生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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 森の中、ゴブリンの気配が多数集まっている。

 おかしいな。あんな風に動くのは初めてだ。

 …………? 誰かが戦ってる?

 確かあそこは窪地だから追い詰められると危ないはずなんだけど。

 っ! 追い詰められてる! 助けなきゃっ!


『ヒイラギ』《中》

 森の中の雰囲気がおかしい。森に足を踏み入れた瞬間に肌でそれを感じ取り、一瞬で鳥肌がたった。

 

「ヒイラギ、気を付けて……」

「あぁ」

 

 半ば強引についてきたが、本当に大丈夫だろうか。

 

 アタシ等、黒毛の狼人には古臭い掟が存在する。遥か古代、神々が降り立つより以前より守り続けた掟だ。

『汝、巨狼の血肉として在れ』

『我等、種を以てして一匹の狼也て』

『同胞、決して見捨てる事無かれ』

『同胞が受けし傷、我等が巨狼の傷也て』

 この村で生まれた者は群れの一員としてこの教えを受け継ぐ。

 

 群れの一員であれ。一匹の狼の様に群れで行動せよ。仲間を置いて逃げる事はするな。仲間を傷付けられたら何を以てしても報復せよ。そんな教えだ。

 

 アタシと親父は殆どの村人に仲間扱いをされちゃいない。でも爺ちゃんはこの村の村長であり部族の族長でもある。族長の孫娘として、教えを破るなんて恥晒しな真似は出来ない。

 

「…………」

「…………」

 

 ツクシの後ろを警戒しながらゆっくり歩いていく。仲間と歩く時は足音を合わせ、呼吸を合わせる。

 

『我等、種を以てして一匹の狼也て』

 

 アタシとツクシの足音はぴったり重なりあい一つの足音にしか聞こえず、呼吸も全く同一のタイミング。これは黒毛の狼人として生まれたアタシ等の特技の様なモノだ。一匹の狼でありながら複数の目と耳を使って周囲を索敵し、目標を発見して殲滅する。

 

 大昔、モンスターが地上に溢れていた時代に黒毛の狼人が生き残る為に編み出した技能。血を受け継ぐアタシとツクシもごく自然に行えるソレ。そのおかげかツクシが何を考えているのか手に取る様に分かる。逆にツクシもアタシが何を考えてるのか理解したのだろう。急に振り返って笑みを浮かべた。

 

「大丈夫、最悪俺が囮になるから」

「うるせぇ、仲間は見捨てねえっつってんだろ」

 

 正直言えば怖い。せめて親父に何か言ってくるべきだったかもしれない。腰にある親父が作ってくれたショートソードの柄をしっかりと握りしめる。少しだけ息を零して前を示す。

 

「行こうぜ」

「そうだね」

 

 ツクシが一歩踏み出した瞬間、悲鳴が聞こえてアタシとツクシは一瞬立ち止まる。顔を見合わせてから直ぐに悲鳴の方向に一気に駆けだした。

 

 

 

 

 

「くんじゃねぇっ!!」「何だよこいつ等、数多すぎだろっ!!」「腕が……糞っ」

 

 悲鳴が聞こえた方向に走っていたら窪地が見えて思わず足を止める。3M程の高低差に急勾配がある窪地の片隅にクチナシ、ザクロ、ニゲラの三人が追い詰められているのが見えた。敵は五匹のゴブリン。窪地に下りる為の緩勾配になっている入口に当たる部分にゴブリンが構えており完全に逃げ道が塞がれているらしい。

 三人は完全にへっぴり腰になっていて鉈をめったやたらに振り回してるだけらしい。あんなんじゃゴブリンにも当たりゃしないし無駄に体力を消耗するだけだ。

 ニゲラの肩には捩じれた矢が刺さっているのが見える。ゴブリンの一匹がちんけな弓っぽいモノと、腰に矢筒っぽいモノを装備しているのを確認してツクシが舌打ちした。

 

「ヒイラギっ! 俺は下に下りるからこの縄をあの辺りに結んでくれっ!」

 

