生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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『ヒイラギ・シャクヤクねぇ。カエデ・ハバリの双子の妹ってナイアルは言ってたんだけど……彼女、カエデ・ハバリより大分頭が良いのか? それとも、誰か手引きしてるのかな。さっきから影は見えど姿は見えずだよ。まったく……』

『ふぅん、君もヒイラギちゃんを探してるんだ』

『……君は……モール・フェーレースだっけ? 何してんの? いや、君()?』

『そうそう。僕も実は探してるんだよねー……で? 【ナイアル・ファミリア】が何でヒイラギちゃん探してるんだい? 気になるな~』

『知らないよ。ナイアルが欲しがってるだけさ。逆に聞くけど、君の方は?』

『さぁ? 恵比寿が探してるだけだし』

『…………』

『…………』





『なんでお前らアタシを探してんだよっ!』
『静かにしなっ! 見付かったらどうするつもりなんだい。とりあえず逃げるよ』


『遠征合宿』《道中1》

 ダンジョン第七階層にて遠征合宿の為に第十八階層を目指しているさ中、邪魔役に見つかって交戦状態に陥ったラウル班。戦況はかなりの劣勢。

 発見者ベートに対し、応戦しているのはカエデとアリソン、援護にヴェネディクトスと言う形である。

 早々に戦闘不能に陥ったアレックスは歯を食いしばって立ち上がろうとしているが、生れたての小鹿の方がまだマシなほどに震えている姿を見れば戦闘に参加するのは絶望的と言えるだろう。

 カエデの大振りの一撃を逸らし、アリソンの放つ突きを回避し、遠距離から飛来するヴェネディクトスの魔法を素手で叩き潰すベート。勝利した姿を脳裏に描く事も出来ず、身震いしながらも剣を振るうカエデ。

 

 ベートは笑みを零し、カエデの放った一撃を掴む。次の瞬間に放たれたアリソンの突きの線上にカエデのウィンドパイプを強引に捻じ込んで攻撃を逸らし、遠距離より飛来する魔法攻撃は近場の石を投げて相殺した。

 カエデが掴まれた剣をどうにか取り戻そうと身を捻りながら全体重をかけて引くのを見てベートは一歩詰める。完全にカエデに密着する距離になり、カエデが漸く剣を手放すが一歩遅い。ベートの拳がカエデの額を軽く掠りカエデがよろめく。頭を揺らされ、一瞬だけ意識が飛んでカエデに致命的な隙が出来る。其処を埋めるべく動くアリソンの放った突きを掴みとった。

 突きの威力、正確性、速度どれをとっても十分だと言う評価が出来る程だが、素直過ぎる。もっとフェイントを組み合わせるか、突きの種類を増やさなければ読み取られて掴まれてしまう。

 

 掴んだグレイブの柄を捻り、アリソンの手からグレイブを奪い取りざまにアリソンの体をヴェネディクトスとの射線上に放り込み、遠距離の魔法の援護を防ぐ。

 カエデがほんの瞬きの間の昏倒から復帰するも、脳を揺さ振られて平衡感覚が狂っていたのか膝を突いて立ち上がれない。腰のナイフを抜いたのはせめてもの抵抗の積りか。

 

 無防備に膝を突くカエデ、姿勢を崩されてよろめくアリソン、そして射線を塞がれ詠唱を中断したヴェネディクトス。

 

 ここまでかと拳を握り一人ずつ仕留めようとまずカエデに向かい拳を振るう直前、横合いから不意打ちとして突っ込んできたグレースの攻撃によりベートは離脱を余儀なくされた。

 

「やらせないってのっ!」

「良い一撃じゃねぇか」

「はんっ、余裕そうに回避しといてよく言う……」

 

 ベートが笑みを零し一撃の良さを褒める。反撃しようと思えばできたが、それは手加減しろと言う指示から外れてしまうのでできなかった。

 とは言えこのままカエデ達に復帰されても面倒だとベートが拳を構えて腰を落とす。

 

