生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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 作戦は単純、穴から溢れる怪物を切り伏せ蓋を被せる

 蓋が完成するまで、英傑達が怪物を押し留める、それだけだ。

 しかし、穴から溢れた怪物の所為で穴に近づくのさえ苦労する

 近づく事も出来ず数多くの同胞が命を落としていく

 黒い巨狼や、数多の種族の者らに協力を求めた

 それでも穴に近づく事も出来ない

 父上は、母上は、姉上は、皆一様に穴の淵までたどり着いて命落としたと言うのに

 少女は穴に近づく事も出来なかった


『後ろ盾』

 『ウィンドパイプ』の状態を確認しながらヘファイストスは納得の吐息を零した。

 

「なるほど、つまりどこかのファミリアの所為でヘルハウンドが五階層まで出て来てたと……」

 

 やってきたロキを出迎え、何故カエデがヘルハウンドに焼かれると言う事態に陥ったのか、蓋を開けてみれば何の事は無い。

 五階層で活動していたらそこにヘルハウンドが現れたらしい。

 

 完全に新米の冒険者の場合は一階層で一週間程慣らしてから、二階層、三階層と下りて行くのが普通だが、元々オラリオの外に居た頃から戦いに身を置いてきた冒険者は初日から三階層、四階層へ下りる事もある。

 

 だが、五階層まで下りるのは珍しい。

 

 護衛付きであったと言うのなら別に普通だが、護衛が護衛として機能していなかったらしく、ヘファイストスは呆れと共にロキに思った事を呟いた。

 

「その相手のファミリアには仕返しはしたのかしら? まだ特定段階?」

 

 眷属が傷つけられた。正確には違うのだろうが、上層に中層のモンスターを連れ込んだファミリアと、そのファミリアと抗争を繰り広げていたファミリア。その二つのファミリアには何かしらの罰則がギルドからあるだろう。

 基本的にギルドはファミリア同士の抗争には口出ししない事が多いが、ダンジョンにおいて他ファミリアへの影響が大きい場合に限りギルドは明確に注意喚起と言う形で罰則、主に罰金等や一部依頼の強制受託等を科す事が多い。

 まあ、ギルドの罰則云々の前にロキの事だからその二つのファミリアに対して報復を行うのが目に見えていたのだが……

 

「あー……それなぁ……ムカつくんやけど、もう逃げたみたいなんよね」

「……はい?」

 

 ロキは新しい防具を試着して動きを確認しているカエデの方に視線を向けてからカエデが此方を見ていないのを確認し、それからロキは凄まじい形相を浮かべて苦々しげに呟いた。

 

「逃げたってどういう?」

「片方は【恵比寿・ファミリア】の名を騙って偽の火精霊の護布(サラマンダーウール)を売りつけたらしくてな。その日の内に恵比寿んとこがぶっ潰したみたいや。もう片方は前々からダンジョンで問題起こしてたっぽいんよ。せやからかギルドから最終勧告されとって今回の問題でギルドからダンジョンでの制限された上で罰金が科せられる事になってたみたいなんやけど、ソレが怖くて()()()()()っぽいんよ。夜中にフィンとベート連れて夜襲しかけたら(もぬけ)の殻やったんよ」

 

 ……あー、夜逃げ?

 

「……ちょっと、待ってくれないかしら」

 

 柄や鞘等が焼けて刃金部分のみしか残っていない『ウィンドパイプ』は何の問題も無かったので、棚から焼失した柄や鞘等の部品を取り出す為にロキに背を向けながら話していたヘファイストスは震えながらロキを振り返った。

 

「どしたん?」

 

 不思議そうに首を傾げるロキにヘファイストスは嫌な予感をひしひしと感じながらも捻り出すように問いかけた。

 

「……夜逃げって、何処に逃げたのかしら?」

 

 片方はオラリオに於いて敵に回すとヤバいファミリア筆頭の【恵比寿・ファミリア】を敵に回す行為をして、【恵比寿・ファミリア】によって潰されたらしい。あの胡散臭い男神の事だ、自分のファミリアの名を汚される行為を決して許しはしないだろう。

 

 そしてもう片方。

 

