生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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『あの子は英雄では無いわ』

『でも、その魂はとっても、とっても美しい。でもね……その美しさは限定的なモノでしかないの』

『散り際の花こそ、最も美しい、そうは思わないかしら?』

『死に捕らわれてしまわぬように、精々必死に生き(足掻き)なさい。不格好な演舞でも、命を掛けたものならば力強く煌めいて、私の目に焼き付くでしょう』

『さあ、舞を始めましょうか。少しでも美しく、少しでも優雅に。私の描く道筋で、最も美しく輝いてくれる事を願っているわ』

『退屈過ぎて死にそうな今を変えてくれる極光を……』

『もし、私に焼き付けてくれるなら……その時はちゃんと()()()()()()


『試練への招待状』

 剣の折れる音と共にジョゼットの蹴りが白装束の鼻っ面に突き刺さり、ゴキンと水っぽい音を立てて白装束の後頭部と背中がべったりとキスを交わし、捥げかけた首から夥しい量の血が噴き出る。

 

 気にすることなくジョゼットは弓を引き速射する事でカエデの背後に接近していた白装束の足、腹、側頭部に矢を射る。

 

 鎖によって地面に沈んだ二人だったが。真っ暗な地面の中をずぶずぶと沈む不快感に呑まれて暫くすれば、脚の先から何処かの空間に引っ張り出され、カエデとジョゼットの二人の体が空間に出た瞬間に鎖は弾けて消えて10M近い高さから地面に放り出された。

 ジョゼットがカエデを抱えて上手く着地すれば、周りは十階層の朝霧を思わせる薄霧では無く、正に霧と言うべき十階層よりも濃い霧が充満したルームに投げ出されていた。

 その霧の中、白装束をまとった【ハデス・ファミリア】の団員が構えており、直ぐにジョゼットは周囲を取り囲んでいた白装束に気付いて応戦を初め、カエデも遅れて応戦しはじめた。

 

 十階層で戦っていた時は殺すまではしなかったが、今はそんな事を言っている暇は無い。

 何より先程の鎖。使っていたはずの【縛鎖】の姿が一切見えない。

 

 十一階層に居るのは駆け出し(レベル1)程度の者達ばかり。

 

 力がそこまで高くないジョゼットの蹴りで首が捥げるのは予想外だった。せいぜいが首を痛める程度だと思っての一撃だったのだが……

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が何人も交じっている。

 

 しかも動きが全然()()()()()

 

 意味がわからない。分断した所を狙ってくるかと思えば、肝心の【縛鎖】の姿は見えない。

 

 もう一度分断する気か?

 

 フィンとラウルからカエデだけを引き剥がすつもりだったのだろうがジョゼットと言うオマケ付きだった。故に姿を隠してもう一度カエデだけを引き剥がそうとする可能性は高い。

 

 カエデに張り付いておくべきか。

 

 特に鎖。装備魔法で生み出されたと思わしき鎖の装備解放(アリスィア)はどうやら拘束対象を壁や地面などの物質を透過して引き摺り込む性質を持つらしい。

 

 嫌らしい上、秘匿していた装備解放(アリスィア)を持ち出す辺り、【ハデス・ファミリア】の本気具合が垣間見える。

 

 そう思いながらもジョゼットは妖精弓の装備解放(アリスィア)を発動して残っていた厄介そうな白装束二人を針鼠に生まれ変わらせた。

 

「……いや、本当に殺す積りは無いのですが。何故避けないのですかね」

 

 別に殺す積りなんて微塵も無い。相手は驚愕したかのようにジョゼットの魔法弓を食らう。おかしい。違和感が残るがどうにも分らない。

 

 

 

 

 

 ジョゼットがフロアに居た何匹かの()()()()()()()()()()()()()()、カエデは三人の白装束と戦っていた。

 

