生命の唄~Beast Roar~   作:風錆龍
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 師は偶発的な奇跡を嫌う

『奇跡を起こすのは何時だって神ではなく人の子だ、神が人の子に与えるモノはあくまで()()()()であり、それを芽吹かせ、大輪の花を咲かせるのは人の子だ』

 奇跡とは自らの手で引き寄せるモノだと


『寿命』

 【ミアハ・ファミリア】主神ミアハは直ぐに見つかった。

 【ミアハ・ファミリア】の本拠であり店でもある『青の薬舗』に向かえば、その前で知り合いらしい冒険者にポーションを渡している所に出くわしたのだ。

 苦笑いを浮かべた【ミアハ・ファミリア】の団長のナァーザ・エリスイスと共に【ロキ・ファミリア】団長フィン・ディムナに気付いた途端に、ナァーザは顔を青くし、ミアハは柔らかな笑みを浮かべてフィンを出迎えた。

「やあ、こんにちは」
「神ミアハ、突然に申し訳ない」
「うむ、ロキには豊胸の薬は無いと伝えて欲しい」

 出会い頭にミアハが口にしたのは『豊胸の薬』について、

 過去数度、医神であるミアハや他の神々に胸を大きくする薬は無いかと探し回った事があった事を思い出したフィンは顔を引き攣らせそうになりそうになりながらもなんとか違和感なく言葉を続ける。

「いや、今日はソッチではない、毎回ロキが迷惑をかけて申し訳ない」
「豊胸の薬が目当てではない? それでは何の用なのか教えて貰ってもよいだろうか?」
「ここで話す訳にはいかないのでできれば我等のファミリアの本拠に赴いて頂けないだろうか」

 ミアハは顎に手を当て考え込み、団長のナァーザが前に出る。

「いくらロキ・ファミリアとは言え用件も話さずに主神を本拠へ来いと言うのは」
「待つんだナァーザ」

 警戒心も露わにミアハを危険から遠ざけようとフィンを睨むナァーザをミアハが引き止める。

「それで、用件は言えないとの事だけど、急ぎかい?」
「はい、出来るのならば今すぐにでも」
「なるほど……わかった、今からロキ・ファミリアのホームに赴く事にしよう」
「ミアハ様っ」
「勿論、私の眷属も共にだが」

 ミアハを呼び付ける条件としてミアハの眷属も付属してくる。
 今回問題になってくるのはミアハ以外の神に目を着けられる事、眷属が何人同行しようが関係無い。

「全員で出向いてもらっても構わないよ」
「わかった、ではナァーザ、行こうか」
「ミアハ様……わかりました」

 渋々と言った様子で頷いたナァーザはフィンを睨む。

「ミアハ様に何かあったら」
「それは約束するよ。【ロキ・ファミリア】の名に賭けてね」

 軽くウィンクしながら軽く言ってのければ、それ以上追及してもロキと同じ様に適当にあしらわれるだけで無駄だと理解したのか、ミアハに向き直る。

「ミアハ様、他の子達に外出を伝えてきます。少々お待ちください」
「あぁ」

 ナァーザを見送ったミアハは改めてフィンに向き直る。

「もしかしてロキに『お気に入り』の子でもできたのかい?」
「察しが良くて助かります。その通りです」
「なるほど……詳しくは其方の本拠で診てみるとしよう」

 優しげな笑みを浮かべ、ミアハは大業に頷いて見せた。





 武具の手入れを終えた後、今後の予定をロキから聞いた。

 武具の用意、ダンジョンについての勉強、冒険者のあれこれ、その他色々。
 ファルナを授かるより前に学ぶべきこと、ダンジョンに潜る前に用意すべき物、そういった事を考えればずっとベッドの上でゆっくりしてる訳にもいかないらしい。頑張らなくては

 説明が終わってからはロキに質問されるがままに村での生活についてを話したり、【剣姫】と言うランクアップの過去最短記録保持者の話等を聞いていたら、ロキがフィンに連れて行かれた。
 なんでもロキが呼び付けた人?神が来たとか

 一人になった部屋で、何をするか考え、考えるまでもなく長旅の間は疲労が溜まったら木や窪地で身を隠して眠るだけだった生活で癒えきる事の無かった疲労感を癒す為にベッドに横になる。
 ベッドで横になりながら壁の武器ラックにかけられた師の刀を見つめる。