 対するグレースは何とか立ち直ったアリソンと、未だに平衡感覚が万全では無いのか頭を振ってよろめくカエデを見て舌打ちをした。

 グレースとアリソンでは、カエデとアリソンのペアよりも相性が悪い。

 カエデの大振りの一撃の隙を埋める様に突きを繰り出すアリソンと言う形なのに対し、アリソンの突きの隙を埋める形でグレースが連撃をしかけなければいかないのだ。アリソンが合わせるのではなく、グレースが合わせる形ではまず勝ち目が無い。

 

 今度はベートの方から一気に突っ込んでくる。グレースが迎え撃つべく腰を落としてベートの拳を逸らそうとして、失敗。勢いを殺しきれずに大きく姿勢が崩れる。

 グレースの大きな隙にベートは喰らい付くのではなく、グレースの横を走り抜けて先に面倒なカエデとアリソンを仕留めに行った。

 

「抜けられたっ!? 無視してんじゃないわよっ!」

 

 急ぎ反転しベートの背中に攻撃を繰り出そうとしたグレースはカランと何かが転がる音を聞いた。音の出所はベートとカエデ達の間。何らかの道具を使って足止めしようとしたのだろうと当たりをつけ、ベートの背中に躍りかかろうとするが、ベートが唐突に反転して反撃を喰らいかけて防御した。

 

 何かが転がる音。戦闘中に聞こえた異音に真っ先に反応したのは獣人。カエデとアリソンだった。二人の視線の先、黄色い塗装の成された拳より一回り大きい其れに気をとられ、それが何かを判別するより前に閃光が二人の目を焼いた。

 

「きゃうっ!? ぐぅっ!?」「きゃっ!? ごめんなさいっ!」

 

 唐突に目を焼かれて目を押さえたカエデと、驚きでグレイブを振るうアリソン。アリソンの振るったグレイブの柄がカエデの腰を打ち据えてカエデが転倒し、アリソンが謝罪の言葉を零した。

 

 手を伸ばせば届く距離だと言うのにベートは二人から視線を外した。この二人は目を焼かれ、アリソンは若干錯乱気味、カエデはアリソンのグレイブの柄に強打されて転倒。情けない二人の悲鳴を聞き流したベートは、背後から躍りかかってきたグレースを殴り飛ばし、舌打ちしつつも背中で発生した閃光の原因を睨む。

 仲間に合図の一つも出さずに閃光弾(フィラス)を使用し、カエデとアリソンを戦闘不能状態に陥らせた原因、アレックスだ。

 

「うらぁっ!」

 

 馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込んでくる間抜けの鼻っ面に拳を捻じ込んで吹っ飛ばし、改めてカエデを窺ったベートは目を見開いた。

 ベートの視線の先、カエデが手にしているのは灰色の球状の物体、音響弾(リュトモス)だ。

 ベートとカエデとの距離が近すぎる。この距離で使用されれば半径二M以内での起爆判定で十秒間動けない。そうなれば不味いがカエデは丁度腰のベルトから音響弾(リュトモス)を掴みとったばかりだ。

 

 ベートは手早くカエデの手を打ち、カエデの手から音響弾(リュトモス)を叩き落とし、足で音響弾(リュトモス)を離れた位置に蹴飛ばそうとして――音響弾(リュトモス)が炸裂した。 

 

「なぁっ!?」

 

 断言できるがカエデは音響弾(リュトモス)の起爆準備を完了させるだけの時間は無かった。だがベートの足元で音響弾(リュトモス)は起爆し甲高い音を響かせた。

 舌打ちをしてその場でピタリと動きを止めたベート。誰にも攻撃されないのを願うがその願いは届かない。

 

「うらぁっ!」

 

 背後より振るわれたグレースの一撃がベートの背中に突き立つ。

 

「……はぁ?」

 

 ベートの背中にケペシュを振り下した姿勢のまま、惚けて動きを止めたグレースを肩越しに睨んでからベートは足元で閃光弾(フィラス)で目を焼かれ、音響弾(リュトモス)を至近距離で喰らって泡を吹いて昏倒しているカエデを見た。その直ぐ後ろでは同じく音響弾で昏倒したアリソンの姿もある。

 

「糞っ、どうなってやがる……」

 

 グレースの攻撃を喰らった為、現時点を以てベートは撃破判定が下された。これ以上の戦闘行動はとれない。舌打ちをしてベートはラウルの方を見た。

 