 ツクシはそう叫ぶと縄を投げて来たのでそれを受け取って窪地を大回りで駆けて行く。向かうのはクチナシ達が追い詰められている窪地の上、そこから縄を使って引っ張り上げれば良い。その間にもツクシが下に飛び降りて弓矢を持ったゴブリンを仕留めているのが見える。

 

「ツクシっ!?」「兄ちゃんっ! 助かったっ!」

「お前ら馬鹿かっ! 森に入るなって言われたろっ!」

 

 怒鳴り合う声に思わず眉を顰めつつも、目的の場所についたので縄を太めの木にふた結びで手早く縄を結んでから端を下に投げ落とす。

 

「ツクシっ! 結び終わったぞっ!」

「良いぞヒイラギっ! お前らさっさとその縄で上に上がれっ! ここは抑えるっ!」

 

 伐採にも使う手斧でゴブリンを仕留めるツクシを見ながら窪地を見下ろしていて気が付いた。ゴブリンの数が増えてる。

 

 緩勾配の方向から更に十匹近いゴブリンが木の棍を持って駆けてくるのが見えて思わず叫ぶ。

 

「数が増えてるぞっ!」

「チッ、早く登れっ!」

 

 手斧で二匹仕留めた後は後ろに抜けようとするゴブリンを抑えるだけに留めて時間稼ぎをしてるツクシを見つつ、何か出来ないかと周囲を見回す。

 

「助かった」

「うっせぇ、テメェもなんか手伝えっ」

 

 縄を使って上がってきたクチナシに怒鳴ってから、手近にあった石を手に取ってゴブリンに投げつける。

 

「おい、こっちに登ってきたらどうすんだよ」

「馬鹿言えっ! 下でツクシが戦ってんだぞっ!」

 

 クチナシの言葉に思わずキレそうになる。同胞が危機的状況に陥っていると言うのに、こいつは自分の安全を優先しようとしやがる。クチナシは一応アタシのはとこなんだから族長の血を引いているだろうに。誇りの一つも無い発言に苛立ちつつも、石を投げる。

 

「くそっ」

 

 悪態を吐きつつもクチナシも石を投げてツクシを援護し始めた所で、ザクロも上がってきた。

 

「ニゲラが片手じゃ上がってこれねぇっ!」

「っ!」

 

 下を見れば何とか片手で縄を掴んで登ろうとしているニゲラが居た。だが片手では上手く登る事が出来ないのだろう。そこにゴブリンが駆け寄っているのが見えたのでツクシに伝えようとする。しかしツクシは追加で現れたゴブリンで手一杯らしく気付いていない。

 

 石を投げても木の棍で防がれて怯みもしない。あのままだとヤバイ。

 

「あぁ畜生っ!」

「ヒイラギっ!? おい何してんだっ!!」

 

 クチナシの言葉を無視して一気に助走をつけて窪地に飛び降りる。位置は丁度ニゲラに攻撃しようとするゴブリンの真上。

 

「うらぁっ!!」

 

 空中で引き抜いたショートソードをゴブリンの頭に叩き付けつつ、ゴブリンの体をクッション代わりに使って着地する。

 上手く当たったのか一撃で絶命したゴブリンの体から飛び退いて上に居るクチナシとザクロに向かって叫ぶ。

 

「引っ張り上げろっ! 時間稼ぎするっ!」

 

 そう叫びながらツクシの背中に回り込もうとしていた一匹を後ろから斬り付ける。さっきは高さもあったおかげで即死させれたが、普通に攻撃しただけじゃ倒す事は出来ない。しかしそのゴブリンが背中を切られて怯んだ瞬間にツクシが頭に手斧を振り下ろして止めをさした。

 

「ヒイラギっ!?」

 

 ツクシが驚いた表情をしているが、その間にもゴブリンはアタシ等を囲もうと動いてやがる。

 後ろを確認すればクチナシとザクロが縄を使ってニゲラを引き上げているさ中であった。アイツが登り終わったらアタシが登って……。数がまた増えたのか。気が付けば二十匹近いゴブリンが窪地に雪崩込んできてるのが見えて肝が冷えた。

 

「下がって」「うるせぇ、アタシだって戦える」

 