 目の前に居る白装束のステイタスはこちらと同格。少なくとも俊敏と力は同格程度だろう。

 二、三度の剣の打ち合いから判断した相手のステイタスを元に、的確にウィンドパイプで相手の剣をいなす。

 後ろに回り込んだ別の白装束が背後から斬りかかってくる。背中に背負った鞘に相手の剣先を引っ掛けさせて素早く身を反転させる。引っ掛かっていた剣先が引っ張られた事で腕を大きく前に突き出てしまった相手の下に潜り込みつつ、相手のベルトにあった予備のショートソードを奪っておく。

 

「あっ!? このガキッ!!」

「待てっ! コイツ強ぇぞっ!」

「…………」

 

 三人がかりでかかってきているが、カエデが小柄故に相手の懐や剣閃の死角にとちょこまかと潜り込んで、仲間同士で同士討ちを発生させようとしたりと、堅実と言うよりはただ単に鬱陶しい戦い方を繰り広げる事でどうにかやり過ごしている。

 

 一対多での戦闘のコツは、ただひたすらに回避を優先する事である。

 

 一撃貰って怯み、ソコに他の敵の追撃を連続で食らえば瞬く間にやられてしまうだろう。

 

 とりあえず奪ったショートソードを手の中でくるくると弄び、相手を挑発して大振りな攻撃を誘発させようとするが、場が悪い。

 

 何より十階層よりも濃い霧の所為で目視で相手を確認するのが難しい。

 

 その上で、カエデの身に着けている防具が緋色と、白い霧の中で悪目立ちする装備だったのも仇となっている。

 

 相手からすれば非常に見つけやすく、此方からすれば相手の白装束は意識していないと視界から消えかねないのだ。視線を一度外せばすぐに姿をくらまして奇襲を仕掛けようとしてくるのが一人いる。

 

 終始無言で此方を窺っている白装束。他の二人は素人丸出しとまでは行かないが、数で押す戦闘ばかりしてきていたのか連携は凄くとも個人の能力はかなり低い。

 だが無言の白装束だけは不味い。

 その白装束だけは足音も無ければ気配も霧に紛れて消えそうになる。気配も薄く、一度視界から消えれば完全に見失う事は間違いない。見失えば残り二人に翻弄されてる間に奇襲を食らって一撃で仕留められかねない。

 

 他には【縛鎖】の事も気がかりである。

 

 このフロアにはその冒険者が居ないらしい。更に下の階層か他のフロアで待機している可能性もある。

 

 鎖の音に注意しつつ、白装束の相手をするのはかなりきつい。

 

 何より、今まで人を直接殺した事が無い故にどうしても手心を加えてしまう。

 

 人が死ぬ様は幾度と無く見て来たが、自分の手で……となると一度も無い。

 

 斬り付けた事も有るし、危うく殺しかけた事も有る。しかし人を殺す為に剣を振るった事は一度も無いのだ。

 

 モンスターなら何百匹殺そうが気にもしないが、人はそういう訳にはいかない。

 

 如何すべきか迷いつつも二人で連携して突っ込んでくる白装束をいなしつつ、隙あらば霧に紛れようとする無言の白装束に詰め寄って距離をとらせない様にする。ついでに奪ったショートソードを距離を詰めようとした所に左右から突っ込んできた右側の白装束の足元に引っ掛ける様に投げておく。

 

 回転するブーメランのように投擲されたショートソードだが、運悪く相手の足首に命中したらしい。苦悶の声と共に右側の白装束が倒れ、左側の白装束が怒りの叫び声をあげながら大振りの一撃を見舞ってくる。

 直ぐにウィンドパイプの切っ先で相手の剣の切っ先を受け止めながら、刀身の上を滑らせて相手の手首を軽く斬り裂いておく。

 

「ぐぁっ!?」

「このガキがぁあああああ」

 

 カランと言う剣をとり落とす音を聞きながら霧の中で血を吹き出して手首を押さえて下がっていく白装束を見送って、霧に紛れようとしていた白装束に投げナイフを投げて牽制しておく。

 

「ぐぁっ……くそっ、話が違ぇぞ!! 相手は動けねぇんじゃなかったのかッ!!」

「チッ、俺らは引くぞっ!!」

 

