生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
隙間から見える光景が目から離れない。
鎖に繋がれて、外から聞こえる狂った叫びに体を震わせる。
『二人を何処にやった』『言え、知ってる事全部』『嘘だ、知らない訳がない』
そんな叫び声と共に、
手足を捥ぎ取られて、芋虫みたいに這いつくばるあいつ等を見て、ざまぁみろと声をかけた。
…………アイツ等が全員バラバラになったら、次はアタシの番かな…………
………………アイツの声、どっかで聞いた事ある声だけど何処で聞いたんだっけ?
村の仲間は皆死んだし、
でも、知ってる奴だと思う。
目を覚ましたら【ロキ・ファミリア】の私室の天井が目に飛び込んできた。
薄らと最後の記憶を辿りつつも、目の前の天井を見続けてから、壁の方に視線を向ければ『形見の刀』と『大鉈』がラックにかけられているのを見て目を細める。
疲労感がまるで鉛の様に体にこびり付いている所為かまるで水の中で動いているかのような動きで身を起こして室内を見回す。
簡素な私室にはベッドと、中身が全く入っていないクローゼット。そしてエンドテーブルとチェア。窓際の真っ白なカーテンは閉じられ、魔石を使った照明は点いていない。後は武具を収めて置く為のチェストが一つ。
壁にかけられたラックに鎮座している『形見の刀』と『大鉈』が唯一部屋を彩る装飾品と言えるだろう。
そんな私室を眺めながら首を傾げる。
ワタシはどうして此処で寝てるんだろう?
思考に靄がかかった様にまるで上手く纏まらず。ベッドから出ようと足を床につけて立ち上がろうとするも上手くいかない。
立ち上がれない。体が鉛とすり替わったのではないかと言う程重たく、立ち上がる事は出来そうになかった。
上手く働かない思考に若干の苛立ちを覚える。しかしその苛立ちすらも靄がかかった様に消え失せていく。
最後の記憶を必死にたどる。
ベートさんに会って……ジョゼットさんが申し訳なさそうな顔をしていて……それから……
疲労感の所為で頭の中に浮かんだ光景がぼやけて消えてしまう。
そんな風にベッドに腰掛けながら部屋をぼんやりと眺めていると、扉をノックする音が聞こえた。
コンコンと、丁重に扉を叩くこの音は――――誰だろう?
多分、リヴェリア様か、ジョゼットさん……だと思う。
返事をしようと口を開くも、声が出なかった。
口から零れた吐息が静かな部屋に響き、扉の向うからリヴェリア様の声が聞こえた。
「入るぞ」
短い一言と共に扉が開けられ、入ってきたリヴェリア様と目が合う。
「目覚めていたか。調子はどうだ?」
その質問に答えようと口を開くが、声は出ない。疲労感の所為で思考は纏まらない。問いかけられた内容がぼやけて消えて行き。そのまま問いかけられたと言う事柄すら脳裏から消えて行く。
「……カエデ?」
自分の名前を呼ばれた。気がする。ぼんやりとした思考の中、返事をしようと口を開いて、閉じる。
いつの間にか目の前にリヴェリア様が居て、声をかけられて……返事をしないといけないはずなのに、疲労感がソレを阻害する。纏まらない思考はそのまま目の前に居るリヴェリア様の事すら意識から零れ落ちさせ、何故自分が此処に居るのか分らなくなり首を傾げた。
あれ? 窓はカーテンが閉まっていたのではなかっただろうか? 何故開いているんだろう? 照明も落とされていたはずなのに……はて?
「大丈夫か?」
再度の質問。ゆっくりとその意味を噛み締めて理解しようとするも、薄れていって消えてしまう。何かがおかしい気がする。おかしい? 何がおかしいのだろうか……?
