生命の唄~Beast Roar~   作:一本歯下駄

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『ホオヅキの姉ちゃんが封印されてる?』

『……その()()ってなんだい? 聞き覚えがないんだが』

狐人(ルナール)の扱う妖術の一つだ。正確には陰陽術と言う物であってだな。一般的には種別を細分化すると膨大な数になるから妖術で統一されていてだな、陰陽術というのは――

『長い、手短に話せ』

『つまり狐人のみが扱える種族由来の魔法だ』

『その封印ってのはどうすれば治るんだ?』

『治る、と言う表現は正しくない。正確に言うなら解除する。もしくは解くだ』

『……そう言うのは良いから、さっさと教えてくれよ』

『そう焦るな……。実は私にもわからないのだ』

『はぁ?』

『わからないからこそ、封印の解除方法を探しているのだ。古代の時代より他の部族と隔絶した世界で過ごした黒き巨狼の一族の末裔である君なら、何か知っているかと思ったんだがな。当てが外れたよ』

『……何コイツ、なんかムカつくんだけど』

『胡散臭くてムカつくな、やっぱ恵比寿みたいだ』

『おい、恵比寿と一緒にしないでくれ』


『医務室』

 【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)である『黄昏の館』は、複数の尖塔が組み合わさり、炎を思わせる形状をした特徴的な形をしている。

 医務室や書庫、執務室等の数多の部屋の中には団員達の交流の為に用意された談話室が複数存在する。

 そんな談話室の一つ、ベート・ローガは部屋に集まったメンバーの顔を見回してから、面倒臭そうに吐息を零し、ソファーに座らずに直立するディアン・オーグと並び立つカエデ・ハバリを見てから顎で座る様に指示した。

 

 部屋の中にはベートと、ベートが指揮するメンバーの第二級(レベル3)冒険者の団員が3人、そして補助役として抜擢したディアンとカエデの合計6人のメンバーが集まっている。

 今頃、他のアイズ、ティオナ、ティオネ、ペコラもそれぞれ部屋にメンバーを集めて説明を始めている頃だろう。そんな風に考えてから、ベートは目の前に座るディアンを見据える。

 

 目があったディアンが身を震わせて愛想笑いをしたのを見て鼻を鳴らし、ベートは第二級(レベル3)冒険者の一人、猫人の男に指示を出す。

 

「お前から説明しとけ」

「はい」

 

 頷き、返答した猫人の男から視線を外し、ベートがソファーに寝転がって昼寝を始めた。

 その様子を見ていたディアンが不安気に他の先輩冒険者を見れば、第二級(レベル3)冒険者は気にする様子も無く三人で視線で会話して誰から挨拶するかを決めあっている。

 

 最初に口を開いたのは茶毛の猫人(キャットピープル)の男性。ベートから説明を任されていた人物である。

 

「俺はフルエンだ。ディアンは知ってるだろうが、カエデは初めましてだな。まぁよろしく。見て分るだろうが猫人(キャットピープル)だ」

 

 気さくな様子で片手を上げて挨拶したのを見て、カエデは頭を下げる。団員の人数の多い【ロキ・ファミリア】内部において知っている団員の方が少ないカエデは、今いるメンバーはベートを除けばほぼ初対面である。

 

「こっちはウェンガル、俺と同じく猫人(キャットピープル)だ」

 

 同じく猫人(キャットピープル)の少女が片手を上げて挨拶してきたのを見て、ディアンとカエデが頭を下げる。

 

「んで最後がリディアだ」

「よろしく。カエデの方は活躍は聞いてるよ。ディアン君の方はちょっと知らないかな」

 

 最後のメンバー、アマゾネスの少女は曖昧な笑みを浮かべてカエデとディアンを見下ろした。

 

「カエデ・ハバリです。よろしくおねがいします」

「ディアン・オーグです。選ばれたからには全力を尽くします!」

 

 威勢よく言い放ったディアンの様子に三人が苦笑し、ソファーに寝ころんだベートが半眼でディアンを睨んでから呟いた。

 

「はん、変に頑張るなんて言って足引っ張るなよ」

「うっ……」

 