 ツクシの言葉に半ば強がりを返す。どくどくと早鐘を打つ心臓がアタシに焦燥感を刻み込んでくる。この数はヤバイ。

 

「うわぁっ!?」「こっちにもきやがったっ!」

 

 上の方から聞こえてきたクチナシ達の焦った声が聞こえた。上を確認すれば数匹のゴブリンが窪地を大回りして回り込んでいたらしい。運が良かったのはニゲラが既に上に登り終わっている事だろうか。

 

「どうすんだよっ!」「チッ……」「やべえぞっ!」

 

 クチナシと目があった。困惑と共に鉈を構えて迎え撃とうとするザクロや、片手でなんとか鉈を持って応戦の意思を示すニゲラと違い、クチナシは鉈を構える事も無く手に持っていた石を放り捨てる。

 

「すまねぇ……」

 

 小さいその言葉と共にクチナシが唐突に背を向けて走り出した。

 

「クチナシっ!?」「何処行くんだよっ!?」

 

 その行動の意味が一瞬理解できなかった。だがザクロとニゲラが困惑したように此方を見下ろして――同じように走って行ってしまった。

 

「は?」

「どうしたヒイラギっ!」

「……あいつ等……逃げやがった」

「はぁっ!?」

 

 あの三人は……アタシ等を見捨てやがった。

 

 黒毛の狼人としての誇り無い行動に頭が沸騰しそうな程に怒りを抱いた。なんなんだあいつ等、助けに来たのに。仲間を見捨てる事だけはしてはいけないのに。逃げやがった……。風上に置く事も出来ない様な屑共……。糞っ……アタシだって仲間じゃ無いのかよ。ツクシの事も見捨てやがって。

 

「縄はっ!?」

「こっちにねぇよっ!」

 

 縄はニゲラを引っ張り上げた後、此方に垂らす訳でも無くそのままにしたらしい。縄が見当たらない。

 

 急勾配を駆け上がるなんて事は流石に出来ない。緩勾配の窪地の入口方面からは多数のゴブリンが雪崩込んできている。

 

「嘘だろおい……」

「チッ、ヒイラギっ!」

「何だよっ」

「何とか道を切り開くからオマエだけでも逃げろっ」

 

 逃げ足だけならなんとかなるかもしれない。しかし、道を切り開く事なんて出来そうにない程の数だ。

 

「っ!? ツクシっ!! 上から弓矢だっ!!」

「なっ!?」

 

 上をとられた。窪地を見下ろす地点に数匹のゴブリン。上に居たクチナシ達を追うのではなく窪地に追い込まれているあたし達を仕留める積りらしい。手に持っているのは木の枝と植物の蔦で作ったちんけで粗悪な手製の弓と、木の棒を削って尖らせただけの矢っぽい鋭い棒。命中精度は悪そうだが布製の服しか着てないアタシに当たればただでは済まない。ツクシは革製のベストを着てるが、手足に当たればダメージは免れないだろう。

 

「来るぞっ!!」

 

 矢が放たれたのと、窪地に雪崩込んできていたゴブリン達が突っ込んでくるのはほぼ同時だった。反応出来る訳も無い。当たらない事を祈りつつ突っ込んでくるゴブリンに斬りかかる。

 

「ぐっ」

「ツクシっ!!」

 

 アタシの方に飛んできた矢は見当違いの方向に飛んで行ったり、他のゴブリンに当たったりしたのに対し、ツクシの方に飛んだ矢は足に当たったらしい。腿の辺りに捩じれた木の矢が突き刺さっている。

 ただ当たったのは一発だけで上に居たゴブリンは矢を射ちつくしたのかそれ以上此方に矢を放ってくる事は無い。

 

 足を負傷しつつも、襲い掛かってくるゴブリンを手斧で仕留めて行く。しかし片足を負傷した所為か威力不足気味なのか一撃で倒せていない様子である。援護しなくてはならないがアタシの方にもゴブリンが数匹群がってきていて近づく事が出来ない。

 

「邪魔すんなっ!」

 