「ヒヅチ……」

 目を瞑る、眠る時はほぼ師と共に毛布に二人で包まって眠っていた

 あの日々、使っていた古びた毛布等目でもない程に上等な寝具なのに、どうしてこんなに……

 これまで最も長くヒヅチと離れて行動したのは3日程だったと思う。

 こんなに長い間、師と離れたのは生れて初めてだった。

 溜まった疲労は複雑に波打つ心を深い眠りへと誘う

 微睡も無く、ただ暗闇へ

 つい一か月と少し前にはあったはずの温もりは無く、ただ一人。




 わざわざ呼び付けたミアハがやって来た事をフィンに伝えられ、客間に案内されていたミアハにロキが見た限りのカエデの情報を伝えてからミアハに「ウチの子やから手えだしたら……わかるやろ?」と凄みをきかせた。
 突然の呼び付けに応じてくれたことは感謝すれど、お気に入りになった子に手を出せば容赦はしない。そんなつもりだったが肝心のミアハは柔らかな笑みを浮かべて「ロキのお気に入りには手を出さない、約束しよう」と断言した。

 ミアハなら大丈夫かと、神二人と団長二人でカエデを休ませてる部屋の扉をノックする。

「カエデたーん、戻ったでー」

 軽いノックに一切反応が無い。

「んー、また何かに集中しとるんかな」
「何かしているのか?」
「さっき武器の手入れにめっちゃ集中しとってなー、尻尾とかわしゃわしゃしても気付かんのよ、めっちゃもふもふやったで」

 親指を立ててぐっと突き出したロキに、フィンは苦笑いを浮かべる。
 ミアハとナァーザは「ワタシもナァーザの耳を触っていいかい?」「ダメです」等のやり取りをしている。

「出直した方が良いか?」
「いや、ウチがちょいと様子見るわ、ちょい待っててなー」

 そういうとロキは扉を開けて部屋に入る。

 入って目にしたのはベッドの上、静かに眠るカエデの姿。

「あー……カエデたーん?」

 忍び足でベッドに近づいて耳を摘まんだりしても、反応は一切無い。
 櫛で整えられた毛並は触り心地もよく、ロキはしっかりと耳を触ってからミアハを待たせて居る事を思い出してカエデを揺すり起こす。

「カエデたん、カエデたーん、ちょい悪いんやけど起きてえな」
「…………」
「あれ? カエデたん?」

 むずかる事も無い。

「いや? 死んどらんよな……」

 胸に手を当ててみるも、鼓動はしっかりとしているし、呼吸もしている。
 生きている、しかし起きない。

「んー」
「寝ているだけだったのか」
「……ミアハ、女の子が眠っとる部屋に入るんはマナー悪いで」
「緊急の用事と聞いていたのでな、気になったのだ、すまない」

 しれっと、ロキの後ろからカエデを見下ろす優男神をロキは睨みつけてから、もう一度カエデを揺する。

「カエデたん、カエデたーん」
「…………」
「あー、あかん、完全に眠りついとる」
「そのままでも状態は診れるがどうする?」

 眠ってるカエデをミアハに診せる?
 一瞬迷うも、早い方が良いのは既に解っているしロキはミアハを睨み地獄から響く様な声を上げる。

「カエデたんに変な事したら殺すわ」
「神は死なないぞ」
「天界に送還する言うたんや」
「理解している」

 ロキが睨もうが凄もうが気にする様子も無く微笑みを湛えるその姿は下手をすれば医神ではなく慈悲の神と言っても通じる所がある。なるほど女神達に人気のあるわけだ。

「それで、聞いた話では余命幾何かを調べて欲しいと言う話だが、慈悲の神の元へ連れて行かないのか?」
「ウチの子にするって決めたんや」
「そうか」

 ロキが場所をあけると、ミアハはカエデの脈を診たり等の簡単な診察を始めた。
 ロキはミアハが変な事をしないかと睨み見るが医療行為として堂々と行っており、変な意味が一切ない事をうかがわせる。

 これがロキならにやけた笑みを浮かべながら撫でまわすので、一瞬で頬に紅葉のような手形がつけられるのだが、真剣な表情で患者を診ていくミアハを見るに、何の問題も無さそうである。