 ベートに睨まれ、ディアンが怯んで震える。ベートの方は直ぐに興味を失ったのかそのまま目を瞑り腕を枕にして寝る姿勢に入ってしまった。

 その様子を見ていたカエデが首を傾げる。ベートが説明をするのではないのかと疑問を覚えたらしいカエデに気付いたフルエンが首を横に振ってからカエデを見て口を開いた。

 

「説明は俺からする……と、説明の前に二人に幾つか質問がある」

「質問ですか?」

 

 フルエンが立ち上がり、二人を見下ろしながらメンバー全員を示す様に腕を広げて口を開いた。

 

「さて、この部屋に居るメンバーがベートさんの所に配属された人員だ。君等二人も含めてね」

 

 頷くカエデとディアンを満足気に見下ろしてから、フルエンは人差し指を立てて二人に突き付けた。

 

「ここで問題だ。このメンバーに求められている役割とはなんでしょうか?」

「役割?」

「そう、このメンバー編成を見て、大規模遠征に於いて俺らが求められてる立ち回りが何かを予測してくれ。まずディアンから」

「俺ぇっ!? えっと……狼人(ウェアウルフ)一人、猫人(キャットピープル)二人、アマゾネス一人……近接戦が得意なメンバーだから……前衛?」

 

 指名されたディアンは目を見開いてから顎に手を当てて考え込みはじめる。その様子を見ながら、三人がベートの方をちらちらと窺い、様子を見ればベートは特に動く気配も無く寝た振りを続けている。

 

 今回のディアン、カエデ両名は初めて大規模遠征となる団員である。基礎知識としてリヴェリアから教育はなされているだろうが、それでも知識方面に不足が無いとは言い切れない。まず最初にこの場で不足している知識について把握して教え込むと言う場を用意したのだ。

 ベートがすべき場ではあるが、他の班でもペコラ班を除けば全ての班が第二級(レベル3)団員に任せて自ら教え込むなんて事をしている事は少ない。

 

「えっと……遠征部隊の進行方向の索敵、罠警戒……でしょうか?」

 

 ディアンが恐る恐る発言した内容を聞き、フルエンは頷く。

 

「そうだ。ベートさんの班は敏捷を活かして遠征部隊の本隊から少し離れた地点で索敵及びに迷宮の悪意(ダンジョントラップ)の警戒を行う。基本的には本隊より前に出る事が多く、はっきり言って危険度は最も高いと言っていい」

 

 本隊は主に物資輸送用の荷車を引くペコラの班を中心に、指揮を執り行うフィンと団長直下の団員数名、魔法による援護を中心とするリヴェリアとリヴェリアの指揮する魔法使い達、そしてその三つの班の防衛にガレスが率いるティオナ、ティオネの班。後方に遊撃のアイズを配置して進んでいく。

 その内、ベートの班の主な役割は先行して道中にあるモンスターの早期発見及び、可能であれば掃滅。迷宮の悪意(ダンジョントラップ)の発見、解析が主な任務である。

 

 特に迷宮の悪意(ダンジョントラップ)は種類次第では遠征部隊に致命的な被害を齎す事も多い為、見逃しは絶対に許されない。その上で先行して行動する為、本隊から分断されやすくモンスターの奇襲も受けやすい。

 防衛力を高めた本隊とは違い、別働隊としての働きを求められるベートの班は非常に危険度が高い。

 

 猫人(キャットピープル)のフルエンとウェンガルの両名は迷宮の悪意(ダンジョントラップ)に対するスペシャリストであり、アマゾネスのリディアもまた勘に優れる所から選ばれている。

 総じて言える事は全員が敏捷が高めであり、対処不可能な量のモンスターと鉢合わせした場合は即座に本隊へと合流して対処する事が言い含められている。

 

「と言う訳だ。じゃあ次はカエデ。危険度の高い迷宮の悪意(ダンジョントラップ)を三つあげてみろ」

「……どういう状況での危険度でしょうか?」

 

 ディアンの答えに満足したフルエンがカエデに質問を飛ばす。カエデは少し迷ってから質問を返した。

 

