今日は、8時に目が覚めた。
天気がいいらしく、
窓越しに1等星が自己主張してくる。
いつもより随分と早起きしたせいか、
なかなか意識が覚醒しない。
目の焦点が合うまで、
ただ飾り気のない壁を眺めていた。
ようやく寝ぼけていた頭が、体に追いついた。
このまま
二度寝してもいいのだけど、
たまには早起きも悪くないように思えて、
ベッドを手離した。
まだ食事の準備は出来ていないだろうし、
そんなにお腹も空いていない。
どこへ行こう?
そう考えた時、ディアの顔が見たくなった。
本当に、急に。
今は、図書館に居るだろう。
多少、パチェに
ごちゃごちゃ言われる可能性はあるけど、
プラスマイナス0どころか、
プラスに大きく傾くから問題ない。
私は、少しだけ早足に、
図書館へと歩を進めた。
案の定、
本の整理をしている背中が見えた。
真剣な眼差しが
向けられている先にあるのは、
何百年前に書かれたのかさえも
わからない、古ぼけた本。
一冊取り出しては、重ねる。
少しずつ高くなっていく本の山。
眼を逸らしたら
埋もれてしまいそうで、
その姿から、眼を離せないでいた。
唇から漏れ出た、小さなため息。
色づいて見えて、
自分の目的を思い出した。
ディアの自分の目線より
高いところにある手首を掴むと、
「ちょっと借りてくわ」
とだけ言って、ぐいぐい引っ張った。
少しバランスを崩して
蹴躓いている姿さえも
自分のものだと思うと、少し嬉しかった。
「お嬢様、申し訳ありません。
まだ、本の整理が……」
そんな言葉は、聞こえないふりだ。
私がずっと手を引いていて、
ディアが私の隣を歩こうとしないのも、
そんなディアの顔を見れないのも、
見て見ぬふりしていれば、きっと大丈夫。
いつか、
お互いの顔だけを見て、
手を繋いで隣同士歩けばいいのだから。
部屋に、着いた。
ドアノブに手を添えた頃には、
ディアも大人しくなっていた。
私はベッドに腰かけると、
その隣にディアを座らせた。
「話し相手になって頂戴。」
今度は小悪魔の眼を見ながら言うと、
少しだけ安心した。
はい、と短い返事が返ってきて、
胸を撫で下ろした。
本当は、分かってる。
ディアを掴む強さが分からなくて、
きっと痛かったに違いないこと。
はい、と答えたその顔は、
笑顔ではないってこと。
ディアのことを知りたい。
純粋なはずのこの気持ちは、
上下関係が邪魔をして、
果たせないまま。
どれだけ頑張っても、
自分のことを語ろうとしない。
気づけば、自分の話をしている。
どうして?何て幼稚な問いが、
あなたの顔を滲ませている。
「ディア、私、
あなたの話が聞きたいわ。
聞かせて。今までのこと。」
「語れるような話がないんです。
それより、お嬢様、
お話の続きをお願いします」
「すごくなくていいの。
ただ、あなたがどんな子供で、
どんな過去を背負っているか?
それを知りたいだけだから。」
小悪魔の手に
そっと手を重ねて、
眼に想いを込めて。
伝わって欲しいだけ。
だから。
「そうですね……」
チリリン。
少し遠くから、澄んだ鈴の音がした。
パチェが、ディアを呼ぶ時の合図だ。
「あ……お嬢様、失礼しま」
「いいじゃない。
きっと咲夜か妖精メイドの誰かが行くわよ。」
いつの間にか、そう言ってしまっていた。
「ねぇ、ディア。
パチェにはね、あなたもいるし、咲夜もいる。
でもね、今の私には、あなたしかいないの。
それでも、パチェのところに行くの?」
止まらなかった。
これが私の本心なのか。
やっぱり、駄目なのかな。
沈黙が、流れる。
ベッドの左側を見たら、
もう誰もいないんじゃないか。
それが恐くて。
ただ、私は俯いていた。
「私は、子供の頃……」
俯いた私の耳に響いた声は、
良く澄んでいて、
皮肉にも、鈴の音にそっくりだった。