 女神のセクハラと男神の医療行為、比べるまでも無くミアハの勝利である。

「……ロキ、この子はまだファルナを与えていないな?」
「せやで、ある程度健康状態が安定してからあげるつもりや」
「ふむ」

 医療行為を終え、ミアハは立ち上りカエデから距離をとるとロキを見据える。

「ファルナ無しなら一年はもたないな」
「まぁ、せやろな」
「正確に言えと言うなら、このまま体調を回復させても一年はもたない、せいぜいが九ヵ月、どれだけ頑張っても十ヵ月は無理だ」

 医神なだけはあり、患者が目の前にいるのならどんな状態でも正確に言い当ててみせる事ができる。

 本来なら神としての能力の一部ともいえる備わった医神の目を使う事をミアハは良しとしないが、今回に限ってはロキが土下座を披露してでも頼み込んだのだ。頭を床に擦り付け、本気で頭を下げた。
 故にミアハは今回、カエデ・ハバリの診断に限り神としてのアルカナムを使わない範囲での医神としての力を使ってカエデを診ている。

 故にミアハの言葉はほぼ絶対だろう。

「んで、ファルナあげたらどんなもんなん?」
「一年と半年」
「あー」

 短い。 いや、レベル1としてのファルナならそれが限界だろう。

「短いなー」
「そうだな、それ以上はどうにもならない」
「薬でぱーっとなったりせえへん?」
「無理だ、ロキの豊胸と同じぐらいに無理だ」

 豊胸、そう言えば過去幾度か豊胸の薬を求めてディアンケヒトやミアハと言った医神を片っ端から訪ねた事もあった気がする。端的に言えば無理だった。

「そっか」
「この子の状態だが、まず筋肉や骨に異常はない。神経系も同じく」
「まぁ、そこはわかるわ、内臓系があかんのやろ?」

 剣を振り回す筋力や骨格は十二分に備わっている。それでありながらに寿命が短い理由は内臓に異常があるのだろう。

「消化器官関係が衰弱し始めている。とはいえ後数か月は普通に食事もとれるだろう。それ以降は消化に良いモノでないとまともに消化もできないはずだ」
「ふむふむ、そこら辺はなんとかなるわ」
「それと血が大分濁っているな、腎臓機能の低下も見受けられる」
「どんぐらい不味いん?」
「直ぐにでも治療を始めないといけないぐらいだ」
「マジか、そりゃ不味いな」
「腎臓機能に関しては薬を処方しよう、ある程度改善できるはずだ」
「そしたら寿命伸びるか?」
「いや、腎臓機能の改善をした上で一年と半年だ」

 医神として最善を尽くした上で出された答えだと言われれば、ロキは黙るしかない。
 医神と同等の知識は持ち合わせてはいないがミアハの言う事が正しいと言うのもちゃんと理解できるだけの頭はある。

「せやったら一つ質問なんやけどええか?」
「ああ、構わない」

「一日にどんぐらいまでならダンジョンに潜っとれるん?」

 ロキの質問に、ミアハは一瞬動きを止め、それから笑みを引っ込めてロキを睨む。

 滅多に見ぬ優男神の凄みの利いた睨みにロキは表情を消した。

「それは()()()()意味だ?」

 優しさを感じさせる声を発していたその口から放たれた言葉は敵意すら生ぬるい殺気の含まれた声

「あー……ちょいミアハ、落着き」
()()()()()()()()()()だと? 何を冗談を言っている」

 神ミアハの珍しい一面を見た、これが普段、何げない日常で見た光景ならロキはこの事を周りの神に言い触らすだろう。
 『超レアな神ミアハの激おこぷんぷん丸』等とふざける所であるが、今はそんな気は起きない。

「いや、冗談や無いで?」
「何?」
「ランクアップするまで手伝う気や」

 ロキの言葉にミアハは完全に表情を消し、ロキを睨みもせずに目を瞑り俯いた。

「ロキ、悪い事は言わない、この子を今すぐ慈悲の神の元へ連れていくのだ」
「……そっちこそ冗談や無いで、もうウチの子や、他の神にやるとかありえへんわ」

 ロキに目を合わせる事無く呟く様に放たれた言葉に、ロキは神威を微弱に放ちながらミアハを睨む。

 神相手に神の神威等微塵も効力は無いが、相手にどれだけ本気なのかを伝えると言う意味においては有効だ。

 ミアハはゆっくりと顔をあげ、ロキを見据える。

「先程、私が伝えた残りの寿命、一年半と言う診断結果についてだが」
「……?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()寿()()()


