生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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『カエデ、オヌシは村の周辺のゴブリンを狩れ。ワシは奥地へ行ってくる』

『危なくない?』

『問題あるまい』

『……』

『何かあれば狼煙を上げよ。直ぐに向かう』

『わかった』


『ヒイラギ』《上》

 この村は何処かおかしい。そう感じ始めたのは何時の頃だっただろう?

 

 目覚めと共に天井を眺める。古びた天井の染みをぼんやりと数える。数えた染みの数が二十を超えた辺りでようやく布団からもぞもぞと抜け出して、大きく伸びをする。

 伸びをやめ、大きく息を吸い込んで吐き出す。

 

「んーっ、ふぅ。今日も晴れか……親父は起きてるみたいだな」

 

 漂う臭いに湿り気は感じず、今日は晴れているらしいことを確認しつつも遠くから聞こえてくる鉄を打つ音に眉を顰める。

 

 また親父が朝早くに起きて……いや、下手したら一晩中鍛冶をしていたのかもしれない。

 

 いつもいつも、毎日毎日同じように刃先に行くほどに幅広になるファルシオンみたいな剣を何本も打っては『これじゃない』だの『こんなのはダメだ』だの言って作った剣を放り捨てる事を繰り返している親父に苦言の一つは言いたくなる。しかし母さんが死んでからああなっちまったし。強くは言えない。

 

「朝飯作るか……つか顔洗おっと……えっと、布巾ってここらにあったよな?」

 

 近くの棚から顔を拭く布巾等を引っ張り出してから部屋を出る。

 

 古臭い廊下の軋む音を聞きながら一応親父の部屋の扉を開けてみるが、やはり誰も居ない。綺麗に敷かれたままの寝具がそのまま残っている。

 

 やはり一晩中鍛冶に精を出している様だ。

 

 溜息を零しつつも井戸のある村の中央まで足を運ぶ。家を出る際に鍛冶場の方を見れば既に火が入れられているのが見えて複雑な気分になる。

 

 親父は元はファミリアに所属していた神の眷属だった。鍛冶師として頂を目指すと言う事を目的に据えた【ヘファイストス・ファミリア】と言う所で神の恩恵(ファルナ)を授かって鍛冶に精を出していた。

 

 その神の恩恵(ファルナ)の影響で親父は多少の無理・無茶を押し通す事ができるのだ。其れこそ二日三日寝ずに鍛冶を続けると言った様な事をしても割と平然としている。その所為で村の皆から『神に変えられた』だの言われているのに、親父は一向に気にしようともしない。

 

 うちの村では神の眷属であった事を煙たがられている。大昔に神の手であたし達の種、黒き狼人達は酷い目に遭わされたからだそうだ。聞いた話では『神の座す地に磔にされた』そうだが……正直よく分らない。

 

 皆は神が嫌いだと口にするが、親父は別に神様も百人百色だと言っていた。人と同じで良い神も居れば悪い神も居る。その中でもヘファイストス様は良い神だったと。

 

 実は神様に告白までされてきたと自慢げに言っていた親父の姿を脳裏に描き。今の姿と頭の中で比べて鼻で笑う。流石に神様に告白紛いな事をされたなんて言うのは噓だろう。

 

 そんな事をつらつら考えている内に井戸までたどり着いた。まだ朝霧が出ている村の中心では既に井戸端会議をする女がちらほら見えた。

 

「あら? ヒイラギちゃん。おはよう」

「おはよう」

「今日も早いわね」

 

 にこやかな笑顔を向けてくれるのは一人だけ、他の奴等は露骨に眉を顰めてひそひそ話を始める。

 

「ツツジの所の……」「神に身を売った……」「キキョウも何であの男を……」

 

 黙って井戸のロープを引っ掴んで水をくみ上げようとする。コイツ等は好きになれない。仲間は大事にしろと何度も伝えられているが、こいつ等はアタシと親父を仲間だとは思っちゃいないみたいだし。

 

「手伝うわ」

「別にいらない」

「意固地にならない方が良いわ」

 

 そう言って手伝ってくれるのは一人だけ。他の数人はそそくさと水瓶を一杯にすると井戸を離れていく。

 

 この村でアタシと親父をちゃんと仲間扱いしてくれるのは極少数だ。他は『神の下僕に堕ちた』だのなんだのヒソヒソと陰口を叩くばかり。本気を出した親父ならぶん殴って黙らせられるはずなのに親父は口を閉ざすばかり。