 ダンジョン内でファミリア同士の抗争を行う事に制限を儲けてはいないが、抗争相手以外のファミリアも巻き込む形での抗争を引き起こした場合は流石にギルドから注意勧告が入る。最初は『ちょっと気を付けてよー』と軽いが、数が嵩めば流石のギルドも黙っていない。下手をすればダンジョン侵入禁止の上、ファミリア総資産の何割かを罰金として納めねばならなくなる。

 注意勧告を受けていたファミリアだったが故に、今回のヘルハウンドを上層に連れ込んだ事件でギルドから確実にファミリアにとって軽くない罰金が言い渡されるのが確定しているのを察して夜逃げしたらしい。

 

 夜逃げ。オラリオの何処に潜伏したのだろう……?

 

()()()()()()や、おかげで炙り出して潰す事もできへんわ。ベートがめっちゃ不機嫌になってもうてなぁ」

 

 予想通り過ぎた。

 

 オラリオ内部に潜伏する形での夜逃げなら、必ずロキはその尻尾を掴んで表に引き摺り出すだろう。ギルドの罰金を言い渡された上で【ロキ・ファミリア】との敵対確定と来ればもう二度と冒険者として活動は出来ないだろう事は確実なのだが……

 

 ……あぁ、なんだ。そのファミリアにはちょっと同情する。

 

 と言うかロキは()()()を一切知らないのだろうか?

 

「ロキ、外がどうなってるのか知ってるかしら?」

「……? 外? なんかあるん?」

 

 これは知らないのか。ヘファイストスは思わず深々と溜息をついてから、【トート・ファミリア】の情報誌をロキに手渡して呟いた。

 

「その外に逃げたファミリア、当然だけどギルドから許可証を発行してもらってないのよね?」

「許可証? んなもん発行して貰ってる訳無いやん。んでこのちり紙に何が……」

 

 ロキがその情報誌に書かれた【酒乱群狼(スォームアジテイター)】の件を見て、()()()したファミリアの末路を一瞬で察したのだろう。

 

「……ざまぁみろやな」

 

 凄まじいニヤケ顔で呟いてから、表情を戻してロキは呟く。

 

「巻き込まれた眷属が哀れやな。まぁ、あんな主神を仰いだ自己責任やね」

「そうね」

 

 眷属達はファミリアの主神を選ぶ権利がある。

 自らが仰いだ主神の神関係のトラブルは、眷属の関係にも影響してくる。

 

 例えば、【ミアハ・ファミリア】と【ディアンケヒト・ファミリア】の関係みたいなモノだ。

 

 一方的にではあるが神ディアンケヒトは神ミアハを敵対視している。

 

 其の為【ディアンケヒト・ファミリア】の団員は【ミアハ・ファミリア】の団員と交流をする事を完全に禁止している。

 

 他にも【ロキ・ファミリア】の主神ロキは天界では悪神として知られ、一部の神から非常に恐れられている為、一部の神のファミリアの団員もまたロキの眷属に対して非常に警戒していたりする。

 

 以上の様に、神が作り上げたファミリアには、神の評判や神々の関係のトラブルが付いて回り、敵対ファミリアとの抗争と言った形で眷属も巻き込む事が多い。

 

 神々が与える神の恩恵(ファルナ)に差異は一切無く、どのファミリアを選んでも問題ないと言われているが、神自身の周辺関係によっては入団しただけで毛嫌いされたりするのだ。

 

 そう【ナイアル・ファミリア】の様に神々から不気味過ぎて恐れられていたりして、眷属として冒険者登録した人物は誰も口をきこうとしなかったりなど、神の恩恵(ファルナ)以外の部分でかなり差が出る。

 

 その猛獣の解き放たれた野(オラリオの外)飛び込んだ(逃げ出した)ファミリアの団員がどうなったのかはもう予想できるが、そうなったのはそんなトラブルを引き起こす神を主神として仰いで眷属となった事が原因だ。

 

 ロキの言う通り、自業自得である。

 

 可哀想であると思わなくもないが、それだから助けよう等とは微塵も思わない。

 

 まぁ、それがツツジやカエデであったのなら、迷わず助けようとしてしまうのだろうが……

 

 カエデを助ける。その言葉にヘファイストスは顔を顰めた。

 