「おいラウル」

「マジで倒したんスか……え? あぁ、何スか……?」

「撃破された。糞、何で音響弾(リュトモス)が起爆しやがった。準備する時間なんて無かったろ」

 

 愚痴を零してから未だにベートの背中に押し当てられているケペシュ、その持ち主のグレースを睨む。

 

「終わりだ、どけろ」

「え? えぇ……何で避けなかったのよ……」

 

 攻撃が当たった事が信じられなかったのか、自身のケペシュとベートを何度も見返してからグレースは呟いた。

 その様子に何ら反応するでもなくベートはラウルに自身の討伐証を渡して足早に去って行った。

 

「つか、アタシのケペシュじゃ切れないのかぁ」

 

 グレースの叩き付けた一撃では、ベートのジャケットに傷の一つも与える事が出来なかったと言う事実に舌打ちしてから、グレースは地面に倒れて昏倒しているアレックスの方へ歩いていき、首を掴んで持ち上げた。

 

「アンタはっ! 何で合図も無しに閃光弾(フィラス)使ってんのよっ!」

 

 合図の一つも寄こさずに閃光弾(フィラス)を使ってパーティを危機的状況に陥らせたアレックスだが、ベートの一撃を鼻っ面に叩き込まれて未だに昏倒していて返答はない。舌打ちしてからアレックスを投げ出してグレースはヴェネディクトスの方を見た。

 

「ヴェトス、カエデとアリソンが落ちてるから気付け薬で復帰を……ヴェトス?」

 

 グレースの視線の先、半笑いでベートの討伐証を持ったラウルと、そのすぐ傍、褐色の肌に黒い髪の少女がヴェネディクトスの首根っこを掴んで持ち上げているのを見て目を見開いた。

 

「え……? ティオナ・ヒリュテ……?」

 

 襲撃役のもう一人、ティオナの姿を確認したグレースは慌てて周囲を見回す。昏倒したカエデが目を覚ます気配はない。唯一アリソンがうめき声を上げて起き上がろうとしている。ヴェネディクトスは既にティオナの手の中で気絶中。アレックスは言うに及ばず。

 

「……えぇ、ちょっとティオナさん、見逃してもらうって……出来ない?」

「えー、其れは無理かなー。あ、ベート倒したのは凄かったよ」

「運が良かっただけですって……」

「運も実力の内って言うじゃん? じゃあ頑張って私も倒してみてね」

 

 既に戦闘可能なのはグレースただ一人のみ、先程の戦闘で運よくベートを倒したが、すぐあとの連続戦闘が可能かと言われればグレースはこう答えるだろう。

 

「ちょっと、本当に勘弁してよ……」

 

 怒りを抱く気力も失い、グレースは肩を落として溜息を零した。

 

 

 

 

 

 予想外にベートを仕留める事に成功したことにラウルは驚いて目を見開いた。

 

「うわ、ティオナさんの予想が当たったッス」

 

 傍から見たベート討伐までの流れは、まずアレックスの独断行動による閃光弾(フィラス)の投擲から始まり、カエデとアリソンの目を焼いて混乱させた辺りで悲劇が発生した。

 アリソンが目を焼かれた際に力んだ結果振るってしまったグレイブの一撃、その柄の部分が近距離に居たカエデの腰を打ち据えたのだ。その際、カエデの腰のベルトにセットされていた音響弾(リュトモス)を直撃。結果として起爆準備が完了してしまい、カエデが慌てて腰の音響弾(リュトモス)を遠くに投げて近距離起爆での昏倒を防ごうとしたが、ベートが其れを妨害。至近距離で起爆する結果に。

 ベートは何故起爆したのかわからなかった様子だが、言ってしまえば偶然が引き起こした産物であり、運が良かっただけだ。

 

「でしょ? あ、もう時間だから襲撃するね」

「え?」

 

 その運の良さもここまでの様子ではあるのだが。

 

 にこやかな笑顔と共にベートの背中にケペシュを振り下したグレースを信じられない、と言う表情で見つめていたヴェネディクトスの後頭部に鉄棒を振り下して一撃で意識を刈り取って倒れない様に首根っこを掴んで支えるティオナ。

