生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
周りで勝利の雄叫びを上げる他種族の英雄達を見てようやく戦いの終わりを実感した。
少女は血塗れのまま、折れた刀を振り上げ、力の限り叫んだ。
勝利だ、我
叫んで、叫んで、叫んで、そして泣いた。
少女の声に反応する
『蓋』を作る為、穴に身を投げた少女と
少女ただ一人を除いて、
共に『蓋』を作らんと募った
呆れ顔のキーラがカエデを見降ろしながら溜息混じりに呟く。
「得手不得手があるからな。はっきり言えばオマエは『邪声』系の技に向いていない」
「…………」
その言葉にしょんぼりとしているカエデに、キーラが続ける。
「『丹田の呼氣』なんかの高等技術が使えるんだ。気落ちする必要も無いだろう。むしろ羨ましいぞ」
一応、励ましている積りなのか肩を竦めながらカエデを見降ろすキーラに、床に転がったカエデが呟く。
「なんでダメなんでしょうか」
「なんで? 簡単に言えばオマエは人を
『邪声』系の技の一つ『
「まず第一に、相手に屈服させられている事に反発心を抱かない。オマエは私を恨み、呪い、罵倒を浴びせかけるべきだ、ほら、私に何か言ってみろ。何か言いたい事はないのか?」
「えっと……」
「はいアウト。まず罵倒の言葉を選ぼうと頭で考えている時点でアウトだ」
「…………」
こつこつと額を小突かれながら、カエデは必死に罵倒の言葉を探そうとするも、容赦ないダメだしでカエデは若干涙目になりながらもどうにか起き上がる為に体を動かそうとするも、指先一つ動かせずにいる。
それでもどうにかしようと必死に頭を捻るカエデに、キーラは
「どうにも、恨む事を知らない訳ではなく、恨む事の無意味さを理解している節があるな。その所為か恨みを抱いても直ぐに自己完結して恨みが長続きしない。コレの所為で『邪声』系の技の威力が激減している。お前の旋律スキルの効果向上があっても、はっきり言えばファルナ無しの冒険者すら怯ませる事も出来ないぐらい弱弱しい効果しか発動しない。そこらの猫やら犬やらならオマエの威嚇で追っ払えるんじゃないか? あ? ゴブリン? 馬鹿かオマエは。良いか? 効力が全くないそんな『邪声』系の技なんて塵芥に決まっているだろ。最弱と謳われるゴブリンにすら効き目が表れるか微妙過ぎる。ほら、どうした? はぁ……なんだ? 泣くのか? 涙を零して? そんな暇があるのなら、さっさとその『
「キーラたん、ストップや」
凄まじいまでの機関銃の如き罵倒がカエデに突き刺さり、起き上がろうとした姿勢から『聖律』系の技で解呪に成功して立ち上がろうとした瞬間に『
ガレスが同情するような視線をカエデに投げかけており、キーラは止めたロキに対して肩を竦めた。
「やり方に文句があるなら、他の奴に頼むと良いぞ。私も狼人が嫌いだからな……別にその白い狼人に恨みがある訳じゃない。狼人全てが嫌いなだけだ」
きっぱりと言い切ったキーラにロキが呟いた。
「頼む奴間違えたか」
「みたいに見えるがな」
ロキの言葉にガレスが反応するが、肝心のキーラは立ち上ると、カエデに呟く。
「動いて良いぞ」
「……ロキ様ぁ……」
「あー、カエデたん。よしよしや。カエデたんは頑張っとる思うでー……ちょっと相性が悪かったんやなあ」
動ける様になった途端、ロキに縋り付くカエデに、ロキが頭を撫でながらキーラを睨む。
「流石にやり過ぎやで?」
「……むしろ、そこまで罵倒してやったのに、恨み言一つ漏らさないなんて信じられんのだが?」
「……そう言う性格なんやろ」
『邪声』系の技を使う基礎として恨み、羨み、憎み、呪うと言った形で相手に思いをぶつける所から始めなくてはならない。
だがカエデはどうにも戦う相手に対してすら恨みや憎しみを抱かないタイプらしく『
これに対してキーラは即興でカエデをありとあらゆる言葉で罵倒し、床に伏せさせ頭を踏みつけてみたり、挑発したりと、カエデが自分を恨みそうな事を片っ端から試してみたのだが、恨み言一つ零さない上、涙目になる。
涙を零すまでにはいかない様子だが、それでも『やってやる』と言うやる気は満ち溢れていれど『恨み』や『憎しみ』を抱かないカエデには『邪声』系の技の習得は不可能ではないか? と言うのがキーラの感想だ。