 一応、戦える鍛冶師として戦闘も行える鍛冶師を抱えている【ヘファイストス・ファミリア】ではあるが、あくまでも鍛冶がメインであり、戦闘も行えるのはついでである。一応自衛戦闘が出来るだけでモンスターと正面切って戦いに行く鍛冶師は数少ない。

 当たり前の話だが、冒険者としてモンスターと正面切って戦う事を生業にした者達と、鍛冶師として武具を作り上げる事を生業にしながらモンスターと戦う者達では戦闘能力なんて比べ物にならない。

 

 だから【へファイストス・ファミリア】が直接ダンジョンでカエデの援護をーと言うのは不可能だ。

 

 中層まではいけても、下層からは逆に足手纏いになりかねない。

 

 そう考えると武具を手渡す事しか出来ないのは少し歯がゆい気もする。

 

 そんな考え事をしていたヘファイストスに、ロキが神妙な顔つきで声をかけてきた。

 

「ファイたん。少し相談があるんやけど」

「……? 相談?」

 

 真剣な表情のロキに、ヘファイストスは柄や鞘を仕上げた『ウィンドパイプ』を台の上に置いてロキを見据えた。

 

「カエデたんはレアスキルを覚えとる」

 

 その言葉にヘファイストスは眉を顰め、それから続きを促す。

 

「成長系スキル。簡単に言えばそんなスキル覚えとってな」

「良い事……だけじゃすまないわねそれ」

 

 短い寿命を延ばすと決めた最愛の眷属の子が、その想いを成し遂げるのに助けになるレアスキルを覚えているのだ。良い事……だけではないか。

 成長系スキルなんて持っている眷属が居たら神々は挙ってちょっかいをかけようとするだろう。

 

「で、ロキは私に何をしてほしいのかしら」

 

 大体察しはついた。

 

 ロキはヘファイストスにカエデの後ろ盾になってほしいと言う事だろう。

 

 それ自体は構わない。所か全面的に協力したい所だが、一応建前上はロキに聞いておかねばならない。

 

 ツツジからの手紙の事もある。既にオラリオの外で暴れ回っている【酒乱群狼】に接触出来ない為にオラリオの外に数人眷属を送り出してツツジの故郷がどうなっているのか調べる様に仕向けたが、どうなっているのか分らない。

 

 カエデは何も知らない様子なので、ヘファイストスはカエデに故郷の様子や父親の事を話すつもりはない。せめてカエデが寿命を手にして大人になるまでは教えるべきではない。

 

 ……と言うかここで【ヘファイストス・ファミリア】がカエデの後ろ盾になるのは構わないのだが。もし後ろ盾として機能し始めた場合、複数のファミリアが疑問に思うだろう。

 特に理由も無く後ろ盾になる事は少ない。

 いや、無い訳ではない。気紛れな神々の中にはなんとなくで後ろ盾になる神も居る。無論、そんな適当な理由で後ろ盾になった神なんぞ信用もできなければ、同じくなんとなくと言う理由で唐突に裏切ったりするので当てにする所か完全に邪魔でしかない。

 

「カエデたんの後ろ盾。言わんでもわかるやろ?」

「……はぁ、ソレをするのは難しいと思うわよ」

 

 ヘファイストスの言いたい事は直ぐに伝わったのだろう。ロキは一つ頷いてから切り出した。

 

「深層攻略時のモンスターの収集品(ドロップ)を優先的にファイたんの所に持ってくる。それでどうや?」

 

 そのまま後ろ盾になればかならずカエデとヘファイストスの繋がりについて周りのファミリアが嗅ぎまわる。その結果として【疑似・不壊属性】との関係や【酒乱群狼】との関係、カエデの血縁関係が明かされてカエデ自身がその事を知ってしまう可能性。そうなれば面倒所か、下手をすればカエデが精神的に折れてしまう。

 そうならぬためにも建前として何かを用意しなくてはならないが……

 

 深層の収集品の優先取引権

 

 十分所か十二分に過ぎる。

 

 深層攻略できるファミリアは数少ない。

 特に【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】のオラリオの二強ファミリア崩壊後は、一時的に深層の収集品の取引価格は十倍以上に跳ね上がった。

