生命の唄~Beast Roar~ 作:一本歯下駄
『落ち着きなヒイラギ……全く、ホオヅキの奴は何処に行ったんだか』
『そうだよ、ホオヅキの姉ちゃん、手紙も寄こさないでなんかあったのか?』
『さぁね。アイツは雲みたいな奴だって話だし。何処に居るんだか』
『彼女、ホオヅキの居場所を知りたいか?』
『あ? あんた誰だ?』
『私かい? 私は――
『離れなヒイラギっ! そいつは【トート・ファミリア】の【占い師】って奴だっ!』
『っ! 恵比寿って奴と同じぐらい胡散臭い奴かっ!』
『……待ってくれ。あの恵比寿と一緒にされるのは私も不本意だ』
ざわめきの広がる【ロキ・ファミリア】の食堂。
思い思いの席に座り、遠征合宿を参考に決定された大規模遠征に参加を許された
夕食時の時間帯、共に遠征合宿に参加したメンバーで座り合う中、元ラウル班のメンバーのカエデ達は周囲からの評価を聞いて溜息を零した。
「あの馬鹿が居た所為でアタシ達の班の評価低いらしいじゃん」
「まぁ、それだけではないみたいだけどね」
あの追放されたアレックスの事もあり、ラウル班のメンバーであるグレース、アリソン、ヴェネディクトス、カエデの四人は周囲の団員から、十八階層到達を成し遂げてはいたとしても選ばれるのは難しいだろうと噂が飛び交っている。
彼のアレックスと言う団員の評判が悪い事もあり、アレックスと共に行動していたカエデ達も大規模遠征には向かないのではないか等と言う言葉が飛び交う中。カエデは困った様にメンバーを見回して口を開いた。
「選別対象外になってしまうんでしょうか?」
不安そうに呟かれたカエデの言葉に、ヴェネディクトスが首を横に振って口を開いた。
「それはない。皆は好き好きに言ってるみたいだけど、選出される条件は各個人の技能を見た上で判断されるんだから、アレックスがどうとかは関係無い……はずだよ」
「はずって何よ」
最後に何か思う所があるのか視線を逸らしたヴェネディクトス。グレースに睨みつけられてヴェネディクトスは溜息を一つ零して呟く様に答えた。
「いや、アレックスの行動を管理しきれなかったと言う事で評価が下がっている可能性は否定できないなって」
「なにそれ、やっぱあの馬鹿と同じ班になるなんて不運じゃない」
「グレース、君も暴走しがちだったんだ。周りからは同じ様に思われていたんじゃ……」
「ちっ……」
ヴェネディクトスの指摘に視線を逸らしつつ舌打ちしたグレース。二人のやり取りを眺めていたカエデはふと顔を上げて一段高くなった檀上の席を見てアリソンの服の裾を引っ張った。
「団長が来たみたいですよ」
「あ、本当ですね」
ゆっくりとした余裕を感じさせる歩みで自身の席に着いたフィン。その後に遅れてロキがぱたぱたと駆けて食堂に入ってきた。
「すまん遅れたわ」
「ロキ、食堂で走るな」
リヴェリアに注意されたロキはへらへらと笑って自身の席に着く。漸く全員が揃ったのを確認して団員達が口を閉ざし、フィンの言葉を待つ。その様子を見て満足気に頷いたフィンは立ち上って口を開いた。
「さて、改めてになるけど。遠征合宿に参加した者達も、協力してくれた者達もご苦労だった。今回の遠征合宿における合格者は無しではあったが君達の頑張りについては聞き及んでいる。これより次期大規模遠征に参加する
言葉を区切ったフィン。なんだろうと首を傾げる者等と正反対に、何を発表するのか知っている者は力強くフィンを見据える。此度の遠征合宿に参加した邪魔役の者達の五人。アイズ、ティオナ、ティオネ、ベート、ペコラの五人は妨害した班の点数に応じての最優秀者に対するご褒美が貰えると言うやる気を出す為の餌。そのご褒美を貰えるのは誰かと言う事はその五人も知らないのだ。
「さて、遠征合宿にて邪魔役で参加した者達の中で最も得点を稼いだのは、ティオナ。君だ」