「ぶっちゃけると、こいつに『邪声』系の技は使え無さそうなんだが。と言うか本当に『邪声』系効果向上』の効果がついていたのかすら疑問に思えるレベルだぞ? 本当についてたのか?」
「……それはウチも疑問に思ったんよなあ」
ロキもキーラの意見には賛成だ。
カエデは入団試験の時に馬鹿にしてきた相手に対して恨みを抱いた様に見えた。だが、その恨みもベートが現れた瞬間に霧散してしまった。
どうにも長続きしないと言うか、恨みを抱くのは一瞬。しかも恨みを抱いたまま戦いに赴けない……いや、恨みを抱いたまま戦いに赴く事をよしとしない教育を施されているらしい。
『恨み、憎しみはオヌシの力を引き出してくれるじゃろう。じゃが、その分鈍り、相手に剣閃を読まれる事になる。それに色々な感情を含むと言うのは不純物が混じりやすい。剣を握るのなら思うはただ一つ。勝利し生き残る事のみ、故に剣を握るのなら恨み憎しみ何ぞ捨て去れ、余計な感情を抱いたまま剣を振るうと碌な事にならんからな』
カエデもソレに忠実に習って『剣を握る上で余計な感情は排する様にしている』らしい。
その思考は生粋の戦士か剣士か、ともかく戦うモノの中では珍しくないモノではあるのだが……
考え方そのものが『邪声』系の技の習得を阻害している。
だからと言って考えを改めろなんてとても口にできそうにない。
常に相手を恨み、憎み、呪う事で『邪声』系の技のキレが凄まじい【
常々感情的で相手を罵倒する事に長けているが故にキーラは適性が高いのだが……
カエデのスキルは単純に言えば『宝の持ち腐れ』と言う物だ。
「……キーラさんは「キーラと呼び捨てで構わん。むしろ呼び捨てにしろ」……えっと」
「そこで悩むな、余計
「…どうやって人を恨んでいるのですか?」
何とか立ち直ったらしいカエデがロキから離れてキーラに問いかけるが、キーラは一つ頷くと口を開いた。
「この眼帯、顔の半分を覆っているのだが、手酷い傷がある。故に私の顔は
その言葉にカエデが考え込むが、ロキはカエデの頭をぽんぽんと撫でる。
「カエデたんはそのままでもええよー……と言うか『邪声』系の技ってそんなんやったんか、知らんかったで」
「……なぜ知らずに教えてくれ等と頼みに来たんだ……一応『旋律』スキルがあるならその狼人には『聖律』か『聖声』系の技でも教えた方が効果的だぞ? ペコラにでも頼んでみれば「ちょっと、お姉ちゃんはペコラさんの味方ではないのですかっ!!??」……アア、ワタシハオマエノミカタダゾー」
「すっごい棒読みなのですがっ!! 棒読み過ぎるのですがっ!!」
少し離れた所で壁に向かってぶつぶつと自分を励ます言葉を呟いていたペコラが反応して立ち上がるも、カエデに近づかない様に大回りしてキーラに掴みかかろうとするが、キーラはすっとカエデに近づいてペコラをニヤニヤと見据える。
「ほら、ペコラ、私はここだぞ?」
「ぐぬぬぬ、狡いのですが、ペコラさん苦手な物があるんですが? 狡くないですか?」
「何、只の狼人じゃないか。何を脅える必要がある」
「ぐぬぬぬぬぬ」
唸りながらもカエデに近づけず、結果的にキーラにも近づけないペコラはガレスの後ろに回り込む。
「ガレスさん、やってしまうんですよっ!!」
「いや、すまんがそりゃできんな」
「酷いっ!!」
「その辺にしときいや……ともかく、そろそろ時間やし、いったん帰ってまた今度やな……」
ロキの静止にペコラは動きを止めたのち、キーラを睨むが、キーラはどこ吹く風と無視してカエデに向き直った。
「おい白い狼人」
「……なんでしょうか」
若干いじけているカエデは上目使いでキーラを見るが、キーラは溜息一つ零すと肩を竦めた。
「そういじけるな。私も好き好んでお前を罵倒している訳じゃない……いや、楽しかったのは否定しないが、ともかくオマエが『邪声』系の技が使えない事に関してはむしろ
「良い事ですか?」
「当たり前だ。誰かを恨まずにいられるのならソレが一番だし、その方がギスギスしなくて済む」
「…………」