 其処に容赦の二文字は一切存在しなかった。

 

 身を震わせ、ラウルは手にいれたベートの討伐証を弄んでからバッグの側面につけておいた。妨害役の討伐に成功したことを示す討伐証代わりのバッジには『犬』の文字。ロキ辺りが決めた物だろうそれを眺めてから溜息を零した。

 

 残りの生存者はグレース一人。対して妨害役は無傷のティオナ。討伐はまず不可能だろうし、逃げるにしても気絶した者を担いで逃げなくてはいけないので、ラウルとグレース二人で残りの四人を担いで逃げなくてはならない。当然、ティオナは逃がす気等無いので詰みだ。

 

 鉄棒をぶんぶんと振るってグレースににじり寄るティオナの背中を見てラウルは詰め寄られているグレースに同情した。

 

 

 

 

「ねぇ、今のアンタがやってるのって、漁夫の利って奴でしょ。かっこよくないじゃん?」

「そうだねー」

「だからさ、その、ほら」

「見逃して欲しいって?」

「そう。そうなのよ。ね? 他の皆気絶してるしさ……」

「だぁ~め。ごめんね、これもルール上問題ないからさ」

 

 何とか言葉を以てして見逃してもらおうとしたが聞く耳持たず。連続襲撃される可能性自体は示唆されていたとは言えこんな七階層で二人に同時に見つかるなんて運が無さすぎる。

 

「これで三つ目の班だからー……あ、ラウル班はポイントおっきいんだっけ? じゃあ後二つぐらい潰せば私の勝ち確定かなぁ」

 

 既に勝った気で笑みを零しているティオナを睨んでグレースは呟いた。

 

「なぁに勝った気で居んのよ」

「え? ダメだった?」

 

 わかりやす過ぎる挑発だ。むしろありがたいとグレースはその挑発に乗って苛立ちを表すべく、ケペシュを打ち合わせて口を開いた。

 

「決まってんでしょ……アンタは此処で――え? 何これ」

「っ!?!?」

 

 その台詞の途中、グレースとティオナの間に円筒形の何かが転がってきた。なんだそれはと首を傾げるグレースに対し、ティオナは目を見開いて叫んだ。

 

「うっそぉっ!? 今良い所なのにっ!」

 

 叫ぶティオナに驚いて動きを止めたグレース。ティオナは一気にグレースに詰め寄ろうと足を前に踏み出した、その瞬間、円筒形の物体から大量の煙幕が振り撒かれる。

 

「うわぁーん惜しかったのにー」

 

 煙幕で視界が塞がれ、グレースは慌てて身を捻って煙幕の中を突っ込んでくるはずだったティオナを回避するが、ティオナの声は徐々に遠ざかって行き、ついには聞こえなくなってしまった。

 煙幕の中、慌てて回避した所為で地面に転がったグレースが遠ざかったティオナの声と足音に首を傾げた。

 

「え……何が起きたのよ……と言うかコレ……煙幕弾(カプノス)? アリソン……じゃないわね。誰が使ったのよ、ラウル?」

「俺じゃ無いッスよー」

 

 煙幕の向う側から聞こえたラウルの呑気な声にグレースは眉を顰めた。一体だれがこの煙幕を張ったと言うのか。

 煙幕弾(カプノス)を所持していたのはヴェネディクトス一人だけだったはずだ。だがヴェネディクトスは真っ先に潰されて戦闘不能になっていたはずである。

 

 考えながら立ち上がったグレースは煙幕の中に聞こえた足音に反応し、ケペシュを構えた。

 

 

 

 

 

 ラウルは目を覚ましたアリソンと仲良さ気に話し込んで居る少女を眺めつつ、横に立っていた金髪のエルフの射手、ジョゼットに声をかけた。

 

「いやー助かったッスよ」

「いえ、救援に向かう選択をしたのは私の班のリーダーでしたから。礼なら其方に」

 

 畏まった様子のジョゼットの言葉にラウルは半笑を浮かべて自身の班員。カエデ、ヴェネディクトス、アレックスの三人に視線を投げかけて吐息を零した。

 