目の前のリヴェリア様の目を見てから、窓の方に視線を向ける。なんとなく。
窓から見える景色が薄らと灰色に染まっているのが見えて、首を傾げる。
灰色? 空の色は灰色だっただろうか? 雨でも降っているのか? 雨音は聞こえないのに。曇り空なのかもしれない。
「カエデ、大丈夫か?」
肩を掴まれ、質問を投げかけられた。前を向けばリヴェリア様の顔が目の前にあって……リヴェリア様の筈だ。何かがおかしくて首を傾げる。
「……カエデ、私の言葉がわかるか?」
質問、質問? 何を問いかけられているのか理解できなくて首を傾げてから、違和感の正体に気が付いた。
リヴェリア様の髪色は灰色だっただろうか? 目の色も灰色な気がする。
と言うよりは、世界全てが灰色に染まっている。なんだろうコレは……
「カエデ、カエデ、おい、聞こえているか?」
その問いかけに頷く。ちゃんと聞こえている。聞こえているのだ……何が?
「……調子はどうだ? 会話は可能か? 無理なら首を横に振ってくれ」
調子はどう? わからない。思考に靄がかかってぼんやりする。上手く思考が纏まらない。
「わからないです」
何とか口から言葉が零れ落ちる。おかしい、何かがおかしい。何がおかしい?
その言葉を聞き、リヴェリアは眉を顰めた。
【ハデス・ファミリア】から襲撃を受けた。カエデを狙っている。そんな報告を受けたのはリヴェリアがフィンの代りにギルドに提出する書類を纏め終わったのでお茶でも飲もうかと茶器の用意をしているタイミングであった。
リヴェリアの私室の扉を蹴破る勢いで入ってきたのは焦った表情のジョゼットだった。カエデに同行してダンジョンに行っていた筈であり、時間的にまだ戻ってくる時間では無かったのと、エルフらしく気品ある行動を心掛けているはずのジョゼットの珍しい慌てた姿に一瞬怪訝そうな表情を浮かべてから、茶器を置いてどうしたと問いかけた。
『緊急報告、神ロキが発見できなかった為、副団長に報告に上がりました! 【ハデス・ファミリア】の襲撃を受けました。狙いはカエデ・ハバリ、襲撃で分断された後にカエデ・ハバリがインファントドラゴンと交戦、生還はしましたが意識不明です。現在、ダンジョン内でベートさんと合流し団長、ラウルと共にカエデさんを護送中。追加報告【
早口で捲し立てる様なジョゼットの報告にリヴェリアは一瞬思考停しかける。
その後の行動は素早く行方を晦ましていたロキを捕まえる様に数人の団員に指示をだし。直ぐに本拠の警戒態勢を敷きつつも鍛錬場で団員の鍛錬を行っていたガレスにフィンと合流する様に伝えた。
直ぐにガレスはダンジョン入口でフィン達と合流しカエデを無事に本拠に運び込む事に成功。
その後、街中をこっそり徘徊していたロキの捕獲に成功したアイズが戻った後にファミリア内で緊急会議が開かれ、状況の把握に努めた。
『カエデを罪人と呼び【ハデス・ファミリア】が命を狙っている事』、『謎の巨漢がカエデに十二階層でインファントドラゴンと交戦する様に指示した事』そして『カエデがインファントドラゴン討伐に成功した
ロキの反応は凄まじく、悪神としての表情を浮かべて『ハデス殺すわ』と断言した後に『フレイヤアァァァァァッ!!』と叫び。最後には『カエデたんナイスやッ!!』と喜んだりと大忙しだったが。
その後、【ハデス・ファミリア】の行方を捜索する為にダンジョンに潜るも、姿は綺麗さっぱり消えており、ベートがダンジョン内に放置した【ハデス・ファミリア】団員の姿も無かった。
【
一応、捕虜である【縛鎖】イサルコ・ロッキを預かっている旨をギルドに報告しておき、肝心のイサルコは捕虜用の部屋に拘束している。
結局、【ハデス・ファミリア】は行方知れずとなり姿を晦まし。警戒態勢に入った【ロキ・ファミリア】に襲撃を仕掛けるファミリアはいなかった。
そして意識不明だったカエデは二日間も眠り続け、漸く目を覚ました。