「確かに役に立ちはするが、無理に習得する必要なんて無い。むしろお前はその性格のままで居た方が良い。誰かを恨み始めたら……いずれ、恨み恨まれの泥沼に落ちる事になるからな」
遠い目をして何処かを見てから、キーラはぽつりとつぶやいた。
「糞面倒な蛙野郎が何度も夜襲をしかけてきて寝不足になったりするからな。マジムカつくよアイツ。いつかぶっ殺してやる」
若干物騒な事を呟いたキーラはふと表情を戻すとロキを見た。
「そう言えばロキ、習得は絶対にさせる感じか? この調子だと習得は絶望的なんだが?」
「あー……まあ、しゃーないわな……正直、欲張り過ぎな気はしとったし」
「……ごめんなさい」
「カエデたんの所為やないて……しゃーないわ、こりゃ諦めるしか無いわな……」
無理に習得を目指すなら、性格の矯正からしていかなければならないが、わざわざ恨みがましい性格に矯正してまで『邪声』系の技を習得するとなると想定よりもかなり長い期間をとらなければならなくなる。
はっきり言って無駄と言えるし、性格の矯正なんてすれば元々歪な部分のあるカエデの負担がでかすぎる。
【ロキ・ファミリア】の大食堂、カエデは本拠へと帰還後、同じくダンジョンより帰還したジョゼットと食事を共にしながら、【
「なるほど、性格上スキルの使用が難しいと……ふぅむ……」
「どうやって人を恨み続ければいいんでしょうか?」
「無理に恨む必要は無いかと」
人を恨み続ける方法、恨みを肥大化させる方法。
そんなモノありはしないし、普通はそんな考えを抱く以前に人は恨みを抱くモノな気がするが……
しょんぼりした様子でサラダを食べるカエデを見てから、ジョゼットはふとカエデの皿からプチトマトを摘まみとってみる。
「ジョゼットさん?」
「……ふむ」
「?」
唐突なジョゼットの行動に首を傾げたカエデを見て、ジョゼットはプチトマトを指差した。
「私が盗りましたが、どう思いました?」
「……?? えっと……? 食べたかったんですか?」
なるほど、物欲が薄い。いや今回の場合はカエデはあまり執着心を抱いていなかった物だったから怒らなかっただけか? どちらにせよ盗られた事を些事として処理しているのか、恨みを抱く気配は微塵も無い。これが食事にこだわりを持つ団員なら文句の一つも垂れる所だが、文句すら出てこない。
ジョゼットはプチトマトをカエデのサラダに戻して口を開いた。
「盗られた事に関して思う所は……無さそうですね。丸いと言うより動ぜず。精神力が高いと言えるのでしょうかね。射手として見れば素晴らしい素質ですよ」
「……? えっと、何がしたかったんでしょうか?」
「いえ、少し確認を……しかし、カエデさんの怒る所が想像できませんね。モンスターを睨む目は鋭いですが、何かしらの感情を抱いている訳ではないみたいですし……確かに恨む憎むが出来ない性格みたいですね」
罪を憎んで人を憎まず、と言う性格……と言うには前提がおかしい気もする。
カエデが怒る姿を想像しようとして、そも付き合いも昨日始まったばかりの少女の怒り姿なんぞ浮かぶ事も無く、ジョゼットは質問を変えて問いかけた。
「カエデさんは、人にされて嫌な事……いや、そうですね。苛立ちを覚える事はあります?」
「苛立ち?」
「ムカつく、とかですかね」
「………………ジョゼットさんはどんな事に苛立ちを感じるんでしょうか?」
質問に質問で返すのは失礼にあたるが、カエデは必死に答えを見つけようとしてから困った様に返してきたので、必死に答えを探した上での質問だろう。
どうにも、苛立ちを感じる部分が自分でも分っていない可能性もあるのか。
「そうですね……私の趣味はお菓子作りなのですが。作っている途中に摘み食いをされると苛立ちを覚えますね、他には……まぁ、こちらは良いでしょう。後は食事中に騒がれるのはあまり好きではないので苛立ち……と言う程ではないですが思う所はありますね」
ジョゼットの返答にカエデは頭を悩ませているのか考え込み始めてしまった。
その様子を見ながら、急かしても答えは出ないだろうとジョゼットはスープに口を着けながらカエデの様子を眺める。
唸って、唸って、必死に答えを捻り出そうと思考するカエデは、本気で悩んでいるのだろう。
「…………『白い禍憑き』……」