 ゴブリンの腕をショートソードで斬り付ける。切断とまではいかず、骨で止められてしまうがゴブリンの腕を使用不能にしてやった。負傷したゴブリンが直ぐに撤退し別のゴブリンが目の前にやってくる。後ろからも攻撃が来て背中に棍の一撃を貰って怯む。

 

「いてぇな畜生っ!」

「でぇやぁっ!!」

 

 数匹のゴブリンをタックルで突き飛ばしたツクシが此方にやって来たのを見て急いで近づいて肩を支えて急勾配へと下がる。

 

「なぁ、どうするよ」

「ごめん、無理そうだ……」

 

 ツクシが十匹近く倒して、アタシも三匹は仕留めたがゴブリンの数は減った様に感じない。

 

 このままじゃ本当に……そんな風に考えていると風切り音が聞こえて思わず背筋が泡立った。

 

 矢の音だっ!

 

「ツクシっ!」「糞っまだ残ってたのかっ!」

 

 ツクシもその音に気付いたのか慌てて飛んでくる方向へ視線を向けようとするが。其れよりも前に矢が突き立つ音が響いて目を見開いた。

 

 目の前に居たゴブリンの一匹の脳天に矢が突き刺さっている。ただ、それはゴブリンが粗雑に作り上げた粗悪品の捩じれた矢では無く。真っ直ぐに整えられ矢羽もしっかりとつけられたちゃんとした矢である。

 

「これは……」

 

 ツクシの驚いた声に反応するより前に、次々と矢が窪地の上から飛んでくるのが見えて其方を向けば。毛皮の外套とフードで身を覆った小柄な奴が弓を手に次々に矢を放っているのが見えて思わず声が出た。

 

「すげぇ……」

 

 上からの強襲にゴブリン達が浮足立って此方から注意が外れて上に立つ人物に棍を向けてギャーギャーと喚きだす。上には他にゴブリンが居たはずだがその人物に襲い掛かる気配は無い。それ所か上に居たはずのゴブリンは既に仕留め終わっているのか上から気配が全くしない。

 

 放たれる矢はまるで狙ったかのように……いや、実際狙っているのだろう。寸分違わずゴブリンの脳天を穿っていく。だが小柄な毛皮の外套の人物の腰の辺りの矢筒には目の前に居る全てのゴブリンを仕留めるのに必要な量の矢は入っていない。

 

 途中で矢が切れる……そう思っていると矢が切れたのか弓を仕舞い代わりに剣を取り出して一気に急勾配を駆け下り始めた。

 

「マジかっ!?」

 

 外套の人物が降り立ったのは丁度ゴブリンが群がる中心点、飛び降りると同時に周囲を薙ぎ払いゴブリンの首を刎ね飛ばしながら一気に此方に駆けてくる。通り過ぎざまに複数のゴブリンの首が刎ねられて死体が数多も量産されるのを見て思わず鳥肌が立った。なんだあの動き。

 

 そんな風に驚いている間にも外套の人物は近くに寄ってくると懐から何かを取り出してこっちに投げてきた。

 

 ツクシが其れを受け止めている間にそいつは此方に背を向けて残っているゴブリンと対峙し始める。

 

「……治療してて。片付けるから」

「は?」

 

 聞き覚えの無い声。村人の中にこんなのはいなかった……いや、そいつの持ってる剣には見覚えがある。切っ先に行くほどに幅広になる刀身。遠心力で威力を増して相手を叩き斬るその剣。親父が毎日の様に何本も仕上げているその剣を持っている奴なんてアタシの村じゃ一人だけだ。

 

 こいつはカエデ・ハバリだ。間違いない。

 

「これは……傷薬……?」

 

 ツクシの手に握られていたのはこの森で採取できる薬草類を調合して作った簡易な傷薬の入れ物と包帯等が詰め込まれた治療袋だった。其れに気をとられている間に凄い勢いでゴブリンを仕留めて行くカエデ。

 

 まるで躍る様にゴブリンの中へ突っ込んでいき、ゴブリンの体を盾代わりに使ったり低姿勢のまま走り抜けて足を切断したりと同じ動きをしろと言われても真似できない様な動きでゴブリン達を仕留めて行く。

 