 ミアハの言葉にロキは放っていた神威を全て散らして目を見開く。

「あー……あ、マジなん? ソレ」
「私が嘘を吐くと?」
「いや、ミアハが嘘吐くんは無いわなあ」

 神ミアハは殆ど嘘を吐かない。眷属の体調の事に於いては絶対にと言い切れるぐらいに、神ミアハは嘘を吐かない。

「……ちなみに、ダンジョンに潜るとして、寿命てどんなもんなん?」

 恐る恐る口にすればミアハは顎に手を当てて考える。

 神であれば一瞬で出せる答えを、顎に手を当てて考える等の無駄な動作を入れるのは幾度も考え直すからだろう。

 今回で言えば最も長くダンジョンに潜り、最も長く生きられる可能性を見出そうとしているのだ

「……ダンジョンに一日八時間、午前九時からダンジョンに潜り午後十七時にダンジョンを出る。ダンジョンに一日潜ったら二日の休息を設ける。これで……半年」
「嘘やん、一年半あるんやろ? もう少しいけへん?」
「無理だ、どう足掻こうが七ヵ月目に入る直前頃から消化器官が機能を著しく落とし始めて一週間程で動けなくなるほどに衰弱する、衰弱が始まれば一か月ももつまい」

 うそやん?

「いやー……あー」
「ロキ、本気でランクアップを目指すのか?」

 一年、オラリオで記録されている過去最短記録、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインが誇る過去最短記録は一年だ

 カエデ・ハバリの場合、その半分の期間でランクアップしなければ死ぬ。
 ランクアップの為に努力しなければ、一年半は生きていられる。

 ロキは頭を抱えたくなり、ミアハの顔を見てからすっと視線をカエデの方へと向け


 濁った赤い目と視線が交差した。





 真っ暗な道を走る
 終わり(ゴール)は見えぬのに終わり(時間切れ)は直ぐ真後ろにある

 心の何処かに居る座り込んで膝を抱えた自分が呟く
「もうやめちゃえ(死んじゃえ)」って

 心の何処かで鎖に繋がれて暴れる自分が吼える
まだ足りない(生きていたい)」って

 赤い髪の神様が、道の先に立っていた
 終わり(ゴール)ではないけれど少しの休息を

 座る自分が呟く「もういいよ」って
 暴れる自分が叫ぶ「はやくしろ」って

 疲れ果てたワタシは呟く「もう少しだから」と




 両膝を地につけ崇めなくてはならないと思う様な威圧感が全身を襲ってきた。
 唐突に意識が覚醒し、慌てて飛び起きて威圧感の正体に目を向ける。

 ロキだ

 ビックリした。

 それ以上に未だに放たれるその威圧感がびりびりと全身を打ちつけてくる

 口を開く事も出来ず、ただロキを見ていた。

「……そっちこそ冗談や無いで、もうウチの子や、他の神にやるとかありえへんわ」

 ロキは自分ではない誰かを見ていた、それに気付いて震える体を叱咤してロキの視線の先の人物を見る。

 長身の、無表情の男の人、ロキと同じ神様の匂いがする。男神

 誰だろう?

「先程、私が伝えた残りの寿命、一年半と言う診断結果についてだが」

 知らない男神様の無表情に放たれた「寿()()」と言う単語が頭に引っかかる。

 誰の?

 うまく思考が回らない、ロキから放たれる威圧で今すぐにでもベッドから床に転げ落ちて跪かなくてはと心ではなく体がそう言っている。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()寿()()()

 ロキの威圧が消え去った。

 びりびりと体を縛る感覚は、威圧が消えた後にも体を縛り続ける。

「……ちなみに、ダンジョンに潜るとして、寿命てどんなもんなん?」

 よく分らないが、手早くランクアップを果たすのであれば、ダンジョンに潜るのが早いと言うのが世界での共通の認識だと言うのは頭の中に浮かんだ。

 それと寿命? 何の話だろうか? 一年半?