 

「はい、これでよしと……水瓶は?」

「そっちは大丈夫だよ。まだ半分残ってたはずだし」

「そっか……ツツジはどうしてる?」

「昨日からずっと鉄打ってるよ……依頼か?」

 

 親父はこの村で唯一の鍛冶師だ。農具や鍋等の金属製の道具の修繕や作成を請け負っている。と言ってもほぼただ働き状態ではある。数少ない目の前の女性、オキナ等の少数だけはちゃんと報酬として野菜なんかをくれるが……。

 

 生活に困っている訳では無い。

 

 親父はかなり金持ちと言うか、親父の作った武具は商人がかなりの値で買い取ってくれる。そのおかげか飢える事も無ければ、村人達以上に良い生活は出来ている。其れが余計に村人達に疎まれる原因なんだろうが知った事かと言った感じだ。

 

「いいえ……そう、ツツジはまだ……」

 

 これだ、皆何か知っている。アタシに何かを隠している。其れがなんなのかアタシにはさっぱりわからない。

 

 冷え切った井戸水で顔を洗って手ぬぐいで乱暴に拭う。胸の奥がキリキリと痛む。

 

 仲間、同胞、我等は種を以てしての一匹の狼也て。そんな風に言うくせに、肝心な事をひた隠しにして目を逸らしている。何でアイツは嫌われているのか。

 

「あら……ヒヅチと……」

 

 何かに気付いた様に呟いたオキナの向いている方向に視線を向けると。黒毛ばかりしか目に入らないはずのこの村では珍しい色合いの人達が歩いていた。

 

 思わず目を引いてしまう金色の髪を靡かせつつ、すたすたと背筋を伸ばして腰に刀を引っ提げた綺麗な狐人(ルナール)の女性。ヒヅチ・ハバリと、背中に親父が打った刃先が幅広になった斬馬刀を背負ったアタシより少しちっこい背丈の狼人(ウェアウルフ)の少女。カエデ・ハバリの二人組だ。

 違うのはアタシが黒毛に蒼眼なのに対して、カエデは白毛に赤眼っていう真逆の色合いをしているぐらいか。肌の色も恐ろしい位に白く、血色が悪く見える。そんな奴。

 

「ごめんなさいね、ヒイラギちゃん。私はこれで失礼するわね。朝食の準備しなきゃ……」

 

 まるで脅えた様な目を白毛の奴に向けてから、そそくさと去っていくオキナ。

 

 アタシはオキナの事は嫌いじゃない。この村で数少ないアタシと親父を同胞として扱ってくれる人物だから……でも、正直好きかって言われればそうじゃない。

 あの白毛のアイツの事を恐れてる。それが何か気に食わないのだ。

 

 『白き禍憑き』

 アタシ等の部族だけじゃない。他の狼人(ウェアウルフ)の部族にも畏れられる災厄を齎す凶兆の子。産まれたその日に殺して火で焼き尽くす事で災厄から逃れられると信じられている。

 

 アタシは其れはおかしいと思った。おかしいと口にもした。親父はその通りだと肯定したが村では口にするなと言われた。村で口にすれば『禍憑きに魅入られた』だの『気が狂った』だの言われるだけだった。

 

 それでもおかしいと思うのだ。

 

 井戸の傍で歩いていく二人を見送る。片や顔を上げ、胸を張って歩く狐人(ルナール)。片や俯き、周囲に脅えながら歩く狼人(ウェアウルフ)

 

 あの二人はこの村を災厄(モンスター)から守ってくれている守り人だ。

 

 守り人のはずだ……。

 

 本来なら崇められるぐらいにはありがたい守り人のはずなのに。この村ではアタシと親父以上に疎まれている。そんな人達。

 

 

 

 

 

 家に帰ってみれば鍛冶場から鉄を打つ音が聞こえてこなくなっていた。首を傾げつつも鍛冶場を覗いてみる。

 

「ただいま。親父、起きてるよな?」

 

 鍛冶場の入口から中を覗けば、むっとした熱気が顔に当たり思わず眉を顰める。

 

「ヒイラギか? 悪い、炉の熱を上げてくれ」

 