「やったぁぁぁああ、新しい武器代ゲットォー」
今回の遠征合宿に於いて班ごとに設定されていた点数を最も稼いだのはティオナ。ティオナの願いは『次に作る武器の代金の何割かをファミリアが負担する事』である。無論、ロキやフィンが話し合って決めた事なのでその願いはしっかりと叶う事だろう。
喜んで両手を振り上げるティオナを余所に、不機嫌そうなベートは舌打ちをし、アイズは残念そうに呟く。ペコラだけは『まぁ、ペコラさんは可能性低いでしょうしねぇ』等と呟くさ中、ティオネが悔しそうに涙を流して悔しがる。
「ちっ」
「そっか……」
「団長とのデートがぁ……」
やる気を出させるための餌を用意していたフィンは軽く苦笑を浮かべつつも冷や汗を流す。ティオナとティオネの点数差は僅か数点。カエデ班の撃破をティオナではなくティオネが成していたらそのままティオネとのデートに持ち込まれていた可能性すらあったのだ。ひっそりと安堵の吐息を零してフィンは再度口を開いた。
「ティオナ。君の願いについてだけど、武具の製作費用が決まったら経費で落とすから請求書を此方に回すように。無論、余り使い込み過ぎないようにね」
「はーい」
「団長っ! 私とのデートの件はっ!」
「ティオネ、今回の遠征合宿で高得点を取れたら、と言う条件だったね?」
燃え尽きたように席にすとんと座ったティオネ。横に座っていたアイズが大丈夫と声を掛けても燃え尽きたまま虚ろな目でテーブルに乗った皿を眺め、次の瞬間には取り出したハンカチをずたずたに引き裂きはじめる。
「よくもよくもー」
「残念だったねティオネ」
「アンタの所為でぇ……どう考えてもあの時カエデを仕留めたのが私なら」
「はいはい、負け惜しみ負け惜しみ」
「ティオナ、あんた……」
「二人ともやめろ。これから大規模遠征に参加するメンバーを発表する」
ティオナとティオネを諌めたリヴェリアが持ち込んでいた資料をフィンに手渡して先を促す。フィンは資料を受け取ってから檀上より団員達を見回した。
「これより大規模遠征に参加する
暗に、文句を言うなら直接
其れを見てロキが横からフィンの手元の資料をかすめ取って中を検めて口を開いた。
「んじゃ発表してくでー」
「ロキ……まあいいか」
奪われた事に文句を言おうとして、途中でやめて大人しく席に着くフィン。ロキはその様子を見るともなしに見て檀上から団員達を見回して今回の選出メンバーを発表しはじめた。
「まずアイズの選出二名や。まずはジョゼット班のマルク・エッジ、選出理由は――――
選ばれた者達がもろ手を上げて喜び、選ばれなかった者が悲しみの吐息を零す。アイズの選出はアリシア班の
ティオナの選出はドワーフが二名。ティオネの選出はアマゾネス一名、
「さて、最後にベートの選出やな。まずクルス班からディアン・オーグ。次にラウル班からカエデ・ハバリの二人やな。選出理由はそれぞれ『他の奴よりまし』だそうや」
自身の名が発表されたカエデが喜び、グレースが適当におめでとと呟いて溜息を零す。
「結局、選ばれなかったわ」
「僕も選ばれなかったね。自信が有る訳では無かったけど、やっぱり選ばれないとなると悔しいね」
ラウル班より選出されたのは二名。最も多数の選出者を出したのは五名全員が選出されたジョゼット班であろう。彼の班の優秀さを知る団員達も『だろうなぁ』と納得の表情を浮かべている辺り、ジョゼットの班に対する信頼は高い。
他の班の選ばれなかったメンバーがざわめき、悔しそうに歯噛みする者や、選ばれた者に頑張って来い等と声を掛けている者等、様々。
ラウル班の集まった席ではグレースが深々と溜息を吐き、アリソンがそれを慰めようとしている。
「皆静かに。選ばれた者達は明日、それぞれ各選出者の所へ顔を出して指示を受ける様に」