目を覚ましたカエデの様子が変だ。そんな報告を受けたロキは直ぐにミアハに連絡をつける様に指示をしてからカエデの元に向かった。
部屋に入って見たのはぼーっとベッドに腰掛けながら首を傾げたりしているカエデの姿だった。二日も目覚めなかった眷属が目覚めている事に喜んだロキはカエデに駆け寄って抱き付くも。カエデは無反応で一瞬首を傾げるのみ。様子がおかしいと聞いていたがこれほどとは思わず、面食らってしまったがその後必死に何度も呼びかけ続けている。
「カエデたん? 大丈夫かー……?」
「……はい」
ロキはベッドに腰掛けたカエデの両肩を掴んでカエデの視線を自身に向けさせてから声をかければ、カエデは一拍おいてからようやく返事をする。
ソレを確認してから、ロキはカエデの両肩から手を離してもう一度声をかける。
「カエデたん」
今度は返事がない。所かロキの方から視線を外して部屋の中を見回して首を傾げている。
視点が安定せず、焦点もしっちゃかめっちゃかになっているのが解り、ロキは眉を顰めてもう一度カエデの両肩を掴む。掴めばカエデの視線が目の前のロキに固定されて不思議そうな表情を浮かべる。
「カエデたん、大丈夫かいな?」
「……? ロキさま? 大丈夫……? 何がですか?」
おかしい。どうにも心此処に有らずと言った様子である。ただ、最初に比べればマシになったと言える。
最初にカエデに声をかけた時はそもそもロキを認識できずに何度も首を傾げており。五度ほど繰り返して漸くロキに反応を示したぐらいだったのだ。
緊急で呼び付けたミアハがやってくるまで、何度も呼びかけてみるが、反応がこれ以上回復しない。
もしこのままなら……そんな風に心配して若干焦っていたロキだったが、そんな焦りもミアハの診断結果で落ち着く事が出来た。
ミアハはカエデの様子を見るなりカエデに一言『寝た方が良い』とだけ言ってカエデをベッドに寝かせつけたのだ。
ミアハは『意識だけが覚醒し、肉体は未だ疲労状態から抜け出せていない。体や脳は休みを求めているのに意識だけが半覚醒している所為で反応は鈍いし思考が回っていない。まずは疲労回復の為に寝る事。次に目を覚ましたら食事をとらせた方が良い。直ぐにとは言わないが後半日も眠れば一応は回復するだろう』とだけ言うとロキに内密の話があると告げてきた。
ミアハの診断結果を聞いて若干安心しつつも、内密の話について話す為にミアハと二人きりで客室で対面するロキはミアハの真剣な表情を見つつも口を開いた。
「んで? 内密な話って何や?」
「……カエデ・ハバリのステイタスについてだ」
ロキはミアハに何も教えていない。ただ『カエデが倒れたから様子見たってーな』と軽い伝言で伝えたのだ。ソレだけでミアハはすっとんできてくれたので感謝している。
しかし、ステイタスについてと言う言葉にロキは眉を顰める。
「教えてくれ言うんや無いやろな」
眷属の人生、その軌跡をそっくりそのまま映したモノ。ソレがステイタスであり、その眷属の長所、そして短所を映し出すモノである。本来なら、と言うよりオラリオにおいて他ファミリアの眷属のステイタスを聞くと言う行為は忌避されるモノであり。マナー違反である。
ミアハの表情は変わらず。ロキの言葉を肯定する訳でも否定する訳でも無くミアハは口を開いた。
「魔法……いや、スキルだろうか? アレは生半可なスキルの反動では無いな、もしあの疲労状態に陥る原因となった魔法かスキルがあるなら……もう二度と、使わせるな」
真っ直ぐロキを見据えたミアハの言葉に、ロキはゆっくりと手を額に当てた。
疲労状態の原因、心当りが有り過ぎて困る。
『烈火の呼氣』が原因で間違いないだろう。カエデ自身の口から語られたわけでは無いが、ベートが確認したインファントドラゴンの倒し方や状況から間違いなく原因はソレであると言えるが……
カエデの言葉を思い出して眉間に皺が寄る。
『緊急時、必要とあれば使います』
その
「無理や」