 鍛冶場の中で半裸になって作業するぼさぼさ頭の親父の姿に溜息を零してから、足踏み式の鞴に近づいて炉に空気を送り込んで熱を上げていく。地味に辛い作業だが親父は炉の前で作った剣の研ぎを入れているらしい。

 炉の管理は重要な役割ではあるので本来なら親父が自分で熱を見極めるんだが。一応鍛冶師見習いとして師事しているのでそこらの管理を任されている。と言うより覚えろと言われてやらされている。別に嫌って訳じゃ無い。親父の打つ剣はどれも凄い剣だと思う。アタシが最初に打ったナイフなんてあっさりと折れやがったし。

 

「炭は? 追加するか?」

「いらねぇ……こんぐらいでいいな。サンキュー」

 

 親父の納得するぐらいまで熱の入った炉の中に、無造作に親父が屑鉄と炭を入れるのを見て溜息を零す。

 

「朝飯作るから早めに切り上げてくれよ」

「後一本だけ、打たせてくれ」

 

 溜息を零してから、鍛冶場を後にする。親父の事だから一本じゃ済まない気もするが。

 

 家に戻って窯に火を入れる。鍋に水を入れて適当に干し肉やらくず野菜やらを放り込んで煮込む。アホみたいに固い黒パンを取り出して机の隅っこでブッ叩いてみる。

 

「……いつも思うけど、食えるのかこれ……いや、食ってんだけどさ」

 

 ガンガンと、食い物とは思えない様な固い音に眉を顰める。

 スープに浸さなきゃ歯が折れちまうぐらいに固くなったパンを適当に皿に乗っけて机に置いておく。

 

 適当に食えるもんつっこんだだけのスープも程よく仕上がった所で、鍛冶場から聞こえていた鉄を打つ音が聞こえなくなっていた。そろそろ戻ってくるかなとスープを器に盛り付けていると、バリバリとぼさぼさの頭を掻きながら親父が入ってきたのを見て眉を顰める。

 

「回れ右」

「は? どうしたんだよヒイラギ」

「良いから回れ右だ。髭剃って来い。後顔洗ってこい。と言うか水浴びしてこい馬鹿親父」

 

 髪はぼさぼさ、無精髭が生え、顔には油がべっとり。思わずキレそうになるぐらい酷い装いのまま部屋に入ってきた親父に思わず低い声が出た。

 

「わかったよ……別に良いじゃんよ」

 

 ぶつぶつと文句を零しながらも大人しく出て行く親父に溜息を零す。

 

 親父はかっこいい。家族の贔屓目もあるだろうが精悍な顔立ちをしているし、何かに集中している時の親父は鋭い目をしていて思わずグッとくるぐらいにはかっこいい姿をしている。

 それこそ母さんが惚れるのも理解できるぐらいにはかっこいいと思う。

 

 まあ、だからと言って神様に告白されたなんてのは嘘だろうがな。

 

 ただ、母さんが死んでから親父はどうにもだらしなくなった。鍛冶ばかりに意識を向けて他の事から目を逸らしてる。そりゃあ母さんが死んだのは悲しいが、まるで逃げる様に鍛冶ばかりに精を出す親父の姿は余り好きになれない。

 

 他にも親父は色々とアタシに隠し事をしているし……白毛のアイツ。アイツが持ってる剣は親父が打った物で間違いない。それも親父が何百本と仕上げて来た剣を厳選して『これなら渡せる』と満足気に頷いていた一本がアイツの手に渡っている。何でだ?

 

 予測はなんとなくしている。アイツはアタシと似た様な臭いがするから。血が繋がっているんだとは思う。ただ親父は母さん以外の雌と子作りなんてしちゃいないと断言していたのに。どういう事なんだろうか?

 

「ただいま」

「おう、お帰り」

 

 帰ってきた親父を見て頷く。ちゃんと無精髭を剃って油まみれの髪やら顔やらもしっかり洗ってくれば精悍な顔立ちに鋭い目つきと狼人(ウェアウルフ)基準で言えば文句無しの美形がソコに居た。さっきまでのぼさぼさ頭に無精髭の姿と比べるとまるで別人みたいだ。

 

「はぁ、スープ冷めちまってるな……いただきます」

 

 親父が椅子にどっかり座って用意したスープを食べ始めたのを見て、アタシもスープに口をつける。

 