 深層の収集品を多量に回収して地上に放出していた二強ファミリアが消え去れば希少度が跳ねあがるのは目に見えていたし、当然なのだが……それによって【ヘファイストス・ファミリア】はかなりあおりを受けた。

 

 と言うか今でも深層の収集品はかなり数が不足している。

 

 オラリオでも最高峰の鍛冶系ファミリアである【ヘファイストス・ファミリア】は当然ながら現状でも相当深層の収集品を優先して回してもらっているが、それでもかなり不足している。

 

 それが『収集品の優先取引権』を、深層攻略に於いて【フレイヤ・ファミリア】と二分している現在の二強の片割れから受け取れば、今の不足を補う事も出来るだろう。

 焼け石に水だろうが、それでも鍛冶系以外にも、他の生産系ファミリアは軒並みその権利を欲するだろう。

 

 つまりカエデの後ろ盾として【ヘファイストス・ファミリア】が名乗り出るのに十二分な理由となりえる。

 

「良いわよ、ソレなら十二分な理由でしょうし」

「ふぅ……いやー、良かったで、もし断られたらどう脅そうか考えとったわ」

 

 承諾を得られたからかへらへらといつも通りの笑みを浮かべたロキの言葉に、ヘファイストスは顔を顰めた。

 

()友を脅すつもりだったの?」

()友ならウチの性格知り尽くしとるやろ?」

 

 まぁ、その通りか。

 

 友だとか知り合いだとかそんな(しがらみ)なんぞ知った事かと天界で暴れ回った悪神の名は伊達ではないのだ。

 

 そんな風に話し合っているとカエデとガレスが防具選びを終えたらしく声をかけてきた。

 

「ヘファイストス様、防具選び終わりました」

「ふむ、一応今回は胴鎧以外は金属系で妥協したのね」

「おー……なんや違和感ある防具やな」

 

 カエデの装備は若干違和感が残る状態の装備だ。

 

 胴は非常に高い火耐性を持つ火鼠の皮を使った緋色の水干(すいかん)に、両手両足は金属製の重鎧と言う歪な恰好になっている。

 

 防具として見た場合、胴体部分がガラ空きに見えるが実は防御力自体はそこまで低くない。

 

 と言うか準一級冒険者も利用する素材を使用した防具なので防御力は一級品には届かないモノの、今のカエデの活動階層に於いては十二分通り越して過剰な防御力を誇っている防具だ。

 

 これに『ウィンドパイプ』を併せ持てば、中層所か、下層まで行っても通用するだろう。

 

 とはいえ、水干は極東の男性用の普段着として利用されるモノなので少女であるカエデが身につければ若干の違和感があるのは当然だ。

 状態はかなり上質で、ツツジがダンジョンに潜る際にも利用していたモノでもある。そう、この水干は元々ツツジが利用していたモノを一度素材としてばらしてから作り直したモノであるのだ。カエデが身に着けるに相応しいだろう。

 

「変ですか?」

「うむ……ワシはそうは思わんが」

「手足がかなりごついんよなぁ」

「まぁ、重鎧だものね」

 

 緋色の水干とカエデの瞳の色が同色で、白髪が映えており、似合っていると言えるのだが、両手のガントレット、両足のサバトンの重厚な鈍色の輝きが浮いてしまっている。

 

「……他に欲しいモノはあるかしら?」

 

 ヘファイストスの質問に、カエデは少し悩んでからロキを窺う様に見た。

 

「欲しいもんあったら何でも言ってええでー」

 

 ロキの許可が出たのを確認してから、カエデは口を開いた。

 

「ティオナさんが、【疑似・不壊属性(デュランダル・レプリカ)】の作品を欲していたので、売ってあげられないでしょうか?」

「……ん? 【破壊屋(クラッシャー)】?」

「ファイたん、【大切断(アマゾン)】や、クラッシャーやないで」

 

 カエデの頼みを聴いたヘファイストスが呟けば、ロキが訂正するが、ヘファイストスははいはいと適当な返事をしてからカエデに向き直る。

 