 呆然と二人で眺めていれば二十匹を超えて対応できるはずも無くなったゴブリン達は全て仕留められ、むせ返るようなゴブリンの血の臭いで淀んだ窪地、まるでゴブリンの血でできた湖の底に立つかのように毛皮の外套を纏ったカエデが立っており。周囲を見回している。

 

 暫くするとぽつりと「もういない」と呟いてから此方に近づいてきた。フードは深々と被られており見えるのは口元だけで此方に顔を見せない様にしているらしい。臭いで判別しようにもゴブリンの血の臭いの所為で出来ない。持っている剣からしてカエデの筈だが……。

 

「……怪我の治療、すぐした方が良い。毒矢だった?」

「は?」

 

 恐る恐ると言った雰囲気で話しかけてきたカエデに思わず変な声が出た。あんな数のゴブリン相手に怯みもせずに突っ込んで行って殲滅できるぐらい強いのになんでこっちには脅えてるんだ?

 

「あー……うん、治療するよ。えっと……ヒイラギ、矢を抜いてくれないか?」

「あ? あぁ……ちょっと待ってろ……」

 

 拍子抜けと言うか。鬼もかくやと言う様子でゴブリンを殲滅したのにおびえた様子を見せるのに気が抜けてしまった。だが脅えた様子ではあっても真剣そうな目をしており周囲への警戒はやめていない様子でここがまだゴブリンが現れる可能性のある場所だと理解して慌ててツクシの治療に取り掛かる。

 

「……貴女も怪我してる」

「あ? アタシは別に平気だ。ちょっと肩を打たれたぐらいだし」

 

 矢を抜く為に布きれをツクシに咥えさせて矢に手をかけた所で打たれた肩が痛んで一瞬顔を歪めればカエデが直ぐに反応してきた。

 

「治療、代わるよ」

「いや、アタシが」

「ごめん、すぐここを離れたいから……」

 

 そう言うとスッと近づいてきてツツジの足に刺さった矢を掴んで無造作に引き抜いた。

 

「むぐっ……」

 

 咥えた布切れが軋む程の力で噛み締められ、今のがどれほど痛かったのかを想像して背筋が震える。

 アタシがうろたえている間にも手早く傷口に傷薬をこれでもかと塗りこんで布を当てて包帯を締めていく。

 

 一通りの作業がまるで一瞬で終わったかのような錯覚を覚える程に手早く治療を済ませると。そこらにあった棍の一つを掴んでツクシに差し出した。

 

「杖代わり。急いでここを離れるから」

 

 そう言うと一度此方の足元をちらりと見てから近づいてくる。

 

「なんだよ……」

「肩、治療した方がいい?」

「いや、先に離れようぜ……」

「……わかった。付いてきて」

 

 それ以上会話を続けようと言う意思は無いのか。そのまま背を向けて歩き出す。途中、ゴブリンの脳天に刺さった矢を手早く回収したり、ゴブリンの右耳を切り取ったりしながら進むソイツの後ろを棍を杖代わりにして歩いているツクシとそれを支えてるアタシをちらちらを振り返りながらもしっかりと先導している。どんだけ凄いんだよアイツ……。

 

 

 

 

 

 途中、二度ゴブリン数匹に襲撃を受けたが全てカエデが一人で片づけてしまった。「待ってて」と一言言って何処かに行って戻ってきたので何してたのか聞けば「追ってきたゴブリンを仕留めてきた」とまるで何でもない事の様に返されてツクシと一緒に思わず口を閉ざしたのだ。

 そう言えば臭いでカエデか判別しようとしたが、どうも獣避けの類の香草を使っているのか変な臭いしかせず、カエデなのか判別できない。毛皮の外套も尻尾まですっぽりと覆い隠しているし。どうにもアタシ達に気を使っているらしい。もしくは自身が白毛である事がバレるのを恐れているのか……。

 

「ここなら、安全だから」

 

 そう言われたのは森の中の少しひらけた所にあったのは横倒しになった倒木と、中央の辺りの草が刈りとられていてその中央に焚き木の後があるちょっとした休息地であった。

 周囲にはよく分らない紙切れがいくつか貼り付けられており思わず眉を顰める。

 