 霧の中、口数の多かった白装束の二人が走って離れていくのを感じつつも、残った一人に警戒心を向けた。

 

「……何故だ?」

 

 終始無言だった残りの一人の白装束の言葉に眉を顰める。

 

「お前には()()()()()()()()

 

 相手はこちらに言い聞かせる様に口を開くが、この状況で態々舌戦を繰り広げるのはほぼ間違いなく何かしらの意図があっての事だろう。直ぐに距離を詰めて斬りかかる。

 白装束は受ける事はせずに後ろに跳び退って剣を構えなおした。

 

「チッ、引っかからないか」

 

 白装束が何か言っているが無視して一歩詰めつつも振るう。

 白装束はカエデの振るうウィンドパイプを、カエデがやった様に逸らそうとするが。

 

 それぐらい予測できて当然。だから対策も十二分。

 

 カエデのウィンドパイプが音を立ててあらぬ方向へ弾かれる途中、カエデは迷わずウィンドパイプを手放して相手の懐に突っ込む。

 

「なっ!?」

 

 驚いた表情の白装束、その手首をしっかり握った投げナイフで斬り付けて剣を奪い取り、直ぐに相手の足に奪った剣を突き刺す。

 

「ぐぅっ!? こいつっ!!」

「これで、終わりっ!!」

 

 突き刺す位置は膝の部分。脚甲も何も装備していない膝は只のレザーガードだけであり、打撃には強くとも刺突には大して防御能力は無かったのだろう。ズブリと肉を突く感触と共に一気に剣を捻り傷口を大きく広げるのを忘れない。

 

 直ぐに相手から距離をとって霧の中にとんで行ってしまったウィンドパイプを探そうと鼻を鳴らすと、ジョゼットの叫ぶ声が聞こえてきた。

 

「貴様ッ!? よくもカエデさんをッ!!」

 

 何を言っているのか一瞬理解できず、声のした方向に視線を向けると、霧の中から、光の矢が複数飛んできて、()()()()()()()()()()()

 明らかにジョゼットの妖精弓の魔法である光の矢に驚いて声をあげる。

 

「っ!? ジョゼットさんッ!?!?」

 

 慌てて身を翻して三本の矢の内二本を投げナイフで迎撃し、足元の石を蹴り上げて最後の矢の射線を塞ぐが、石ころに当たった光の矢が炸裂して霧の中吹き飛ばされてしまう。

 

「ちっ、手間取らせやがって……まぁ、これで良い」

 

 ゴロゴロと転がりつつも投げナイフを懐から取り出して、悪態をつく白装束に投げナイフを投げた。

 

 その投げナイフは霧の中から唐突に現れたジョゼットに掴みとられてしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 唐突に理解できない行動を始めたジョゼットにカエデは足を止めて投げナイフを追加で二本掴んだ。

 

 霧の中、ジョゼットが白装束の男に近づいて甲斐甲斐しく治療を始めた。脚に刺さった剣を抜いて高位回復薬(ハイ・ポーション)を飲ませ、立ち上がるとジョゼットが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「カエデさん、あの最後の一人は私が倒しますので……そこで待っていてください」

「ふんっ、なかなか時間がかかったが……悪く無いな」

「ジョゼットさんっ!!」

 

 慌ててジョゼットに声をかけるが、ジョゼットは鋭い目つきでカエデを睨みつけた。

 

「殺されたくなくば引いてください。先程は加減を誤って何人か殺してしまいましたが……貴方はなかなかやる様だ。加減出来ないかもしれません」

 

 仲間に向けられた殺意に身が竦む。そして気付いた。霧の中、ジョゼットの周囲に薄紫色の光の玉がふよふよと浮かんでいる。

 

「ジョゼットさん、ソレ……」

「黙りなさい。こちらが【ロキ・ファミリア】である事を理解しつつも襲撃する蛮勇は称賛しますが。これ以上続けても無駄です」

 

 再度の警告に冷や汗が流れた。

 