 親父の言う通り冷めちまってるし、あんまり美味いもんでもない。ただ不味いってほどじゃないから食えなくはないな。パンも適当に千切って……ちぎ……千切れないのでそのままスープにぶち込もう。

 

「親父、じいちゃんの所からいくつか依頼来てるぜ」

「なんだ?」

「斧の刃が潰れたから打ち直しして欲しいってのと、鍋が歪んだから直して欲しいってよ」

 

 井戸で歩く二人を眺めている時にやってきた爺ちゃんが刃の潰れた手斧と歪んだ鍋を渡してきたのだ。

 伐採用の斧で何をブッ叩けばあんな風に刃が潰れるのかわかんない様な壊れ方をした斧と、多分調子に乗ったクチナシを叩くのに使ったんだろう。何度も鍋は人をブッ叩くもんじゃねえと言っても手に馴染んでるからと使っちまうらしく良く壊す奴が居るのだ。

 

「あー……何時までだ?」

「今日中」

「わかった。少し寝るかな……ヒイラギはどうする?」

 

 今日はどうするか。その問いかけに少し考え込む。

 

 用事がある訳じゃ無いし、鍛冶の手伝いをしても良い。洗濯物は別にまだ大丈夫だし。倉庫整理も必要ない。この前行商人が来た時に買い込んだ食材もまだあるし。

 

 たまには外をうろついてみるか。

 

「特に予定はないな。適当に散歩でもしてるよ」

「おう、森には入るなよ。最近は村の外れにもゴブリンが出るからな……森の奥で何かあったのか?」

 

 ぶつぶつと独り言を呟き始めた親父の足を蹴っ飛ばしてさっさと飯を食えと言ってから。パンを浸したスープをガツガツと喰らう。親父も呟くのをやめてスープをさっと食った後。そのまま欠伸をしつつも自分の部屋に戻っていくのを見送る。

 

「おやすみ、親父」

「おう、気を付けてなヒイラギ」

 

 ヒラヒラと手を振る親父を見送ってから。食い終わった皿なんかを洗っておく。

 

 散歩っつっても村の中なんて見飽きたんだがなぁ。

 

 

 

 

 

 適当に村の中を散歩する。畑で雑草抜きをしている奴も居りゃ土を耕してるのも居る。人数はそう居ない。この村の人口なんて100人にも満たないしな。

 

「おーい。ヒイラギー」

 

 適当に村をぶらついていると、呼びかける声が聞こえたので其方を向けばいつもの変わらない面子が三人揃って手を振っているのが見えたので手を振り返して近づく。

 

「おはよ」

「おう、おはようヒイラギ。今日も良い天気だな」

「おはよー」「おはよう」

 

 ノッポ、チビ、デブの三人。別に背がめちゃくちゃ高いからノッポでもなければ、背がめちゃくちゃ低いからチビでもない。デブなんてなんとなく三人組と言えばそんな感じだからって理由で太っちゃいないと言う割とどうでも良い理由からそう呼んでる。まぁ口にはせずに心の中だけでだけど。

 

 三人の中では少しだけ背が高いアタシのはとこのクチナシ。三人の中ではほんのり背が低いザクロ。その中間のニゲラ。三人組で良く悪さして皆に怒られてる糞餓鬼三人集。

 

 アタシと親父が村の中で疎まれていても、こいつらは変わりゃしない。多少の口の悪さはあれど此方を蔑にもしなきゃ陰口も叩かない。ただオキナと同じく……いや、オキナ以上に好きにはなれない三人組だ。

 

 カエデを見かける度に石を投げつけてるのを何度も見ている。本当に気に食わない奴らだ。だからと言って態度には出さないが。

 

「今日は何するんだ? 変な事するとまた怒られるぞ……つか、クチナシ。オマエんとこの母ちゃんにちゃんと言えよ。鍋は人をブッ叩くもんじゃねえって。鍋の修理依頼何度目だよ」

「家の母ちゃんに直接言ってくれよ……俺だって何度も頭ブッ叩かれたくねえよ」

「そもそもブッ叩かれる事しなきゃ良いだろ……」

 

 この前は井戸に悪戯しようとしたんだったか? そりゃ怒るだろ。川まで水汲みなんて冗談じゃない。モンスターだって出るんだぞ。

 

「ちぇっ……」

 

 不貞腐れたようにそっぽを向くクチナシに、苦笑いを浮かべたニゲラが口を開いた。

 