「……ダンジョンに一日八時間、午前九時からダンジョンに潜り午後十七時にダンジョンを出る。ダンジョンに一日潜ったら二日の休息を設ける」

 【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン

 【ロキ・ファミリア】が誇るレベル4の冒険者

 過去最短記録を保持する冒険者

 過去最短記録、それは

「これで……半年」

 一年、だったはずだ


 ベッドの上で寿命は一年半

 ダンジョンに潜ったら半年

 ワタシの目的、死ぬ前にランクアップを果たし寿命を延ばす事

 過去最短記録一年、ダンジョンに半日以上潜り続けていた

 ワタシの寿命半年、ダンジョンに一日八時間

 過去最短記録一年、下手をすれば二日三日帰ってこない事もあった

 ワタシの寿命半年、ダンジョンに九時に入り、十七時には引き上げる

 過去最短記録一年、一週間の内に六日もダンジョンに潜る事もあった

 ワタシの寿命半年、一日ダンジョンに潜ったら二日休みを設ける

 そんなの……

「ロキ、本気でランクアップを目指すのか?」
「…………」

 ロキと目があった

「カエデたん……目覚めて……あーウチの神威のせいか、ごめんなー」
「む……今の話を聞いていたのか……」
「ロキ様」

 驚いた顔のロキと、真剣な目をした男神
 姿勢を正し、ベッドに腰掛ける。立とうとしたが腰が抜けているのか立てなかった。

「カエデたん、今の話「ウチの子やの辺りから聞いてました」あー」
「半年、それがワタシの、ワタシがダンジョンに潜れる期間なのでしょうか?」
「せやで」

 ロキはカエデを見据える。
 嘘はつかない、目を反らさない、それはロキなりに真摯に答える姿勢だ。
 男神は空気を読んだのか部屋の隅に移動した。
 ロキは腰掛けたカエデに視線を合わせてカエデの両肩に手を置いた。

「ワタシは」
「どっちでもええで、ウチはカエデたんの選択に任せるわ。どんな選択してもカエデたんの力になるで」

 半年でランクアップ、一日八時間、一日につき二日の休息

「……ワタシは」

 一年でランクアップした【剣姫】の話はロキから聞いた。
 参考にと、どれだけ頑張れば一年以内でいけるのかと
 無論才能も必要だと、だが自分には十分に才能はあるはずだから大丈夫だと

「…………」

 もし、一年あるのなら、もし一年と少しでも時間があるのなら

 ランクアップして見せよう

 でも……半年ではきっと無理だ、出来っこない。

「ワタシは」

 成し遂げられない

「ダンジョンに潜ります」

 そんなはず、ある訳がない。

 神ロキがカエデ・ハバリに授ける神の恩恵(ファルナ)は神が人の子に授ける神の奇跡だ、奇跡であるのなら、どれだけ可能性が低くとも、なんとかなる。

 師は言っていた

『奇跡を起こすのは何時だって神ではなく人の子だ、神が人の子に与えるモノはあくまで()()()()であり、それを芽吹かせ、大輪の花を咲かせるのは人の子だ』 

 それにどれだけ難しくとも()()()死ぬ(諦める)理由になりはしない

 ワタシは言ったはずだ。

『ワタシは絶対に死なない(諦めない)、全身全霊を賭けて生きる(足掻くのだ)

()()()()()()()()()()()()()()

 胸に手を当てる、心臓は焦りと困惑で早鐘を打っている。

 でも、その早鐘は止まっていない、生きているのだ

「ダンジョンに潜ります。まだ心の臓は動いている。なら死ぬ(諦める)理由はありません」

 例え、どんな理由があろうが死んで(諦めて)良い理由等無いのだから。




 力強く断言してみせたカエデを見て、ロキは頷く。

「全力でサポートするわ」

 それからロキは後ろを振り返り壁際に立つミアハを見た。

「そういうわけや」
「わかってる、他の神に話したりはしない」
「頼むで」
「何か出来る事があれば手を貸そう。とりあえずは薬を用意する」

 ミアハは神妙に頷く。

「ミアハは悪いけどフィンと客間に戻っててな。報酬の話は後でな、ウチはちょいとカエデたんとおるわ」
「あぁ」





「うし、カエデたん、起こしてごめんなー、とりあえず今はゆっくり眠りいや」

 ロキはカエデをベッドに寝かせて優しく髪を梳く。

「ロキ様……ワタシは」
「ええて、起きてからで」
「……はい」

 元々、疲労で深い眠りについていた所を神威で強引に叩き起されていたカエデは間も無く眠りに落ちる。
 本来なら語りたい言葉は数多くあるだろう、それでも体が休息を求めている。
 そんなカエデが再度眠りについたのを確認して、ロキはベッドから離れる。

「…………」

 部屋から出て、明かりを消す。

「おやすみカエデたん」