 そのジョゼットの後ろ、不自然に気配が薄い男にカエデは視線を向けた。

 

「くくっ、間抜けが一人、捕まったみたいだねぇ」

 

 白装束の頭巾を取り払った下から出て来たのはキャットピープルの男である。

 その男、よく見ればジョゼットの周囲を飛んでいるのと同じ紫色の光の玉が何個も飛んでいるのが見えた。

 

 幻術系の魔法……呪詛(カース)に分類されるモノだろう。

 

「自己紹介しておこうか……【縛鎖】イサルコ・ロッキだよ。装備魔法で有名っちゃ有名だけど……ソッチよりコッチの方が使い勝手良いんだよね」

 

 自身の周囲を飛び交う紫の光の玉を指先で突きながら呟かれた言葉にカエデは一歩後ずさった。

 カエデがイサルコに視線を向ければ、ジョゼットの目つきはより鋭くなり、妖精弓はギリギリと音が立つほどに引き絞られている。

 

「引け、私はそう言いましたが? 聞こえませんでしたか?」

「ジョゼットさん……」

 

 完全に、声すら届いていないらしい。ジョゼットが唐突に矢を放ち、カエデは慌ててソレを回避しようとする。

 

 霧の中、霧を貫く様に放たれた光の矢をどうにか避けようと大きく動くも、追尾性能のある光の矢は回避しようと足を踏み出したカエデに合わせて追尾してくる。

 壁際によって直ぐに真横に飛び退けば光の矢は壁に突き刺さって動きを止めた。

 

 カエデが追尾する光の矢を必死に回避している間にジョゼットが白装束の体を抱えて一気に走り出した。

 声を張り上げて引き留めようとするも、ジョゼットは置き土産と言わんばかりにカエデに投げナイフを投げつけてそのまま走って行ってしまう。

 

 霧の中から飛んできた投げナイフに慌てて身を捻って回避するも、完全に足が止まってしまう。

 

 そんなジョゼットに担がれた白装束の男、イサルコは拘束を解こうと暴れているみたいだがそのまま担がれて行った。

 

「ジョゼットさんっ!!」

「あぁっ!? おい離せ糞エルフッ!! チゲェよっ!! あの白い狼人を――――

「カエデさんは静かに、このまま団長と合流しますので」

 

 幻術によってイサルコの事をカエデだと誤認しているジョゼットはそのままイサルコの言葉を無視して走っていく。遠のいていくイサルコの声に思わずぽかんと間抜けな表情を浮かべた。

 

「え……?」

 

 誰も居なくなった十一階層のフロアに一人取り残されたカエデは周囲を警戒するもモンスターの気配も先程逃げて行った二人の白装束の気配も何も感じない。もしかしたら自分も幻術にやられているのではないかと警戒するも、無意味だと判断して投げナイフを懐に仕舞った。

 カエデは一度だけ辺りを見回してから直ぐに団長に合流すべく後を追おうと足を踏み出そうとして、霧の中に大柄な人影を見つけて慌ててバックステップで距離をとった。

 

 背中のウィンドパイプに手を伸ばそうとして鞘に何も入っていないのに気付いた。

 先程手放していたウィンドパイプが何処に行ったのか分らない。

 

 2Mを超える大柄な影、その姿に【処刑人(ディミオス)】を警戒するも、全く違う声が聞こえてカエデは首を傾げた。

 

「大丈夫か?」

「……?」

 

 聞いた事が無い声に思わず首を傾げながら、霧の中でその人物の姿をよく見ようと警戒しつつも距離を詰める。

 

「受け取れ、お前の武器だろう」

 

 霧の中から何かが投げられ、ズンと言う重音が響き、目の前に剣が突き刺ささった。カエデは一気に後ろに飛び退いてから、霧の中に薄ら見える剣がウィンドパイプだと気付いて警戒を強めた。

 

「誰ですか?」

「今は答える積りは無い」

 

 今は? 敵意は一切感じないが……尻尾が誰かに掴まれた。直ぐにこの人物から離れた方が良いと。

 