フィンの言葉を最後に、いつも通り騒がしい夕食時へと変貌するさ中。ベートは食堂の隅の席からカエデと、禍憑きがどうのと騒ぐ雑魚の方を見ていた。
ベートに選ばれたヒューマンの少年は目の前の幼い白毛の
目の前の彼女が最近入団して最速
「……? どうしました?」
「いや、なんでもない……。それよりも一緒にベートさんに選ばれたんだから頑張ろう。俺の名前はディアン・オーグだ」
「カエデ・ハバリです。よろしくお願いします」
もう一度彼女を見下ろしてディアンは軽く吐息を零した。こんなに幼い少女を遠征メンバーに選出するのはどうなのかとベートの選出に疑問を覚えるが、だからと言って文句を言う気は無い。つい先ほど、
「じゃあベートさんの所に行こうか……」
「はい、談話室の所で待っているそうなのでいきましょう」
「あぁ……え?」
朝食を終えベートの所に赴く積りであったディアン。カエデが頷いてベートが何処に居るのかを伝えてきた事に一瞬違和感を覚え、直ぐにカエデをマジマジと見つめた。
「え? なんでベートさんの予定を知ってるんだ?」
「はい、朝一緒に鍛錬した時に教えてもらいました」
カエデの言葉に目を見開いて驚くディアン。ベートの鍛錬の厳しさは団員達の噂で知っている。そんなベートさんとの鍛錬をしているというカエデの事を見てから視線を逸らす。
数人の
朝の鍛錬場。いつも通りに早起きして剣の素振りを行っていたカエデは、ベートがやってくると同時に頭を深々と下げて礼を口にした。
「メンバーに選んでいただいてありがとうございます」
「あぁ? あぁ、他の奴よりましだったからな。足引っ張るんじゃねぇぞ」
「はいっ!」
ベートが自身を選んだ理由は、他の団員より
「んじゃ始めるか。準備は」
「出来てます」
いつも通り、ベートが適当に肩を回して位置につけばカエデがベートに剣を向ける。模擬剣を使わず、真剣をその手にベートに向けたカエデに対し、ベートは適当に欠伸をする程に余裕を見せつける。
合図は無く、カエデが一歩踏み出した瞬間――鍛錬場の入口が荒々しく開かれて数人の
「……ベートさん」
「あぁ? んだよてめぇら」
これからというタイミングを外され、苛立ちの混じったベートの言葉に
「お願いがあります」
「あぁ?」
「
堂々と胸を張り、カエデが居る場にてカエデの蔑称を口にして今回の選出に文句を言いに来た
「そうか、邪魔だ失せろ」
苛立ちを覚える等と言う様子も見せずに追い払う仕草をしたベートに対し、
「禍憑きなんて一緒に行動してたら危ないですよ」
「どうせ碌でもない事になる」
「そんなの選ぶぐらいなら他の人を選ぶべきだ」
鍛錬場までいちいち現れて文句を垂れる彼ら、今までならカエデは大人しく逃げていただろう。だがベートの選出、アレックスに対して強気に出た事。グレースに言われた『言われっぱなしは悔しいでしょ』等と言う言葉。
そんな数々に背を押されたカエデがその
その様子を見たベートは黙って成り行きを見守る。珍しくカエデの方から出て行ったのだからベートが出る幕は無い。
「なっ……なんだよっ!」
ベートと
「ワタシが邪魔ですか?」
「……っ!」
言葉を放たれた瞬間、戦闘に立っていた少女が共に居る狼人達を見回してからカエデを睨む。
「あんたみたいなのが居たら、団長達が危険よ」
「……何が危険なんですか?」
禍憑きは災厄を齎す。そんな伝承を頭から信じ込んでいる彼女を真正面から見据える。自身にそんな不可思議な出来事を起こすだけの力は無い。少なくともそのはずである。ヒヅチが失われたのは確かにカエデの所為かもしれない。しかし、村に流行病が訪れたのも、村の周囲で起こるモンスターの被害も、どれもカエデの意図した事では無い。今ならそう断言できる。
「あんたが居たら遠征に失敗するわ」
「なんでですか?」
「なんでって……禍憑きで――
「ワタシが禍憑きだったとして、なんで失敗してしまうんですか?」