「……どんなスキルなのかは聞かずとも理解できる。あのままだと、間違いなく死ぬぞ」
「せやろなぁ……」
『烈火の呼氣』、しかもフィンの見立てでは『旋律スキル』も組み合わせた本格的なモノを使用した可能性が高い。
今までの能力の
本来、インファントドラゴンの頭骨なんてそうそう砕けるモノじゃない。
それこそ強靭な鱗に守られた頭の頭骨部分なんてまともに狙う場所じゃないし、正攻法なら比較的に柔らかな腹の部分をどうにか狙うのが基本である。
腹を狙う為に足を攻撃して少しずつ弱らせ、止めとして腹に一撃叩き込む。ソレがインファントドラゴンと戦う正攻法である。
間違っても、
ソレが出来るのは最低でも
だが、カエデは
もしソレが本当なら凄まじい偉業だが、間違いなく言える事はソレが体に掛ける負担は想像を絶すると言う事だろう。
と言うか割とカエデが生きている事自体がかなり奇跡的とも言えるモノなのだ。
本人の生きる意思の賜物か、カエデは未だ生にしがみ付いているが……
「カエデの寿命が半分以下になっていた。アレはどういう事だ?」
ミアハの言葉にロキは口元を歪めて呟く。
「やっぱりかぁ」
「…………」
カエデが今回しでかしたことは、
無理が祟った。結果としてはそうだが……カエデ本人はただ生き残る為に全力を尽くしただけである。
あの場面、インファントドラゴンに襲われているカエデが生き残る為に全力を尽くした結果だったとして、『カエデ・ハバリは生き残る事に成功した』ソレが事実である。
代価として『寿命が二ヵ月半になった』としても、インファントドラゴンにあの場で殺されるか、少しでも長く生きる為に寿命を削るか。どちらか選べと言われればカエデは迷わず後者を選ぶだろう。
例えあらかじめカエデに危険性を説明しておいたとしても、その場で死ぬぐらいなら、残っている寿命を削ってでも生存を優先する。カエデの性格上、間違いなくそんな選択肢を選んで寿命を削っていく。
削れた寿命は元に戻らない。
元々、カエデは寿命に難を抱えていた。ソレは生れ付きの先天的なモノであるとミアハも断言したが。今回は違う。疲労が溜まり切ったカエデの体は間違いなく寿命が削れていた。其れもロキが一目見て一瞬で解ってしまう程度には……
「ロキ、カエデの
ミアハの言葉にロキは両手を上げた。
「さっきも言ったけど、そりゃ無理やな。危険性の説明はしっかりする。せやけどな。カエデたんは危険性を承知の上で、必要やったら迷わず使うわ」
フレイヤにはそれなりに警戒していた積りだった。だが【ハデス・ファミリア】とか言う訳のわからん所が手出ししてきた所を狙って手出ししてくるとは予想外だった。
しかも今回の件で【フレイヤ・ファミリア】に文句を言えない。正確には言った所で知らぬ存ぜぬで押し通される事位目に見えている。何より致命的なのはカエデが『大柄な人物』が
もしカエデの『大柄な人物』と言う情報だけで【フレイヤ・ファミリア】に文句を言おうモノなら、『もしかして別のファミリアの子なんじゃないの?』とはぐらかされてしまい、追及も出来ない所か半端な予測で動けば【フレイヤ・ファミリア】が優位に動ける様になってしまう。ムカつくが今回の件で【フレイヤ・ファミリア】、ひいてはフレイヤに『ふざけんな』と言う事すらできない。
ソレ以前に、カエデの異常性に気付いているのはロキとフレイヤぐらいで他のファミリアには『珍しい白毛の狼人』ぐらいしか伝わっていない積りだったのだ。
ミアハも『寿命を求めてやってきた眷属』程度にしか考えていないだろう。
ソレが【ハデス・ファミリア】が『罪人』と呼んで処刑を実行しようとしている辺り当てにならない。
他にも【恵比寿・ファミリア】に所属している【
この調子だと他にも複数のファミリアがカエデに目をつけている可能性が高い。
面倒此処に極まれり。カエデを守れると断言出来なくなった。
ロキはゆっくりと立ち上がるとミアハを見据える。
「今回、カエデたんの寿命が削れた事は、本人には内緒にしてくれへんか?」
