当然ならがオリ設定ぶっこみます。と言うかマインドダウンやらマインドゼロやらあやふやなモノもあってどう使えば良いのかわかんないから勝手に設定突っ込んでるだけですがね。



名前『カエデ・ハバリ』(アイリス・シャクヤク)
好きな物『マシュマロ』
嫌いな物『ニンジン』
 真っ直ぐに育て上げられた白毛の狼人
 白毛、赤目と忌子としての特徴を持っていた事が災いし産まれると同時に殺されかけるもヒヅチ・ハバリに助けられて一命を取り留める。
 しかし薄命であった為に直ぐ近くに死が有る事を悟り、師でもあり母でもあるヒヅチ・ハバリの言葉に従い行動を開始。
 行動力に満ち溢れているモノの、若干の歪みを抱えている少女



名前『ヒヅチ・ハバリ』
好きな言葉『死ぬ(諦める)な、生きろ(足掻け)
嫌いな言葉『正義』
 真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ。己の有り方を、生き方を貫く金毛の狐人。
 村の近くを記憶喪失の状態で彷徨っていた所を助けられて礼にと村の周辺のモンスター狩りを買って出ていた。
 それなりに村人と信頼関係も築いていたが、忌子を殺そうとしている場に遭遇して迷わずにその忌子を助けると言う行動をとった。
 忌子、カエデ・ハバリを助け、師として武技と心得を教え、母として愛を注いで育てていた女性。
 土砂降りの雨の日、カエデを庇い川に転落して行方不明になってしまった




精神疲労(マインドダウン)
 魔力(精神力(マインド))を短時間に多量に消費した際に現れる症状
 集中力の低下、基礎アビリティの一時的低下、頭痛や眩暈と言った軽度の症状が現れる。
 魔法種族(エルフor狐人)の場合は耐性がある為、軽度の眩暈程度で済む。
 逆にドワーフや獣人、アマゾネスの場合は重度の頭痛や眩暈等、耐性が無い故に症状が重くなりやすい。
 種族毎に症状が消えるまで差があるが、魔法種族の場合は一時間程度、その他種族の場合はおおざっぱに半日程度続くとされる。

精神枯渇(マインドゼロ)
 魔力(精神力(マインド))を使い切った状態
 魔法種族以外の種族の場合は大体が気絶してしまう。
 魔法種族の場合は重度の眩暈や基礎アビリティがかなり減少する等、深刻な状態に陥る。
 個人の素質次第だが、魔法種族の場合でも一日、魔法種族以外の場合は一週間ほど回復に時間がかかる為非常に危険な状態。


精神消失(マインドロスト)
 魔力(精神力(マインド))が枯渇している状態のまま、更に魔法を使用した場合に発生。精神力ではなく精神その物を削って魔法を使用し続ける事で陥る症状。
 精神が消失してしまった状態であり。魔法種族以外で陥る事はまずない。
 この状態になってしまった場合は治療不可能。
 精神を焼失し植物人間状態。
 呼吸もしている。心臓も動いている。だが死んでいると言う状態になってしまう。

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