目の前の彼らが常々口にする『禍憑き』と言う言葉。それにどれほどの力があると言うのか。ただ脅えているだけではないか。
「嫉妬してるんですか?」
昨日、グレースと共に風呂場でした会話を思い出してカエデがそう口にする。
内容は至ってシンプル。執拗にカエデの耳やアリソンの耳等を摘まんで引っ張るグレースに嫌気がさしてカエデがグレースに頭突きして文句を言ったのだ。其れに対する返答は『アタシ、アンタらに嫉妬してるわ』と真正面から言われたのだ。
口も悪く、思った事が直ぐに口に出てしまうグレースは、真正面から『嫉妬している』と口にし、自身が二人の嫌がる事をするのも嫉妬が原因だと。その上で謝ってきた。暫く顔を見ない方が良いとも言って距離を置く宣言までされた。
『アタシは選ばれたあんた等に嫉妬するぐらいの奴だし、暫く顔も会わせない方が良いわ。悪いわね……ごめん、二人とも、暫くは一人にしてくんない』
グレースと暫く距離を置く事になった事は少し悲しかった。
そして、目の前の彼らの目を見て感じたのは、昨日グレースが『嫉妬してる』と言い切った時と同じ色が見て取れたのだ。だからこそ『彼らは自身に嫉妬しているのではないか』とカエデは考えたのだ。
カエデの一言に対する彼らの反応はあからさまであった。一瞬体を震わせ、カエデを睨みつける。
「悔しいんですか? 選ばれなかった事が」
カエデが知る限りではあるが、此処に集まっている
故に、そも選ばれる最低基準でもある十八階層到達を成し遂げていない彼らは選ばれる選ばれない以前の問題であり、嫉妬される以前に『最低基準を満たせ』と言う話である。
「遠征合宿で、最低基準の十八階層到達も成し遂げられなかったのだから。選ばれなくて当然じゃないですか」
故に、カエデは当たり前の指摘を行う。正論とも呼べるそれ。間違ってはいない、だが感情的に喚く彼らには意味の無い言葉だ。珍しく前に出たカエデの言葉に、正論過ぎてぐうの音も出ないその言葉に、彼らは声も出せずに怯む。
拳を握りしめ、カエデを睨む四人。後ろから眺めていたベートが面白そうに口元を歪めて笑った。
「コイツの言う通りだろ。テメェ等最低基準も満たせてねぇ癖に何デカい口叩いてんだよ」
「っ! それはベートさんがっ!」
彼ら四人を遠征合宿中に叩き潰したのはベートである。ふと見かけたので適当に相手してやれば、割とあっさり全滅したので拍子抜けした班もあれば、悪く無い動きの班もあった。だが共通点は一つ、最低基準の十八階層到達と言うわかりやすい目標すら達せなかった
「俺らだって頑張ってたんだぞっ!」
思わず、ベートは失笑を零す。
「ベートさん」
「下がってろ」
不満そうに喉を鳴らすカエデを無視してベートが前に出た。
「なぁ、頑張ったって何をだ?」
「何を? ダンジョンでモンスターを倒して――
「そんだけか?」
「え? それは――
彼らのした
「
彼らの努力がどれほどのモノなのかを全ては知らない。ベートも暇を持て余している訳では無い、故にベートは彼らが何処でどの様な努力を積み上げてきたのかつぶさには知らない。だからこそ、彼らの努力までは否定しまい。しかし、結果を何一つ残せていない彼らにベートが認められる場所は何処にも存在しない。
「コイツは結果を出して見せた、テメェ等はどうだ? こんな所で負け犬の遠吠えしか出来ねぇ足手纏いなんて態々選ぶまでもねぇ」
どれだけ努力を重ねても、結果が伴わなくては意味が無い。
十八階層到達と言う最低条件すら満たせない様な者達。運が無かったのかもしれない。だが普段からもっと、カエデの様に
「言わなきゃわかんないか? テメェ等みてえな雑魚は居るだけで反吐が出る。失せろ、今すぐに」
こいつらの様に努力した
カエデの姿を見て、何も学べないのか。失ってからでは遅いと言うのに。