「あぁ、そうだな……。本隊、大人数での行動中の物、移動中の物、少数での行動中の物。一つずつ上げてみろ」

 

 指を立てつつ言われた言葉にカエデが少し考え込んでから、自身の尻尾の先端を掴んで口を開いた。

 

「まず大人数中は錯乱系の毒霧や幻覚効果のある毒ガス等の同士討ちの危険が発生する物、移動中は主に視覚攪乱や迷路(ラビリンス)系の方向を惑わす系の物と一方通行の罠等の分断系と怪物の住処(モンスターハウス)の連鎖罠等。小数での行動中は警報(アラーム)等の大多数のモンスターの気を引く物、等でしょうか」

 

 スラスラと大雑把にではあるが注意すべき罠の傾向を口にしたカエデに対し、フルエンが頷く。

 

「まぁ大雑把ではあるがそれで良い。基礎はまぁ大丈夫そうだな。ベートさん、基礎は大丈夫そうですが後はどうしましょう」

「あぁ? 一々聞くなよ……。遠征は六日後だが三日前から迷宮探索(ダンジョンアタック)禁止、二日前から鍛錬も禁止だ。体を休めて挑む様にしろだとよ」

 

 面倒臭そうに身を起こし、ベートはフィンに伝える様に言われた最低限を伝え、欠伸を一つしてからディアンとカエデをじろりと睨み、口を開いた。

 

「良いか、お前らは雑魚だ。調子に乗って前に出るなんてするなよ……手間かけさせる様なら縛ってペコラのところの荷車に放り込むからな」

「わかりました」

「…………」

 

 ベートを見つめ返して返事をするカエデと、冷や汗を流して震えるディアン。二人の様子を見てから、ベートは無言で立ち上がってフルエンの方を向いた。

 

「俺は行く、テメェ等は怪我すんなよ」

「はい。わかりましたベートさん。お疲れ様です」

 

 おつかれでしたーと適当な返事をしたリディア。ベートはようやく終わったと部屋を後にし、緊張していたディアンが大きく息を吐いて体を弛緩させる。

 

「うへぇ……緊張したぁ」

「あ、やっぱベートさん相手だと緊張するよね」

 

 ディアン同様に安堵の吐息を零していたウェンガルが二ヘラと笑ってから、カエデの方を向いた。

 

「にしてもカエデはベートさん相手に緊張してなかったね」

「……? 緊張ですか?」

 

 殆どの団員がベートに罵倒された経験がある為、ベートの前だと萎縮する団員も多い。それでありながらカエデは殆ど緊張した様子も見せずに対応していたのを見たディアンも、カエデの胆の据わり具合に驚きを隠せない。

 

「普通の子は緊張するよ。ペコラさんの所の方は気楽そうでいいんだけどね」

 

 比較的温厚であり、ふわふわした雰囲気のペコラの班であれば、特に緊張する事も無く相対できる。アイズの方は無愛想にも見える無表情さから若干の居心地の悪さはあるだろうが、無愛想に見えるだけで実際の所はしっかり観察すればアイズも表情豊かだと言うのがわかる。

 ティオナとティオネはアマゾネス特有の豪気さや大胆さから接しやすい部分も多い。

 

 そう言う意味では一匹狼を貫く様な性格をしているベートの班が最も緊張する班とも言えるのだ。

 

「まぁ、同じ班に編成されたし、仲良くしてこうか」

「よろしく」

 

 にこやかな笑みを浮かべた猫人(キャットピープル)二人を見て、ディアンは安堵の吐息を零した。

 

 班員全員がベートの様な感じであったらきっと自分は遠征に参加する以前に精神的に折れていたかもしれないと。

 

 

 

 

 

「それで文句言いに行ってベートに半殺しにされたと?」

 

 【ロキ・ファミリア】の医務室、今朝早くにカエデが慌てた様子で怪我人が出た事を伝えに来た為にフィンとロキが医務室に向かってみれば、ベートに半殺しにされた団員が何人か寝かされている姿があった。