「白い狼人、カエデ・ハバリ」

 

 名を呼ばれ、警戒心が一気に増す。

 何故名を知っている? 少なくともこの人物と会った事は無い筈だ。

 

 霧の中、薄らと見える姿に警戒心を抱きつつもウィンドパイプを地面から引き抜いて鞘に納めてから柄に手をかけつつ距離をとろうとするも、呼び止められてしまう。

 

「カエデ・ハバリ」

 

 再度の呼びかけに眉を顰め、柄の握りを確認しつつも次の言葉を待つ。

 

 勝てない。背を向けて逃げ出す事も許されない。

 

 この大柄な人物から感じる気配からそう判断して待つ。

 

 ここで背を向けたら間違いなく切り捨てられる。そんな気がした。

 

 それだけじゃない。ここで剣を向けても斬り捨てられるだろうし、自分に出来るのは話を聞く事だけなのだと。なんとなく理解できた。

 

「試練を、()()()()()()()()()()()()

 

 その言葉に背筋が震えた。試練、待ち望んでいたモノではある。だがこの感覚は……

 

「女神の試練だ。喜べ、オマエの活躍は女神が見ている」

 

 女神? 誰の事かはわからないが……一瞬だけ、バベルの最上階から中身を見据えてくる視線の事が脳裏を過った。

 

「十二階層、細道へ向かえ……」

 

 それだけ言い残すと、大柄な人物は霧の中へ消えて行く。

 

 一瞬、無視して地上に向かおうかと考えるも、霧の中でその人物が振り返ったのが気配で解った。

 

「逃げるなら、俺がお前を殺す」

 

 一言、ただ一言だけ呟かれた言葉。

 

 先程の白装束の向けてきた殺気とは全く違う所か、微塵も殺気を感じられない言葉だった。

 

 だが、ソレの意味を正しく理解できた。

 

 隔絶した強さがある。

 

 絶対に勝てない。逆立ちしようが、世界がひっくり返ろうが、今の自分が千人束になっても、その人物には勝てない。

 

 そう、殺気を向ける必要も無い。向けただけで殺してしまうかもしれないからだ。

 

 

 

 謎の人物が消えて、完全に一人になってから。息を整える。

 

 気が付けば、肩で息をしていた。何時から呼吸を止めていたのか、息を大きく吸う毎に視界が広がり、思考が鮮明になっていく。

 

 ()()

 

 あの男は試練があると言った。

 

 ワタシの為だけに用意された試練。

 

 ジョゼットやフィン、ラウルの事は気がかりだが……どちらに向かうべきか。

 

 

 三人の元へ向かう。必ず死ぬぞと尻尾を引っ張られるような感覚がした。

 

 【ロキ・ファミリア】の本拠まで逃げる。三人の元へ向かうのと同じだ。必ず死ぬだろう。

 

 あの人物と戦う。必ず死ぬだろう。

 

 試練に向かう。危険だと尻尾を掴まれる感覚がした。

 

 

 どの選択肢をとっても、きっと死ぬ様な目に遭うだろう。

 

 いや、選択肢なんてありはしない。

 

 『試練に向かう』それ以外の選択肢を選べば必ず死ぬ。

 

 あの人物は決して嘘は言ってない。今もこの霧の中で此方を観察している。そんな気がする。

 

 誰かの視線を感じた。ねっとりとした、中身を直接覗き込まれるような、不愉快な視線。

 

 バベルの頂きから飛んでくるその視線。

 

 

 

 手持ちの持ち物を確認する。

 

 武装は乱暴に扱ったのに傷一つ無い『ウィンドパイプ』、それから『投げナイフ』が三本。

 防具は『緋色の水干』に左腕の動きが若干悪くなっている『ガントレット』と金属製のブーツ。

 道具類は『回復薬(ポーション)』が三本、『高位回復薬(ハイ・ポーション)』が二本。

 後は『解毒剤』と途中で拾った魔石にドロップ品。

 