「ん? 何か見つかりましたか?」
「……なんでもないです」
考え込んでいたカエデが唐突に俯いて耳が垂れてしまったのをみて、ジョゼットが声をかけるもカエデは弱弱しく首を横に振るだけで黙り込んでしまった。
一瞬聞こえた単語に、思い当たる節があり、ジョゼットは少し迷ってから呟いた。
「そうですね、先程は言うのをやめましたが、私はとある二つ名が大嫌いなんですよね」
「……二つ名?」
「今の私の二つ名は【魔弓の射手】ですが、ソレ以前に何時の間にやら定着していた二つ名があるんですよ」
首を傾げるカエデの前で、ジョゼットは溜息を零して呟いた。
「【エルフ擬き】です」
「……? なんですかそれ?」
「二つ名、魔法種族なのに魔法が使えない。見た目はエルフ、中身は別物、そんな意味を込めて勝手に周りが呼んでた二つ名です。この二つ名は私の恥でもあり、最も忌み嫌う二つ名です。この名で呼ばれたら私は本気で怒るでしょう」
「…………」
「カエデさんも、呼ばれたら怒る名があるのですか?」
カエデが悲しげに眼を細めたのを見て、ジョゼットは地雷を踏んだか? と身構える。
「……『白い禍憑き』」
「ふむ? ソレは……」
「いつも、村で言われてました」
悲しげに、俯いてスープの水面に映る自分の顔を見てからカエデは困った様に眉を寄せた。
ソレを見て、ジョゼットは直ぐに謝った。
「すいません。詮索すべきではありませんでした」
カエデの様子から、苛立ちより悲しみが勝っており、ソレが傷を抉っている事に気付いたジョゼットは困った様に眉を寄せた。
これは重症か? いや、まだ分らない事が多々ある。少し調べてみるか。
「……他の質問をしますが……カエデさんの師、その人が侮辱されたらどう思いますか?」
「侮辱……ですか?」
「そうですね……くだらない生き方をしただとか……」
ソレは流石に言い過ぎかとジョゼットが口を閉じて別の言葉を考えようとしているさ中、カエデは目つきを鋭くして口を開いた。
「『世界中の誰しもが間違いだと言う道であろうが、己自身が瞬きを置かずして
「……それは、カエデさんの師の言葉でしょうか?」
「はい」
ジョゼット自身も頑固な部分を持ち合わせているが、カエデのソレは師の教えによるモノとカエデ自身の性格からきているらしい。
危うい生き方だと思う。後は敵を作りやすい生き方か?
「『己が貫ける信念を抱け』『抱くべき信念を間違えるな』『己自身に問いかけ続けろ、もし瞬き間に問いに答えられず、悩むのならばその信念は捨て去れ』『抱く信念は己が全てをもってして肯定出来うるモノだけにせよ』、師が抱いた信念は誰が否定しようと、世界の全ての人達が否定しようと、師が自身で否定しない限りは間違いではないです。ワタシが口出しすべき事ではないですし、師自身も誰それの罵倒の言葉に気に掛ける事は無いでしょう」
「……」
思っていたより過激な思想で、思わず口を閉ざすが……
なるほど、想いを一つに絞る事で余計な思想を削り、只一つ目的を掲げて貫く。
それは非常に解りやすい。
カエデの強さに繋がっている事は簡単に解る……のだが。
ふむ……これは変に考えを改めさせない方が良いのか? リヴェリア様にもそう進言しておくべきか。
ワタシは師に問うた事があった。
何故、ワタシだけ白毛で他の皆と違うのか?
何故、石を投げられ、拒絶されるのか?
ワタシも皆と同じ毛色で、皆と共に有りたかった
何故、ワタシだけ皆と違うのか? と、
師は言った。
『オヌシに変えられるのはオヌシ自身のみ。ワシに変えられるのはワシ自身。だがどう足掻こうと変えられぬモノもある。ワシはどう足掻こうが狐人であり狼人には成れぬ』
『皆と分かり合えぬ事が悲しいか? 悔しいか? 恨めしいか? その感情は抱くだけ無駄じゃろうて。抱くなとは言わんが、囚われるな』
『過去は変えられん、何が有ろうとな』
『変えられるのは未来だけじゃ』
『しかし未来において、オヌシやワシだけでは変えられぬモノもある』
『オヌシは変われる。ワシも変われる。じゃが他の者まで変われる訳では無い』
その言葉は、どれも悲しげに言われた言葉だった。
その意味を理解したのは何時だっただろうか?