 後序に廊下ですれ違った所為で気絶したペコラが運び込まれていた様子であったが、フィンの指示でジョゼットが担いで別の部屋に運んで行った。あのままこの部屋に寝かせていたらいつまでたっても目覚めないだろうと言うフィンの判断である。

 

「なんであんなのを編成したんですか」

「なんでって、ベートが選んだ人選だ。文句があるならベートに言えばいいよ」

 

 フィンの言葉に黙り込んだ狼人の少年。先程ベートに文句を言いに行って半殺しにされたのにと言いたげな様子にフィンは肩を竦める。簡素なベッドの横、スツールに腰かけたロキがベッドの上の四人を流し見て肩を竦める。

 

「嫉妬っちゅーんは誰でもするもんや。せやけどなあ。アンタらは狼人(ウェアウルフ)が嫌っとる白毛なのを理由にいちゃもんつけとるやろ。かっこ悪いで?」

 

 ロキの言葉に黙り込む四人を見て、ロキは口を開いた。

 

「何が気に食わんのや」

 

 嫉妬を抱いてカエデにいちゃもんをつける様な事をしている四人。決して人柄は悪くは無い。他の団員とも仲良くやっている団員達ではあるのだが、カエデの事に至っては良く文句を口にしている。何をするにしても『白毛が~』『禍憑きが~』といちゃもんをつけていた。無論、注意はしたし、これで二度目である。

 

「それは……」

「…………」

 

 口を閉ざして視線でやりとりする狼人(ウェアウルフ)達をフィンが軽く目を細めて眺める。ロキの方は欠伸しつつも置いてあった果物の林檎を手に取ってフィンに投げ渡した。

 

「ロキ?」

「剥いてー」

「はぁ」

 

 ついでに投げ渡された果物ナイフを手に、フィンが林檎の皮を剥き始めた所でようやく狼人(ウェアウルフ)の少女が口を開いた。

 

「ベートさんとの鍛錬の時、カエデだけ()()()されてたりしてるし」

「寸止め?」

 

 ベート・ローガとの鍛錬の際、殆どの団員が痛め付けられて音を上げて終わる事が多い。その上で罵倒され最悪の場合は『冒険者やめちまえ』とすら罵られるのだ。

 ベートの鍛錬と言えばそれが普通であるにも関わらず、カエデがベートに鍛錬をつけて貰っているさ中はちゃんと寸止めされ、怪我をした際にはベートの方から鍛錬を止めるなどと、カエデに甘い対応をとる事が多い。

 そう言った自分達とカエデの扱いの()が許せないらしい。

 

「ほぉー、ベートが寸止めなあ」

「ロキ、剥けたよ」

「兎にしてくれてへんやん」

「そういうのはリヴェリアに頼んでくれないかな」

 

 綺麗に皮が剥かれた林檎を齧り、ロキは狼人(ウェアウルフ)達の方を向いて齧った林檎を突き付ける。

 

「勘違いしとるわ」

「……何をですか」

「ベートは手加減しとらんで。無論、カエデを甘やかしとる訳でも無い」

「でも、だったらなんでカエデの時だけ寸止めされて、俺らの時は容赦なく殴り飛ばすんですか!」

 

 熱くなったのか、前のめり気味にロキに詰め寄る狼人(ウェアウルフ)の男。ロキは新しい林檎を一切れその口に突っ込んでから口を開いた。

 

「むぐっ!?」

「まあ落着きや」

 

 口に突っ込まれた林檎を咀嚼する狼人(ウェアウルフ)の男を見て、フィンは溜息を一つ零した。

 

「ロキの言う通り、君達は勘違いしているよ」

「……でも、実際にカエデだけ寸止めして貰ってますよね」

 

 少女の言葉にフィンは目を細め、少し悩む。

 

 本来なら自分達で気付くべき事であり、フィンが教える事では無い。その辺りはベートも同様に考えているらしく、口で語る事は無い。いや、むしろベートはちゃんと口には出していると言える。

 あまりにも粗暴な言葉でぶつけられる為に、ぶつけられた側が正しく意味を理解できていないのだろう。

 