 ティオナとグレースの間に煙幕弾(カプノス)を投げ込んだ犯人は、他の遠征合宿参加中の班であった。それも最優秀候補のジョゼット班のメンバーだったのだ。

 偶然近くを通りかかったと言うよりは戦闘音に気付いた時点で救援に向かってきたらしい。

 

 他の班より早く、確実に十八階層に向かうと言う目的を考えれば他の班の救援に向かうのは間違いに思えるが、むしろそれは正しい姿である。

 

 今回の遠征合宿とは、優秀な上位二班に対する大規模遠征の参加権を与える物である。其の為、他の班より優位に立とうとする班は数多い。しかしそれは遠征合宿に於いて最大の間違いである。

 競わせる様な真似をした場合、殆どの班が他の班を囮にしたりして、自身の班だけで攻略を目指す。それは団長のフィンの予測範囲内であり、そこから更に一歩進んだ考えが出来る班と言うのを求めているのだ。

 遠征中は皆が一団となって攻略せねば命がいくつあっても足りない。当然、競わせる目的があるとはいえ他の班を意図的に囮にして進む等する班が大規模遠征のメンバーに選ばれるはずもない。

 

 今回の遠征合宿の真の目的とは『競い合いつつも仲間である事を意識できるか否か』を見極める物だ。

 意図的に第三級(レベル2)冒険者達には勘違いさせる説明がなされている。『仲間を見捨てて進む事を禁止する』と言うのが最も勘違いを誘いやすいだろう。

 ()()が何を指すのか。自身の班のメンバーを見捨てるなと言う意味と皆は考えるだろう。正しくは他の班の仲間の事も指しているのだと気付ければ上出来。

 

 其処らを正しく理解し、実行できるのはごく一部のみ。ジョゼット班に纏められた者達だけだろう。

 

「よし、怪我は大した事無かったな。では進むか」

「あ、はい。助けて頂いてありがとうございました」

「なぁに、仲間同士助け合うのは当然だろう?」

 

 ジョゼット班のメンバーのドワーフの青年に頭を下げたアリソンに対し、ドワーフの青年は肩を竦めた。その言葉にグレースが眉を顰め、ばつが悪そうにそっぽを向いた。

 ラウル班は他の班が戦闘を行っているさ中に運が良いとその横を通り過ぎようとしたのだ、その事を考えているらしいグレースの姿にラウルは笑みを零した。

 

「グレース、安心しても良いッスよ」

「何がよ」

「ラウル班の評価は最低値ッス、上がる事はあっても下がる事は無いッスから」

「……それ、喜べないですよね?」

 

 アリソンの引き攣った笑みに対し、ラウルは朗らかな笑みを零した。

 

「では、俺達は先に進むが……気をつけろよ? ティオナさんはあくまで撃退しただけで討伐は出来てない」

「わかってるわよ」

「ではな」

「じゃあねアリソン、十八階層で会いましょ」

「はい」

 

 ジョゼット班の面々、大盾を背負うドワーフの青年、眠たげな目をしたキャットピープルの少年、アリソンの友人らしいヒューマンの少女、寡黙なエルフの女性、弓を背負うエルフとバランスの良いパーティである。

 未だにカエデ、ヴェネディクトス、アレックスの三名が気絶しているが、直ぐに目覚めるだろうと判断してジョゼット班は先を急ぐ為に出発し。

 ラウル班は目覚めるのを待ってから移動するべく八階層の休息可能な部屋で待機である。

 

「はぁ、アレックスの身勝手な行動もそうだけど、今回の遠征合宿の真の目的ねぇ」

「他の班を見捨てるのってダメだったんですね……」

 

 警戒を怠らずに耳を澄ませながら部屋の入口で通路の方を眺める二人が言葉を交わす。それを見てラウルは笑みを零した。

 

「大丈夫ッスよ。殆どの班が意図に気付かないッスから」

 

 むしろ気付く班は本当に少ない。気付く班が半数は居ないと殆どの班が全滅するのだ。とラウルが笑えばアリソンが溜息を零した。

 

「協力しあって強大な敵を回避するってのが遠征合宿の本来の目的だったんですね」

「まぁ、クリア条件がやけに渋いなとは思ったけど……他の班との連携もあったのね」

 

 二人が溜息を零したのを聞きつつ、ラウルは班の評価をまとめた。

 