ロキの言葉にミアハはあからさまに眉を顰めた後に、目を伏せて頷いた。
「……わかった。私からは言わない……だが、一つ聞かせてくれないか?」
「なんや?」
目を開き、ロキを見据えるミアハは確信した様に呟いた。
「
その言葉にロキは肩を竦める。
カエデは今回の件で
ミアハの言う通り、たったの四度、ダンジョンに潜っただけで『偉業の証』を入手し、なおかつ
【ヘファイストス・ファミリア】がカエデの後ろ盾として機能したとして、それで守り切れるかと言えば。断言するが『不可能』である。
そこら辺の駆け引き何ぞ知った事かとカエデの周囲を引っ掻き回す神は必ず現れる。
そうなれば削れた寿命に
なる様になる。そんな風に構えていれば間違いなく『カエデは死ぬ』。
今のままでも【フレイヤ・ファミリア】の『試練』が今後もカエデに与えられるだろう。その度に寿命を削っていれば……今回削れた分は
【フレイヤ・ファミリア】に対する牽制を増やしたいが……【ハデス・ファミリア】が懸念事項過ぎる。
ミアハを見て、もう一度肩を竦める。
「なんとかするわ」
「……そうか」
それ以上語る事は無いと判断し、ミアハと別れた。
カエデが完全復帰したのはそれから二日後の昼頃であった。
口いっぱいに料理を頬張っていっそ必死に食事にありつくカエデの様子を見ながら。リヴェリアは安堵の吐息を零した。
「元気になった様で安心したぞ」
「むぐむぐ、むぐ? むぐ」
料理を頬張りながらも何かを言おうとするカエデにリヴェリアは首を横に振る。
「無理に喋らなくて良いぞ……空腹なのだろう。食べながらで構わない。この後、ロキにステイタスの更新をしてもらえ」
頷きながらもスープを口にしているカエデの様子にマナーが悪いなと感じつつも、仕方が無いかと肩を竦める。
合計三日目に一度目覚めて空腹を訴え、食べるだけ食べて再度眠りに就き。そして今日になって目覚めたカエデは再度空腹を訴えたが。最初に比べて受け答えはしっかりとしていたし。二日目にあった心ここに有らず状態から脱していたのだ。
一気にスープを飲もうとして、熱かったのか一瞬口を離してから、再度果敢にスープに挑むカエデの姿に苦笑を浮かべる。
そんな様子を眺めてようやく安心できたのだ。
ロキに手を引かれてステイタスの更新の為にロキの私室にやって来た。
記憶が定かではないが、どうやらインファントドラゴンと戦ってからもう四日ほど経っているらしい。
途中、何度か目覚めていたらしいが、そのことをワタシは覚えていなかった。
首を傾げつつも、ロキと共に部屋に入れば、変わらぬ笑みを浮かべたロキの姿があった。
何故か部屋の隅っこの辺りにごみ袋が鎮座しているが……隙間から見えるのは肌色の多い画集の様な薄っぺらい本が覗いている。あれは何だろう?
「いやーひっさしぶりやな。心配しとったでー……カエデたん、心の準備はええかー?」
「はい」
インファントドラゴン討伐。間違いなく『偉業の証』を得られる様な偉業で間違いない。
そしてワタシのステイタスは
例え『偉業の欠片』だったとしても、既に一つ手に入れているので結果的に『偉業の証』になるのは確定であり、今回の更新で
【ハデス・ファミリア】の襲撃、インファントドラゴンとの戦闘。冒険者として活動を始めてたったの二週間での
どれだけ寿命が延びるか。ワタシが気になるのはそれだけである。
椅子に腰かけてロキに背を向ける。
ロキがあらかじめ準備していたらしい更新に使う針などを手早く使い、ステイタスを更新していく。
力:D533 → A877
耐久:B762 → A869
魔力:I0 → I0
敏捷:C636 → S962
器用:C690 → S999
『偉業の証』★
『偉業の欠片』★☆
発現可能:発展アビリティ
《剣士》《生存》《狂歌》《軽減》
淡く輝くステイタスを見て、ロキはゆっくり息を吐く。
それからもろ手を挙げて大声で喜ぶ。
「やったでっ!!