「それよりも、今から森に行こうと思うんだけど。ヒイラギもどう?」

 

 その言葉に思いっきり眉を顰める。

 

「ダメだろ」

 

 二週間ぐらい前から森の様子がおかしくなった。本来ならゴブリンは臆病とまではいかずとも、村の周辺まで姿を現す事は無く。川まで洗濯に行くのが日常だったが。二週間前ぐらいから村外れにすら姿を現す事もあり。何匹か村の中にすら入りこむ始末である。

 

 その原因究明をヒヅチとカエデの二人で行っていると言う話だった。

 

 村の周辺に現れるゴブリンなんかのモンスター退治と、森の奥地の調査。同時に行うのは厳しいのかなかなか結果が上がって来ず。村人達の中にはヒヅチを『役立たず』等と罵る奴等も居るぐらいだ。

 

 それに文句の一つも言わずにヒヅチは森の奥地へと向かい。カエデが森の周囲のモンスター退治を行っていると言うのに、大叔父がカエデを森の奥地に向かわせろ等と言っているのを聞いた。

 

 大叔父はあんなにカエデを嫌うのかなんて知っちゃいないが、どうせくだらない理由だろう。

 

 なんでも大叔父が好きになった女が祖父を好きになって祖父と番になってしまったらしく。その事を根に持っていて祖父の言う事すべてに反対する様な事を言っている。カエデを嫌っているのもそんな理由なんだろう。

 

「えー、最近村の中で遊べーだのって言われてやる事なくなっちまったしよ」

「畑仕事手伝えよ」

「嫌だよ面倒臭え」「ヒイラギも手伝ってくれよ」

「アタシにゃ無理だ。アタシが手伝ってたらあいつ等五月蠅いだろ」

 

 アタシも手伝えるなら畑仕事ぐらいなら手伝っても良いが。手伝いを申し出ると村の奴等がヒソヒソと五月蠅いのだ。変に手伝ってやっても労いの言葉一つ無く、貶されるだけなら手伝う気も失せるってものだ。

 

 その事を理解してくれたのか三人が黙る。

 

「んで、森に行くのか? 絶対やめろよ。モンスターが出るし危ねえぞ」

「ふっふっふー……それぐらい分ってるっつの。まあ、今回は大丈夫だけどな」

 

 自信満々にクチナシが言っているのを見て首を傾げる。なんでこいつ等こんなに自信満々に……。

 

 其処で気が付いた。チビ……ザクロが背中に何か隠している。クチナシがザクロの背に隠した何かを取り出して掲げて見せた。

 

「じゃーん! 見ろよコレ。この前爺ちゃんがくれたんだぜ」

 

 そう言って掲げているのはただの鉈だった。この前親父が何本か拵えてた鉈の一本がクチナシの手に収まっている。

 それ所かクチナシだけで無くザクロもニゲラも同じ鉈を手にしている。

 

「これがありゃゴブリン程度どうって事は無いぜ」

 

 自信満々に言ってのけるクチナシに溜息を零した。

 

「無理だろ。ゴブリンってかなり数が多いらしいし。変に森に入ると酷い目に遭うぞ?」

 

 アタシだって護身用の剣ぐらい持ち歩いている。親父が作ってくれたショートソードとアタシが作ったナイフの二本。だからと言ってゴブリン相手にどうとでもなるなんて思ったりはしない。

 何のための守り人なのかを理解していないんだろう。

 

 守り人、ヒヅチとカエデの二人の内、カエデの方はアタシよりも背が低い。石ころを投げられただけで脅えて逃げる様な奴……コイツ等にはそんな風に見えているんだろう。

 

 アタシからすればあんな斬馬刀みたいなでかい剣振り回してモンスターぶっ倒してるぐらいなんだから相当強いと思うんだが。こいつ等は完全に甘く見ているみたいで、護身用の武装……と言うか鉈なんて護身用じゃなくて森の採取に行くときに使う道具じゃないか。武装でもないのに調子に乗り過ぎである。

 

「ヒイラギ、オマエ臆病だな」「はぁ、これだから女は」「怖いんだろ?」

 

 三人揃って呆れ顔でやれやれと肩を竦めるのを見て思わず苛立つ。

 

「まっ、安心しろよ。お前の分も森でしっかり美味いもんとってくるからよ」「そうそう。女は大人しく待ってりゃ良いんだよ」「俺らは男だからなぁ」

 