 まずカエデ、個人戦闘技能は最高、判断能力も高く、行動力も高い。だが固定観念が強く、一度思い込むとそのまま突き進むきらいがあり、柔軟性には欠ける部分が目立つ。連携能力は高め、他者に合わせて動く能力は高いので遠征メンバーとしての判定は良好。

 ヴェネディクトス、柔軟性はそこそこ、判断能力は高く、行動力もそこそこ。補助にも長けるが索敵能力に難あり。詠唱中の不意打ちには対処できないと仲間の援護が必須。連携能力は非常に高く、他者の援護に魔法攻撃を挟み込む等と言った器用な立ち回りが可能。遠征メンバーとしての判定は良好。

 グレース、個人戦闘技能は高め、行動力は高めだが判断能力に難あり。とりあえずでその場の選択をする事があるのでリーダーには不向きでありながら他者を引っ張るのに長けていると言う矛盾を抱えている。連携能力は並であり、援護するよりはされる側である。遠征メンバーとしての判定は微妙。

 アリソン、個人戦闘技能は普通、判断能力は高いが行動力が低め。補助として立ち回るのは良いが自身が中心になって動く事は苦手。若干、感情的に動く事があり仲間の危機的状況時に冷静な判断が下せない可能性が高い。連携能力は非常に高く、補助役の立ち回りは完璧。遠征メンバーとしての判定は可もなく不可もない。

 アレックス、個人戦闘技能は高く、行動力も高いが致命的なまでに連携能力が欠如している。他のメンバーの行動に合わせるでもなく危機的状況に於いても自身の行動を優先する為、非常に危険。遠征メンバーとしての判定は最低。

 

 班全体の総評。

 主にカエデを中心にアリソンが支援と言う形で戦闘を行う事で非常に安定した戦いが可能。遊撃としてグレースが動き、後方支援でヴェネディクトスが魔法で補助する事で戦闘面はほぼ完璧。アレックスも一応は遊撃としてカウントできなくはない。

 索敵能力に優れたカエデとアリソンによって早期の敵発見、ヴェネディクトスの作戦指示により安定した行動が可能。

 アレックスさえいなければ完璧と言えるだろう。

 

「……なんでアレックスをこの班に編成したんスかねぇ」

 

 グレースも問題児として名が知られていたが、アリソンやカエデ、ヴェネディクトス等の多少の言動程度は聞き流せるメンバーとは問題なく行動可能であったのだ。

 血の気の多いメンバーと組ませると間違いなく喧嘩になるだろうが、アリソン辺りは気にせずに友人として接しているし、カエデも若干苦手意識を持っていたのが解消されて多少は言い合いをする程度に収まっている。ヴェネディクトスはグレースの言動に特に何か不満がある訳では無い様子で問題らしい問題は無い。

 アレックスだけがどのメンバーとも友好的に接する事が出来ていない。

 

 アリソンだけはなんとか友好関係を築こうとしている様子だが、アレックスがそれを受け入れようとしない。

 

「まぁ、良いッスか。目が覚めたら十八階層目指すッスかねぇ……残り……十時間とちょっと、もう二時間半経った……いや、まだ二時間半って言うべきッスかねぇ」




 ヒイラギちゃん逃走中。超モテ期がヒイラギちゃんに到来中なう。




 ティオナに与えられた特殊ルール
 襲撃間隔10分(襲撃完了後からカウント)
 煙幕弾が使用された場合、どんな状況であっても戦闘を放棄して逃走しなくてはならない。逃走後20分は襲撃不可能
 閃光弾が半径10M以内で使用された場合、本気で戦闘可能
 ※徒手空拳、足での格闘技も使用可。襲撃終了で効果終了

 徒手空拳、足での格闘技の禁止。鉄棒での攻撃のみ可能
 ※鉄棒以外の部分でダメージを与えた場合即座に失格

 鉄棒が破壊された場合、撃破判定

 撃破判定が出た場合、十八階層まで新しい鉄棒をとりに行かない限り襲撃不可能
 鉄棒は予備を含め四本のみ。四回撃破された場合は復帰不可能。

 ※同じ班を何度も襲撃する事が可能
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