「それは別に構わないわよ。【大切断(アマゾン)】に伝えてくれるかしら……と言っても、今手元にあるのは『ハーボルニル』っていう大刀ぐらいだけど」

「はい、ありがとうございます」

「それで、他に欲しいモノはないのかしら?」

 

 再度の質問に、カエデは少し悩んだ様子を見せてからおずおずと切り出した。

 

「えっと、左手用短剣が欲しいのですが……」

「左手用短剣?」

 

 ロキとヘファイストス、ガレスの三人がカエデの言葉に首を傾げる。

 

 カエデの得物は『ウィンドパイプ』と言う大剣である。大剣と言うか大鉈刀か。

 

 両手で扱う得物であるソレを持つカエデが副武装(サブウェポン)として小型剣を求めるのは分る。

 だが、左手用短剣と言うと対人用の装備品であり。右手で直剣や刺突剣を使いながら左手で敵の攻撃をいなすと言う戦い方(スタンス)でもない限り使う事は無い筈なので大剣を使用するカエデが求めるのは違和感がある。

 

「直剣と一緒に用意すればいいかしら? ロングソードだと長すぎるかしらね」

 

 副武装(サブウェポン)として直剣と左手用短剣を使用するのかと聞けば、カエデは首を横に振った。

 

「いえ、左手用短剣だけ欲しいなと」

「カエデは、大剣を持ちながら左手用短剣を持つつもりなのか?」

「……ダメですか?」

「いや、構わないだろうが……」

 

 左手用短剣は対人用の装備品だ。

 

 基本的に剣や槍等の攻撃をいなすのに使われるソレをカエデが求める理由。

 

 ソレを考えてから、ロキは納得したのか眉を顰めてヘファイストスに言う。

 

「ファイたん、ええのあったら用意してくれへん?」

「……わかったわ」

 

 否が応でも目立ち、他のファミリアからちょっかいをかけられる可能性を示唆されたカエデは対人用武装を求めたのだろう。

 カエデの剣技の腕前から、攻撃をいなす事についても問題は無いだろうとは思うが……

 

 理解が早い。そして答えを導き出すのも早い。

 

 今の内から隠し札として左手用短剣を用意しておくつもりなのだろう。

 

 幼い少女が浮かべる表情とは思えない程に鋭い意志を宿した瞳に押され、ヘファイストスは溜息と共に立ち上がって控えていた団員に左手用短剣として使える短剣を数種類持ってくる様に指示を出してから、棚に置いてあったとある大剣を手に取る。

 

 布に包まれたそれを丁重に扱い、ロキの前に置いてから、言う。

 

「ロキ、これはツツジの最高傑作の不滅属性(イモータル)特殊武装(スペリオルズ)『百花繚乱』よ。今のカエデに持たせるには()()()()からロキがタイミングを見てカエデに渡してちょうだい」

「……ええんか?」

「必要なら、使いなさい。なくさない様にしてほしいけれどね」

 

 不滅属性(イモータル)についてはロキも知っているのだろう。ロキは窺う様な表情を浮かべてから、『百花繚乱』を受け取った。

 

「重っ、めっちゃ重いなこの剣」

「……当然じゃない。特大剣だし」

 

 その重さに驚いたロキは暫く悩むと、ガレスにその布に包まれた『百花繚乱』を持っていくように指示をしてから、呟く。

 

「サンキューな、これあれば後ろ盾が一発でわかるわ」

 

 ヘファイストスの眷属の【疑似・不壊属性】ツツジ・シャクヤクが作り上げた不滅属性(イモータル)特殊武装(スペリオルズ)『百花繚乱』は神ヘファイストスがとても大事にしているモノだと言うのは神々の間でも既知の事実である。

 カエデが『百花繚乱』を使用する様になれば自然とカエデの後ろ盾に【へファイストス・ファミリア】が居ると神々に知らしめる事が出来るだろう。

 

 武装としても一級品に届く上、決して折れる事も無く。切れ味が落ちようと直ぐに再生する武装だ。

 

 カエデの戦い方にも合った切っ先に重心が偏った大刀である。

 

 カエデがやり取りには首を傾げているが、自分の事なのだと言うのは半ば理解しているのかヘファイストスに頭を下げてきた。

 

「ありがとうございます」

「気にしないで良いわよ……」

 