 村の中の子供で、女はアタシ一人だけ。他は男しかいない所為でこいつ等はアタシの事を小馬鹿にする事がある。いや、小馬鹿にすると言うよりは本当に大事に扱っているんだろうが、言い方の問題だろうか。小馬鹿にされている様にしか感じない。

 

「んだよ、アタシだってゴブリンぐらい倒せるぞ」

「ははぁん、どうせ強がりだろ」「森に入るの怖いとか言ってるのにか?」

「怖いだなんて言ってないだろ。危ないっつってんだよ」

 

 人の話を聞かない奴等である。あまりにも子供過ぎて怒る気も失せ始めた。

 

「はぁ……とにかく、森に入るのはやめとけ。本当に危ないぞ」

「オマエは俺の爺ちゃんかよ」

 

 大叔父と一緒にすんじゃねえ。アイツは大嫌いなんだ。親父の事を『裏切り者』だとか貶しやがるし。

 

「行かないならいっか……オマエ、皆には内緒にしとけよ?」

「おい、本気で行く気か?」

「当たり前だろ」「ま、お土産を待ってろよ」「じゃあなー」

 

 ひらひらと手を振って森の方へ走って行っちまった三人を見て引き留めようと手をあげかけた所で溜息を零す。

 

「くっだらね。アタシはちゃんと注意したからな」

 

 怪我しても知んないぞ。そんな風に見送っているとつかつかと早歩きで歩いてくる少年の姿が見えたので手を振る。

 

「ん? ヒイラギか。クチナシ達を知らないかい?」

 

 狼人(ウェアウルフ)にしては珍しく目つきの鋭さが無い少年。ツクシの質問に肩を竦めて答える。

 

「あいつ等なら森に行ったよ」

 

 秘密にしろ? 知ったこっちゃない。と言うか本当に危ないし。

 

 ツクシはこの村では珍しく森に足を運ぶことも多く。モンスター退治もそこそこ出来る方の奴だ。あのモンスターと戦った事の無い三人組なんかよりよっぽど頼りになるし。

 

「森に? 行っちゃダメだって言われなかった?」

「言われたぜ? アタシも伝えたけど無視されたよ」

「……不味いね。ヒイラギは直ぐに村長に伝えてくれないかな。俺は連れ戻しに行ってくるよ」

 

 焦った表情のツクシに思わず首を傾げる。

 

「危ないのか?」

「危ないも何も……ゴブリンの巣が他のモンスターに攻撃されたみたいで森の中にモンスターが溢れてるみたいなんだ。そのモンスターを倒したのは良いんだけど、ゴブリンが森のすぐ傍で確認されて危ないから皆を一か所に集める様に指示されててね……」

 

 その言葉に思わず苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。もっとアタシがしっかり引き留めてりゃ良かった……。

 

「どっちに行った? ……臭いはこっちからか。じゃあヒイラギは皆の所へ」

「いや、アタシも行く」

「危ないから」

「仲間を見捨てねえ。それがアタシらの信念だろ」

 

 たとえ気にくわない奴だったとしても、同胞を見捨てるなんてできねぇ。それに一人よりは二人の方が良い。アタシだってゴブリン程度なら負ける事は無いはずだ。伊達に護身用の剣なんて持たされちゃいない。




 すまない。本当にすまない。

 戦闘描写苦手なのに、一気に五人のパーティーで動かそうなんて無茶したばっかに……。本編から外れてしまいました。
 パーティーでの戦闘描写、難し過ぎません? ターン制ストラテジーみたいな感じになっちゃうんですよねぇ……。最悪其れでなんとか……。







『オキナ』
 狼人の女性。30代。

『クチナシ』
 ヒイラギのはとこ。年齢13
 ヒイラギは内心ノッポと呼んでいる。
 三人の中では指一本分ぐらい背が高い。

『ザクロ』
 村の少年。年齢12
 ヒイラギは内心チビと呼んでいる。
 三人の中では背が低い。それでもヒイラギより背は高い。

『ニゲラ』
 村の少年。年齢12
 ヒイラギは内心デブと呼んでいる。
 太っている訳ではなく、単純に枠的にそう呼んでるだけ。

『ツクシ』
 森に足を運んで木の伐採や薪採取等を行う少年。年齢14
 そこそこ戦闘は可能。
 
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