「ありゃなんだ……?」

「さぁ……?」

 

 ツクシにも分らないのか互いに首を傾げていると、カエデが焚き木の跡の所に枯れ枝をいくつか積み上げてから焚き火の準備をしているのを見て首を傾げる。

 

「なぁ、村まで送ってくれるんじゃないのか?」

「…………それはできないから」

「なんでだよ」

「……ごめんなさい」

 

 申し訳なさそうに消えそうな声で返事されて溜息が零れた。その溜息に反応したかのように体を震わせてからカエデは焚き火に何かを加え始める。するともくもくと煙が上がり始めて思わず一歩下がる。

 

「おまえ何してんだよ」

「ヒイラギ、狼煙を上げてるんだよ」

 

 ツクシが教えてくれた通り、どうやら狼煙を上げているらしくカエデは一度此方を振り返ってから呟く様に声をかけてきた。

 

「そこ、倒木を椅子代わりにしてて……ここで待ってればヒヅチがくるから」

「ちょっと待てよ、何処行くんだよ……」

 

 それだけ言うとすっと立ち上がって小弓を手に何処かに行こうとしたのを見て思わず引き留めた。現在位置がよく分らない場所に置いて行かれるのは心細い。またゴブリンに襲われるかもしれないと言う恐怖もあった。だがカエデは首を傾げて不思議そうにしている。

 

「獲物を獲ってくる」

「は?」

「すぐ戻るから治療してて」

 

 それだけ言うと木々をかき分けてそのまま森の中に戻って行ってしまった。

 ツクシと二人で立ち尽くしているとツクシが溜息を零して呟いた。

 

「とりあえず座って待ってようか……怪我は大丈夫?」

 

 ツクシの言葉に頷いてツクシを倒木に腰かけさせてから、自分も同じ様に腰掛ける。

 

「問題ねえよ」

 

 少し痛むが痣になってる位で骨に罅が入っているわけでもない。冷やした方が良いんだろうが……。

 互いに無言のまま焚き火を眺める。ほっそりとした煙が空高く昇っているのを見上げ始めた所でツクシがぽつりと呟いた。

 

「あの子、誰だろう……臭いもわからなかったし。俺らの村にあんな声の子居たっけ……?」

 

 アタシ等狼人は鼻と耳が優れている。だから一度嗅いだ人の臭いや、一度聞いた人の声は一発で判別できるんだが……。そういえばカエデの声なんてアタシは一度も聞いた事が無い事に今気が付いた。ツクシも同じく聞いた事が無いんだろう。

 

 ……ツクシにアイツがカエデじゃないかって話してみようかと思ったがやめた。

 

 ツクシの親父は確か森でモンスターに襲われて殺されたはずだ。その原因が白き禍憑きだって村人が皆言ってたし。ツクシももしカエデの所為だって思ってるんだったら、変な事は言わない方が良いと思ったから。




 鼻先まですっぽりと覆う毛皮のフード+全身を隠す毛皮の外套。ついでにグローブもブーツ類も毛皮製で全身もっふもふ。超あったかそう。無論外套の下はチェインメイルですよね。

 毛皮装備最高ッスよね(skyrim並感

 ただ、どうも毛皮装備=山賊装備ってイメージがあるらしい……カエデちゃんは山賊だった……?

 衣類関係の参考になればとskyrimやらダークソウルやらの防具類を見てましたが。どうにも幼女にしっくりくる装備って無いですね。ただ金属胴鎧はダメって形だと胸当てとか……フルプレートが怖いなら胸当てはオッケーかなぁ。

 其れとは別の話。バスタードソードの『バスタード(Bastard)』って雑種や私生児(婚姻関係の無い男女の間の子供)と言った形の卑罵語の意味が強いらしく、日本以外の国ではハンドアンドハーフソードと言う名称の方が一般的らしいですね。

 片手半剣と言う部類で『バスタードソード』と言う名称でかっこいい剣だなって思ってましたが、どうも意味合いはよろしくない模様……ある意味カエデちゃんにぴったりではあったが……。まぁこの武器はその内最終兵器にとって代わりますしね。大丈夫でしょう(小声)

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