 良い子だ。

 ツツジが居れば可愛がりそうなモノだが……ツツジは本当にどうしたのだろう。

 今朝、慌てて団員を送り出したので結果がでるのは最低でも往復で一か月はかかろうはずである。

 其の為、言える事は無いが、それでも良い事は何もないと神の勘が告げている。

 

 新しい武装に喜んでいるカエデを目に、ヘファイストスは笑みを浮かべながら、内心は悩むのだ。

 

 ヘファイストス・ファミリアの団員が左手用短剣を乗せた台車を持ってきたのを見て、カエデは其方に向かった。団員の説明を聞きながら試しに握って見て感覚に合ったモノを選んでいるカエデを見てから、ヘファイストスは思い出したことをロキに聞いた。

 

「そう言えば、ロキ、成長系スキルってどの程度なのかしら? まさか初日から基礎アビリティG以上になったとかかしら?」

「初回更新から器用がGやったで?」

「凄いわね」

 

 初回更新で基礎アビリティGとは、凄まじい才能……いや、あの剣技からすれば当然か。

 

 ツツジの初回更新は力がHであり、それ以外はIだった。親子と言え才能の遺伝はしていない様子だ。

 キキョウの方の才能を引き継いだのだろうか? キキョウとはあった事も無いのでただの予想だが。

 

「それで、成長系スキルは?」

「……聞きたいん?」

「……? えぇ、気になるもの。教えられないのならソレでも良いわよ」

 

 無理に聞き出すつもりはない。そう言えばロキは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべて近くによる様に手招きをしてきたので近づけばロキは耳打ちでぼそりと呟いた。

 

「一回目の迷宮探索で更新したら耐久がIからEになったで」

「………………」

「ファイたん?」

「え? それ本当?」

 

 耐久がIからEに上昇。

 

 I0~99からE400~499?

 

 成長系スキル。凄まじい効果と言うか……

 

「それ、何か副作用は無いわよね? 成長が早まる代わりに寿命が減少するとか」

「いや、詳しくは教えられへんけど副作用は無いで」

 

 ロキの表情を見て深く追求すべきでないと察したヘファイストスはロキから離れて呟く。

 

「詳しくは聞かないわ。困った事があれば言って頂戴。出来る限りはするわ」

「助かるわ。悔しいんやけどウチだけや守りきれん。特にフレイヤに」

 

 その女神の名前が出た瞬間、ヘファイストスは目を見開いてロキを見た。

 

「ちょっと、もう()()()()()()()()の?」

「最近なぁ、カエデたんが朝の鍛錬中に『バベル』の上から誰かに見られとる気がするーって言ってたらしいんよ」

「確定じゃない。ソレ、絶対フレイヤよ。どうするのよ」

 

 フレイヤは男だろうが女だろうが気に入った眷属には間違いなく手出ししてくる。

 

 一応、ヘファイストスはフレイヤとは友好関係にある。

 

 しかし、フレイヤは気に入った団員には片っ端からちょっかいをかける悪癖があり、ツツジにもちょっかいをかけてきた事もある。

 

 まぁ、ツツジはフレイヤの魅了に対して『確かにアンタは魅力的だが、キキョウ程じゃねぇ』と言い放ってフレイヤを唖然とさせて、ツツジが【小巨人(デミ・ユミル)】にぶっ飛ばされていただけで済んだが。

 無論、ヘファイストスはツツジにちょっかいをかけられた為にフレイヤには抗議したのだが、フレイヤは反省した様子も無く『ごめんなさいね、どうしても我慢できなかったのよ』と笑みを浮かべていた。

 無駄な抗議だと理解して、ヘファイストスは釘を刺すに留めたのだが……

 

 他にも【アポロン・ファミリア】もツツジに手出ししてきたが。あちらは【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦(バーベラ)がツツジに注文していた剣を横取りした為にキレた戦闘娼婦(バーベラ)達によってボコボコにされていたのでヘファイストスは特に何もしていない。

 

「せやからファイたんの後ろ盾を……」

「…………私の後ろ盾じゃ無理よ。フレイヤはその程度じゃ止まらないわ」

「せやろなー」

 

 後ろ盾を得れば止められる? 友好関係にある神のお気に入りにすら手出しするあの女神が止まる訳ないのだ。

 