村人に殺されそうになった時だった気がする。
あの時、赦して下さいと懇願するワタシに村人の男の人が言った言葉。
『死ね、オマエが生きているだけで迷惑だ』
あの言葉、今でも鮮明に覚えている。
その時にワタシはヒヅチに言った。
『死にたい、誰もが石を投げてきて、誰もが目を背けて、誰もが死ねと言ってくるのなら。死んでしまいたい。どうしてワタシ
ヒヅチはワタシを抱き締めて言った。
『安心しろ。例え村人の全員が、世界中の総ての人々が、世界そのものがオヌシが生きる事を否定しようと、ワシは肯定しよう』
『オヌシ自身が間違っていたと否定しようが、ワシがオヌシの命を救い上げた事を間違いだった等とは言わん』
ヒヅチが……初めて……ワタシに殺気を向けてきた。
その殺気は……多分……本気だった。
背筋が一瞬で粟立って……絶対に勝てない……必ず殺されてしまう。
そう思わせる様な。首に刃を押し当てられて……違う。既に首を落とされたかと錯覚するような殺意。
モンスターが向けてくる憎しみの籠った殺意とは全く違う。ただ純粋なまでの『殺す気』と言うモノだった。
『もし、本当に苦しくて、狂ってしまいそうなら。その時は、ワシがオヌシに死を与えよう』
ヒヅチはワタシに刀の切っ先を向けながら言った。
『死にたいか?』
師の金色の瞳が紅く揺らめいた気がした。
粟立つ背筋に反して、ワタシは転がっていた採取用のナイフを拾ってヒヅチに向けた。
きっと、答え次第でワタシは其処で死んでいたはずだ。
ワタシがどう足掻こうが、本気のヒヅチに勝てるはず無いのだから。
答えようと口を開こうとしたら、ワンコさんが乱入してきて答えられなかった。
その質問。
――……ろしてよ……――
ワタシは――――なんと答えようとしたんだっけ?
ほむ。この作品内で登場したオリキャラ、用語、武器等、気になるモノがあれば質問して貰えればあとがきでちょくちょく説明っぽく書いていきますので、気になった方は作者にメッセージをどぞ。
銘『ウィンドパイプ』 別名『喉笛』
作:【
種別:大刀(刃渡り70C程度)
刃先に行くほどに太くなっているその刀は、力任せに振るう事で『ぶった切る』事が主な使い方だが、力任せに振るっても刃が自ら相手に喰らい付く様にも感じられる不思議な大刀。その様子から『喉笛に喰らい付くみたいなイメージ』で銘を打たれた。
作者名がきちんと彫られている為にツツジの作品であるとされているが、ツツジが何時作ったモノかは不明。
倉庫の片隅でずっと眠っていたモノであり、埃を被り錆が浮き始めていた所をヘファイストスが見つけて破棄処分されかけていた所を拾い上げられた内の一本。
銘『ハーボルニル』 別名無し
作::【
種別:大刀(刃渡り95C程度)
刃渡り、重量共に平均より少し上の『大刀』の中でもさらに大き目であると言えるその刀身は、かざりっけの無い武骨ともとれる鈍色の輝きを灯している。
此方も『ウィンドパイプ』と同じく倉庫の片隅でずっと眠っていた作品。
『ウィンドパイプ』に比べて刀身が長く、重量もかなり重め。
扱うのであれば相応の筋力を求められるのでどちらかと言えばドワーフやアマゾネスと言った筋力自慢向けの作品。
どちらの作品もカエデ・ハバリの持つ『アイラブアイリス』 別名『大鉈』と同形状でより大きくしたモノである。
神ヘファイストスは『練習の際に作られた剣ではないか?』と予測しているが、事実は本人不在の為不明。
製作者の二つ名にそぐわぬ耐久性を誇っている。
切れ味(攻撃力)はせいぜいが四等級武器(上層~中層上部)程度で労せず切断可能な程度。
中層下層まで下りると切れ味だけでの切断は難しくなる。
耐久だけで言えば下層でも十分に通用するが切れ味が全く足りていない所為か足りない切れ味を筋力で補って『ぶった切る』必要有り。筋力極振り気味のドワーフかアマゾネスが持つ分には下層でも十二分に効果はあると思われる。