ベートの言葉を受け、わなわなと震える彼ら。失せないのなら、ここで潰す。アレックスとなんら変わらない間抜けっぷりにベートは眉根を寄せ、唸り声を響かせる。
「もう一度言ってやる。失せろ」
前に立っていた
「ベート……さん」
震え、脅えながらも声を出す彼を見据え、ベートはよりいっそう目を細める。何を言う積りか知らないが、どれだけ言葉を重ねても、もう彼らの声は負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「その、白毛の狼人は……関わると碌でもな――――
次の瞬間にはベートは足を振り抜いていた。何を言うのかと思えばそんな事かと、少年の体が吹き飛んで行ったのを確認するまでもなく、他の
瞬く間に行われたベートの一方的な攻撃。カエデの目にはベートの姿がぶれた瞬間、四人の内一人が吹き飛び、三人が地面にたたき伏せられた光景が目に入り目を見開いた。
「ベートさん……」
「……ちっ、全員蹴り飛ばしゃよかった」
鍛錬場に倒れた三人も同様に端っこにでも蹴り飛ばしておけば、そのまま鍛錬を再開できたのに、そんな風に舌打ちしたベートを見てから、カエデは倒れた
「何してんだよ」
「……医務室に連れて行こうかと」
「必要ねえだろ。そんな雑魚共に関わるな」
ベートの言葉を聞いて、カエデは顔を伏せ、それから倒れた一人の容態を確認してから眉を顰めた。
「肩が……」
蹴りを喰らった肩の部分が砕けているらしい
「やめろ」
「……でも」
「そんなのに
「…………」
ベートの言葉にカエデは尻尾を震わせ、俯く。
今すぐにでも鍛錬を始めたい、いちゃもんをつけてくる様な彼らに関わる時間、一分一秒ですら惜しい。本当ならベートの鍛錬をみっちりと受けてくたくたになっている頃だと言うのに、時間を無駄にしている。
時間が足りない。だから見捨てて適当に鍛錬場の隅にでも放り捨てておくべきだ、ベートはそう言いたいのだろう。
そう考え、カエデはベートの方を見上げた。
「放してください」
「…………ちっ」
舌打ちと共に解放され、カエデは倒れた彼らの容態を一人一人確認し始める。
「おい、時間は良いのかよ」
その後ろ姿に声を掛けるベート。カエデは耳を数度震わせてから、口を開いた。
「ごめんなさい。ワタシは……外道を歩まない、修羅にならないと師と約束しましたから」
他者を慮る事が出来なくなれば、人は外道に落ちる。戦い以外の事に視線を向けられなくなった時、人は修羅へと身を落とす。
たとえどれほど憎らしかろうと容易く刃向け、害意向け、害するな。手を伸ばし救え。人であるならば、それができるはずだ。
師の教えを反芻するように呟いたカエデを見て、ベートは苛立ちを覚えた。
「……くっだらねえ」
完全に、息の根を止めておけばよかったか。それとも追い払うだけの方が良かったかと舌打ちしてから、ベートはカエデに背を向けた。
「朝飯食ったら談話室に来い、もう一人の奴を見つけたら声かけとけよ」
「……わかりました」
完全に昏倒している
「……時間が無いんじゃねえのかよ」
鍛錬場の入口の扉を開け、肩越しに振り向いたベートの視線の先。カエデが大柄な
ベートさんも全ての団員を見守る程、暇してないでしょうし。努力を認める認めない以前に、結果も出せずに文句垂れていれば多少はね?
努力を積み上げ、それで結果も出せればオッケー。
努力を積み上げても、結果が伴わなくてはダメ。
努力をしない奴は論外。
カエデちゃんは常識とか羞恥心とか、割と大事な物を何処かに置き忘れてきてますが、努力だけは誇れますからなぁ。
……カエデちゃんの常識不足と羞恥心消失は師のヒヅチと、関わりの深いワンコさんの二人の所為ですね。
まぁ、羞恥心に関してはカエデの身近に異性と言う異性が居なかった事が大きいですが。