下の階層、他の団員に聞こえるぐらいの声量で声をあげる。目の前に居るカエデからすれば迷惑極まりないはずの声量なのに。カエデの反応は耳をピクリとさせるだけだった。
カエデの事を覗き込む。ゆっくりとその事実を噛み締める様に理解している様子だ。徐々に喜色へと染まっていく表情に満足気に笑みを浮かべて。ロキは口を開いた。
「カエデたん、発展アビリティ
《剣士》はアイズも持っているスキルであり。剣を扱う際にステイタスにボーナスが付き、剣の扱いが上達すると言うモノ。
《生存》は簡単に言えば生存に関わる耐久のステイタスへのボーナスと、追加で即死級の攻撃に対する直感効果が得られると言うモノ。
《軽減》は攻撃行動等の反動
《狂歌》は……、【ミューズ・ファミリア】に尋ねれば答えて貰えるだろうか。見た事の無いアビリティだ。ただ、一目で『嫌な予感』を感じるアビリティに手出ししようとは思えない……。
カエデに必要なのは《軽減》だろう。
事例が無いので確証はないが《軽減》ならば『烈火の呼氣』の反動
それに無茶を重ねていく以上、あるのと無いのとでは全然生存率が違うはずだ。
「カエデたん、どれがええ?」
「……《生存》でお願いします」
だろうな。そんな感想を飲み込みロキは口を開いた。
「ウチ的には《軽減》をおすすめするでー。カエデたんの『呼氣法』の反動も軽減できるやろうし、これからも使うならそっちのがえぇで」
「………………」
迷う様に眉を顰めたカエデの様子を見つつ。ゆっくり考えさせる。
これはカエデの
何の含みも無くもろ手を挙げて喜びたい事のはずなのに。
脳裏を過るのは他の神々に弄ばれ、翻弄されているカエデの姿である。
内心舌打ちしつつも、ゆっくりカエデの返答を待つ。
感想沢山貰えるとやる気でますね。もっとたくさん欲しくなりますな。
本作におけるステイタスの伸びについて。
限界値はありません。原作に於いては『全然伸びなくなる』とありますが。本作もほぼ同じ感じです。
具体的な理由として、才能の有無で必要
他には得意な基礎アビリティは『必要経験値が少なく』、不得意な基礎アビリティは『必要経験値が多い』と言う感じです。
なので才能の無い基礎アビリティ(エルフで言う耐久や力)なども、
簡素に言うとエルフは『魔力の必要
逆に言えば
まぁ、必要
全く基礎アビリティが上がらなくなった時は『必要
無論基礎アビリティが上昇すればする程に、手に入る
【妖精弓の打ち手】
【魔弓の射手】ジョゼット・ミザンナの扱う装備魔法。
追尾性能のある光の矢を放つ魔法弓を作り出す。
詠唱『誇り高き妖精の射手へと贈ろう。非力な我が身が打つ妖精弓を、○○矢の矢束を○つ、○○矢の矢を添えて』
○○の部分は数字。込めた
最低値は『六矢の矢束を三つ、十八矢の矢を添えて』
最高値は『二十四矢の矢束を八つ、百九十二矢の矢を添えて』
通常使用の場合は最低十八回、最高百九十二回使用可能である。
追加詠唱『射手隊よ、弓を持て、矢を放て『一斉射』』によって発動。
一つの矢を放ち、着弾地点もしくは一定距離飛んだ後にその地点から一つの矢束の本数分の矢を同時に放つ、回数は矢束の数に依存する。
単発威力は単体使用と変化無し。
個人で弾幕を張れるが、威力はそこまで高くない。下層以下においては数を揃えて放ち続ける事で個人であってもモンスターの群れを足止めできる。ただし足止めが限界であり倒す事までは出来ない事が多い。