「あんた等はカエデがベートに甘やかされとる言いたいんやろ? 全然見当違いや。カエデもベートにぶっ飛ばされる事あるで?」

「え?」

 

 驚きの表情を浮かべた少女に林檎を一切れ投げ渡し、ロキはフィンの方に視線を向ける。フィンは少し悩んでから口を開いた。

 

「そうだね、君達が見るカエデとベートの鍛錬がどんなものかはしらないが、ベートはカエデを甘やかしている訳では無いよ」

 

 ベートとカエデの鍛錬と、ベートが他の団員につけている鍛錬を見れば狼人(ウェアウルフ)達が抱いた様な感想を誰しもが抱く。それは一重にベートの性格と、カエデの性格がかみ合っているからそう見えるだけで、実際の所は甘やかすなんて事は一切無く、ベートは他の団員に対して行う鍛錬と全く同じ事をしている。

 

 ベートの鍛錬は厳しい。それは誰しも知っている事ではあるが、その厳しさはちゃんとベートなりのルールの上で行われる厳しさだ。具体的に言えば鍛錬相手が()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うもの。

 簡単に言えば()()()()()()ば痛い思いはしなくて済む。

 

 他の団員が何故痛め付けられる様な目に遭うのに、カエデだけは寸止めにされるのか。それはベートから見て鍛錬相手が()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、ベートからすればもうひと頑張りすれば回避か防御ぐらい出来ると相手の能力を買っているのだ。

 

 では、何故カエデが寸止めで終わるのか。それは単純にカエデの能力では決して対応できない一撃を放っているからである。

 ベートは鍛錬中は無暗に相手を傷付ける真似はしない。格下に鍛錬をつけるのは、ベートが本気を出せばそれこそ一撃で終わる様なお遊びの状態であるが、ベートは相手の力量からどれだけの攻撃を繰り出すべきかをしっかり判断して攻撃を繰り出している。

 其の為、相手が絶対に対処できない攻撃に関してはちゃんと寸止めと言う形で攻撃の手を止める。逆に対応できるはずの攻撃は寸止めせずに打ち込む。

 

 カエデは全力、それこそ死力を尽くす勢いでベートに喰らい付いて行く為に最後はカエデの能力を大きく超えた一撃を放たない限りは()()()()()()()。其れゆえに鍛錬の終わり際には必ず()()()()()()

 逆に他の団員は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でダウンする事が多い為に最後には強烈な一撃を貰って終わる事が多い。

 

 傍から見ればカエデだけ寸止めし、他の団員は蹴倒す様な状態になっているのだ。だが、実際の所はベートの鍛錬法は相手に合せ、ギリギリなんとかできる範囲の攻撃しか加えない。まるでカエデだけ甘やかされている様に見えるのはそれだけカエデが全力で挑んでいる証拠である。

 

 無論、ベートの鍛錬がかなり厳しいものであるのは否定しない。あの鍛錬を受けて全力を尽くすと言うのは非常に難しい。ベートの攻撃に対し即時、防御か回避かを選ばされるのだ。少しでも判断が遅れれば容赦ない一撃が叩き込まれる。それはカエデも同条件であるし、実際カエデも手痛い一撃を受けて反吐を撒き散らしていた経験もあるのだ。

 

 そう言う意味では常に相手の力量を読まずに殺さない程度と言う大雑把な判断で鍛錬に挑むティオナや、自身より格下に対しどの程度手加減すれば良いのかをさっぱり理解できない天才肌のアイズに比べ、ベートの鍛錬は相手を注意深く観察してギリギリのラインを攻めてくる為に、その鍛錬の効率は素晴らしく良い。

 特に、限界を超える過程で得られる経験値(エクセリア)の量を考えればベートの鍛錬は、ペコラやティオネ等の鍛錬相手として良いと評判の二人なんかより優れている。

 その優れた部分を覆い隠しているのがベートの口の悪さだろう。罵倒され、貶されながらも喰らい付く気概が無ければベートの鍛錬はただの弱い者いびりにしか見えない。

 

「っちゅーわけや。わかったか?」

 