 十二階層の注意点を思い出しつつ眉を顰めた。

 

 十一階層においても霧によって視界が悪いのに、十二階層は更に視界が悪い。

 

 それこそ3~5M程度の距離で識別不能になる程に濃い霧が漂っていると言う話だ。

 

 ジョゼットのように透視能力(ペセプション)があるのなら良いが……カエデはそのスキルを持っていない。

 

 鼻と耳、この二つだけで挑まねばならない。

 

 手が震えた。

 

 細かな傷が出来ているのに気付き、回復薬(ポーション)を一本、一気に飲み干してから顔を上げる。

 

 進むしかない。

 

 

 『十二階層 細道』、何処の事か特定するのは難しくない。

 

 冒険者たちの間で『罠の細道』と呼ばれている箇所がある。

 

 十二階層の階層の形状自体は八階層、九階層と同じでルームの数が七階層以前よりも増え、一つ一つのルームの大きさも今までの倍近くまで大きくなる。ルームを繋ぐ通路は少なく短くなる。天井までの高さも3Mから4M程度だったのが10M近くになる。

 そんな十二階層の中で、不自然に細長い通路が一か所だけ存在するのだ。

 

 その通路内に冒険者が四人以上同時に侵入すると、出口と入口の二か所で確実に怪物の宴(モンスターパーティー)が発生して挟み撃ちにされると言う通路である。

 

 駆け出し(レベル1)は確実に避けて通る道だが、十一階層と十三階層へ通じる階段への最短ルートとしても利用されており、単独(ソロ)活動している冒険者や、三人未満のパーティー等が中層へ挑む際等に利用する為、人が全く居ないわけでは無い。

 

 運が悪いと他のパーティーとすれ違ってしまい、前後からモンスターに……と言った事になるので殆どの冒険者が避けて通る道。

 

 きっとそこだろう。

 

 怪物の宴(モンスターパーティー)が試練になるのだろうか?




モチベが続かんとです。どうするかなぁ……。

 ダクソ2楽しいんじゃぁ…… 



小人族(パルゥム)
 特筆すべき点は成人しても子供程度の姿にしか成長しない種族であり、見た目だけでは年齢の把握が難しい種族。

 ステイタス的にはヒューマンの劣化版等と言われる程度でしかなく、基礎ステータスがDに到達する事も無い事が多い、神々からは『使えない』だの『愛玩用』だのさんざんな評価をされており、オラリオにおいては扱いは基本的に良くない。

 古代においては周りが『不可能だし、一度失敗してるだろ』と小馬鹿にしていた二度目以降の『蓋』の作成に自ら協力を申し出て、一歩も引かず最前線にて戦い続け、その容姿からは考えられぬ程の戦果をあげていた。

 その騎士団は騎士団の創始者でもあり数々の偉業を成し遂げた『フィアナ』と言う人物を神格化して信仰する小人族達が集まり出来た『フィアナ騎士団』と言う名称であった。

 しかし神が地上に降りてきた際に『フィアナ? 誰それ? 女神? 何言ってんの?』と神々に小馬鹿にされた上、ステイタス的に『外れ種族』等と馬鹿にされる事となる。それが原因で他種族から『劣等種』等と言われるようになり、総じて卑屈な性格な者が多くなった。

 現代の小人族に対する評判は『使えない』だの『役立たず』だのと言った酷評が多い上、子供の様な容姿で毒を吐いたり卑屈であったりなど、他種族にとって苛立ちを感じる部分も多い所為か『生意気なクソ小人族(パルゥム)』等と罵られる事も多い。

 そんな状況でありながら、しかと名を馳せる事のある種族でもある。
 どんな逆境においても『進む意思』を忘れない。
 幼い容姿でありながら、劣ったステイタスでありながら、『生意気だ』等と罵られようと、止まる事だけはしようとせず、現状を打破しようと動き続けるその『意思』。
 その身に宿す『意思』はどんな種族においても存在しない『勇気』を示す種族であるとも言われている。

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