 既に詰んでいる状態だと知ったヘファイストスは、ロキと共に深々と溜息を吐いた。

 

「「はぁ……」」




 オラリオの外に逃げ出したファミリアがどうなるのか……あっ(察し


ペコラさんはどこに居るかって?
ペコラさんなら、ロキの足元で気絶してる(寝てる)ぞ。 




名前【魔弓の射手】『ジョゼット・ミザンナ』
趣味『お菓子作り』
特技『継ぎ矢』
 【ロキ・ファミリア】に所属しているエルフの少女(に見える女性)
 実年齢は既に80を超えているがエルフの中では若造扱いされる年齢ではある。

 エルフの国に置いて王族の親衛隊に抜擢されるほどの弓の腕前を持っており、リヴェリアが国を出た際に密かに後を着けて連れ戻す様に言われていたが本人はリヴェリア様の意思を尊重して連れ戻す事はせず、自ら国を捨てる形でオラリオにやってきたエルフ。

 魔法の才能を持っているはずの魔法種族のエルフでありながら魔法の習得枠(スロット)無い(ゼロ)と言うある意味においては希有な存在。
 エルフは他種族に比べると身体能力が劣っており、その劣っている分に魔法が強いと言われていたが魔法が使えないジョゼットは前に所属していたファミリアでは役立たず扱いされ、冷遇されていた。
 駆け出しでありながら二つ名を着けられていたが、つけられた二つ名は【エルフ擬き】と言うジョゼットを侮辱するモノであった。

 魔法が使えないと言う理由も相まって完全に小馬鹿にされ、他のファミリアの改宗しようにも魔法が使えない【エルフ擬き】と言う二つ名が広まっていた所為で改宗もできず、しかも主神はジョゼットのステイタス更新を拒否し、ファルナを与えるだけ与えて放り出すと言う始末。

 其れに対しジョゼットはどうにか射手として認めて貰おうと単騎ダンジョンに挑み、驚くべき事にミノタウロス等の駆け出しではどうしようもないと言われていた得物を数多く仕留めて見せる等の実力を見せつけるも、主神は『魔法使えないエルフとかイラネーから、ワロス』とジョゼットを鼻で笑って追い出す始末。

 この一件から、魔法が使えないと言う理由だけで冷遇された揚句、初期ステイタスのままミノタウロスを倒しても認められないと言う事実から荒れに荒れたジョゼットは、準一級冒険者や一級冒険者に喧嘩を吹っ掛けては、返り討ちにされる等をしでかし始める。

 これに一部の神々が憐れみを覚えて、ジョゼットを自らのファミリアに改宗させようとするも、当時の主神が面白がって改宗を許さずにボロボロになって裏路地に転がっているジョゼットを鼻で笑っていた。

 そんな中、神ロキの眷属になっていたリヴェリアが神ロキに何とか出来ないかと相談した結果、その主神は神ロキの策謀でオラリオを追放され、射手として凄まじい能力を持っていたジョゼットは【ロキ・ファミリア】へと改宗する事になった。
 ロキの元での最初の更新にてランクアップし、習得枠(スロット)の開口と共に『妖精弓の打ち手』と言う装備魔法を習得し、【魔弓の射手】と言う二つ名を得た。

 お菓子作りは趣味と言い張っているが出来栄えはかなりのモノ。
 ジョゼット曰く『行き詰ったらとりあえずお菓子作りでもして気分転換をする』との事。
 自分で食べるより作ったお菓子を誰かが食べてるのをみながらお茶するのが好みらしく作り過ぎたお菓子は近くを通りかかった団員にプレゼントしたりしている。

 自室には自作のファミリア団員の人形を飾っていたりと、以外と少女らしい一面を持ち合わせている。ティオネに団長の人形をせがまれて作ってあげたり等もしており、ファミリア内部においてジョゼットの少女趣味は普通に認知されている模様。

 【ロキ・ファミリア】内部で怒らせてはいけない人物TOP3に入る人物。
 滅多に怒る事は無いが、ジョゼットを侮辱する意味を込めて『エルフ擬き』と呼ぶと、本気で激怒させる事ができる。

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