 説明を終えたロキは最期の一切れの林檎をフィンに手渡す。渡された林檎を齧り、フィンは狼人(ウェアウルフ)を見回すが、彼らの反応はあまり良くない。

 

「……つまり、俺らは()()()()()()()()()って事ですか」

 

 ベートの鍛錬に於いて、自分達は全力を出し切れていない。そうともとれる話に悔しそうな表情を浮かべる彼らに、フィンは肩を竦めた。

 

「少なくとも、ベートから見た君達は()()()()()()()()()()()()()であるだろうね」

「何凹んどるん? んなもん()()()()()()()()()()()()()()()()()っちゅー事やろ」

 

 少なくとも、ベートの目からみて彼らは()()()()()()()()()()()()()()()()()と目算される程度には才能や能力があると言う事だ。

 口が悪いし態度も良くないベートだが、人を見る目はそれなりにある。関わりたくない等と口にする癖に、鍛錬はちゃんとつけてあげたりする。

 本音を隠し、横暴な言葉で罵倒などをする為に勘違いされがちだが、ベートは彼らの実力をしっかり見計らって鍛錬を行っているのだ。

 

「これ以上言うと余計なお世話になる、自身で気付かなくては意味が無いからね」

 

 彼らが自身で気付き、改善しなければ意味が無い。誰かから常に教わるのではなく、自身で気付かなくては次に進めないからだ。

 

「んじゃウチはそろそろ二度寝に戻るわ」

「ロキ、君は会議に参加するんじゃ」

「えー、朝っぱらから子供が怪我した言うから早起きしたけどまだ眠いねん」

 

 肩を竦め、ロキが医務室の扉に手をかけて狼人(ウェアウルフ)達を振り向く。

 

「アンタらがどんな努力しとるのかはウチがよう知っとる。せやけどカエデも同じぐらい努力しとるのは認めたってや……白き禍憑き(くだらん理由)なんかでごちゃごちゃ言うんはそろそろやめにしいや」

 

 顔を伏せ、悔しそうな表情を浮かべる彼らから視線を外し、ロキが部屋を後にする。見送ったフィンは四人を見回してから肩を竦めて立ち上がった。

 

「じゃあ、僕は戻るから。朝食の時間はまだあるけど早めに行った方が良いよ」

 

 軽く手を振ってフィンが部屋を出て行く。狼人(ウェアウルフ)達は顔を見合わせてから各々朝食の為にベッドから這い出て体の調子を確かめ始める。狼人(ウェアウルフ)の少女が徐に口を開いた。

 

「なあ、応急処置ってアイツがやったんだよな……」

「……そうらしいな」

 

 鍛錬場でベートに半殺しにされた彼らを運び込んだのは数人の団員だが、彼らが言うにはカエデが怪我人が居る事を知らせてきたらしい。応急処置も彼女が既に済ませていた為に大事に至る傷は残らなかった。

 

「……なんだよそれ」




 実際のダンジョン探索って個々の能力の高さで補う感じの奴だよね。一人抜けるとその場で乙な感じの……まぁ、ダンジョンは難易度上げてますからアレですが。

 究極の個人プレーから産まれる連携的な?





 ~人物紹介~
 名前:【占い師】アレイスター・クロウリー
 所属:【トート・ファミリア】
 種族:羊人(ムートン)

 第二級(レベル3)冒険者であり、希少(レア)マジックの装備魔法の習得者。
 古びて草臥れたローブ姿の羊人(ムートン)であり、 性別を女にし、神ではなく人になった恵比寿等と言われる程に胡散臭く、何処かしら人を小馬鹿にした雰囲気を漂わせている。

 装備魔法はタロットカード。発動する度にランダムな絵柄のタロットカードが一枚手元に現れる。絵柄に応じた効果を発動する特別性であるが、意図した絵柄を引き寄せる事は出来ない。

 情報系ファミリアである【トート・ファミリア】所属であり、【トート・ファミリア】の発行している情報誌に乗せるネタを求めてあちらこちらをうろうろして居る事が多い。
 突発的に気になった人物に占いをしてやろうと絡んで行く事もあり、オラリオ内に於いてはそれなりに有名人。

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